国連の推計によると、世界の国内総生産 (GDP) の 2%〜5% に当たる 8000 億ドルから 2 兆ドルの規模の資金が毎年洗浄されています。米国愛国者法セクション 314(b) は、企業が合法的に情報を共有し、不審な活動を検出するために協力する方法を示すことで、この種の犯罪の防止に貢献しています。
この条項は強力な対抗手段ですが、受け入れる企業はルールに従い、戦略的に行使する必要があります。このガイドでは、セクション 314(b) の対象、参加できるビジネスの種類、同条項を最大限に行使する方法について解説します。
本記事の内容
- セクション 314(b) の概要と重用視されている理由
- マネーロンダリング防止 (AML) の取り組みにおけるセクション 314(b) の貢献
- 企業がセクション 314 (b) に参加する要件
- セクション 314(b) の恩恵を受ける業種
- セクション 314(b) のベストプラクティスの導入方法
セクション 314(b) の概要と重用視されている理由
米国愛国者法のセクション 314(b) は、金融機関がマネーロンダリングやテロ資金供与を阻止するために相互に情報を共有できるようにする規則です。通常、厳格なプライバシー法により、銀行、信用組合、フィンテック企業は顧客情報を互いに共有できませんが、セクション 314(b) を挟むことで、金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN) のガイドラインに従う限り、合法的に情報を交換できるセーフゾーンが形成されます。セクション 314(b) に参加する企業は、FinCEN に加盟し、情報を安全に共有するための適正な内部ポリシーを策定する必要があります。
この条項は、企業が金融犯罪を迅速に発見するためのものです。犯罪者が 1 つの銀行だけを利用することはめったにありません。彼らは調査をかいくぐるため、複数の口座や機関間で資金を移動させています。セクション 314(b) により、金融機関は手形を比較し、問題が悪化する前に疑わしい行動にフラグを立てることができます。金融機関は、法執行機関や規制当局が調査を完了する前に、協力してパターンを特定し、迅速に行動できるようになります。
この条項への参加は任意ですが、不正防止手段として機能することは確かです。また、監査や規制当局による審査の際に、企業が AML に真摯に向き合っていることを示す意味でも役立ちます。たとえば、金融機関が特定の警告サインを見逃した理由を規制当局が疑問視した場合に、金融機関は 314(b) への参加を根拠として、調査のために合理的な措置を講じていた事実を示すことができます。
マネーロンダリング防止 (AML) の取り組みにおけるセクション 314(b) の貢献
マネーロンダリングは通常、取引を複数の金融機関に分散させ、口座、シェルカンパニー、暗号通貨を組み合わせて利用し、不正行為の追跡を困難にさせています。大規模なマネーロンダリングでは通常、相互に連携する口座や企業のネットワークに依存しており、合法的な取引を行っているフロントビジネスを巻き込むことさえあります。金融機関がこれらの資金の移動経路を 1 つしか確認できない場合、不正行為を発見できる可能性は低くなります。
セクション 314(b) は、銀行、信用組合、フィンテック企業、その他の金融機関が情報を共有し、これらの資金がどのように移動したかを追跡する権限を与えます。これにより、犯罪者の検出がはるかに容易になります。たとえば、ある金融機関が特定の企業に異常な取引パターンがあることに気付き、別の金融機関は、その企業が既知の犯罪者とつながりがあることを示す記録を保持しているような場合、互いの情報を共有することができます。セクション 314(b) がなければ、これらの機関は犯罪のつながりを見出せなかったかもしれません。しかし、情報を共有できることで、他の方法では見過ごされてしまうような関連性も検出できるようになります。
セクション 314(b) は、金融機関が不正を検出できるだけでなく、より迅速に対処することを可能にします。通常、金融機関がマネーロンダリングを疑う場合、規制当局に疑わしい取引報告 (SAR) を提出する必要がありますが、SAR は政府と関連する法執行機関のみ受け取るため、金融機関は法執行機関の介入を待つ必要があります。しかし、この条項があることで企業は、法執行機関の措置を待ちながら不正行為がエスカレートしていくさまを見過ごすのでなく、事前にネットワークで警告しあえるようになります。
