ビジネスオーナーであれば、取引が完了しても顧客との関係は終わらないことをよくご存知でしょう。顧客が購入を決めた瞬間から、さまざまなステップを経て取引が進みます。そのステップの 1 つひとつが貴社に対する愛着や親近感を生み出す機会と言える一方で、逆に取引を妨げ、その顧客を永久に失う機会になることもあります。
一般的には、顧客が購入を完了することが「ゴールライン」とみなされていますが、実際には、安全性の低いウェブサイト、不明確な配送情報、連絡の取れないカスタマーサービスなど、あらゆることが、支払い完了後の負の側面であるチャージバックの発生につながる可能性があります。
できるだけ多くの売上を確保したいと考えるでのは当然のことです。しかし、どれだけ入念に構築された購入プロセスでも、顧客が購入完了後に返金を求めるような事態が生じることもあります。ここでは、チャージバックに関するあらゆる側面を掘り下げていきます。具体的には、チャージバックの基礎知識、チャージバックの仕組み、チャージバックが発生する原因、ビジネスオーナーが講じられる予防策などを紹介します。
この記事の内容
- チャージバックとは
- チャージバックと返金の違い
- チャージバックが起こる主な理由
- チャージバックの仕組み
- チャージバックに伴う事業者のコスト
- チャージバックの防止策
- チャージバックに異議を申し立てる方法
チャージバックとは
チャージバックとは、デビットカードまたはクレジットカードの保有者が同意しない支払い取引について、銀行またはクレジットカード会社が決済を取り消してカード保有者に返金する仕組みです。ほとんどの場合、チャージバックのプロセスは顧客によって開始されますが、事業者がチャージバックを請求することもできます (ただし、あまり一般的ではありません)。
チャージバックに関しては、良いニュースがあります。世界的に見て、取引件数に対するチャージバック件数の割合は年々減少する傾向にあります。取引総数と比較して、チャージバックの発生件数は毎年減っているということです。これは、事業者が取り組んでいる複数の要因によるものと考えられますが、その要因の大部分については後ほど取り上げます。
一方、悪いニュースもあります。チャージバックは依然として多くの事業者が直面する費用のかかる問題であり、ビジネスの不正使用とこれまで以上に広く関係しています。Juniper Research が発表した調査によると、EC ストア事業者が不正使用によって被る損失は、2021 年には約 200 億ドルと予想されていました。これは 2020 年の 175 億ドルから 18% の増加です。また、LexisNexis の The True Cost of Fraud (不正使用にかかる実際のコスト)レポートによると、事業者はチャージバック 1.00 ドルごとに 3.75 ドルを支払うことになります。
チャージバックと返金の違い
返金とは、事業者が顧客に売上を返金することです。一方、チャージバックとは、顧客の銀行またはクレジットカード会社が支払いを差し戻し、その金額を事業者から取り戻すことです。どちらの場合も、売上は顧客に戻されます。チャージバックと返金の違いは、主にどちらの当事者が売上の差戻しを開始するかという点ですが、他にもいくつか重要な違いがあります。
- 主体者
チャージバックでは、カード発行会社が行動の主体となり、チャージバックのプロセス全体を通して顧客および事業者と連絡を取り続けます。返金の場合は通常、顧客が事業者と直接やり取りをし、事業者が代金の差戻しを開始します。 - 代金の管理者
返金の場合、不審請求の申請を受けた売上を管理するのは事業者ですが、チャージバックの場合は顧客の銀行またはクレジットカード会社が決定権を握ります。返金においては、事業者が決済代行業者に対して、売上を顧客に返金するよう指示します。決済代行業者が送金を開始するまで、代金は動きません。しかし、チャージバックの場合は通常、顧客の銀行またはクレジットカード会社が先に行動を起こし、事業者の口座から対象の代金を引き出します。チャージバック請求が有効かどうかについて結論に達するまでのあいだ、銀行またはクレジットカード会社はその代金を保持します。 - カード保有者に代金が戻るまでの時間
顧客と事業者が連絡を取り合い、実際に返金が必要であるという結論に至るまでの時間 (1 回の対話で終わる場合や、メールでのやり取りが数週間続く場合もあります) を除いて、返金プロセス自体は通常 3 ~ 7 営業日かかります。しかし、チャージバックの場合は数週間から数カ月かかることがあります。特に事業者が不審請求の申請を受けた支払いに対して異議を唱えた場合は、時間を要します。
チャージバックが起こる主な理由
チャージバックの発生件数を抑えるための計画を立てるには、チャージバックが発生する多くの理由を理解しておくことが重要です。ここでは、一般的なシナリオをいくつかご紹介します。
計画された不正使用
