アラブ首長国連邦での決済を受け付けることで-小売業の市場規模が 2022 年には 3,060 億 UAE ディルハム (AED) を突破-、企業には顧客基盤を拡大する大きなチャンスが生まれます。UAE 市場への参入を目指す企業は、現地の決済の嗜好、決済をめぐる新たなトレンド、決済セキュリティ に関する UAE 政府の規制に注意を払う必要があります。
以下では、企業が UAE の決済システムに参入する際に考慮すべき点についてご説明します。
- 非接触型決済への注力
- 決済セキュリティの強化
- 地域に適応した顧客サポート
市場の状況
UAE の決済システムには、豊かな文化遺産と先端技術への強い関心が融合されています。代金引換 (COD) のような根強い文化的嗜好が、高まる デジタル取引 の人気と共存しています。クレジットカード や銀行振込 は依然として普及していますが、デジタルウォレット は UAE の居住者の間で導入が増加しています。
UAE 中央銀行は、同国の金融政策の立案と実施において重要な役割を果たしています。また、証券商品庁は UAE の資本市場を監督し、公開資産を持つ会社を規制しています。UAE の金融規制には、国際的なベストプラクティスと地域への配慮が混在しており、特にイスラム金融の原則が重視されています。
決済手段
UAE は商業の中心地として活気に満ちています。ここでは、UAE の消費者に人気の決済方法をご紹介します。
現在の使用状況
2022年、UAE では現金決済が 店舗販売時点情報管理 (POS) 取引に占める割合は約38% でした。オンラインショッピングの成長に伴い、クレジットカード決済 が UAE で最も人気のある決済方法となっています。2022年には、POS 取引額の 40%、EC 取引額の41% をクレジットカードが占めています。
UAE の決済環境の特徴は、デジタル決済 ソリューションの導入率が高いことで、従来のクレジットカードの導入率を超えています。2021年には、非接触型決済 が UAE の 対面決済の 84%を占めています。Google Pay、Samsung Pay、および各地域のプレーヤー (Beam、Etisalat Wallet など) のような デジタルウォレット も人気があり、2022年には EC 取引総額の 24%、POS 取引総額の 16% を占めています。
アラブ首長国連邦 (UAE) で人気の B2C 決済手段
- クレジットカード
- デジタルウォレット (Beam など)
- 銀行振込
- UAE 口座振替システム (UAEDDS)
アラブ首長国連邦 (UAE) で人気の B2B 決済手段
- クレジットカード
- 銀行振込
- 電信送金
新たなトレンド
UAE は仮想通貨の普及率で世界トップ にランクインしており、2023 年には 暗号通貨を保有している住民の割合が 30% を超えました。しかし、一般市民のデジタル通貨に対する態度は依然として慎重です。
参入のしやすさと課題
UAE で決済を受け付けるには、税務情報、チャージバック、越境決済、決済セキュリティに関して特別な配慮が必要です。詳しく見てみましょう。
税金
UAE では 2018年に 付加価値税 (VAT) が導入され、税制の転換が図られました。5% という VAT がほとんどの商品とサービスに適用されています。消費者は購入代金の一部としてこの税金を支払い、事業者はこれを回収して連邦税務当局に納付する責任があります。
チャージバックと異議申し立て
ヨーロッパの規制と同様に、UAE の規制も請求に関する異議申し立てに関して、顧客を優遇するアプローチに傾いています。顧客が異議申し立てを行うと、事業者は取引の正当性を支持する反証資料を提出しなければなりません。事業者は、取引記録、配達証明、顧客とのあらゆるやり取りなど、取引を徹底して文書化することで、異議申し立てに対処しやすくなります。
ドバイ国際金融センターやアブダビ・グローバル・マーケットといった UAE の自由経済圏には、チャージバック や異議申し立てに関する独自の手続きがあります。これらの経済圏で事業を展開する企業は、その地域特有の要件に注意する必要があります。
国際決済
UAE はその重要な立地と国際商取引への高い参入率に鑑みて、莫大な量の越境取引を取り扱っています。ここでは、UAE で 国際決済を受け付ける ことを計画している場合に考慮すべき点をご紹介します。
複数通貨への対応
UAEで事業を展開する企業、特に海外の顧客を相手にする企業は、複数通貨を扱える銀行口座の利用を選択することがあります。これらの口座では、複数の通貨を一度に保有することができ、頻繁に通貨換算をする必要がなくなります。通貨換算
通貨換算が必要になると、企業は1% ~ 3%の手数料を請求される可能性があります。この手数料は企業が吸収する場合もあれば、顧客に転嫁される場合もあります。AED の価値は 1997 年以来、1 ドル=3.6725 AEDで米ドルに固定されており、為替レートは安定しています。中央銀行にはすべての手数料と為替レートのマークアップを開示することが義務付けられています。
セキュリティとプライバシー
UAE は、国内および国際的なセキュリティ基準に適応し、高度な技術対策もとっています。それにより企業や消費者に安全な決済環境を提供しています。ここではその重要な特徴をご紹介します。
データ保護法
UAE には EU の 一般データ保護規則 (GDPR) のような中央で管理するデータ保護法はありませんが、ドバイのような個々の首長国が独自の規制を導入しています。例えば、ドバイ国際金融センターには 個人データ保護法 があり、データの最小化、目的の限定、適切なセキュリティ対策が強調されています。中央銀行のガイドライン
UAE 中央銀行は、同国の金融環境を形成しています。そのガイドラインでは、取引認証と 暗号化 基準を網羅しています。その目的は、UAE における 電子決済 を不正利用や承認されていないアクセス、その他のリスクから保護することです。顧客認証基準
