リトアニアは人口 300 万人に満たない小さな国ですが、経済規模は他のバルト諸国であるエストニアとラトビアよりも大きく、EU 加盟国であることによる経済的および財政的なメリットのおかげで、世界的にも経済的に良好な状況にあります。

同国はロシアに近接しており、貿易関係もあるため、地政学的な状況はリトアニア経済に潜在的な課題をもたらしています。しかし、そのいずれも健全で多様性を保ってきた同国の決済セクターには影響していません。リトアニア市場への進出にあたっては、規制環境と顧客の希望に注目して決済戦略を立てる必要があります。企業は、以下のような方法で成功に備えることができます。

• 現地の慣習への対応
  
• セキュリティとプライバシーを優先
  
• 適応性の高い顧客体験の構築
  

市場の状況

リトアニアは EU およびユーロ圏に加盟しているため、通貨はユーロです。同国の中央銀行であるリトアニア銀行は、同国の決済環境を監督する重要な役割を果たしており、国内の規制に加えて、欧州中央銀行 (ECB) もリトアニアで影響力を持っています。

セキュリティと相互接続は、リトアニアの決済システムの基盤です。これらのシステムは、EU の改正決済サービス指令 (PSD2) に準拠し、強力な顧客認証 (SCA) を実装し、単一ユーロ決済圏 (SEPA) に参加しています。

政府サポートにより、リトアニアはビジネスとフィンテックの向上を特に歓迎しており、多くの国際的な大企業が国内に拠点を置いています。

決済手段

リトアニアは急速に発展・革新を遂げており、より技術的に進んだな決済オプションを採用しています。しかし、リトアニアは歴史的な背景から、依然として現金に依存しています。ここでは、最も一般的な決済手段をご紹介します。

使用状況

リトアニア人は今でも現金を幅広く使用しており、2022 年の POS 取引の 62% が現金で行われたことが ECB のデータで示されています。しかし、政府の規制は決済の進化の一因となっています。規制の取り組みは電子取引を促進する傾向にあります。たとえば、取引の透明性の向上と金融不正利用の防止を目的としたカード決済に、税務当局は優遇措置を設けています。また、リトアニア政府はマネーロンダリングのリスクを軽減するために、特定の取引の現金使用に制限を設けています。2022 年以降、5,000 ユーロを超える現金決済は制限され、高額現金決済の受取人は 10 日以内に税務当局に報告することが義務付けられています。

同年、ECB によると、リトアニアではクレジットカードとデビットカードが POS 取引の 32% を占め、クレジットカード決済の 53% 以上が非接触型でした。これは、COVID-19 のパンデミック中にポリシーが変更され、個人識別番号 (PIN) の入力がない非接触型取引の上限が 25 ユーロから 50 ユーロに引き上げられたことも一因と考えられます。

デジタルウォレットとモバイル決済も台頭しており、リトアニアの顧客の 36% が非接触型 POS 取引にモバイル決済アプリを使用しています。こうした変化は、現金から非接触型決済や QR コードなどの方法への徐々に移行が進んでいることを反映しています。

リトアニア銀行のデータによると、決済アカウントを持つ人の 69% が、2022 年に決済サービスプロバイダーが開発したモバイルアプリを使用し、2021 年の 56% から増加しました。そのうち、66% が決済送金に使用し、36% が携帯電話での POS 決済に使用し、6% がスマートウォッチやその他のウェアラブルデバイスで使用しています。

リトアニアで人気の B2C 決済手段

• 現金
  
• クレジットカードおよびデビットカード
  
• ピアツーピア (P2P) アプリ (Wise、Revolut、TransferGo、Paysera など)
  
• 直接銀行振込
  
• デジタルウォレット
  

リトアニアで人気の B2B 決済手段

• デビットカードとクレジットカード
  
• 直接銀行振込
  
• 5,000 ユーロ未満の現金
  

トレンド

Revolut をはじめ、リトアニアでは複数のフィンテック企業が事業を展開しています。このデジタルバンキングビジネスは、多通貨口座、デジタルウォレット、仮想通貨取引を世界中で 3,000 万人以上の顧客に提供しています。TransferGo や Paysera などのフィンテック企業は、クロスボーダー決済ソリューションの大手プロバイダーとしての地位を確立しています。

デジタルウォレット (Apple Pay、Google Pay、MoQ などのローカルソリューションなど) の人気が高まっており、リトアニアにおける非接触型およびモバイル決済の台頭を示しています。

参入のしやすさと障壁

リトアニア政府は、ここ数十年でビジネスフレンドリーな経済の発展を目指してきました。ただし、リトアニアで事業を行う企業は、決済市場についていくつかの要因を考慮する必要があります。

