フィンランドで決済を受け付けるということは、E コマースの収益が 2025 年に 60 億ユーロ以上、2029 年までに 90 億ユーロ近くに達すると見込まれる成長市場に参入することを意味します。しかし、ヨーロッパの他の市場と類似性があるにもかかわらず、フィンランドの決済環境は、地域固有の決済手段、決済セキュリティフレームワーク、クロスボーダー取引に関して特別な配慮が必要です。
以下では、フィンランドへの進出を計画している事業者が考慮すべきことを説明します。
- モバイルに対応する
- デジタル決済機能を採用する
- EU の最新の決済規制を常に遵守する
市場の状況
フィンランドの決済インフラは、北欧の近隣諸国の決済インフラと多くの点でよく似ています。現金の利用が減り、クレジットカードやデビットカードによる支払いが標準となっていて、モバイル決済が普及しています。ユーロを使用する欧州連合加盟国であるフィンランドの企業・消費者間取引 (B2C) 市場と企業間取引 (B2B) 市場は、ヨーロッパの他の地域と深い結び付きがあります。
フィンランドの中央銀行であるフィンランド銀行は、国の金融の政策運営と安定性を監督しています。主な責任としては、欧州中央銀行の金融政策の実施、決済システムの監督、金融の安定性の保証などがあります。規制面では、フィンランド金融監督庁 (FIN-FSA) が金融市場参入者を監督・規制し、それらが効率的、確実、かつ消費者の最善の利益のために機能するようにしています。
決済手段
電子決済手段が着実に普及している一方、現金取引の需要は減少しています。フィンランドで人気の決済手段をいくつかご紹介します。
現在の利用状況
2024 年の時点では、フィンランドの POS 取引額の 28% は現金によるもので、カード決済は POS 取引額の 55% を占めました。特にカードの利用に関しては、フィンランドでは 2023 年の時点でデビットカードが普及しています。フィンランドの顧客は非接触型決済も活用しており、2022 年には POS でのカード取引総額の 35% を非接触型決済が占めています。
デンマークのアプリである MobilePay やフィンランドのアプリである Pivo など、モバイル決済が普及しており、顧客がデジタル決済を信頼していることがさらに裏付けられています。MobilePay は 2022 年にノルウェーのモバイル決済アプリ Vipps と合併して Vipps MobilePay となることを発表し、2024 年に統合アプリをリリースしました。モバイル決済アプリの台頭は、E コマースの台頭と時を同じくして起こりました。2024 年第 3 四半期に、フィンランドでは 1 億 1,500 万件のカード決済がコンピューターまたはモバイルデバイスで開始され、前年同期から 16% 増加しました。
フィンランドで人気の B2C 決済手段
- クレジットカードとデビットカード
- モバイル決済 (MobilePay など)
- 銀行振込
- 後払い (BNPL) 決済 (Klarna など)
フィンランドで人気の B2B 決済手段
- クレジットカード
- 銀行振込
- 口座振替
新たなトレンド
フィンランドでは電子請求書が標準になりつつあり、2019 年には欧州の電子請求書標準に準拠した電子請求書のみを受け入れることを政府機関に義務付ける法律が可決されました。電子請求書はまだすべての B2B 事業者に義務付けられているわけではありませんが、フィンランド全土で一般的になりつつあり、年間売上高が 10,000 ユーロを超える企業は、B2B 取引で電子請求書を請求する権利を持っています。
参入のしやすさと課題
フィンランドに参入するには、税金、支払いに対する不審請求の申し立て、クロスボーダー決済、決済のセキュリティ規制に関して、固有の考慮事項があります。概要は次のとおりです。
税金
フィンランドの 付加価値税 (VAT) は、ほとんどの商品とサービスに対して標準税率 25.5% が設定されており、食品や書籍などの品目については 14% と 10% の軽減税率が設定されています。顧客には購入時に VAT が加算されますが、事業者はこの税金を徴収してフィンランド税務当局に納付する責任を負っており、納付が不適切だと罰則につながる可能性があります。
