デンマークは、ヨーロッパでオンラインショッピングの 1 人あたりの支出額が最も多い国です。2022 年には現地のオンライン小売業者 の E コマース売上高が約 170 億米ドルに達し、その年の国外小売業者からの売上高は約 60 億米ドルに達しました。事業者がこの市場で決済を受け付けることを検討している場合、決済手段、国際取引、決済セキュリティプロトコルに対して微妙な差異に配慮したアプローチにすることで、購入完了率の向上と顧客からの信頼の構築に役立ちます。
以下では、デンマークの決済市場で自社を成功に導く方法を紹介します。
- 地域固有の決済手段に重点を置く
- 決済プロセスを効率化する
- 取引のセキュリティを強化する
市場の状況
デンマークは、現代的かつ国際的な考え方を持っていることで有名です。現金での支払いは今でも行われていますが、クレジットカードやデビットカード、モバイル決済取引ほど一般的ではありません。デンマークの決済動向は近隣の北欧諸国と共通点があり、スウェーデンやノルウェーで普及しているクロスボーダー決済ソリューションはデンマークの消費者にも好評です。
デンマークには自国の通貨であるデンマーククローネ (DKK) があるものの、欧州連合に加盟しているため、決済システムも一般データ保護規則 (GDPR)などの欧州基準の影響を受けます。デンマーク金融監督庁 (Finanstilsynet) は、金融機関を監督して市場の信認を維持する責任を負っている主たる規制機関です。
決済手段
デンマークはまだキャッシュレス社会ではありませんが、技術の進歩に後押しされ、その方向に進んでいます。この市場で人気のある決済手段を詳しく見てみましょう。
現在の利用状況
デンマークの顧客はデジタル決済手段への嗜好が強く、2021 年には店舗での取引全体の 88%がデジタルで行われました。クレジットカードは広く受け入れられていて、決済の 3 分の 2 はカードで行われており、人口のほぼ 80% が Dankort カード (国内のデビットカード) を持っています。非接触型カード支払いも増加傾向にあり、2016 年第 1 四半期には店舗支払いの 4% であったところから、2021 年第 2 四半期には 72% に増加しました。
デンマーク人が現金以外の決済手段に慣れていることは、Danske Bank が開発したモバイル決済アプリ「MobilePay」が普及していることからうかがえます。MobilePay は 2022 年にノルウェーのモバイル決済アプリ Vipps と合併して Vipps MobilePay となることを発表し、2024 年に統合アプリをリリースしました。さらに、デンマーク国立銀行の 2022 年のレポートによると、人口の 92% が MobilePay を利用でき、従来の現金取引をデジタルの代替手段に置き換えることに前向きであることが浮き彫りになりました。2019 年から 2021 年にかけてモバイル決済全体の利用が 2 倍以上に増加し、実店舗での支払いの 5 分の 1 がモバイル決済でした。
Apple Pay や Google Pay などの国際的なデジタルウォレットオプションも存在感を見せていますが、MobilePay やクロスボーダー決済用のスウェーデンの Swish など地域固有のソリューションも広く普及しています。
デンマークで人気の B2C 決済手段
- クレジットカードおよびデビットカード (Dankort など)
- モバイル決済 (MobilePay など)
- 銀行振込
- 後払い (BNPL) 決済 (例: Klarna)
デンマークで人気の B2B 決済手段
- クレジットカード
- 銀行振込
- 口座振替
新たなトレンド
デンマークはテクノロジーに対する進歩的な姿勢で知られており、仮想通貨への関心が高まっています。デンマークの仮想通貨市場は、2025 年に 1 億 5,520 万米ドルに達すると予測されています。仮想通貨はデンマークでは法定通貨と見なされていないため、公式な通貨として認められていませんが、仮想通貨での利益は課税対象となります。デンマークの税務当局である Skattestyrelsen は、脱税を抑制するために仮想通貨取引を監視しています。
参入のしやすさと課題
デンマークで決済を受け付けるには、税金、チャージバック規制、クロスボーダー決済、決済のセキュリティに細心の注意を払う必要があります。概要は次のとおりです。
税金
デンマークの付加価値税 (VAT) はほとんどの商品とサービスで 25% であり、ヨーロッパの中でも特に高い税率です。この税金は消費者が直接支払いますが、事業者は税金を徴収して Skattestyrelsen に納付する責任があります。VAT を適切に申告書に記載して提出しないと、事業者に罰則が科せられる可能性があります。
