デラウェア州がアメリカの企業にとってのタックスヘイブンとしてよく知られているのには、相応の理由があります。Fortune 500 にランクインしている企業の 68% 以上を含む、190 万社以上の事業体がデラウェア州を法律上の本拠地としています。その理由は明らかで、この小さな州が会社法分野で大きな影響力を持っているためです。デラウェア州の先進的で柔軟なビジネス法、専門性の高い衡平法裁判所、税制上の充実した優遇措置は、多くの事業者にとって魅力的な選択肢であり、多くの側面で経営を後押しする同州のビジネス環境も同様です。デラウェア州が法人をこれほど引き付けている理由と経緯を理解することで、いかなるビジネスも貴重な戦略的インサイトを得られる可能性があります。

ただし、デラウェア州での法人設立という決断は、軽々しく行うべきものではありません。法人を設立する場所によっては、会社の税金、法的権利、義務、さらには投資家へのアピールに大きく影響する可能性があります。法人設立をデラウェア州で行うかどうかを選択するにあたっては、同州で設立した場合の具体的なメリットと潜在的な課題を調査し、自社のニーズと目標に合わせて判断する必要があります。

この記事では、デラウェア州での法人設立の是非を判断する際に考慮すべき重要事項をまとめました。

この記事の内容

• 多くの企業がデラウェア州で法人を設立する理由
  
• デラウェア州で法人を設立するメリット
  
• デラウェア州での法人設立に伴う課題
  

多くの企業がデラウェア州で法人を設立する理由

デラウェア州での法人設立には、複数のメリットがあります。この記事では、多くの企業がデラウェア州での法人設立を選択する主な理由をいくつか取り上げます。

有利なビジネス法

デラウェア州の一般会社法は、アメリカにおいて最も先進的かつ柔軟性の高い会社法の 1 つです。この法律は法人のニーズに対応できるよう制定されており、その目的を果たすために継続的に更新されています。この法律が持つ重要な側面の 1 つは、経営陣と取締役の権利を尊重し、法人業務の管理においてかなり柔軟な対応を認めていることです。この点が企業にとって有益である理由は、経営陣が法人の方向性をより強力に管理できるようになり、意思決定過程がより高いレベルで保護されるためです。また、デラウェア州法は、他の州にはない方法で経営陣を多くの法的責任から保護するため、訴訟やその他の法的手続きが発生した場合に特に役立つ可能性があります。

衡平法裁判所

他の州にはないこの裁判所制度も、法人を設立する州としてデラウェア州の魅力を高める要因になっています。デラウェア州の衡平法裁判所は会社法に関する事件のみを審理するため、この裁判所の裁判官にはその分野の専門家が任命されます。他の多くの裁判所と異なり、衡平法裁判所に陪審員が参加することはなく、裁判官がすべての判断を下すため、より予測可能で一貫性の高い結果を得られる可能性があります。この裁判所のスピードと効率性は高く評価されており、法人は手間をかけず速やかに紛争を解決し、事業運営を継続することができます。また、この裁判所が築き上げてきた充実した判例法体系は、多岐にわたる問題に関して明確な指針を法人に示しています。

プライバシー

デラウェア州は、他の多くの州よりも企業のプライバシーを保護しており、事業者にとっては大きな利点になり得ます。デラウェア州では、基本定款に取締役・役員の氏名を記載する必要がありません。このことから、個人は一定の匿名性が保たれるため、個人情報が公の記録となることを心配せずに事業を運営することができます。この水準のプライバシーは、第三者が法人の内部編成や経営陣に関する情報を入手することを困難なものにする効果があるため、法的措置が取られる可能性に対する保護措置としても機能します。

税制上のメリット

デラウェア州の税法は、法人がいくつものメリットを得られるように構成されています。デラウェア州で法人を設立しても州内で事業を行わない事業者は、州法人所得税を支払う必要がありません。このため、企業、特に、高収益の企業は大幅な節約を実現できる可能性があります。ただし、企業はフランチャイズ税を支払う必要があることに留意する必要があります。

また、デラウェア州は非居住者に対して個人所得税を課していません。こうした点も、州外に居住する従業員や取締役を抱える企業にとっては魅力的なメリットです。

快適な投資環境

多くの投資家は、自身が支援するスタートアップに対してデラウェア州での法人設立を希望し、場合によっては必須条件としていることもあります。これは、デラウェア州には確立された会社法があり、事業者に配慮した環境が整備されているためです。さらに、投資家はデラウェア州の法制度に精通し、信頼を置いていることから、デラウェア州法人に投資することへの安心感が高い傾向にあります。そのため、企業はデラウェア州に法人を設立することで、投資を呼び込みやすくなります。

柔軟性

デラウェア州法は、各社に特有のメリットをもたらす事業体制を認めています。同州では、1 人の個人が法人のすべての役職を兼ねることができます。すなわち、1 人で社長、秘書役、会計役、単独取締役になることができるのです。そのため、経営体制がシンプルになり、特に中小企業の場合は高水準の柔軟性を得られます。

デラウェア州で法人を設立するメリット

デラウェア州での法人設立にはさまざまなメリットがあり、多くの企業、特に、大企業や、ベンチャーキャピタルから資金を調達したい企業にとって魅力的な選択肢です。主なメリットとしては、以下のようなものがあります。

