カナダのプレオーソリデビット (PAD) は、継続支払いを効率的に管理する方法として、事業者に使用されています。PAD の決済プロセスはシンプルで、あらかじめ定められた同意書に従って、購入者の銀行口座から売上を自動的に引き落とします。この方法は、サブスクリプションサービスや会費のような継続取引を行っている場合に特に便利です。PAD を利用すると、手作業での請求処理が減り、支払いの遅延や支払いの失敗が少なくなります。購入者にとっては、PAD は便利でストレスのない決済手段であり、継続支払いに毎回追われる必要がなくなります。
カナダでは、デジタル決済手段の人気が高まっています。2022 年のカナダでの決済取引額の総額は 11.7 兆カナダドル (CAD) で、このうち現金取引は取引額全体のわずか 0.5% でした。カナダの PAD は、効率的で信頼できる決済オプションとして、デジタル決済および自動決済のソリューションへの移行に対応しています。成長するデジタル経済において、PAD サービスへの注目がますます高まっています。
決済オプションとして PAD を加えることを検討している事業者は、PAD の主な機能、主要顧客、Payments Canada および Canadian Payments Act によって定められている関連規則を理解する必要があります。このガイドでは、この決済手段を受け付ける際に事業者が知っておくべきことについて説明します。
この記事の内容
- カナダの PAD の仕組み
- カナダで PAD が使用されている領域
- カナダでの PAD の用途
- カナダで PAD を受け付けるメリット
- カナダの PAD のセキュリティ対策
- 事業者がカナダで PAD の受け付ける際の要件
- カナダで PAD の代替となる決済
カナダの PAD の仕組み
カナダのプレオーソリデビットは、利用者の銀行口座からの自動引き落としにより、事業者や組織の売上に対する支払いを行います。この決済手段は継続支払いに便利ですが、1 回限り、または頻度の低い取引にも使用できます。PAD を使用すると、利用者は手間をかけずに期限内に支払うことができる一方で、事業者にとっては安定した予測可能なキャッシュフローが得られます。カナダの PAD の仕組みは次のとおりです。
PAD 同意書
PAD を開始するには、事業者 (請求側) との間で PAD 同意書を締結する必要があります。この同意書に従って、事業者は利用者の銀行口座から引き落としできるようになります。引き落としは定期的に行うことも、1 回限りでもよく、引き落とし金額 (固定金額または変動金額)、引き落としの頻度、PAD の解約方法など、関連するすべての利用規約が規定されています。この同意書には、利用者の銀行口座の詳細と引き落としの目的も記載されています。PAD を開始するには、事業者は利用者から明示的、かつ、状況をよく説明した上での同意を得る必要があり、この同意を文書化して承認の証として保存する必要があります。通知の要件
金額が変動する (たとえば、請求額が毎月変わる公共料金など) 場合、事業者は引き落とし日の 10 日前までに引き落とし金額と引き落とし日を利用者に通知する必要があります。月額のサブスクリプション手数料のように固定金額の場合、この通知は必須ではありません。PAD の処理
事業者は、金融機関またはサードパーティーの決済代行業者と連携して、PAD による取引の準備と管理を行います。利用者の口座から事業者の口座に、合意された日付に売上の送金が行われます。多くの場合、PAD による取引が処理されて利用者の銀行明細書に記載されるまでに 3 ~ 5 営業日かかります。事業者はすべての PAD 同意書および取引を正確に記録し、各取引の日付、金額、利用者の詳細などを追跡するためのシステムを用意する必要があります。PAD の解約
利用者は、同意書に記載されている解約プロセスに従って、PAD 同意書をいつでも解約できます。通常、解約するためには請求側に書面で通知する必要があります。PAD の解約により、利用者と請求側との基になる利用規約や契約が解除されるわけではなく、別の決済手段を手配する必要があります。事業者は、利用者が PAD 同意書の解約または変更を求めた場合はその処理のための準備を行う必要があり、PAD 同意書の変更について銀行または決済代行業者に速やかに通知する必要があります。PAD の不審請求の申請
PAD で問題が発生した場合 (たとえば、引き落とし金額が正しくない、解約後に引き落としが実行されたなど)、利用者は自身の銀行に連絡して取引の不審請求の申請を行うことができます。PAD の不審請求の申請期限は銀行ごとに定められていて、通常は取引日から 90 日です。事業者は、不審請求の申請や未承認の引き落としの扱いについて、明確なプロセスを定めておく必要があります。売上照合と会計処理
