フランスの市場に参入することは、特に E コマース企業にとっては会社を成長させるチャンスとなります。2022 年には、フランスの国民の 77% がオンラインで何らかの買い物をしており、この国でオンライン決済やデジタル決済の普及が進んでいることがうかがえます。こうした流れにのって、フランスでデジタル決済の受け付けを始めるには、自社で用意する決済方法を決め、フランス国内の法令を理解し、クロスボーダー決済の処理方法を決めておくことが必要になります。
こちらの記事では、外国の企業がフランスの市場に参入する際に立てておくべき戦略について紹介します。
- 多様な決済方法を用意する
- スピーディーなクロスボーダー取引を実現する
- 決済を簡素化する
市場の状況
フランスの決済エコシステムではさまざまな決済手段を利用することができます。その多くは、アメリカやイギリスで目にするものとほとんど同じです。Cartes Bancaires のようなカードネットワークやデジタルウォレットなど、長い歴史を持つものから最近登場したものまでさまざまな決済手段が入り混じって存在しています。国内のユーザーには料金が現地通貨 (ユーロ) で表示されますが、フランスの E コマースや観光市場が活況を呈しているのは、それ以外のさまざまな通貨も表示することで、海外からの支払いにも対応しているためです。
フランスの金融セクターは、一連の厳しい規制が敷かれる一方で、回復力があり、さまざまな決済手段を受け入れています。金融政策は中央銀行であるフランス銀行 (Banque de France) が策定しますが、金融市場の規制の監督は金融市場庁 (Autorité des Marchés Financiers、AMF) が行っています。規制の遵守には、欧州連合のより広範な枠組みからも影響を受けることになります。
さまざまな決済手段
フランスにおける決済では、現金やクレジットカードといった従来の方法から、デジタルを活用した最新の方法まで、さまざまな手段を利用できます。フランスで人気の高い決済手段は以下のとおりです。
現在の使用状況
フランスのユーザーの間では、現金とクレジットカードの利用が一般的です。2022 年現在、フランスでは、現金の利用は、販売時点情報管理 (POS) 取引全体の 50% を占めています。同じ年の、クレジットカードとデビットカードの利用率は、POS 取引全体の 43% でした。
一方、非接触型決済の利用件数は、2021 年の 68 億件から、2022 年には 86 億件に増加しました。モバイル決済の利用件数は、近年急速に増えてきており、特にデジタル技術に抵抗の少ない若い世代の間で普及が進んでいます。こうした変化は、モバイル決済が消費者の支持を得、そのセキュリティに対する信頼が高まってきていることの表れです。
企業間 (B2B) 業界の決済は、クレジットカードと電信送金の利用が一般的です。しかし近年は、Mondu などの後払い (BNPL) による決済手段も登場し、ユーザーにより柔軟な決済を可能にしています。また、欧州での迅速なクロスボーダー取引を可能にする単一ユーロ決済圏 (SEPA) の取り組みも、シームレスな B2B 決済の利用を促しています。
フランスで人気の B2C 決済手段
- クレジットカード (Cartes Bancaires など)
- デジタルウォレット (Lydia など)
- 銀行振込
- BNPL (Alma など)
フランスで人気の B2B 決済手段
- クレジットカードとデビットカード
- 電信送金 (SWIFTなど)
- 銀行振込 (SEPA など)
- BNPL (Mondu など)
新たなトレンド
フランスでは、BNPL 決済は、利用率が年 15% ずつ増加し、2024 年には取引額が 137億ドルを超えると予測されています。Alma に代表される国内のサービスでは、ユーザーは購入代金を分割で支払うことができる一方、企業は BNPL を通じて、代金を最初から全額受け取ることができ、ユーザーと企業の双方にメリットがあります。
参入のしやすさと課題
フランスで決済を受け付けるときは、たとえば、ユニファイドコマースや幅広い決済手段を提案する、国際決済を受け付ける、税金を回収する、決済セキュリティに関する政府の要請に従うなど、さまざまな課題に対処するために戦略を立てる必要があります。その際に考慮すべき点を、いくつかご紹介します。
税金
フランスでは、ほとんどの物品とサービスに付加価値税 (VAT) が課されます。VAT の標準税率は 20% です。購入者は VAT を支払う義務があり、大半の企業は、VAT を回収してこれを政府に納めます。納付が遅れたり、間違っていたりすると、高額な罰金を科せられ、違反すれば監査や法的な影響につながる可能性があります。
チャージバックと不審請求の申請
