アメリカでは、2023 年に過去最高となる 550 万件の新規事業申請が提出されましたが、このような起業家の増加はアメリカ国民だけでなく、非居住者にとっても有益となる可能性があります。このガイドでは、アメリカの居住者でも国民でもない人がアメリカ国内で株式会社や有限責任会社 (LLC) などの正式な事業体を設立するためのプロセスを概説しています。プロセスの細部は登録先の州によって異なります。また、企業は、納税義務や適切なビジネス文書に関する規制など、連邦と州のすべての規制を遵守する必要があります。非居住者として企業を登録する場合は複雑さが増しますが、対処可能です。
以下、適切な法人形態の決定、入国やビザの要件への対応など、非居住者としてアメリカ企業を登録するための手順についてご説明します。
この記事の内容
- 適切な事業形態の選択
- 事業登録を行う州の選定
- 登録と法令遵守のプロセス
- 金融インフラの整備
- 法規制の遵守の維持
- 入国とビザに関する考慮事項
適切な事業形態の選択
企業の設立にあたっては、まず、居住者であるか否かにかかわらず、適切な事業形態を選択する必要があります。事業形態の選択は、税金、必要書類、個人の責任、資金調達能力に影響を与えます。非居住者が各種の事業形態を検討する際は、個人資産の保護、納税義務、記録管理に関する要件、法令遵守の基準の重要性を考慮する必要があります。適切な事業形態の判断に役立つ他の要素としては、資本調達の必要性の有無、事業の長期目標などが挙げられます。
アメリカの主要な法人形態の概要のほか、非居住者が考慮すべき主な事項について以下にご説明します。
LLC
LLC は個人の責任が制限される法人形態です。企業が負債や訴訟を抱えた場合でも、通常は個人資産が保護されます。LLC の場合、株式会社よりも報告義務が緩和されます。
課税: LLC は通常、税務上の「パススルー」事業体です。つまり、企業が税金を支払うことはなく、損益は所有者による個人の所得申告の対象となります。非居住者の場合、税務状況が複雑ですが、所定の書類を提出することや、LLC の税務上の扱いを変更することが必要になる場合があります。
非居住者の考慮事項: LLC の柔軟性と保護のため、非居住者からは一般に LLC が選ばれています。アメリカ国民や居住者でなくても LLC の一員になれます。
C 株式会社
C 株式会社は、所有者とは別個の法的主体であり、高度な個人責任制限が適用されます。株式の発行による資本調達が可能で、取締役会の設置と定例会議の開催が義務付けられています。
課税: C 株式会社には法人税が課されます。配当によって分配された利益は株主の側で改めて課税されるため、二重課税が生じます。ただし、非居住者の場合、配当を受けず、利益を事業に再投資するのであれば、このことは大きな問題にならない可能性があります。
非居住者の考慮事項: 非居住者も C 株式会社の所有者になれます。居住者でなくても取締役や役員を務めることが可能です。利益の再投資を予定している場合やベンチャーキャピタルを目指す場合、C 株式会社は良い選択肢となります。
S 法人
S 法人は、LLC のようなパススルー事業体で、C 株式会社と同様の構造要件が適用されます。
課税: 所得は株主による個人の所得申告の対象となります。二重課税にはなりません。
非居住者の考慮事項: 非居住者が S 法人の株主になることはできません。そのため、通常、非居住者のビジネスオーナーは S 法人を選択できません。
パートナーシップ
パートナーシップでは、複数の人物が所有権を共有します。パートナーシップには、ジェネラルパートナーシップ (GP) とリミテッドパートナーシップ (LP) の 2 種類があります。
課税: パススルー事業体であり、損益はパートナーによる個人の所得申告の対象となります。
非居住者の考慮事項: 非居住者もパートナーになれますが、税務への影響が複雑になる可能性があります (特に、パートナーが企業の負債に対して個人的に責任を負うジェネラルパートナーシップの場合)。
個人事業
個人事業は、所有者と事業者の区別がなく、1 人の人物が所有と運営を行う最もシンプルな事業形態です。
課税: 個人事業の所得の申告は、所有者が個人の所得申告で行います。
非居住者の考慮事項: 通常、非居住者がアメリカで個人事業を始めることはできません。個人事業の所有者はその事業で働く必要があり、それがビザや就労許可の規制に抵触するためです。