税制

リトアニアの付加価値税 (VAT) 率は、ほとんどの商品とサービスで 21% です。ただし、書籍や医薬品など、特定のカテゴリーには 5% または 9% の軽減 VAT 税率が適用されます。企業は顧客から VAT を徴収し、政府に納税する責任があります。納付に遅れたり誤ったりすると罰金が科せられる可能性があるため、VAT の法令遵守を適切に行うことが重要です。

チャージバックと不審請求の申し立て

欧州消費者センターの情報によると、リトアニアでは他の多くのヨーロッパ諸国と同様に、銀行がさまざまなクレジットカード運用契約に自発的なチャージバック手順を定めています。たとえば、Visa と Mastercard の契約では、未配送や不適合によるチャージバックが認められています。しかし、金融機関はこれらの手順をあまり公表していません。顧客がチャージバックを申請できる期間は契約によって異なりますが、通常は 120 ～ 180 日です。金融代行業者が顧客のチャージバックリクエストを企業に通知すると、企業は 14 日以内に対応する必要があります。通知しなかった場合は、自動的に返金することになります。

また、リトアニアはチャージバックに関する特定の規定がある SEPA 規制も導入しています。この規定により、顧客は 8 週間以内に口座振替取引を返金する権利をリクエストできます。

国際決済

リトアニア経済は、EU に加盟しているため、多くの国際決済を処理しています。ここでは、その仕組みをご紹介します。

• 通貨換算: リトアニアの通貨換算は、EU の規制、特に PSD2 に従います。この指令では、金融機関と決済代行業者に通貨換算のすべてのコストの開示を求めることで、換算レートと手数料の透明性を確保しています。このコストには、サービス手数料と銀行間レートに対する為替レートのマークアップが含まれる場合があります。開示は、ウェブサイトと実際の取引時点で義務付けられています。
  Paysera、Revolut、Wise など、顧客にとってなじみのある複数の企業が個人の通貨換算に対応しています。

• SEPA 送金: EU の一部として、リトアニアは SEPA の一部です。これにより、ユーロ建ての銀行振込が簡素化され、ユーロ圏内での国境を越えた取引が容易になります。

• 国際貿易関係: リトアニアは、EU の規制により、他の EU 加盟国と決済面で強い関係を築いています。このパートナーシップにより、クロスボーダー決済が容易になり、経済統合が促進されます。リトアニアは、北欧地域の近隣諸国であるラトビア、エストニア、スウェーデン、デンマーク、フィンランドと特に強い関係を築いています。

ロシアは歴史的にリトアニアの貿易相手国の上位 5 カ国に名を連ねてきました。しかし、2022 年初頭のウクライナへの侵攻以降、世界各国がロシアに制裁を科し、リトアニア (およびその他の EU 加盟国) との関係は大幅に弱まっています。

セキュリティとプライバシー

リトアニアは EU に加盟しているため、EU の厳格なセキュリティおよびプライバシー規則を遵守する必要があります。これらの規則により、ビジネスの要件が増加する可能性がありますが、顧客にとって大きなメリットとなります。

• データ保護法: リトアニアは、EU の他の地域と同様に、顧客データ保護の厳格な基準を定める一般データ保護規則 (GDPR) を遵守しています。GDPR は、データ収集への明示的な同意を義務付け、顧客に「忘れられる権利」を与え、リクエストに応じてデータを消去できることを保証しています。

• PSD2: PSD2 では、決済代行業者は SCA を実装することが義務付けられています。ほとんどの取引では、セキュリティを強化するために二要素認証が使用されています。

• 州のデータ保護検査機関: リトアニアのデータ保護当局は、GDPR の法令遵守を監視し、法令遵守を促進する責任を負います。この当局は、顧客データを適切に保護していない事業体に対して罰金を科すことができ、データ保護の厳格な規格の作成を目指しています。

• マネーロンダリング防止法: リトアニアは、マネーロンダリング防止およびテロ資金供与対策 (CTF) に関する EU 指令に従います。金融機関は、疑わしい金融活動を監視および報告するための包括的なシステムを実装する必要があります。違反すると、国の金融セキュリティへの取り組みを反映して、厳しい罰則が科せられる可能性があります。金融犯罪捜査サービスはマネーロンダリング防止の取り組みを専門とし、リトアニアのセキュリティをさらに強化します。このサービスは、疑わしい金融活動について徹底的な審査と調査を行い、不正行為に対する保護として機能します。

成功のカギ

リトアニアの決済セクターは、ビジネスを成功に導くための準備を整えています。しかし、他の複雑なシステムと同様に、課題も伴います。リトアニアでの決済戦略の検討の際には、以下の要素を考慮してください。

• テクノロジーの採用ペース: リトアニアでは、特にモバイル決済などの新しい決済テクノロジーの採用が遅れています。2022 年には、リトアニアの顧客の約 36% のみが POS 取引にモバイル決済オプションを使用していました。このペースの遅さは、さまざまな消費者の好みに応えるために複数の決済システムをサポートする必要があるため、企業にとって課題となっています。また、システムの複雑さが増し、ユーザー体験設計が複雑になる可能性もあります。