突き詰めると、チャージバックがそもそも存在する理由はここにあります。チャージバックの背景にあるのは、不正行為によって口座に表示された取引を取り消すための手段を消費者に与えるという考えです。計画的に行われる不正使用は依然としてチャージバックの大部分を占めています。フレンドリー詐欺
この用語には、実態よりもはるかに柔らかい響きがあります。「フレンドリー詐欺」とは、不正使用とは関係のないさまざまなチャージバック理由を総称した用語です。厳密には、カード保有者が不審請求を申請できるのは、ごく限られた理由によるもののみとされています。しかし実際のところ、多くの人は不審請求を申請すべきかどうかを深く考えずに、さまざまな状況に対応するための手軽な方法として利用しています。よくある例を以下にいくつか挙げます。- 支払ったことに気づいていない
カード保有者がクレジットカードの明細書を見て、身に覚えのない請求を見つけた場合、その請求について不審請求を申請し、チャージバックを受けることを選ぶ可能性があります。カード保有者は購入したことを忘れているのかもしれませんし、サブスクリプションに登録したことを忘れて、定期料金を認識できていない可能性もあります。あるいは、カードの明細書に事業者名が明記されておらず、カード保有者にとって見慣れない取引であれば、不審請求を申請する可能性があります。 - 配送トラブルがあった
商品がいつまでも届かなかったり、予定よりも時間がかかっている場合、顧客は商品が紛失したと思い込み、チャージバックを請求する可能性があります。特に、配送の詳細情報や追跡番号を通知されていなかったり、注文の処理状況を問い合わせようとしてもなかなか事業者と連絡が取れない場合、顧客はチャージバックを請求する可能性が高くなります。 - 返品手続きを避けたい
チャージバックはしばしば、「返品手続きをせずに済ませる」ための楽な手段として利用されます。顧客が購入商品に不満があり、事業者の返金ポリシーについて不明瞭ないし読むのが面倒と感じていたり、商品を返品したくても返品可能期間を過ぎている場合、チャージバックのプロセスを開始する可能性があります。
- 支払ったことに気づいていない
事務的なミスの訂正
ミスがあった場合、チャージバックはそれを正す方法の 1 つです。複数回請求された場合、あるいは解約したはずのサブスクリプションの請求がまだ続いている場合、顧客はその誤りを正すために、銀行やクレジットカード会社に不審請求の申請を行うことがあります。こうしたタイプのチャージバックは、すぐに利用できるカスタマーサービスを事業者が提供していない場合に多く発生します。顧客が購入先に対して簡単に返金をリクエストできない場合、最善策としてチャージバックに頼る可能性があります。
チャージバックの仕組み
チャージバックは、当初の取引が終了しない限り発生しません。支払いが処理され、事業者の口座に売上が送金され、カード保有者のクレジットカード明細書に支払いが表示されます。
チャージバックのプロセスが始まるのは、その後であり、次のような流れになります。
1. カード保有者が不審請求の申請を行う
明細書に不正と思われる請求が記載されていることに気づくと、カード保有者はすぐに、購入に使用したクレジットカードの発行元である銀行または金融機関 (すなわち、カード発行会社) に対し、支払いについて不審請求の申請を行います。
2. カード発行会社がチャージバックを開始する
不審請求の申請が行われると、カード発行会社はチャージバックのプロセスを開始します。
3. 事業者がチャージバックに異議を申し立てる機会が与えられる
顧客がチャージバックを請求すると、顧客の銀行またはカード会社はただちに事業者の銀行に連絡を取り、チャージバックが請求されたことを通知します。この段階で、事業者には、支払いが不当であるとする顧客の主張に対して反証資料を提出する機会が与えられます。
4. 銀行またはカード会社が決定を下す
カード発行会社は、チャージバックに関する双方の証拠を確認し、手続きを進めるかどうかの決定を下します。この段階で、事業者が支払いの妥当性を裏付ける反証資料の提出を拒否した場合、カード発行会社は通常、チャージバック請求を承認することになります。
5. カード発行会社が事業者の主張を認める判断を下した場合
カード保有者の銀行またはカード会社が決済取引は有効と判断し、チャージバックの手続きを進めることを拒否した場合、代金は顧客に返金されません。支払いに関する調査が行われる前に、カード発行会社がカード保有者の口座に対して、不審請求が申請された金額を入金していて、その後支払いが有効と判断された場合、その代金または入金額はカード保有者の口座から再度引き落とされます。
6. カード発行会社が顧客の主張を認める判断を下した場合
チャージバックを請求する正当な理由がカード保有者にあると銀行またはカード会社が判断した場合、売上は事業者の口座から引き出され、カード保有者の口座に返金されます。
7. 決定後に仲裁が行われる場合がある