事業者は、正確な財務レポート作成と消し込みのために、PAD による取引を会計システムと連携させる必要があります。また、正確さを保証するために、利用者との同意書に照らして PAD による取引を定期的にレビューする必要もあります。
カナダで PAD が使用されている領域
カナダでは、PAD の利便性と柔軟性から、多くの業界で PAD が利用されています。特に、定期的な請求の支払いや、自動取引でよく使われます。カナダでは、毎年、数億件もの PAD が処理されています。
PAD を利用している事業者には、非営利団体、E コマース、小売業サービス、テクノロジーサービス、プロフェッショナルサービス、飲食業、ジムとフィットネス、ヘルスケア業界などがあります。業界の多様性は、PAD がさまざまなビジネスモデルと事業規模で利用できることを示しています。小規模事業者は特に PAD のセキュリティ面にメリットを感じています。Payments Canada と Canadian Banking ネットワークがこれらの取引を監視し、不正利用の防止に寄与しています。
PAD は、家賃、授業料、会費、サブスクリプションなどの継続支払いや、使用量に基づいて変動する公共料金の支払いなどによく使用されています。また、1 回限りの請求書の支払いや、高額商品の支払いにも利用できます。すべての関係者のニーズに従って支払いのスケジュールや金額を調整することもできます。
カナダの利用者は、PAD の利便性と信頼性を評価し、住宅ローン、保険料、公共料金、会費のように定期的に発生する費用の支払いに PAD を利用しています。期日を覚えておく必要がなく、毎回手動で手続きをしなくても、期限内に支払いを行うことができるためです。
カナダでの PAD の用途
PAD はカナダの決済環境に深く浸透しています。事業者は売上の自動振込によって信頼性の高いタイムリーなキャッシュフローが得られることを評価し、利用者は継続取引をサービスの中断なしにスムーズに行うことができるという点に価値を見出しています。PAD は、以下のような決済によく使用されています。
サブスクリプション型デジタルサービス
ストリーミングプラットフォーム、オンラインマガジン、サービスとしてのソフトウェア (SaaS) 企業は、アカウント料金の継続支払いがスムーズに行われるように PAD を利用しています。月会員
ジム、ヨガスタジオ、ウェルネスセンターなどは、月会費の回収に PAD を利用しています。保育プログラム
PAD は、保育所や学童保育の利用料や放課後プログラムの授業料の回収にもよく利用されます。住宅管理手数料
ホームオーナーズアソシエーションやマンション管理組合は、共用施設の維持・管理のための月払いまたは年払いの手数料の回収に PAD を利用しています。住宅ローンや賃料の支払いにもよく利用されます。車のローンやリース料
自動車ディーラーや金融機関は、車の月額リース料やローン返済の管理に PAD を利用しています。企業間取引 (B2B) サービス
サプライチェーンのベンダーや専門コンサルタントなどの B2B サービスは、売掛金プロセスの効率化のために PAD を利用しています。PAD により、定期的な請求書処理や売上の回収を自動化できます。電気通信およびインターネットサービス
電気通信およびインターネットサービスプロバイダーは、月額サービス料の請求に PAD を利用しています。行政サービス
地方自治体は、水道料金や粗大ごみの処理手数用の請求に PAD をよく利用します。
カナダで PAD を受け付けるメリット
決済手段として PAD を受け付ける事業者は、以下のようなメリットを得られる場合があります。
キャッシュフローの予測可能性が高まる: 多くの場合、小規模事業者にとっては、安定したキャッシュフローを維持することが課題となります。PAD によって、タイムリーかつ着実な支払い、確実な収入源が得られます。
費用対効果の高い取引手数料: PAD の取引手数料は通常、取引額の約 1% であり、決済代行業者によって変わる場合があります。これに対し、クレジットカード処理に関連する手数料は通常、取引額の 2 ~ 4% であるため、多くの事業者にとって PAD を選ぶ方が費用対効果は高くなります。PAD の取引手数料の安さは、低額の取引を大量に扱う事業者にとって特に有益である可能性があります。
管理業務の効率化: PAD を使って決済を自動化すると、請求書の発行やその後の管理を手動で行う必要がなく、時間とリソースが大幅に節約されます。