マネーロンダリングは、詐欺から麻薬密売、テロまで、あらゆる違法行為を助長します。セクション 314(b) は、金融機関が協力するための合法的な方法を示すことで、金融システムのレジリエンス強化に貢献しています。
企業がセクション 314 (b) に参加する要件
セクション 314(b) への参加は任意です。この条項の下、情報を共有することを選択した企業は、法令順守を徹底し、法的保護を維持するために特定のルールに従うことを求められます。その要件は以下のとおりです。
法律上の「金融機関」であること
特定の業種に属している企業のみ参加できます。FinCEN が定める適格な機関には、次の組織が該当します。
銀行および信用組合
資金移動業者 (例: 送金代行、外貨両替所、暗号資産取引所)
カジノおよび会員制クラブ
証券ブローカー / ディーラー
投資信託
保険会社
クレジットカードシステム運営者
ローン会社および金融会社
FinCEN 規制に基づく AML 要件の対象となっている企業は、適格な機関とみなされている可能性があります。
FinCEN に加盟していること
情報を共有する前に、各企業は FinCEN のウェブサイトで登録フォームを提出する必要があります。この登録を通じて、セクション 314(b) に加盟し、法律に準拠して情報を共有することを FinCEN に正式に通知します。
登録は毎年更新しなければなりません。
AML およびテロ対策の目的でのみ情報を共有すること
金融機関は、マネーロンダリングやテロ活動に関する情報を共有するためにのみ、この条項を行使することができます。セクション 314(b) をこれらの目的以外の目的 (一般的な不正検出 や信用リスク分析など) に行使することは許可されておらず、もし行使した場合は、法的な問題を引き起こす可能性があります。
他の機関の登録状況を確認すること
他の機関と情報を交換する前に、まずその機関が登録済みの加盟機関であることを確認しなければなりません。これを行うには、FinCEN の安全な情報共有システムを利用するか、すべての加盟機関が掲載されたリストをダウンロードする必要があります。
共有情報を保護すること
セクション 314(b) に基づいて交換されるデータは、機密を保持し、また AML 調査にのみ使用する必要があります。この情報は、第三者と共有したり (直接関与している登録済みの加盟機関を除く)、マーケティング、ビジネス戦略、またはその他の AML 以外の目的に使用したりすることはできません。機関は、共有情報へのアクセスを制限し、不正使用や権限のない第三者への開示を防ぐための内部統制を構成する必要があります。
ポリシーおよび手順が整備されていること
セクション 314(b) に参加する機関は、以下に関わる明確なポリシーを策定する必要があります。
情報の要求方法および共有方法
セクション 314(b) の下で取り交わされる連絡を処理する権限者
共有された情報を文書化する方法
FinCEN の要件への準拠を維持する方法
これにより、各機関はコンプライアンスを維持するとともに、問題が発生した場合に責任から保護されます。
セクション 314(b) の恩恵を受ける業種
セクション 314(b) は、金融取引を処理し、マネーロンダリングや違法な資金調達のリスクに直面しているすべての業界を支援します。大規模な取引を処理したり、リスクの高い顧客と協力したり、国境を越えて資金移動を行っている企業は、金融犯罪に対して脆弱です。この条項は、そのような企業に次のようなメリットをもたらします。
不正行為者を別の企業との取引に移る前に検出
個々の企業が見落としがちなパターンの特定
AML 対策の強化
この条項は従来の金融機関が最も多く行使していますが、AML ポリシーの対象となる他の企業も加盟することでその恩恵を得られています。この項目では、その恩恵を特に大きく受けている業種を詳しく見ていきます。
貴金属、貴石、宝石の販売業者
マネーロンダリングを行う者は、宝石などの高額商品を違法な資金で購入し、それらを転売して資金を「きれいな状態にする」ことがよくあります。これらの商品を販売するディーラーは、疑わしいバイヤーや報告基準を回避するように設計されたと思われる取引の情報を交換しあうことで、セクション 314(b) の恩恵を得ています。