チャージバックと不審請求の申し立て
フィンランドの消費者は、取引をオーソリしていない場合は特に、カードの請求に異議を申し立てる権利を有しています。商品やサービスが約束どおりに提供されなかった場合は、チャージバックをリクエストできます。通常、事業者はこれらの主張に反論するために十分な反証資料を提示する必要があります。
フィンランドは、欧州の決済規制の基礎となる改正決済サービス指令 (PSD2) を遵守しています。PSD2 では、強力な顧客認証 (SCA) と 2 要素認証が重視されており、チャージバック請求に影響を与える可能性があります。
クロスボーダー決済
フィンランドは 1999 年にユーロを導入し、それによってヨーロッパ内の国境を越えた取引が簡略化されました。しかし、フィンランドでユーロ以外の通貨でのクロスボーダー取引を受け付けている事業者は、通貨換算と多通貨機能が果たす役割を理解しておくことが重要です。
多通貨オプション
国外の顧客に対応する事業者の場合、多通貨機能を提供すると顧客がそれぞれの自国通貨で価格を確認できるので便利です。通貨換算
通貨換算レートは、通常は、主要銀行が通貨を両替する際の為替レートである銀行間レートに基づいており、他の顧客に対しては 1% から 3% の手数料が上乗せされます。Stripe などのプラットフォームは通貨換算サービスを提供しているため、クロスボーダー決済を受け付ける事業者にとって役立ちます。SEPA 送金
EU 加盟国であるフィンランドは、単一ユーロ決済圏 (SEPA) ゾーンに属しており、他の 35 の加盟国との間で低コストでスピーディーなユーロ送金を円滑に行えます。特に SEPA クレジットトランスファーは、SEPA ゾーン内で顧客や事業者が購入する際によく使用されます。
セキュリティとプライバシー
フィンランドは、決済のセキュリティ、法令遵守、規制に関して、信頼性の高い厳格なフレームワークを確立しています。その概要は次のとおりです。
データ保護法
EU の一般データ保護規則 (GDPR) は、フィンランドにおけるデータ保護の基礎を成すものです。この規制は、事業者がデータを収集する前に消費者から明示的な同意を得ることを義務付けており、消費者に自身の個人情報にアクセスする権利や個人情報を変更、削除する権利を与えています。決済サービス規制
PSD2 は、フィンランドが厳格に実施しているもう 1 つの EU 規制です。この規制はセキュリティを強化しながら決済業界の競争を促進することに重点を置いています。PSD2 に基づき、フィンランドの決済サービスプロバイダーは、2 要素認証を含む SCA プロトコルを遵守する必要があります。マネーロンダリング防止 (AML) 法
フィンランドには、マネーロンダリング防止とテロ資金供与対策 (AML/CTF) に関する厳格な法律があります。EU の AML 指令に基づき、フィンランドの金融機関は、マネーロンダリングの可能性がある活動を検出、監視、報告する包括的なシステムを構築するよう義務付けられています。デジタル認証
TUPAS はフィンランドの電子本人確認サービスで、フィンランドの多くの銀行がオンライン取引の際の SCA に使用しています。オンラインで買い物をしたり、他のデジタルサービスにアクセスしたりするフィンランドの顧客との信頼を築く上で、TUPAS を使用することが重要な役割を果たしています。規制当局の役割
フィンランドの FIN-FSA は、国内の金融市場を管轄し、その安定性と透明性を監督しています。
成功のカギ
フィンランドの決済市場は効率がよく革新的ですが、課題は残っています。これらの問題に対処するには、技術革新、規制に対する意識向上、顧客体験改善への取り組みを組み合わせる必要があります。ここでは、フィンランドで事業を運営する事業者が成功するための方法をいくつかご紹介します。
モバイル決済手段
フィンランドでは、モバイル決済アプリとデジタルウォレットがいたるところで普及しています。事業者は、店舗とオンラインの両方で幅広い支払いオプションを提供することによってメリットを得られますが、モバイル決済も必ずその対象に含める必要があります。ユーザー体験の改善