チャージバックと不審請求の申請
ヨーロッパの多くの国と同様に、デンマークは消費者保護を非常に重視しており、この精神はチャージバックや不審請求の申し立てへの対応方法に表れています。デンマークの消費者は、不正または誤りであると思われる取引について申し立てる権利を有しており、取引の正当性を検証する責任は事業者または金融機関にあります。
デンマークは EU 加盟国であるため改正決済サービス指令 (PSD2)を遵守しています。この指令では強力な顧客認証 (SCA) が義務化されているため、チャージバックの申し立てに影響が及ぶ可能性があります。デンマークの決済サービスと電子マネーに関する法律は PSD2 に準拠しており、不正な決済取引が発生した場合、支払者が不正行為に関与した兆候がなければ、支払者は直ちに返金を受ける権利を有すると規定されています。
国際決済
デンマークで国外の B2C または B2B の顧客にサービスを提供する場合でも、通貨換算と国際取引の仕組みを理解しておくことが重要です。
多通貨オプション
デンマーククローネ以外の通貨 (ユーロなど) での支払いオプションを提供することで、現地通貨での価格表示を希望するデンマーク以外の顧客が利用しやすくなります。多通貨のペイメントゲートウェイを導入すると、事業者と顧客のプロセスがシンプルになります。通貨換算
デンマークは EU 加盟国でありながら自国通貨を維持しているため、通貨換算が日常的に行われています。銀行が通貨を売買するレートを表す銀行間レートは固定ではなく、世界の金融市場の状況に基づいて変動します。銀行間レートは通貨換算の基準となりますが、ほとんどの金融機関は顧客に通貨換算サービスを提供する際に、このレートに取引手数料を追加しています。手数料の透明性
規制により、通貨換算に関連するすべての手数料を開示する際に透明性を確保することが義務付けられているため、顧客に隠れたコストが生じることはありません。
セキュリティとプライバシー
デンマークの決済の特徴は、厳格なセキュリティ対策、包括的な規制機関による監督、EU 指令への準拠です。デンマークの決済市場への参入を検討している企業は、データ保護と、その中の決済セキュリティガイドラインを理解しておく必要があります。ここでは、そのポイントをご紹介します。
データ保護法
デンマークでは、消費者データの保護を重視する GDPR が施行されています。デンマークのデータ保護庁である Datatilsynet は、GDPR の遵守状況を監督し、必要な基準を満たしていない組織に罰則を課すことができます。決済サービス指令
PSD2 は、デンマークでの決済に影響するもう 1 つの重要な EU 規則です。この指令は、決済業界における競争とイノベーションを促進するものであり、銀行に口座名義人の同意を得たうえでサードパーティのプロバイダーに口座情報へのアクセスを許可するよう義務付けて、サードパーティのプロバイダーが金融サービスを提供できるようにします。マネーロンダリング防止 (AML) に対する姿勢
デンマークは、EU の マネーロンダリング防止およびテロ資金供与対策 (CTF) 指令を遵守しています。金融機関は、厳格な本人認証 (KYC) を実施し、疑わしい活動がないか取引を監視する必要があります。マネーロンダリング局は、国家重大経済犯罪検察官の一部局であり、マネーロンダリングに関連する報告と調査を処理します。MitID 認証
MitID はインターネットやモバイルデバイスで使用される安全なログインソリューションであり、ユーザーの本人確認を行うことで、オンライン取引とアクティビティの保護をさらに強化します。金融監督庁による監督
デンマークの金融監督庁である Finanstilsynet は、金融機関を監督し、必要な基準と規制を遵守していることを確認するという国の規制の枠組みにおいて極めて重要な役割を果たしています。それには、決済のセキュリティ対策や不正利用検出手法の監督も含まれます。
成功のカギ
デンマークの決済環境は高度なインフラが整い、デジタルが広く普及しているものの、まだ課題もあります。デジタル取引の先駆者であるということは、事業者が対処できなくてはならない特有の問題に取り組んでいるという意味でもあります。
従来の決済手段と最新の決済手段
