ブラジルの経済規模は南米最大で、ラテンアメリカの オンライン販売の 55% を占めています。ブラジルでは、2020 年にブラジル中央銀行 (BCB) が導入した 即時決済システム Pix のようなデジタル決済手段が目覚ましく普及している一方、Boleto Bancário ような従来型の決済方法も依然として広く利用されています。
ブラジルは中国、米国をはじめとする多くの国々との主要な貿易パートナーであり、効率的な越境取引の必要性が高まっています。フィンテック分野の成長を促す規制環境により、ブラジルはラテンアメリカ進出を狙う世界の投資家や企業にとって注目の市場となっています。
以下では、ブラジルの決済システムへの参入を計画している企業が考慮すべき点を説明します:
- 現金決済とデジタル決済手段のバランス
- 地域規制の遵守
- 地域に合った決済手段やインターフェースの採用
BCB はブラジルの金融政策と金融規制を決定する上で重要な役割を担っており、その規制は一般的に厳格です。BCB は、オープンバンキングや Pix、仮想通貨規制といった先進的な取り組みを通じて、ブラジルの金融セクターを活性化してきました。こうした進展は国際的な注目を集め、ブラジルをフィンテック分野の先駆者として位置づけ、成長に適した環境を醸成しています。
市場の状況
大都市と広大な農村が混在するブラジルでは、現金との関係は複雑です。2025 年の報告書によると、ブラジルの成人の 14% は銀行口座を持っていないため、人口の一部は依然として現金支払いに頼っています。2024 年には、POS (販売時点情報管理) 決済の 22% が現金で行われました。しかし、BCB のイニシアチブを主な原動力として、デジタル化への動きは活発です。その結果、サンパウロやリオデジャネイロなどの主要都市部では、電子決済へのシフトが進んでいます。特に若年層は、デジタルウォレットやオンラインバンキングを利用しており、その主な理由は利便性と迅速さです。仮想通貨やステーブルコインは、従来のシステムに代わる柔軟な決済手段としてブラジルで人気を集めています。デジタルトランスフォーメーションは金融環境を徐々に変容させ、現金への依存度が低い未来を示唆しています。
BCB の取り組みは、より機動的なフィンテック会社の台頭も後押ししています。2013 年に設立されたネオバンクの Nubank は、2023 年までに 8,000 万人以上の顧客を獲得、実店舗を持たずにクレジットカードサービスやデジタル決済 ソリューションを提供しています。デジタル・ファーストのソリューションを求めるこの傾向は、特に若年層を中心とした消費者の嗜好におけるより広範な変化を反映しています。対応する規制措置に後押しされたフィンテックが勢いを増すにつれ、ブラジル人と金融サービスとの関わり方が静かに形を変えています。これは、利便性とアクセスのしやすさと利便性の新時代につながるかもしれません。
BCBはブラジルの金融政策と金融規制の形成に極めて重要な役割を担っています。その規制は伝統的に厳しいものです。ブラジル証券取引委員会 (Comissão de Valores Mobiliários、CVM) は、投資家の利益を保護し、透明性を促進するために証券市場を監督しています。BCBはまた、オープンバンキング規制や Pix 即時支払いシステムを導入し、改善を目的とした取り組みに投資してきました。これらのイニシアチブは金融環境を近代化し、フィンテックの成長を後押ししています。その結果、ブラジルのデジタル金融へのダイナミックなアプローチは国際的に認知され、金融の進化と適応におけるリーダーとしてのブラジルのステータスは確固たるものとなり、顧客本位の金融サービスの新時代への道が開かれました。
決済手段
ブラジルの顧客は、現金、クレジットカード、モバイル決済、非接触型決済など、さまざまな決済手段を利用しており、多様な決済手段が存在しています。以下に、最も人気のある決済方法をいくつかご紹介します。
現在の使用状況
ブラジルでは伝統的に現金が一般的な決済方法でしたが、モバイルウォレットやオンライン決済などのデジタル決済が普及するにつれ、現金の利用率は低下しています。これは、インドや中国など一部のアジア市場の傾向と一致しています。