フィンランド国民は一般的に英語が堪能ですが、フィンランド語 (または特定の地域ではスウェーデン語) の翻訳を提供することで、事業者が顧客を大切にし、顧客の決済体験をできるだけスムーズにするために配慮していることを示せます。クロスボーダー取引の簡素化
フィンランドはユーロを使用しており、SEPA ゾーンに属しているため、ヨーロッパ内でのクロスボーダー決済は簡単です。このシステムを利用するには、ペイメントゲートウェイで SEPA 送金を受け付けることが可能か確認してください。強力な不正利用検出プロトコル
フィンランドの支払いに対する不審請求の申し立て率は世界平均と比べると比較的低いままですが、事業者にとって懸念事項であることは変わりません。欧州中央銀行のデータによると、2019 年のフィンランドにおけるカード不正利用額の 64% がカード非提示 (CNP) の不正利用であり、E コマースビジネスにとっての課題が浮き彫りになっています。CNP の不正利用を減らすために、オンライン決済に 3D セキュア認証などの不正利用検出・不正防止ツールを導入してください。
重要なポイント
フィンランドの決済のトレンドと嗜好を把握してそれに対応することで、現地の顧客の共感を呼ぶ決済体験を作り出し、市場で際立つ存在になることができます。しかし、そのためには、決済セキュリティフレームワーク、適切なペイメントゲートウェイ、地域に合わせたカスタマーサポートを考慮してしっかりと練り上げた戦略的ビジョンが必要です。ここでは解説のまとめと、フィンランドの決済市場でビジネスを成功させるためのヒントをご紹介します。
モバイルに対応する
デジタルウォレットを受け付ける
フィンランドでは、Pivo などの地域固有のデジタルウォレットとともに、デンマークのモバイル決済アプリである MobilePay の人気が高まっています。取引時間が短いため好まれているこれらのプラットフォームに対応すると、フィンランドの顧客に便利な決済手段を提供することができます。銀行振込を検討する
顧客は銀行振込を使用して、スマートフォンからすばやく送金します。これらの送金を受け付ける準備が整っていることを確認して、このような顧客に不便をかけないようにします。決済インターフェイスをアップグレードする
モバイルを利用する顧客に可能な限り最高の体験を提供するように、自社の決済ページを更新する必要があります。
デジタル決済機能を採用する
電子請求書に対応する
フィンランドでは、B2B 取引において電子請求書が標準になりつつあります。請求書を電子的に送受信する準備をします。現地の言語への対応に投資する
フィンランド語に翻訳した決済プロセスを用意すると、顧客にとってより直感的なユーザー体験になります。時間を取って、決済ページとカスタマーサポートページを翻訳してください。通貨を柔軟に選べるようにする
ノルウェーやデンマークなどの近隣諸国はユーロを使用していないため、現地通貨で支払うオプションを提供すると、購入完了率を高めることができます。自国通貨での支払いを希望する国外の顧客に対応するために、決済インターフェイスで多通貨機能を提供します。
EU の最新の決済規制を常に遵守する
VAT の改正を注視する
フィンランド固有の VAT 規制は、特にデジタルサービスに関するものであり、改正される可能性があります。最新の VAT 率を反映し、罰金を回避するために、自社のシステムを定期的に更新してください。2 要素認証を使用する
フィンランドで事業を行う事業者は、PSD2 で概説されている 2 要素認証の SCA プロトコルに準拠した決済サービスプロバイダーを利用する必要があります。データ保護を重視する
自社の決済システムが GDPR の規則に準拠していることを確認します。透明性の高いデータ処理と、顧客データの使用方法に関する明確なコミュニケーションを行うことで、信頼を築き、全体的な決済体験を向上させることができます。
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