売上維持率と総収入維持率: ビジネスにとってのそれぞれの意味

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  1. はじめに
  2. 売上維持率とは
  3. 売上維持率の計算方法
  4. 総収入維持率とは
  5. 総収入維持率の計算方法
  6. 売上維持率と総収入維持率
    1. 技術的な相違点
    2. 類似点
    3. 影響と意味
  7. 良好な売上維持率と総収入維持率のベンチマークの目安
    1. 売上維持率 (NRR) ベンチマーク
    2. 総収入維持率 (GRR) ベンチマーク
  8. 売上維持率と総収入維持率の改善方法

ビジネス、特にサブスクリプションモデルを導入しているビジネスの健全性を評価するにあたり、既存顧客との関係を適切に維持できているかを示すバロメーターとして機能する 2 つの指標があります。それらは売上維持率 (NRR)と総収入維持率(GRR)で、それぞれがもたらすインサイトは異なるものの、これらの指標はともに重要な情報を提供します。

ここでは、売上維持率と総収入維持率の概要とそれらの違い、また収益の全体的な健全性に関するインサイトを得るための両維持率の活用法といった、これらの指標についてビジネスが知っておくべきことを説明します。

本記事の内容

  • 売上維持率とは
  • 売上維持率の計算方法
  • 総収入維持率とは
  • 総収入維持率の計算方法
  • 売上維持率と総収入維持率
  • 良好な売上維持率と総収入維持率のベンチマークの目安
  • 売上維持率と総収入維持率の改善方法

売上維持率とは

売上維持率は、既存顧客からの売上を一定期間にわたって維持し拡大するビジネスの能力を反映する指標です。この指標により、ビジネスの全体的な健全性と持続可能性に関するインサイトを得ることができます。

売上維持率の計算方法

売上維持率では、解約した顧客による売上損失と、アップセル、クロスセルまたは拡張を通じた既存顧客からの売上増加の両方が考慮されます。その計算方法は次のとおりです。

売上維持率を計算するには、ある期間の終了時点の経常収益にアップセル、クロスセルまたは拡張による売上を加算してから、解約した顧客により生じた売上損失を除算します。次に、その結果を当該期間の開始時点の経常収益で除算します。最後に、それに 100 を乗算してパーセンテージを導き出します。計算式は次のとおりです。

NRR % = ((期間終了時点の経常収益 + 期間中のアップセルまたは拡張による売上 - 期間中の解約によって損失した売上) ÷ 期間開始時の経常収益) × 100

例えば、月初の経常収益を 100,000 ドルとします。月末には、一部の顧客のダウングレードまたは解約により経常収益が 97,000 ドルになり、既存顧客からの売上が 2,000 ドル、解約した顧客により損失した売上が 3,000 ドルでした。

この場合、売上維持率は次のように計算します。

NRR % = (($97,000 + $2,000 - $3,000) ÷ $100,000) × 100 = 96%

これは、売上の損失と既存顧客から売上の増加の両方を主な要因として、売上の 96% が維持されたことを意味します。

総収入維持率とは

総収入維持率とは、ある特定の期間において既存顧客から獲得した経常収益をパーセンテージとして数値化する指標で、アップセル、クロスセルまたは拡張による売上は考慮されません。この指標は、サブスクリプションをダウングレードまたはキャンセルした既存顧客による潜在的な売上損失 (「解約」) のみに注目します。

総収入維持率の計算方法

総収入維持率を計算するには、ある期間の終了時点の経常収益からアップセル、クロスセルまたは拡張による売上を減算してから、その期間の開始時点の経常収益で除算します。最後に、それに 100 を乗算してパーセンテージを導き出します。計算式は次のとおりです。

GRR % = ((期間終了時点の経常収益 - 期間中のアップセルまたは拡張による売上) ÷ 期間開始時点の経常収益) × 100

例えば、月初の経常収益が 100,000 ドルとします。その月末における経常収益は 97,000 ドルでしたが、その月にはアップセルの売上 2,000 ドルもありました。この例では、既存顧客からの経常収益の 95% が維持されたことになります。この指標ではアップセルと拡張の影響は考慮されません。

売上維持率と総収入維持率

NRR と GRR はともに、既存顧客からの収入源の健全性と持続可能性に関するインサイトを得ることができるため、ビジネス、特にサブスクリプションベースのモデルを導入しているビジネスにとって重要な指標です。これらの指標の技術的な相違点、類似点および影響、そしてそれらが意味するものについて、以下に概要を示します。

技術的な相違点

  • 売上維持率 (NRR): この指標では、所定の期間における経常収益に対するマイナスの影響 (解約による売上損失) とプラスの影響 (アップセル、クロスセルまたは拡張による売上) の両方が考慮されます。

  • 総収入維持率 (GRR): この指標は、マイナスの影響、具体的にはダウングレードまたは顧客の解約による売上損失にのみ注目します。アップセルまたは拡張による売上は一切考慮されません。