• 国際的なケイパビリティ: リトアニアは SEPA に属しており、ユーロ圏全体の取引がシンプルになっていますが、SEPA 以外の国際取引には課題があります。さまざまな規制、異なる取引手数料、為替レートの変動が、国際取引の複雑さとコストの一因となっています。リトアニアの輸出額は 2022 年に 460 億ドルを超えており、年間クロスボーダー取引の成長を示しています。

• データ管理の規制遵守: GDPR により、リトアニアで事業を行う企業に対する法令遵守要求が高まっています。不遵守には、最大で 2,000 万ユーロまたは全世界の年間売上高の 4% の罰金が科せられる可能性があります。この規制環境により、データガバナンスシステム、特に機密性とデータ交換の頻度が重要な懸念事項である決済システムに多額の投資が必要になりました。

• 地政学的な懸念: リトアニアは歴史的にロシアとの貿易関係を維持してきましたが、ロシアによるウクライナ侵略の影響を大きく受けています。リトアニアは、ロシアの飛び地であるカリーニングラードと国境を接しています。また、同国はロシアの強力な同盟国であるベラルーシと国境を接しています。こうした地理的な現実は陸上輸送と貿易が複雑であり、制裁の抜け穴となる可能性があります。リトアニアで事業を行う企業の大多数は、こうした現実の影響を受けることはないとみられるものの、同国の経済状況の全体像を理解する必要があります。

重要なポイント

リトアニア市場への参入を希望する企業は、現地の好みを理解し、セキュリティ対策の法令遵守を優先し、顧客体験に重点を置く必要があります。ここでは、ビジネス戦略の作成と実行に役立つ概要をご紹介します。

各地域の慣習に適応する

• 複数の決済手段をサポート: Visa や Mastercard などの国際カードネットワークは広く使用されていますが、Paysera などの現地の決済方法も提供して、より幅広い顧客ベースに対応すると便利です。現金を受け付けられるようにします。顧客ベースのかなりの部分が現金に依存しています。複数の決済方法を受け付けることは、顧客の決済手段の選択を尊重していることを示し、信頼を高め、取引を完了させます。

• 多言語での決済インターフェイスの提供: リトアニアの住民は多様性に富んでおり、リトアニア語、ロシア語、ポーランド語など、さまざまな言語を話します。より親しみやすいユーザー体験を実現するには、複数の言語で決済インターフェイスを提供します。ローカリゼーションは、単なる翻訳にとどまらず、さまざまな言語背景を持つ顧客にとって、決済プロセスを簡単で親しみやすいものにすることになります。

• 口座振替に SEPA を使用する: リトアニアでは、特にサブスクリプションや公共料金などの継続課金に SEPA が効果的です。SEPA 準拠のペイメントゲートウェイを採用すれば、継続課金を簡素化できます。これにより、取引が簡素化され、現地の口座引き落としの好みに合致します。

セキュリティとプライバシーを優先する

• データプライバシー法令遵守を優先する: リトアニアは EU 加盟国として、GDPR を含む厳格なデータプライバシー規制を遵守しています。企業は、決済プロセスが GDPR に準拠していることを確認する必要があります。個人情報や決済情報を慎重かつ透明性をもって取り扱うことで、データ保護の必要性をますます意識するリトアニアの顧客との信頼関係が構築されます。

• オンラインショッピングデータの保護: リトアニアの EC 市場の収入は 2024 年に約 11 億 3,000 万ドルに上ると推定されており、それに伴ってオンラインクレジットカード決済が急増しています。オンラインプレゼンスを利用する際に顧客に安心感を与えるには、安全で便利なオンライン決済機能を提供するようにしてください。

• セキュリティへの投資: リトアニアはデータセキュリティを高く評価しています。二要素認証や暗号化などの高度なセキュリティ対策への投資を通じて、顧客の信頼と安心感を高める必要があります。

適応性の高い顧客体験を構築する

• 多通貨オプションの導入: リトアニアは観光地として成長しているため、多通貨での決済オプションを提供することで、事業者にメリットをもたらすことができます。顧客が希望する通貨で支払うことができるようにすることで、特に国外の旅行者やリトアニアに居住する外国人にとって利便性と満足度が向上します。

• モバイル決済の好みに適応する: モバイル決済はリトアニアでは他の EU 諸国ほど普及していませんが、増加しています。企業は、他の決済手段の提供の柔軟性を維持しながら、それらを受け入れる準備をする必要があります。

• リアルタイムの顧客サポートの提供: 簡単に利用できる顧客サポートにより、決済関連の問題に迅速に対処できるため、決済体験がスムーズになります。ライブチャットや、電話での即時サポート体制を整えれば、顧客が肯定的な決済体験を得られるようになります。