多要素認証 (ワンタイムパスワード、生体認証など) は オンライン取引 の標準となりつつあり、決済に新たなセキュリティレイヤーを加えています。電子マネー規制
2020 年以降、UAE の中央銀行の貯蔵型価値手段規制 が電子取引の方向性と構造を形成してきました。その目的は、顧客のデータ (UAE 国内で保管・管理されなければならない) を保護することです。マネーロンダリング防止 (AML) 法
UAE には厳格な AML 法 があり、金融機関に厳格なデューデリジェンス処理を義務付けています。UAE は金融情報機関を設立して、マネーロンダリング対策への取り組みを拡大しています。この機関は、金融犯罪に関連する情報の収集と分析を担当する組織です。サイバーセキュリティの枠組み
デジタル取引が増加する中、UAE は強力なサイバーセキュリティの枠組みの重要性を認識しています。国家電子安全保障局は、各種組織がサイバーリスクを軽減できるように、一連の基準とベストプラクティスを開発しました。これらは、リスク管理からインシデント対応まで様々な分野を網羅しています。地域の決済システム
UAE では、その多様な人口に対応するように、複数地域で決済システムが台頭しています。UAEDDS や UAE 送金システムのようなシステムは、居住者と事業者双方に安全な取引手段を提供しています。厳格な規制監督により、これらのプラットフォームは脅威や脆弱性に対して頑健な状態に保たれています。経済特区に対する法令の遵守
UAE の自由経済圏には、独自の規制機関と法令遵守基準があります。これらの経済圏は自律的に運営されていますが、その規制は UAE の国家標準と同期しています。
成功のカギ
UAE は多方面で金融の改善に取り組んでいますが、その決済環境には固有の課題があります。このような課題に対処するには、技術的ソリューション、規制への適合、現地の嗜好についての知識を組み合わせる必要があります。
従来の決済オプション
デジタル決済が主流となっていますが、UAE 全土で現金が引き続き利用されており、2024 年には 消費者の取引の 23% が現金で支払われました。代金引換は、利用が減少してはいるものの、依然としてオンライン購入の決済に利用されています。このような状況はデジタル化を推進し、支払い処理を簡素化しようとしている企業には課題となる可能性があります。しかし、対面で現金や代金引換決済を受け付けている EC 事業 は、デジタル決済を避けたい顧客層にはアピールでき、親近感と信頼感を促進することができるともいえます。地域の決済方法
UAE では、Beam や Etisalat Wallet のようなデジタルウォレットに加えて現地のカードネットワークからの支払いにも対応することが重要です。Visa、Mastercard、Google Pay といったグローバルプレーヤーもありますが、国内の決済方法を受け入れる事業者は、UAE の顧客層からすると包摂的で社会に馴染んでいるように見えます。地域に極めて固有の微妙な差異への配慮
個々の首長国はデータ保護に関して独自の規制を設けており、UAE の自由経済圏は決済に関わる異議申し立てに関して独自のルールを採用することができるため、現地の規制の詳細に特に注意を払う必要があります。多文化アプローチ
UAE の豊かな文化は現地の決済の嗜好にも影響を及ぼしています。ラマダン (断食月) などの宗教的な祝日に合わせたプロモーションや決済インセンティブを用意したり、決済インターフェースを多言語に翻訳したりすることで、各地域への適応が期待できます。
重要なポイント
UAE は、決済体験の改善を望む事業者にとって特別な市場です。UAE の文化的、技術的、経済的なニュアンスに合わせて支払い処理をカスタマイズすることで、取引の成功率と顧客満足度を高めることができます。UAE で決済を受け付けるためのヒントとともに、概要をご紹介します。
非接触型決済への注力
非接触型カード決済の導入
UAE では、非接触型カードが対面でのクレジットカード取引の大半を占めています。現金やその他のデジタル決済方法と併せて、このオプションも提供するとよいでしょう。デジタルウォレットの統合
Google Pay から Beam まで、デジタルウォレットは UAE で人気があります。テクノロジーに精通した顧客層に対応するために、対面でもオンラインでも、デジタルウォレット決済を受け入れられるようにしてください。モバイル向けに調整
デジタルウォレットを使った取引を促進するだけでなく、決済インターフェイスと チェックアウトページ を調整し、完全なモバイル購入を実現します。
決済セキュリティの強化
オンライン取引の保護
EC 事業は、様々な 種類の不正取引に見舞われます。3D セキュア認証 と 機械学習による不正の検知 ツールを採用して、EC 決済における不正をいち早く発見します。顧客の本人確認を行う
不正利用 対策として、2 段階認証、ワンタイムパスワード、または住所認証サービス (AVS) により、顧客の本人確認を行います。データ保護を優先する
お客様の事業が地域のデータ保護規制に準拠していることを確認し、安全な ペイメントゲートウェイ を導入して、UAE の顧客にデータセキュリティの慣行を伝えてください。
地域に適応した顧客サポート
多言語による顧客サポートの提供
UAE には、アラビア語を母語としない人々が多く住んでいます。多言語、特にアラビア語と英語で対応して、顧客に企業の決済体験を包摂的で容易だと感じてもらいましょう。対応の早い顧客サポート
決済に関する顧客からの質問に対する回答を見つけやすくして、スムーズな取引処理を行いましょう。オンライン購入は一刻を争うため、タイムリーなサポートが取引の成功と カート放棄 との分かれ目となります。返金ポリシーについて透明性を保つ
UAE の規制は、特に EC 事業 が返品・返金ポリシーを明確にするべきであると強調しています。現地の規制を遵守して顧客ロイヤリティを高めるために、こうした慣行を採用してください。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。