顧客の信頼の向上: PAD はカナダで認知され、高い信頼を得ている決済手段です。PAD を受け付けることで、この信頼を基に継続請求モデルの利用者と長期的な信頼関係を築くことができます。
決済の柔軟性: 決済額が固定でも可変でも、PAD は極めて柔軟に管理できます。これは、毎月の使用量によって利用者への請求額が変動する公共料金や通信事業者にとって特に有益です。
チャージバックリスクを最小限にする: PAD システムには直接承認プロセスが実装されているため、差戻しやチャージバックは、クレジットカード決済と比べて件数が少なくなります。
カナダの会計システムとの連携: PAD による取引は、カナダ固有の会計ソフトウェアと簡単に連携させることができるため、照合や財務レポートの作成を簡単に行えます。
カナダの PAD のセキュリティ対策
カナダの PAD は、事業者と利用者を保護するために複数のセキュリティ対策を実施しています。安全で信頼性の高い取引を保証するための規制による枠組みの一環として、主に、以下のようなセキュリティ対策が取られています。
暗号化と安全な送信
カナダの金融機関は、PAD 情報をイートランスファー情報と同じ方法で暗号化します。機微な金融情報は送信時にセキュアコードに変換され、不正アクセスを防ぎます。PAD はカナダの Automated Clearing Settlement System (ACSS) を介して処理され、厳しい安全性ガイドラインに従っています。規定 H1 の準拠
PAD を開始するには、規定 H1 に従って、支払人の署名付きの書面による承認書が必要です。これにより、支払人が引き落としの条件に明示的に同意したことになります。事業者は、規定 H1 に記載されている内容要件に従うことを示す PAD 承認同意書を締結する必要があります。規定 H1 に最近行われた改定により、PAD 同意書が電子形式であるか書面化の違いは取り除かれ、すべての PAD 同意書のプロセスが統一されました。支払いの確認
受取人は、支払人の本人確認を行うための「商取引上の合理的な」手続きを実装する必要があります。この手続きは、事業者および支払いの申し込みに利用されるものと同様の本人確認手段に従う必要があります。「商取引上の合理的な」の定義が変更され、受取人は自身のビジネスおよび PAD 規約に合わせて調整した本人確認手段を利用できるようになりました。書面による確認
取引が処理されるためには、受取人は初回引き落としの 10 日前までに PAD の詳細についての書面による確認を支払人に提供する必要があります。この確認は、PAD 同意書自体でも、主な規約の要約でも構いません。この方法により、引き落としが行われる前に、支払人は同意書の規約の内容について十分な説明を受けることができます。透明性の対策
受取人が他の法人または個人の代理で支払いを回収する場合、PAD 同意書には、支払人に商品またはサービスを提供する法人または個人と受取人との間の同意を記載した内容を含める必要があります。これにより、受取人と商品またはサービスの提供者が同一の法人または個人ではないという、取引の透明性が確保されます。自動解約
1 回限りの PAD 同意書は、支払いが完了すると自動的に解約されます。これにより、承認なしに引き落としが繰り返されるのを防ぎ、各取引が明示的に承認されていることが確認されます。以降の PAD 取引には、新たな PAD 同意書が必要になります。
事業者がカナダで PAD の受け付ける際の要件
カナダの事業者が PAD を受け付けるには、Payments Canada が定める規制枠組みに準拠するために、特定の運用要件に従う必要があります。これらの運用要件を以下に記載します。
PAD 同意書
最初に事業者は、支払人の口座からの引き落とし許可を付与するための PAD 同意書を作成する必要があります。この PAD 同意書には、引き落としの金額 (固定でも可変でもよい)、引き落としの頻度 (毎週、毎週のように固定でも、固定でなくてもよい) を規定する必要があります。この同意の一環として、事業者の銀行情報を提供する必要があります。金融機関によっては、口座情報を確認するために白地小切手の発行を求められる場合もあります。このような場合は、不正防止の観点から、小切手に署名をせずに「VOID」と記入するのが一般的です。同意書には、日付と署名、その会社に対して特定の金額の引き落としを許可するという声明、PAD の区分 (個人または事業者)、同意書を解除する権利についての声明 (解除方法についての明確な説明を含む)、発行会社の連絡先情報を含める必要があります。書面による確認