フランスでは、チャージバックと不審請求の申請は、欧州の各種規制に従って対応が行われますが、クレジットカードネットワークにもそれぞれ独自のチャージバックポリシーがあります。フランスの企業は、消費者法典に従わなくてはなりませんが、そこでは取引が合法であったことを証明する責任を企業に課しています。このことは、不正取引が発生した場合に特に重要になります。
欧州連合の加盟国であるフランスでは、決済に際して強力な顧客認証を求めている、EU 決済サービス指令 2 (PSD2) が実施されています。PSD2 の要件は、チャージバックや不審請求の申請の処理方法に影響を与えることがよくあります。紛争を解決する際に、本人確認のレベルが引証されることが多いためです。
国際決済
海外から来た観光客から対面で決済を受け付ける場合であれ、近隣諸国のユーザーに E コマースで販売を行う場合であれ、フランスで国際決済を受け付ける企業は、通貨換算と為替レートの変動への対応が不可欠です。こうした作業は海外でのビジネスを複雑にします。そこで、考慮しておくべき点を以下に紹介します。
通貨換算
フランスでの通貨換算は、EU の各種規制、特に、換算率と手数料の完全な透明性を義務付けている PSD2 の対象となります。金融機関と決済プロバイダーは、通貨換算サービスに関連するすべての手数料 (サービス手数料や、銀行間レートに対する為替レートのマークアップなど) を開示することが義務付けられています。銀行間レートは、銀行が相互に貸し出す際の通貨換算の基準レートであり、金融機関は通常、通貨換算サービスを行う際に、このレートにマークアップを追加します。Stripeのようなサードパーティーの決済プロバイダーを利用すると、ユーザーと企業はともに、クロスボーダー取引をシンプルにすることができます。SEPA 送金
単一ユーロ決済圏 (SEPA) の決済手段は、欧州全域に適用されており、ユーロでのクロスボーダー取引を容易にしています。2021年にフランスで送金された SEPA クレジットトランスファーの件数は、ドイツを除いた他のどの国よりも多くなりました。他の欧州諸国の決済手段
ベルギーの Bancontact など、他の欧州諸国で人気の高い決済手段を受け付けると、決済時のハードルを取り除いて、海外からの購入者の購入完了率を改善することができます。
セキュリティとプライバシー
フランスは、決済のセキュリティ、法令遵守、規制に対して包括的なアプローチをとっており、EU のガイドラインや指令の多くを他国に先駆けて導入してきました。同様の経済的地位にある国に比べ、フランスの規制は特に寛大でも、また過度に抑圧的であるわけでもありません。フランスが他国と一線を画しているのは、EMVチップのすばやい導入や、国内のカードネットワークと世界の決済システムとの連携などに象徴される、取引の安全を重視する姿勢です。そこで次は、フランスにおけるセキュリティとプライバシーに関する規制の、いくつかの重要な要素について説明します。
データ保護法
フランスの主要なデータ保護規制の 1 つが、EU 一般データ保護規則 (GDPR) です。GDPR は、利用者のデータ保護に関する基準を定めており、データを収集する際には提供者の明示的な同意を義務付け、提供者には忘れられる権利を認めています。EU 決済サービス指令 2 (PSD2) への準拠
フランスで重要な役割を果たしているもう 1 つの規制が、PSD2 です。決済サービスプロバイダーは、PSD2 により強力な顧客認証 (SCA) の実施が義務付けられており、取引では多くの場合、2 段階認証が必須とされています。PSD3 が公布される際には、また新たな要件が追加される見通しです。マネーロンダリング防止 (AML) 法
フランスは、EU マネーロンダリング防止指令およびテロ資金供与防止法 (CTF) にも準拠しています。金融機関は、不審な行為を監視して報告する、システムの導入が義務付けられており、怠ると厳しい処罰の対象となります。EMV チップ技術
フランスは、カード決済用の EMV チップ技術をいちはやく導入し、カードセキュリティの基準を打ち立てて、他の市場に影響を及ぼしてきました。EMV チップは、取引ごとに 1 回限りのコードを生成することにより、悪意のある者から情報が不正に読み取られることを防いでいます。Tracfin による監視
Tracfin (情報処理・不正資金移転防止活動ユニット) は、マネーロンダリング防止の取り組みを専門とするフランスの政府機関です。不審な金融活動を点検、調査して、金融部門のセキュリティを高めています。決済サービスプロバイダーの規制
Stripe のような決済サービスプロバイダーは、各国の規制を遵守する必要がありますが、それだけでなく、機械学習アルゴリズムを使って不正なパターンを検出し、ユーザーのデータを保護するなど、その多くは基本的な要件を超える対策を講じています。
成功のカギ