銀行またはカード会社が事業者の主張を認める判断を下しても、カード保有者がチャージバックを認めさせるために引き続き争う姿勢である場合、カード保有者は仲裁を求めることもできます。その場合、この問題はクレジットカード会社自体に対して提起されることになります。これは事実上、カード発行会社の決定に対する不服申し立て手続きとなります。Visa、アメリカン・エキスプレス、Mastercard、ディスカバーなど、クレジットカード会社は、チャージバックを巡る対立において最終的な決定権を持ちます。
チャージバックに伴う事業者のコスト
チャージバックに伴う手数料は、利用する決済処理代行業者によって異なります。Stripe では、チャージバックごとに 15 ドルの手数料がかかります。他の代行業者を利用する場合、手数料は 50 ドル、あるいは 100 ドルにも上る可能性があります。もちろん、目標はチャージバック件数をできるだけ減らすことですが、チャージバックの発生を完全に防ぐことはできません。このため、決済処理代行業者が設定している手数料を確認することが重要です。
チャージバックの防止策
このような問題が生じないよう、事前に対処しましょう。事業者がどれだけ用心深くても、最終的にチャージバックが発生することはあります。ただし、その発生頻度を最小限に抑えるための対策はあります。Stripe では、チャージバックを減らすために実行できる重要な手順について詳しく解説した記事を公開しています。ここでは、注意しておきたい重要なポイントをいくつか挙げます。
- クレジットカード決済の場合はセキュリティを最優先にする。
- 返金の手順を可能な限り簡単にする。
- 配送に関する期待に応えられるようにする。
- 顧客が連絡したいときに連絡がつくようにする。
- クレジットカードの明細書には、必ず実際の社名が記載されるようにする。
チャージバックに異議を申し立てるには
チャージバックの発生を防ぐために可能な限りの手段を講じても、やむを得ず発生することがあります。発生した場合、不正使用があったとする請求の真偽を検証し、どのような結果となった場合でもプロセスを先に進めるための行動計画を策定しておくことが重要です。ここでは、チャージバックに対する異議申し立てについて見ていきましょう。
異議申し立ての正当性について判断する
チャージバックについて通知を受けた場合は、まず、そのプロセスは実際の不正使用があったために進められているものなのか、それともカスタマーサービス上の問題がその背景にあるのかを判断します。支払いが不正使用によるものであった場合
支払いについての初期調査で実際に不正使用があったことが判明した場合、貴社はチャージバックに異議を申し立てる意向がないこと、および代金を顧客に返金することを、顧客のカード発行会社に伝えます。また、利用している決済処理代行業者にも不正使用があった事実を伝えるとともに、それが単独で発生したものなのか、他の取引にも影響が及ぶより大きな問題なのかを調べます。フレンドリー詐欺の場合
この問題を調査し、実際には不正使用はなかったと判断した場合、顧客のチャージバックに対応するかどうかは、結局のところ、顧客が最初にチャージバックのプロセスを開始した理由によって異なります。いずれにしても、チャージバックに対して異議を申し立てることになるでしょう。この場合、次のようないくつかの対応が必要となります。- 顧客に連絡を取る
チャージバックの多くの状況は、顧客に直接連絡を取り、顧客がチャージバックを請求するきっかけとなった問題を解決したいという意向を伝え、顧客の言い分に耳を傾けることで対処できます。たいていの場合、顧客との会話を通して、自社で解決できるよう試みる価値はあります。最終的には返金することになる可能性もありますが、たとえそのような結果になったとしても、貴社のビジネスにとって、返金の方がチャージバックよりは良いでしょう。 - チャージバックに対する反証資料を提出する
顧客との間で解決を目指してもうまくいかず、実際には不正使用はなかったと確信している場合は、その旨を示す反証資料を提出しましょう。領収書、注文確認番号、配送情報はいずれも、取引の正当性を確証するのに役立ちます。貴社の決済処理代行業者が顧客のカード発行会社と連絡を取ることになる可能性が高いため、反証資料があればその代行業者が提出できます。その後は、カード発行会社がチャージバックを承認するかどうかの判断を下すのを待つことになります。
- 顧客に連絡を取る
ビジネスを行ううえで、チャージバックへの対応を好む人はいません。しかし、チャージバックに対して積極的な予防策を講じておけば、売上の損失を最小限に抑え、ビジネス運営におけるより好ましい側面への支障を最小限に留めることができます。チャージバックの防止策に関して詳しくは、こちらのガイドをご覧ください。また、Stripe Radar を使ったチャージバック対策について、こちらから詳細をご確認いただけます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。