カジノおよび会員制クラブ
犯罪者の中には、違法に入手した資金でカジノチップを購入し、賞金をクリーンマネーとして現金化している者もいます。セクション 314(b) を通じてこれらのギャンブルビジネスは、不審な活動や悪質な行為者に関するデータを共有することができます。
仮想通貨 / ブロックチェーンビジネス
デジタル資産を処理する暗号資産取引所や決済サービスは、違法な金融取引に対して脆弱な存在です。仮想通貨取引は、複数の取引所やウォレットを介して行われます。セクション 314(b) を通じて各プラットフォームは、アカウント間で行われている短期送金、ミキシングサービス、ウォッシュトレードなどの疑わしい取引パターを共有できるようになります。
決済代行業者および埋込型金融プロバイダー
現代の多くの企業は、独自の決済システムを備えたマーケットプレイスや、請求書やローンを処理するSaaS (サービスとしてのソフトウェア) プラットフォームなどの金融サービスを自社のプラットフォームに組み込んでいます。これらの企業は銀行ではありませんが、顧客の資金を移動させることを認められています。セクション 314(b) は、異なるプラットフォーム間で疑わしいアクティビティを見つけた場合に、相互に協力して対処することを可能にします。
セクション 314(b) のベストプラクティスの導入方法
セクション 314(b) は、金融犯罪と闘うための強力な対抗手段です。企業が情報を効果的に利用するには、情報の共有方法や共有先、データの保護方法などを慎重に検討する必要があります。この項目では、そのベストプラクティスをいくつかご紹介します。
登録ステータスの更新
情報を共有する前に、各企業は FinCEN に登録し、同じく共有先の企業が FinCEN への登録を済ませ、そのルールに従っていることを確認する必要があります。登録は毎年更新しなければなりません。
情報の保護
セクション 314(b) には機密性の高い財務データの共有が含まれるため、企業はその情報を共有または受信する際に細心の注意を払う義務があります。そのため、以下のような配慮が必要です。
暗号化された電子メールまたは安全なプラットフォームを使用する
共有された内容とその理由を詳細に記録する
許可された従業員のみが共有情報にアクセスできるようにする
企業がデータを杜撰に扱った場合、法的リスクや風評リスクにさらされる可能性があります。
協働パートナーの厳選
すべての金融機関が同じレベルの規律で運営されているわけではありません。情報を共有する前に、共有先の機関も FinCEN に登録し、強力な AML ポリシーを実施していることを確認してください。
セクション 314(b) の許可内容に対する訓練
セクション 314(b) は、マネーロンダリングまたはテロ資金供与の調査にのみ適用され、一般的な送金詐欺、信用リスク、またはビジネス戦略に関連して適用することはできません。以下に関する明確なポリシーをあらかじめ策定しておきましょう。
セクション 314(b) に関する情報リクエストの処理担当者
セクション 314(b) の行使サインとなる警告行為
共有できる情報とできない情報の種類
問題をエスカレーションするタイミング、または調査結果を報告するタイミング
共有情報を適切に文書化する方法
要所での行使
セクション 314(b) を過度に行使すると、調査が遅れるだけでなく、相手機関が要求を真剣に受け止めなくなる可能性さえ出てきます。企業はこのことに配慮しつつ、次の方法で行使を制限する必要があります。
情報を共有することで実際に結果が変わる可能性がある、高リスクのケースに焦点を当てる
ケースマネジメントシステムでリクエストを追跡し、なぜその情報が共有されているのかを明確に記録する
調査に関係しない過度なやり取りを避ける
セクション 314(b) を大規模な AML 戦略の一部として扱う
セクション 314(b) は、企業が強力な取引監視、SAR 申告、内部 AML プロセスを組み合わせた場合に最も効果を発揮します。しかし、内部管理の強化を緩め、この条項に過度に依存してしまうと、機関はより大きな問題を見落とす可能性があります。そのため、この条項を効果的に行使している機関は、包括的な AML 戦略の一部として扱っています。
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