フランスは、決済に関する数々のイノベーションの先頭を走っていますが、並行して、新しいテクノロジーの導入や厳しい規制環境などにまつわる、さまざまな課題にも取り組んでいます。フランスでのビジネスを成功させるには、こうした課題に対処する必要があります。次は、フランスで決済を受け付けるために、企業が取り組むべきことについて紹介します。
従来からある決済手段と新たな決済手段
フランスのモバイル決済市場は、少なくとも 2027 年までは毎年 30% ずつ成長すると予測されていますが、現時点では、モバイル決済はまだそこまで普及していません。このことは、企業が、従来のクレジットカードとデビットカードを含め、幅広い決済手段に対応する必要があることを示しています。国際取引のシンプル化
SEPA 決済により欧州内のクロスボーダー決済は簡素化されましたが、この管轄区域外で行われる取引には、為替レートの変動や規制の違いなど、地域固有の課題が存在しています。信頼できるサードパーティーの決済代行業者と提携して国際決済を受け付けることにより、企業は、国際取引をシンプルに行えるようになります。カード不正利用の防止
フランス銀行のレポートによると、2021 年に発生したカード不正利用の割合は、全体の 0.059% でした。この種の取引の件数が膨大な数に上ることを考えると、これは相当な割合です。そのため多くの企業が、最先端の不正検知システムに投資し、チャージバックを効率的に管理できる方法を取り入れて、不正に対処しています。スムーズな決済プロセス
決済フローの最適化、カスタマーサービスのアクセス改善、返金ポリシーの透明化、これらはすべて、カート放棄の削減と決済体験の向上を後押しします。こうした取り組みが、時間とともに企業の評価につながり、現地ユーザーからの信頼感を醸成することにつながります。
重要なポイント
絶えず変化する顧客の期待と、日々進化する技術に対応するため、企業は、決済プロセスのあらゆる側面に対応した戦略を練る必要があります。たとえば、多様な決済手段を用意する、クロスボーダー取引を容易にする、決済に要する手順を減らす、といったことです。次は、フランスへのビジネス進出を成功させるヒントを紹介します。
多様な決済手段を用意する
従来からあるクレジットカードとデビットカードの支払いを受け付ける
従来からあるカード決済と最先端のデジタル決済とを両方受け付けることで、特に実店舗での取引において、ユーザーの好みを確実に満たすことができます。モバイル決済に対応する
決済システムを、モバイル決済やデジタルウォレット、特に Lydia など国内のプラットフォームに対応できるよう最新の状態に保ち、購入者がスピーディーに取引を実行できるようにします。複数の通貨に対応する
複数の通貨に対応し、スイスやイギリスなど他の欧州諸国で人気の高い決済手段を受け付けることにより、決済の選択肢を拡げます。フランスは観光地として人気が高く、またそこに住む国民のバックグラウンドも多様であることから、この方法によって売上を伸ばすことができると同時に、顧客満足度も高めることができます。
スピーディーなクロスボーダー取引を可能にする
SEPA 送金を理解する
SEPA 送金は、特に欧州内での B2B クロスボーダー決済に欠かせない方法です。海外の購入者に請求書を発行する必要があるときは、この方法を用意します。BNPL 決済を導入する
B2B 顧客向けの Mondu、B2C 決済向けの Alma など、顧客取引とビジネス取引の両方で BNPL 決済を受け付けます。このフレキシブルな決済手段を受け付けることで、国内と海外の両方の顧客が高額の取引を行いやすくなります。不正利用の検出と防止
機械学習ベースの不正検出ツールを導入し、オンライン取引に 3D セキュア認証を採用し、不審な活動に対する明確な報告チャネルを設置します。
決済をシンプル化
決済手順を減らす
購入確定までに必要となる購入者側の手順をできるだけ減らし、手順を 1 ページあるいは ワンクリック決済に統合することで、オンラインの決済フローを最適化します。アクセスしやすい、リアルタイムのサポートを提供する
問題をスピーディーに解決し、スムーズに決済を処理できる、フランス語のカスタマーサポートを用意します。ライブチャットや即時対応のサポートを用意することで、決済の問題をすみやかに解決でき、購入者にとって満足度の高い決済体験を実現できます。返金手続きを簡素化する
簡単でわかりやすい返金プロセスを作成します。返金ポリシーは明確に記述し、自社のユーザーに明示します。
この記事の内容は、一般的な情報の提供および教育を目的としたものであり、法律または税務のアドバイスとして解釈されるべきものではありません。Stripeは、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、最新性を保証しません。お客様の特定の状況に関するアドバイスは、管轄区域で営業している弁護士または会計士に相談することをお勧めします。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。