• 洗練された柔軟な会社法
  デラウェア州の一般会社法は、アメリカにおいて最も包括的かつ柔軟性の高い会社法の 1 つです。州議会は、現代のビジネスニーズの変化を反映させるために定期的に法律を更新することで、同州が法人にとって好ましい環境を維持できるようにしています。これらの法律は、取締役と役員を強力に保護しながら、企業が適切と考える方法で柔軟に業務を管理できる枠組みを提供しています。そのため、企業は高水準のコーポレートガバナンスを維持しながら、ビジネス革新を進めることができます。

• 企業をめぐる紛争に特化した裁判所制度
  デラウェア州には、会社法に関わる紛争のみを扱う、独自の衡平法裁判所があります。この裁判所では、陪審員ではなく裁判官が裁定を下しており、裁判官は会社法の専門家です。通常、この制度は他の州よりも迅速かつ予測可能な結果をもたらすので、法人は時間と費用を節約できます。衡平法裁判所は長年にわたって相当な数の判例法体系を蓄積しており、法人に法的確実性を提供するのに役立っています。

• 企業に関するプライバシー
  デラウェア州では、会社に関するプライバシーがかなりの水準で保護されます。たとえば、事業者が年次報告書を届け出るにあたって、取締役や役員の氏名を記載する必要はありません。この制度により、他の多くの州にはない水準で匿名性が確保されます。さらに、デラウェア州法では株主の個人情報も保護されます。

• 税制上のメリット
  デラウェア州には、税制上の優遇措置がいくつかあります。たとえば、法人がデラウェア州外で事業を行う場合、デラウェア州の法人所得税を支払う必要はありません。また、非居住者には個人所得税がかからず、売上税もありません。さらに、付加価値税 (VAT)、使用税、在庫税、株式分配税、株式取引税もありません。

• 投資家からの人気
  多くの機関投資家は、デラウェア州には確立された法律と、企業をめぐる紛争に特化した裁判所制度があることから、企業がデラウェア州で法人を設立することを好み、そのことを義務付けている投資家さえいます。ベンチャーキャピタルを調達しようとしているスタートアップは、デラウェア州で法人を設立することで、投資家を引き付けやすくなります。

• 法人設立と法人登録の維持の容易さ
  デラウェア州は法人設立手続きを比較的簡単なものにしており、同州の州務長官室会社部はその効率性の高さで知られています。さらに、デラウェア州では、1 人の人物が単独取締役となり、すべての役員を兼ねることのできる一人会社が認められています。

• コーポレートガバナンス
  デラウェア州の会社法と判例法は、コーポレートガバナンスに関わる事項について包括的な指針を提供し、経営者と取締役に対して企業をめぐる幅広い問題に関して明確な情報を示しています。この広範な枠組みの下、法人は自らが負う責任と守るべき基準を明確に把握することができるのです。

• 企業弁護士の多さ
  デラウェア州は法人設立地として人気があるため、デラウェア州の会社法を専門とする弁護士が多数存在します。そのため、デラウェア州で法人を設立する企業は、経験豊富な法律顧問を簡単に見つけることができます。

デラウェア州での法人設立に伴う課題

デラウェア州での法人設立にはいくつもの大きなメリットがありますが、その一方で、事業者が潜在的な課題に直面する可能性もあります。ここでは、そうした課題をいくつか挙げます。

• 登録代理人に関する要件
  デラウェア州で法人を設立するすべての企業は、同州に住所を有する登録代理人を選定する必要があります。企業がデラウェア州内に物理的に所在していない場合は、登録代理人サービスを利用する必要があり、費用が別途発生することになります。

• 二重の法令遵守
  デラウェア州で法人を設立して他の州で事業を行う場合、両州の法令を遵守しなければならない可能性があります。その法人は、実際に所在する州で活動している「外国」事業体とみなされる可能性があり、外国事業体としての資格または登録が義務付けられることもあります。その場合、通常、追加の費用と書類作成が必要となります。

• フランチャイズ税
  デラウェア州のすべての法人は、州内で事業を行っていなくても、フランチャイズ税が毎年課せられます。その金額は法人の種類や規模によって異なります。事業者によっては、フランチャイズ税に関連するコストが他の州よりも高いと感じるかもしれません。

• リーガルコストの増加
  デラウェア州の会社法が複雑であることは、多くの点でメリットとなる一方、リーガルコストの増加につながる可能性もあります。たとえば、紛争が生じた場合、デラウェア州の裁判所で解決することになるため、デラウェア州法に精通した弁護士を雇うことが必要となるかもしれません。

• 年次報告書
  デラウェア州では、法人に年次報告書の提出を義務付けています。この報告書の提出と関連手数料の支払いは、毎年 3 月 1 日までに行う必要があります。この手続きは、デラウェア州に所在しない事業者にとっては特に、複雑で時間がかかるものになる可能性があります。

• 中小企業の場合はメリットが限定的
  デラウェア州のビジネス法は大企業にとってメリットがあることで知られていますが、一方、中小企業は同じメリットを得られない可能性があります。たとえば、中小企業は、複雑な法的紛争に巻き込まれる可能性が低い場合、デラウェア州の衡平法裁判所の洗練された判例法の恩恵を受ける可能性は低くなります。また、中小事業者がベンチャーキャピタルの呼び込みや株式公開を予定していない場合、投資家に配慮したデラウェア州の法律の恩恵を受けられない可能性があります。

デラウェア州での登記を選択する前に、自社に固有のニーズを検討し、メリットと、ハードルとなる可能性のある事項とのバランスを取ることが重要です。デラウェア州での法人設立が自社の最善の利益にかなったものになるよう、法務専門家に相談することをご検討ください。