PAD 同意書は電子形式で、書面で、あるいは電話で締結することができます。電子形式または電話で同意書を締結した場合、銀行は、初回引き落としの 3 日前までに同意書の詳細を記載した書面による確認を送信することが求められます。支払いの通知
支払い金額が変動的な PAD の場合、受取人は、支払い期限が放棄されたり短縮されたりしない限り、引き落としの 10 日前までに支払人に書面で通知する必要があります。支払いの承認
PAD 同意書に支払いの頻度が規定されていない場合、または頻度が変動的である場合、受取人はそれぞれの PAD 取引の承認を得る必要があります。この承認のために、パスワードとコードの利用が必要になる場合があります。規定 H1 の準拠
事業者は Payments Canada の規定 H1 に定められている PAD の責任と義務に従う必要があります。これには、PAD サービスの利用規約の詳細を規定した登録同意書に署名すること、利用者のために支払人の PAD 同意書 (一般に、口座引き落としの許可と呼ばれる) を準備して実施することが含まれます。この同意書には、規定 H1 に基づいて要求されるすべての必須項目が含まれる必要があります。引き落とし処理にサービスパーティーのサービスプロバイダーを使用する場合は、PAD 同意書にそのサービスプロバイダーの名称を、実際の受取人の代理で行動する受取人として指定する必要があります。
決済代行業者には、PAD による決済を実装するための独自の要件があります。Stripe では、カナダの PAD を受け付ける事業者に対し、以下のような要件を課しています。
同意書の収集: 利用者の銀行口座から引き落としを行うには、事業者は規定 H1 に従った利用者の同意書を収集する必要があります。この同意書には、金融機関番号、支店番号、口座番号、支払いスケジュール、名前、メールアドレスなどの詳細が記載されている必要があります。この同意書は、利用者の口座から引き落とすことを事業者に対して承認するものです。Stripe の Stripe.js などのツールを使用すると、決済フローの中でこの同意書と銀行口座情報を収集するのに役立ちます。Stripe は、銀行の即時確認も提供します。
利用者への通知: Stripe では事業者に対し、同意書が確定したときと、口座からの引き落としの都度に、利用者に通知することを求めています。この通知は Stripe から自動的に送信することも、事業者がカスタム通知を送信することもできます。カスタム通知を行う場合、事業者は、同意書の確認、引き落としの通知など、メール通知のすべての必須項目を記載する必要があります。
不審請求の申請プロセス: Stripe の規則では、利用者は銀行を通じて、個人口座の場合は引き落とし後 90 日以内、ビジネス口座の場合は 10 営業日以内に PAD について不審請求の申請を行うことができます。Stripe は不審請求の申請について通知し、その金額を差し引きます。
返金と入金: Stripe によって処理された PAD の返金は、当初の支払いから 180 日以内に送金する必要があります。この手続きの完了には、通常、3 営業日かかります。事業者は、混乱を防ぐために利用者に返金時期を通知する必要があります。
明細書表記: PAD による各支払いにおいて、利用者の銀行明細書に事業者名が記載されるようにする必要があります。Stripe アカウントの明細書表記を更新することにより、事業者は各取引における明細書表記をカスタマイズできます。
カナダで PAD の代替となる決済
カナダでは、取引処理の方法として PAD に変わる手段がいくつかあります。PAD は継続支払いによく利用されますが、他の市場では別の決済手段が使用されています。PAD の主要市場の代替決済手段としては、以下があります。
クレジットカードとデビットカード: カナダでは、買い物に最も使用されている決済手段はカードであり、2022 年の E コマース全体の 33% に利用されていました。年間売上の大きな部分を占めていて、カナダ市場で最も有力な決済手段です。
オンライン送金: オンラインサービスから開始された電子取引でのオンライン送金は、2022 年の決済の 5% を占め、金額面で個人の電子資金送金 (EFT) を初めて上回りました。EFT には、口座振込や PAD が含まれます。
現金決済: カナダでは、現金も決済オプションとして引き続き使われていて、2022 年の取引の 10% を占めていました。カナダ郵便公社の代金引換払い (COD) のようなサービスは、商品が届いたときに支払えることから、現金決済を好む個人に支持されています。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。