2024 年時点で、デンマーク国民の 98% がオンラインバンキングの利用経験があるものの、人口の 2% というわずかな数ながらデジタルを受け入れていない層もあります (ほとんどは高齢者)。つまり、事業者は、従来のオプションを好む顧客も引き付けるために、さまざまな決済手段に対応する必要があるでしょう。対面支払いの場合、事業者は現金、クレジットカードおよびデビットカード、後払いサービスを受け付けることで、顧客に柔軟な選択肢を提供できます。モバイルオプション
デンマークではモバイル決済の人気があり、MobilePay、Apple Pay、Google Pay などのプラットフォームによって処理されています。モバイル決済アプリやデジタルウォレットで取引を円滑に行うことで、デンマークの顧客にスピーディーでシームレスな決済体験を提供できます。国外のシステムとの相互運用性
デンマークは EU に加盟していますがユーロ圏ではないため、デンマークで国外の顧客に対応する事業者は、ユーロ取引に関する単一ユーロ決済圏 (SEPA) 規則とデンマーク国内の規則の両方に準拠するとともに、Swish などスウェーデンの決済手段を採用するとメリットが得られます。サイバー脅威の軽減
国の IT セキュリティ監督機関であるサイバーセキュリティセンターによると、デンマークの金融機関に対するサイバー犯罪の脅威レベルは 2024 年時点で非常に高く、決済セクター全体のリスクが高まっていることを示唆しています。そのため、デンマークで決済を受け付ける事業者は、安全なペイメントゲートウェイを選択したり、オンライン取引で 3D セキュア認証を実装したりするなど、サイバーセキュリティ対策と不正利用検出機能への投資を継続する必要があります。
重要なポイント
デンマークはデジタルイノベーションの重要な中心地と見なされることが多く、国の価値観と技術的傾向が決済への対応方法に影響を与えています。この国のデジタル対応状況のレベルは高いため、顧客はスピーディーで手間のかからない決済体験を期待する可能性があり、事業者はこの地域に合わせたソリューションを戦略に含めると競争力を獲得できます。
地域固有の決済手段を重視する
MobilePay に対応する
決済アプリである MobilePay は、デンマークの顧客に非常に人気があります。現地の顧客に最高のサービスを提供するために、MobilePay 取引を受け付けるようにしましょう。Dankort カードを受け付ける
モバイル決済や国際クレジットカードが普及する中でも、デンマークでは国内のデビットカードである Dankort がよく使用されています。Dankort カードを受け付けることで、現地の人々に信頼感と親しみを覚えてもらえます。クロスボーダー決済を改善する
デンマークの決済の好みには、北欧の隣国であるスウェーデンやノルウェーとの密接な関係が表れています。デンマークでクロスボーダー取引に採用されている Swish を導入することを検討してください。
決済プロセスを効率化する
後払いを導入する
Klarna などの後払いサービスでは、顧客がすぐに代金を支払わなくてすみ、柔軟性も得られるため、特に若い顧客に訴求力があります。対面とオンラインの両方で後払いオプションを提供して、購入完了率の向上につなげましょう。決済プロセスの改善を続ける
テクノロジーに精通したデンマークの顧客は、スピーディーで直感的なデジタル体験に慣れているかもしれません。決済プロセスのステップ数を減らし、直感的な決済インターフェイスを使用することで、ユーザー体験を向上させてください。手数料の透明性を確保する
デンマークには手数料に関する規制が設けられており、事業者は顧客に対する透明性を重視する必要があります。カゴ落ちを防ぐために、追加料金、特にクロスボーダー取引や通貨換算に関連する手数料があるなら、明確に伝えます。
取引のセキュリティを強化する
MitID 認証を導入する
統合デジタル本人確認ソリューションである MitID の導入は、デンマークのオンライン取引に大きな影響を与えました。MitID 認証を決済プロセスに導入すると、顧客に強化されたセキュリティとさらなる信頼をもたらすことができます。データ保護を重視する
顧客の決済データを安全に保つことは必須であり、そうすれば事業者の金銭面や評判の損失を回避するのに役立ちます。データセキュリティプロトコルが GDPR のデータ保護規制と PCI データセキュリティ基準 (PCI DSS) に準拠していることを確認します。顧客にセキュリティ対策について周知する
デジタル決済の増加に伴い、セキュリティ侵害に対する懸念も高まる可能性があります。事業者は、セキュリティ対策について顧客に定期的に最新情報を提供することで、取引のセキュリティに対する信頼を築くことができます。
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