クレジットカードの利用も広く普及しています。Visa と Mastercard が主要なカードネットワークであり、それに続くのが、ブラジルの大手銀行間の提携から生まれた国内ブランドの Elo カードです。地域カードネットワークである Hipercard も、年会費無料であることや大手国内スーパーマーケットチェーンとの統合により、ブラジルの一部地域で人気を集めています。ブラジルのクレジットカード市場の大きな特徴は、少額の買い物であっても分割払いが広く利用されている点です。顧客は無利息で月々の支払いを複数回に分けるオプションを選択できることが多く、これが分割払い文化の定着につながっています。
ブラジルにおける非接触型決済の台頭は、顧客の間で支持が高まっていることを示しており、同国の柔軟な金融インフラを証明しています。2023 年には、同国のクレジットカード取引のうち、非接触型決済が占める割合は 31 %を超えました。
それにもかかわらず、Pixの爆発的な成長に伴い、顧客はその効率性と費用対効果にますます引き付けられています。これは従来のクレジットカード利用に対する挑戦であり、デジタル決済の競争環境を再構築するものです。
ブラジルで人気の B2C 決済手段
- Pix 送金
- 現金
- デビットカード
ブラジルで人気の B2B 決済手段
新たなトレンド
ブラジルでは決済習慣が変化しており、現金からデジタル決済への移行が進んでいます。BCB のデータによると、Pix の取引量は 2023 年 12 月から 2024 年 12 月にかけて約 34% 増加し、顧客行動の大きな変化を示すものとなっています。しかし、デジタル決済やカード決済が普及する一方で、特に遠隔地では、現金は依然として広く受け入れられている支払い方法です。
かつてこの地域では斬新なコンセプトであった非接触型決済も市場シェアを拡大し、2021 年から 2022 年にかけて取引額は187%以上増加しました。ブラジルの若く、都会的で、技術に精通した住民がこの成長を後押ししていますが、この傾向は都市部だけにとどまりません。小規模な町や農村部でも、ペースはやや緩やかながら成長が見られます。モバイル決済も大幅な伸びを示しており、モバイル決済額は 2019 年から 2020 年にかけて 80% 近く増加しました。ブラジルの決済分野が発展する中、仮想通貨とステーブルコインは主要なトレンドとして際立っています。
BCB は国民の決済行動の舵取りにおいて極めて重要な役割を担ってきました。現金偏重の経済が抱える課題と機会を認識し、同行は電子取引を促進するための施策を打ち出しました。Pix の導入はこの方向における画期的な一歩であり、企業と顧客の双方に 24 時間 365 日利用可能な無料の即時決済ソリューションを提供しました。さらに、違法行為や闇取引の抑制を目的とした規制政策により、多額の現金取引には制限が設けられています。例えば、2021 年以降、ビジネスは 3 万ブラジルレアル (BRL) を超える現金取引を税務当局に報告することが義務付けられています。
参入のしやすさと課題
ブラジル市場に参入する前に、ビジネスが考慮すべきいくつかの要素をご紹介します。
税金
IOF (Imposto sobre Operações Financeiras) は、顧客と事業者の双方に課される税金です。この税金は、与信取引、外貨両替、保険取引などの金融分野に課せられます。税率は取引の種類によって異なりますが、クレジットカード取引には通常 3.5 %の IOF がかかります。さらに、ブラジルの付加価値税 (VAT)、すなわちICMS (Imposto sobre Circulação de Mercadorias e Serviços) は州によって異なり、通常は 17 %〜 20 %です。この税金を徴収し納付する責任は事業者にあります。特に複数の州で事業を展開する場合、双方が ICMS の税率を把握しておくことが重要です。不遵守や納付の遅延があると、罰則が科され、税務当局からの監視が強まる可能性があります。
チャージバックと異議申し立て
ブラジルには、チャージバックや紛争処理に関する独自の規制があり、ヨーロッパの規制と同様に消費者保護を強く重視しています。消費者保護コード (Código de Defesa do Consumidor) は、顧客に幅広い権利と保護を与えています。チャージバックは取引の種類によって異なります。カード提示による対面取引では、ブラジルの規制は厳格で、不正取引が発生しにくくなっています。EMV チップ技術や二要素認証も広く普及しています。しかし、非対面のカード取引 (オンライン取引など) ではリスクが高くなります。ブラジルで E コマースが成長するにつれて、このような取引のセキュリティ向上が重視されるようになっていますが、取引の正当性を証明する責任はしばしば事業者側にあります。