事業登録を行う州の選定
事業登録を行う場所の選定も重要な手順の 1 つです。法令、税金、ビジネスの要件は州によって大きく異なります。非居住者が事業登録を行う州の選定時に考慮すべき要素には以下のようなものがあります。
課税: ワイオミング州、ネバダ州、サウスダコタ州といった一部の州は、事業税が低い、州所得税がないなど、有利な税制で知られています。
法制度: 事業者にとって州の法制度がどの程度有利かを検討します。たとえば、デラウェア州は事業者に有利であり、会社法体系が確立されていることで知られます。
申請手数料: 最初の申請手数料や年次報告手数料は州によって異なります。
事業免許税: 一部の州では企業に事業免許税を課しており、企業の規模や利益によってはこれが重要な考慮事項となります。
現実の所在またはネクサス: 事業登録を行っている州にかかわらず、いずれかの州内に現実の所在がある場合、ネクサス税の支払い義務が生じる可能性があります。企業が物理的な拠点を必要とする場合または従業員をアメリカに常駐させる予定の場合は、各州での事業運営にかかる物流とコストを考慮してください。
プライバシー: 州によっては、他の州よりもビジネスオーナーのプライバシー保護が強化されています。たとえば、ワイオミング州とネバダ州では株主または取締役の情報開示が不要です。
市場へのアクセス: 特定地域の市場を標的としている場合は、アクセスやネットワーク構築がしやすいよう、その地域内や近辺での事業登録を検討します。
専門サポート: 法務や会計などのプロフェッショナルサービス、特に国際事業のオーナーに詳しいプロフェッショナルサービスを利用できるかどうかは重要な要素です。
登録先として人気の州
デラウェア州: デラウェア州は企業に有利な法令で知られており、州内外の企業から選ばれています。デラウェア州の衡平法裁判所は商事法を専門としており、企業訴訟の明瞭さと予測可能性が確保されます。
ネバダ州とワイオミング州: 有利な税制とプライバシーへの配慮により、これらの州は人気を集めています。
カリフォルニア州とニューヨーク州: これらの州は税制上最も有利というわけではありませんが、市場規模が大きく、企業ネットワークにアクセスしやすいことから、事業活動の中心地がある場合は特に有力な選択肢となります。
登録と法令遵守のプロセス
非居住者がアメリカで事業登録を行う場合、法規制を遵守するための複数の手順が伴います。そのプロセスの概要を以下にご紹介します。
登録代理人の選定
アメリカの事業者は登録代理人を任命することが義務付けられています。登録代理人は企業の代理として法的文書と政府発行文書を受領します。登録代理人になれるのは事業登録先の州を所在地とする者に限られます。
事業体の登録
事業形態に応じて、異なる事業登録関連書類を州の事業申請先に提出する必要があります。たとえば、株式会社の場合は会社定款、LLC の場合は基本定款の提出が必要です。
EIN の取得
税制上の目的、従業員の雇用、ビジネス用銀行口座の開設のため、雇用者識別番号 (EIN) が必要となります。非居住者の場合、IRS フォーム SS-4 に記入することで EIN を取得できます。このプロセスを完了するには IRS への電話連絡が必要になる場合があります。
営業免許・許可
企業の種類や所在地によっては、アメリカで正式に事業運営を行うために特定の免許・許可の取得が必要になる場合があります。
年次報告書と事業免許税
ほぼすべての州で、企業は年次報告書の提出と事業免許税の支払いが義務付けられています。具体的な要件は州や事業形態によって異なります。
連邦の納税義務
非居住者のビジネスオーナーは、アメリカ連邦の税法を遵守しなければなりません。適用される納税義務はアメリカで行う事業活動の性質によって決定されます。また、ビジネスオーナーの母国とアメリカとの租税条約の影響を受ける可能性があります。
州の納税義務
事業登録先の州によっては、事業の性質に応じて州所得税、売上税、その他の州固有の税金が課税される場合があります。事業登録を行っていない州でも、その州で大きな影響力を有している場合は、売上税の支払いが必要になる可能性があります。大きな影響力の具体的な定義は州によって異なる可能性があります。
銀行・金融取引