類似点

  • 既存顧客に注目: これらの指標は、新規顧客獲得ではなく、主に既存顧客ベースを中心としています。

  • 経常収益: これらの指標では、計算における基本要素として経常収益が使用されるため、現在のビジネス運営の持続性が反映されます。

影響と意味

企業の健全性と安定性

  • NRR: 高い NRR は、企業が顧客を維持しているだけでなく、既存顧客におけるサービスのアップセルや拡張に成功していることを示しています。100% を超える NRR は、アップセルまたは拡張による増加が売上損失を超えており、強固な地位を確立していることを示唆しています。
  • GRR: 高い GRR は、企業が既存の収入源を効果的に維持していることを表しています。GRR の低下は、顧客満足度、サービス品質または市場ポジショニングにおける潜在的な問題の初期警告として捉えることができます。

成長の可能性

  • NRR: NRR では成長の可能性をより総合的に把握できます。高い NRR は企業が新規顧客獲得に過度に依存することなく売上を拡大できることを示唆しています。
  • GRR: GRR では、アップセルと拡張が考慮されないため、既存の売上ベースを維持する能力が反映されます。

戦略上の意味

  • NRR: 低い NRR はアップセルやクロスセルの戦略の再評価が必要な可能性があることを示唆しています。逆に、高い NRR は顧客アカウントの拡大と拡張の戦略が効果的であることを示しています。
  • GRR: GRR の低下は、中核的な提供物やカスタマーサポート、全体的な顧客体験を再評価することを促している可能性があります。

概して、GRR には中核的な売上を維持する能力が反映されます。つまり、現在すでに獲得している売上をどの程度維持できているかという、企業の防御力を測定するものと捉えることができます。高い GRR は、顧客による解約やダウングレードを要因とする売上損失が最小限に抑えられていることを示します。GRR は既存関係の安定性を示す基本的な指標であり、これにより顧客満足度の基本レベルを把握できます。

これとは逆に、NRR ではより幅広い視野を得ることができます。GRR に組み込まれる売上の損失だけでなく売上の増加も考慮されます。この指標には、売上を維持する企業の防御力と、アップセルと拡張を通じた既存の顧客ベースからの売上の拡大を図る攻撃戦略の両方が反映されます。高い NRR は、顧客ベースを単に維持しているだけでなく、企業の価値が拡張していることも示唆しています。

これら 2 つの指標により、企業は顧客の健全性の全体像を把握できます。GRR は基盤の強固さに関するシグナル、そして NRR は新規顧客獲得を必要とせずに実現できる成長の可能性に関するインサイトを提供します。これらの指標を併用することで、企業の提供物の価値を既存顧客がどう受け止めているかを知ることができます。顧客は価値を見出しているサービスの利用を継続します。また、そのようなサービスにはより多く消費する傾向があります。

良好な売上維持率と総収入維持率のベンチマークの目安

SaaS Capital の 2023 年の報告によると、SaaS (サービスとしてのソフトウェア) 企業全体の売上維持率の中央値は 102% で、総収入維持率の中央値は 91% です。では、どのような NRR と GRR が「良好」と見なされるのでしょうか。

売上維持率 (NRR) ベンチマーク

  • 100% 未満: 解約とダウングレードがアップセルまたは拡張による追加の売上を上回っていることを示しています。これは、既存顧客ベースにおいて、生み出された売上よりも喪失した売上の方が多いことを警告しています。

  • 100%: これは、売上の損失が拡張、アップセルまたはクロスセルによる売上の増加によって埋め合わせられていることを意味します。基本的に、顧客ベースからの売上の可能性は安定しています。

  • 100% より大きい: これは、サブスクリプションベースの多くの企業にとって理想的な維持率です。企業が既存顧客ベースからの売上を拡大していることを示しており、アップセルと拡張が売上損失を上回っていることを意味します。

  • 良好なベンチマークの典型例: 成功を収めている多くの SaaS 企業は 110% 以上の NRR を目指しています。

総収入維持率 (GRR) ベンチマーク

  • 70%〜85%: 特に GRR が継続的に低下傾向にある場合、この範囲の GRR は懸念を生じさせます。経常収益の大幅な損失が生じていることを示唆しています。

  • 85%〜95%: 多くの SaaS 企業にとって妥当な範囲ですが、その上限に近いほどより良好な GRR であるといえます。

  • 95% 以上: 解約やダウングレードを最小限に抑えつつ、既存の収入源を効果的に維持していることを示す極めて良好な範囲です。

  • 良好なベンチマークの典型例: ほとんどの SaaS 企業にとって、90% 以上の GRR は健全と見なされます。

これらのベンチマークは業界、市場の動的要因、製品の性質およびその他の要因に応じて変動しますが、NRR と GRR の両方で継続的に高い維持率を達成している場合、それは企業が顧客満足度および市場に対する製品の適合性に関して強固な地位にあることを示しています。

売上維持率と総収入維持率の改善方法

ビジネス、特にサブスクリプションモデルを導入しているビジネスは、維持率に関する指標を通じて顧客との関係の健全性を確認することができます。NRR と GRR は、企業が収入源をどの程度効果的に維持し拡大しているかを測定するための重要な指標です。以下に、これらの指標を改善するための具体的な戦略をいくつかご紹介します。