ブラジルにおけるチャージバック対応は、他の市場と比べて一般的に回答期限が短く設定されています。金融機関がビジネスに与える対応期間は限られており、多くの場合わずか数日しかありません。納品確認書や取引記録などの詳細な書類が求められるため、対応は困難になることがあります。
国際決済
ブラジルは世界各国にとって重要な貿易相手国であり、通貨換算や為替レートの変動などを考慮する必要があります。ここでは、ブラジルで国際決済を受け付ける際のポイントをご紹介します。
国際決済の規制
厳格な法律と規制が現地通貨を保護しており、すべての国際取引は認可を受けた機関を通じて行うことが義務付けられています。これらの規制は現在、近代化が進められています。通貨換算
ブラジルのビジネスがますますグローバル化し、観光客が急増する中、通貨換算はこれまで以上に重要になっています。ブラジルを訪れる旅行者、特に米ドルやユーロに連動していない通貨を使用する人々は、到着時に BRL へ両替することがよくあります。変動する通貨価値
BRL は米ドルやユーロといった基軸通貨と比べて変動が激しく、こうした通貨変動は国境を越えた取引に直接影響し、国際的なプラットフォームで買い物をするブラジル人顧客の購買力に影響を及ぼす可能性があります。サードパーティ・ソリューションの役割
ブラジル人、特に頻繁に旅行する人や国際ビジネスに携わる人は、そのスピード、透明性、そしてより有利なレートが得られる可能性から、デジタル通貨換算プラットフォームを好む傾向があります。著名な金融機関の一つに、事前にレートを提示して通貨換算を行うデジタルバンクの Nubank があります。もう一つは Remessa Online で、個人や企業向けに競争力のあるレートで国際送金と通貨換算を提供する専用プラットフォームとして機能しています。そして Wise (旧TransferWise) は、リアルタイムの為替レートを用いた国際送金サービスによって、ブラジル市場で独自の地位を築いてきました。仮想通貨
仮想通貨やステーブルコインは国境を越えた取引を簡素化し、従来の銀行取引に代わる、より迅速でコスト効率の高い選択肢を提供しています。ブラジルの貿易関係が拡大するにつれ、デジタル通貨を導入することで、取引の効率性と魅力が高まる可能性があります。
セキュリティとプライバシー
ブラジルは、消費者保護を重視し、BCBの厳格な規制の下で運営される主要な成長市場です。ここでは、セキュリティとプライバシーに関して考慮すべき点をいくつかご紹介します。
データ保護法
ブラジルは一般データ保護法 (Lei Geral de Proteção de Dados: LGPD) を採択し、プライバシーとデータ保護に力を入れています。一般データ保護規則 (GDPR) の原則を反映した LGPD は、企業がユーザーの個人データを収集または処理する前に、ユーザーの明確な同意を得ることを義務付けています。この法律により、ブラジル国民は自分のデータにアクセスし、訂正し、削除する権利を有します。不正防止対策
デジタル取引の増加に伴い、強固な不正防止策が強く求められています。事業者は高度なセキュリティプロトコルやテクノロジーを導入し、詐欺行為から保護する必要があります。これにより、顧客の信頼を高め、現地法令の遵守を確保できます。BCB の役割
BCB は国の決済インフラの高度化に積極的に取り組んできました。また、非接触決済の安全性と信頼性を守るためのガイドラインやセーフガードも策定しています。特に 2021 年には、BCB は PIN (個人識別番号) を必要としない非接触決済の上限額を引き上げ、世界的な動向に歩調を合わせました。マネーロンダリング防止 (AML) 法
ブラジルの金融活動管理審議会 (COAF) は、マネーロンダリングおよびテロ資金供与に対する取り組みを監督しています。金融機関は、ブラジルの金融インフラを潜在的な有害行為者から守るために、疑わしい活動を報告する義務があります。
成功のカギ
ブラジルで決済を受け付ける際に役立つ主な要因をご紹介します。
データセキュリティを優先する
ブラジルが直面するサイバー脅威を踏まえると、ビジネスは強力なセキュリティ対策を優先する必要があります。トークン化や多要素認証などを導入することで、顧客の金融データの安全性を確保できます。多言語支払いインターフェースの提供
ブラジルの主要言語はポルトガル語ですが、多様な民族や文化的背景を持つ集団が存在します。特に特定の民族が集中する地域では、多言語対応の決済インターフェースを提供することで、多くの顧客の決済処理を容易にできます。各地域への適応を理解し、遵守すること