アメリカでビジネス用銀行口座を開設するには、現地に住所を有していることが必要になることが多いため、非居住者の場合は開設が困難な可能性があります。遠隔地からでも事業用の口座を開設できる銀行もありますが、多くの場合、追加の書類や本人確認が必要になります。外国口座税務コンプライアンス法 (FATCA) やマネーロンダリング防止法など、自社に適用される銀行・金融規制を確認してください。
金融インフラの整備
アメリカに拠点を置く事業者が金融インフラを整備するにあたっては、金融業務とアメリカ規制の遵守を円滑にするため、いくつかの重要な要素があります。
アメリカのビジネス用銀行口座の開設
ビジネス用銀行口座の開設には通常、パスポート、事業登録の証明書類 (会社定款や基本定款など)、EIN が必要で、場合によってはアメリカの住所が必要になることもあります。銀行によってはそれ以外の書類が必要になる可能性があります。銀行を選定するときは、海外クライアントとの取引実績があり、アメリカに渡航できなくてもリモートで口座設定のサポートを受けられる銀行を探します。
会計と簿記
税務コンプライアンスや財務管理にあたっては、適切な記録管理を行うことが重要です。財務管理、収支記録、納税準備のため、会計ソフトウェアを使用してください。中小企業から人気の会計ソフトウェアには、QuickBooks、Xero、FreshBooks などがあります。請求書、領収書、銀行明細書などのすべての金融取引を明確に記録してください。
納税義務
アメリカ事業者が利益を得た場合、連邦の税金を支払う必要があります。具体的な納税義務は事業形態や業務内容によって異なります。所得税、売上税、事業者の所在地や活動に応じて課税されるその他の適用税など、州や地方の税務要件を把握してください。アメリカと事業者の母国との租税条約が納税義務に影響する可能性があります。国際ビジネスに詳しい税務専門家への相談を検討してください。
決済処理サービス
決済代行業者を選定するときは、手数料、自社のウェブサイトや販売プラットフォームとの連携のしやすさ、国際取引への対応能力を考慮します。たとえば、Stripe を利用することで、事業者はオンライン取引と対面取引を処理できます。Stripe を利用することで事業者は世界中の顧客から決済を受け付けられるようになります。また、事業者が自身の加盟店アカウントを取得する必要はありません。そのため、Stripe は非居住者にとって賢明な選択となります。
財務計画と管理
企業の財務の健全性を確保するため、想定される収支をまとめた予算を作成します。財務諸表を定期的にレビューして、企業の財務状態を評価し、情報に基づいて意思決定を行います。想定外の費用やキャッシュフローの変動に対処できるよう、準備金を設けることを検討してください。
法令遵守と報告
企業の財務には、マネーロンダリング防止法や FATCA などのアメリカ法規制が適用されます。多額の金銭を国外に移動する際など、場合によっては、特定の財務活動をアメリカ当局に報告する必要があります。
法規制の遵守の維持
アメリカで活動するどの企業も、事業運営にあたって連邦、州、地方の法規制を遵守しなければなりません。たとえば、納税義務や労働法のほか、企業責任、環境保護、知的財産に関する基準を遵守する必要があります。自己監査やコンサルタントの雇用などによって事業運営を定期的にレビューし、すべての関連要件の遵守状況を確認することが望ましいです。アメリカの事業者に適用される法規制上の義務には以下のようなものがあります。
連邦の法令遵守
税務コンプライアンス: 所得税や雇用税など、連邦の納税義務に関する最新情報を常に確認してください。年次確定申告を行い、必要に応じて予定納税を行います。
証券取引委員会 (SEC) の規制遵守: 有価証券の売買や発行に関わる企業の場合、SEC の規制が適用されます。
業界固有の規制: 企業が属している業界によっては、業界固有の連邦規制を遵守する必要があります (医療業界、金融業界、食品・飲料業界に適用される規制など)。たとえば、危険物の製造や取り扱いに携わっている場合は、環境保護庁 (EPA) の基準を遵守する必要があります。
州・地方の法令遵守
年次報告書: ほとんどの州で、企業は年次報告書の提出と文書提出手数料の支払いが義務付けられています。年次報告書により、常に最新の事業情報を州が把握できるようにします。