  • 専門カスタマーサポートチーム
    カスタマーニーズを理解する、事後対応型ではなく、事前対応型のチームを編成します。サブスクリプションモデルの場合、技術的な問題への対応だけでなく、顧客の活動やサブスクリプションの段階に基づきカスタマーニーズを特定および予測できるようにカスタマーサポートを訓練する必要があります。製品に対する顧客の信頼を高めるために、これらのチームは、アカウントの最適化やプランのカスタマイズ、使用状況に応じた推奨などパーソナライズされた即時解決を提供できる権限と能力を備えている必要があります。

  • 顧客エンゲージメントの詳細分析
    サブスクリプションベースのビジネスは、顧客の使用パターンを監視し分析するためのシステムを構築する必要があります。こうしたデータにより、顧客が最も高い価値を置いているものや、成長の可能性がある領域を特定できるようになります。また、新機能の開発や改善への取り組みの指針にもなります。自社の製品が備える最大限の可能性について知ってもらうためのターゲット設定されたやり取りが可能になるため、エンゲージメントの向上と解約の可能性の低減にもつながります。

  • 解約の事前防止
    キャンセルのリスクがある顧客を特定し、キャンセルの決定前に未然にキャンセルを回避するための詳細な事前分析を実施します。行動パターンと使用状況データを分析することにより、チームはパーソナライズされたインセンティブやアシスタンス、製品強化をもって介入することができます。こうした介入には、顧客とのリエンゲージメントを促進し、具体的な使用状況に対応する教育コンテンツ、顧客へのアドバイス、ターゲットオファーで顧客にリーチすることが含まれることがあります。

  • 動的なアカウント管理
    自社の収益とって重要なクライアントには、パーソナライズされたサポートを提供できるアカウントマネージャーを割り当てます。アカウントマネージャーは、クライアントの定期的な状況確認とそのビジネスニーズの把握、製品が期待された結果をもたらしていることの確認を行う責任を担います。またアカウントマネージャーは、新機能の使い方や顧客体験を向上させ、他のプロバイダーへの移行を防ぐことができる新機能や最適化のガイダンスを顧客に提供することもできます。

  • 柔軟なサブスクリプションモデル
    顧客ベースの多様なニーズに対応する幅広いサブスクリプションオプションを作成します。こうした柔軟性は、それが欠けていた場合に、自身のニーズと企業のサービスレベルの乖離により、キャンセルする可能性がある顧客を引き止めるのに役立ちます。サブスクリプションで提供されるすべてのサービスは必要ないものの、より規模の小さいものだけでメリットを見いだせる可能性のある顧客のためにダウングレードオプションを実装することを検討し、こうした顧客が完全に解約してしまうことを防ぐようにします。

  • 紹介プログラムとコミュニティの構築
    具体的な特典を提供する紹介プログラムを実施して、既存のサブスクリプション登録者による新たなビジネスチャンスの創出を促進します。既存顧客の体験の向上に加え、コミュニティとしての顧客同士のつながりを育むことで、ネットワーク効果を生み出すことができます。こうした成果は、アドバイスやストーリー、ベストプラクティスといった情報を顧客同士が交換できるグループやフォーラム、ウェビナーを通じて達成できます。これらの情報は、中核的な製品の枠を超えた価値を生み出します。

  • 継続的な製品の改善
    継続的な製品開発に資金を投資します。顧客のフィードバックや市場動向に基づいて定期的なアップデートを実施することにより、製品と顧客との関連性を維持できます。顧客に気付いてもらえるような意欲的なロードマップは、次の大きな機能に期待を寄せて留まってもらえるか、競合他社に乗り換えられるかの分かれ道となる場合があります。

  • 透明性と柔軟性のある契約
    サブスクリプションビジネスは、自社のサービスの利用規約を明瞭に要約した、透明性の高い契約を用意する必要があります。サブスクリプションのキャンセルや一時停止を簡単に行えるような柔軟性のある規約を提供することで、長期的なコミットメントに伴うためらいを和らげ、顧客維持を向上できます。

  • カスタマーサクセスのベンチマーク
    顧客維持とカスタマーサクセスの目標をデータに基づいて明確に設定します。こうした目標は、履歴データや業界標準、自社の希望や期待に基づいたものである必要があります。これらの指標を注意深く追跡して、顧客ベースの健全性を把握し、業績確認および戦略会議の中心的な議題として取り上げるようにします。

  • 継続的な顧客フィードバックループ
    顧客フィードバックを収集して分析するための構造化システムを確立します。定期的なアンケート、製品内のフィードバックフォーム、開かれたコミュニケーションチャネルにより、顧客満足度と、改善余地のある領域に関するインサイトを得ることができます。こうしたフィードバックに対して目に見える行動をすばやく起こすと、顧客は自分の意見が製品に対して直接的な影響を与えていると感じることができます。

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