ブラジルの金融規則は複雑です。BCB は経済的利益を保護するため、規則を頻繁に更新しています。したがって、企業は規制を把握し、特にデジタル決済に関連するコンプライアンス手続きを随時更新する必要があります。現金決済のセキュリティ上の懸念
現金決済は、取引の追跡可能性やセキュリティに関する懸念を引き起こします。
重要なポイント
ブラジルの決済分野は、その独特の社会経済状況、技術革新、文化的なニュアンスの影響を受けています。各地域の環境を理解することで、企業は顧客の決済体験を向上させるための重要な決断を下すことができます。ここでは、企業がブラジルの支払い分野に参入する際に考慮すべき手段を改めてご紹介します。
現金とデジタルの両方の支払いが可能
金融包摂における格差を認識すること
進歩にもかかわらず、ブラジルの多くの人々はいまだに銀行サービスを十分に利用できていません。金融サービスへのアクセス制限はデジタル決済の障害となり、地域や集団によっては商取引が主に現金に制限されています。非接触型決済の受け入れ
ブラジル人は、食料品の買い物や公共料金の請求書から公共交通機関の料金に至るまで、様々な取引にモバイル支払いを容易に導入しています。2023 年のレポートによると、ブラジル人の少なくとも20%がデジタルウォレットを毎日利用し、さらに21%が週に数回利用しています。しかし、ブラジルの多くの顧客は、より大きな金額の取引については、習慣が根強く残っていることやセキュリティへの懸念から、従来型の銀行取引に依然として依存しています。モバイル決済を導入する
PicPay と Mercado Pago は、ブラジルのモバイル決済市場で圧倒的な地位を確立しています。例えば、PicPay は単なる決済手段にとどまらず、キャッシュバックインセンティブ、オンラインショッピングプラットフォーム、投資機会も提供しています。その多様な機能により、多くのブラジル人に選ばれています。一方、Eコマースプラットフォーム Mercado Libre 傘下の Mercado Pago は、親会社の膨大なユーザーベースを活用し、ブラジルを代表する決済ソリューションとしての地位を確立しています。
法令遵守の徹底監視
サイバーセキュリティ・プロトコルに従うこと
ブラジルはサイバーセキュリティ対策の強化に積極的です。規則では、ビジネスに一定の最低限のサイバーセキュリティ・プロトコルの導入を義務付けており、定期的な監査、脅威の監視、迅速な対応メカニズムの必要性を強調しています。第三者決済プロバイダーの役割を理解すること
Mercado Pago や PagSeguro のような組織は、高度なセキュリティアルゴリズム、不正利用検知メカニズム、データ暗号化プロトコルを導入し、企業と顧客を保護しています。消費者保護と金融教育を優先する
ブラジルは金融規制において消費者保護を重視しています。規制機関は、顧客との取引に透明性と公正さを確保するために金融機関を継続的に監視しています。さらにブラジルは、国民が金融システムを安全かつ効果的に利用できるようにするため、金融教育を重視しています。
決済手段とインターフェースの各地域への適応
各地域のクレジットカードでの支払いを可能にします
ブラジルではクレジットカードの利用が広く普及しています。Elo、Hipercard、Cabal は、Visa や Mastercard のような世界的大手と共存する人気の国内ブランドです。さまざまなクレジットカード支払いを導入することで、取引の完了率を高めることができます。Pix システムを導入することを検討する
Pix をペイメントゲートウェイに導入することで、企業は 24 時間 365 日リアルタイムで取引が可能になり、スピードと利便性を重視する顧客にアピールすることができます。分割払いオプションを提供するかどうかの決定
ブラジル市場の顕著な特徴は、比較的低額の買い物であっても分割払いを好む点です。企業は、地域の購買行動に合わせて柔軟な分割払いプランを提供することで、決済体験を向上させることができます。Boleto Bancário の人気を活用する
ブラジルで広く利用されている決済方法のひとつに、現金またはオンラインバンキングで支払いができる支払い伝票『Boleto Bancário』があります。これを決済オプションとして提供することで、銀行口座を持たない人々を含む幅広い顧客に対応することができます。
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