州税: 州の所得税、売上税、給与税の要件を遵守します。この要件には、四半期または 1 年ごとの申告と納税などがあります。
免許・許可: 合法的に事業を運営するための許可を維持するため、州または地方の免許・許可を更新します。
州独自の規制: 消費者保護法、雇用法、環境規制など、事業に影響を与える可能性がある州独自の法令を把握します。
コーポレートコンプライアンス
コーポレートガバナンス: 適切なコーポレートガバナンスの取り組みを維持します。たとえば、年次総会の開催、議事録の作成、内規や運営契約の遵守などが挙げられます。
記録管理: すべての事業活動、金融取引、法令遵守の取り組み、経営陣による意思決定について詳細な記録を残します。
アメリカ労働法の遵守
雇用法: アメリカで従業員を雇用している場合、賃金、労働条件、差別待遇の禁止、福利厚生に関する連邦と州の労働法を遵守する必要があります。
従業員の入国に関する法令遵守: 外国労働者を雇用する場合、適切なビザと就労許可を取得していることを確認します。
知的財産に関する法令遵守
- IP 登録: 知的財産を保護するため、アメリカで商標、著作権、特許を登録します。保有している知的財産権の定期的なモニタリングと強化を行い、侵害を防止します。
データプライバシーとセキュリティに関する法令遵守
データ保護: 企業のビジネスモデルや所在地に応じて、カリフォルニア州消費者プライバシー法 (CCPA)、医療保険の携行性と責任に関する法律 (HIPAA) など、アメリカのデータ保護法を遵守します。
サイバーセキュリティ: 強力なサイバーセキュリティ対策を導入してビジネスデータと顧客データを保護します。
入国とビザに関する考慮事項
非居住者がアメリカに拠点を置く企業の管理職や従業員になりたい場合、アメリカ入国管理制度を通じて働く必要があります。入国やビザに関する重要な考慮事項を以下にご説明します。
ビザ申請プロセス: 申請プロセスは複雑な場合があり、ビザの種類によって異なります。通常は、請願書を提出し、アメリカ大使館または領事館で面接を受け、ビジネスや投資に関するさまざまな書類を提出する必要があります。
税金への影響: ビザ保有者はアメリカの税法の適用対象となり、アメリカでの滞在期間によっては税制上の居住者とみなされる可能性があります。法的問題を避けるため、ビザ保有者として課される納税義務を把握してください。
在留資格の維持: 許可される活動内容はビザの種類によって異なります。ビザの規約に違反した場合、在留資格の喪失や国外退去となる可能性があります。
永住権の取得: EB-5 など、ビザによっては永住権が直接取得できる方法があります。そのほか、E-2 ビザなどの場合、グリーンカードを自動的に取得できるわけではないものの、ステータスの変更や雇用主のスポンサーシップなど、他の手段を通じて永住権を取得できる可能性があります。
扶養家族: 扶養家族 (配偶者や子) を考慮してビザの種類を検討します。一部のビザは扶養家族をアメリカに同行させることができ、配偶者が就労許可を取得できる場合もあります。
ビザとグリーンカードの種類
B-1 短期商用ビザ: B-1 ビザは主に、会議やカンファレンスに参加したり、契約交渉を行ったりするためにアメリカを訪れる出張者を対象にしています。能動的な事業運営やアメリカでの就職は許可されていませんが、ビジネスに関連する短期訪問に適しています。
E-2 条約投資家ビザ: E-2 ビザを取得した個人は、多額の資本を投資したアメリカの企業で働くことができます。投資の最低額は指定されていませんが、企業の購入や設立にかかる総費用と比べてかなりの金額の投資が必要です。このビザは、アメリカが通商航海条約を締結している国の個人が取得できます。
L-1 企業内転勤者ビザ: L-1 ビザは、マネージャー、エグゼクティブ、専門知識を有する従業員がアメリカまたは外国で事業を展開している企業のアメリカ支部に転勤することを許可するものです。L-1A ビザはエグゼクティブとマネージャー向けで、L-1B ビザは専門知識を有する従業員向けです。
EB-5 投資家ビザ: EB-5 ビザ を取得した投資家は、アメリカ労働者の常勤雇用を 10 以上創出する営利事業に 180 万ドル (特定の雇用分野では 90 万ドル) 投資した場合、永住権を得ることができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。