クロスボーダー決済とは、異なる国の支払者と受取人の間で行われる取引のことです。これらの支払いにより、企業は商品を購入し、サービスを取得し、国境を越えて資本を移動することが可能です。
クロスボーダー決済は、銀行や金融機関など複数の仲介業者を経由しなければならないため、コストがかかり、時間がかかる場合があります。新しい銀行システムごとに、独自の処理時間と手数料が加算されます。また、さまざまな通貨や国際法や協定があるという事情も、支払いプロセスを複雑にしています。
しかし、最近の技術の進歩により、国境を越えた支払いがシンプルになってきています。ブロックチェーンとデジタル決済プラットフォームを利用すると、クロスボーダー決済をより簡単に、より速く、より安く行えます。これらのテクノロジーは、透明性を高め、仲介者の数を減らし、手数料を削減します。
世界の企業間 (B2B) 決済は、主にクロスボーダー取引により、2028 年までに 124 兆ドルに達すると予測されています。以下では、企業が B2B 取引にクロスボーダー決済を使用するケース、これらの決済の課題、市場トレンド、規制や税金への対処方法について説明します。
この記事の内容
- クロスボーダー決済の仕組み
- 企業が B2B 取引にクロスボーダー決済を使用するケース
- B2B クロスボーダー決済の課題
- B2B クロスボーダー決済市場の成長トレンド
- 革新的なリアルタイム B2B クロスボーダー決済
- クロスボーダー決済関連のクラウドテクノロジーの進歩
- グローバル取引関連の規制や税金への対処方法
クロスボーダー決済の仕組み
クロスボーダー決済は、国、規制、通貨、決済手段など、いくつかの要因により左右されます。一般的なクロスボーダー決済の段階は次のとおりです。
開始: まず、企業は銀行振込、電信送金、または専用の決済プラットフォームを通じて、海外の受取人への支払いを開始します。
通貨換算: 送金者と受取人は異なる国にいるため、送金者の銀行または決済プロバイダーは、送金者の通貨から受取人の通貨に現在の為替レートで資金を換算する必要があります。
仲介銀行: 決済は、最初に仲介銀行を経由する場合があります。これらの銀行は、送金先の国へと支払いを振り替える業務を進行させます。
清算と売上処理: 対応する銀行システムによって、支払が消し込まれ、売上処理されます。決済の詳細を確認し、十分な資金を確保して、受取人の銀行口座へと資金を送金します。
企業が B2B 取引にクロスボーダー決済を使用するケース
ここでは、B2B クロスボーダー決済の一般的な用途をいくつかご紹介します。
商品・サービスの購入: 企業は、海外のサプライヤーから材料、コンポーネント、または完成品を購入するというケースが多いです。購入にともない、クロスボーダー決済で請求書を処理します。
サプライチェーンの管理: サプライチェーンは複雑かつグローバルになっており、配送、物流、関税などの費用をクロスボーダー決済で支払います。
海外の従業員や契約社員への支払い: さまざまな国にリモートの従業員や契約社員がいる企業は、労働者の給与、賃金、手数料をクロスボーダー決済で支払います。
海外市場への投資: グローバル展開を検討している企業は、海外の企業、不動産、その他の資産に投資する場合があります。そのためには、クロスボーダー決済で資金を送金する必要があります。
利益の本国送金: クロスボーダー決済で、国際市場の海外子会社から自国の企業に利益を移転する場合があります。
金融取引の処理: 企業は、ローンの返済、配当金の支払い、ロイヤリティ手数料などの金融取引の費用を、クロスボーダー決済で支払う場合があります。
B2B クロスボーダー決済の課題
クロスボーダー決済は B2B 取引において有用ですが、運営上の課題や財務上の課題につながる可能性があります。
取引の遅延
国際決済の処理には数日かかる場合があります。このような遅延は、製造業や生鮮食品など時間的な制約がある業界では、深刻な問題となり得ます。次の要因により、遅延が発生する可能性があります。
時差: 営業時間は世界の銀行により異なるため、取引処理の速度に影響が出ます。
手動での処理: 国際決済の処理の一部は今でも、時間がかかる手作業による介入が必要となっています。
法令遵守の確認: セキュリティや法令遵守のチェックが複雑であることも、処理が遅くなる原因となっています。
複数の規制枠組みへの準拠
各国には、マネーロンダリング防止 (AML) 規則、テロ資金供与対策 (CTF) 基準、本人認証 (KYC) 要件など、金融取引に関する独自の規制枠組みがあります。これらの多様で、ときには相反する規制を遵守すことは、面倒でコストがかかる場合があります。遵守を怠ると、重大な法的罰則や風評被害につながる可能性があります。
不透明かつ予測不能なコスト
決済チェーンには、コルレス銀行手数料、仲介銀行手数料、通貨換算マークアップなどの隠れた手数料が含まれています。このように予測不能であるため、財務上の見通しと照合が複雑になります。
仲介銀行と追加料金
ほとんどの国際決済には、送金者の銀行、仲介銀行、受取人の銀行など、複数の銀行が関与します。それぞれが独自の手数料を請求し、受取人が受領する合計額が目減りする場合があります。また複数の銀行が関与すると、支払いの追跡が複雑になる可能性があります。
外国為替 (FX) に関わるリスク
通貨の価値は変動するため、支払いプロセス中に為替レートが大幅に変更され、予期せぬ損失が生じる可能性があります。高度な金融商品や専門知識があれば、為替リスクから身を守ることができますが、すべての企業が利用できるわけではありません。
運営上のリスクとエラー
国際決済を複数のシステムを介して行うと、誤ルーティングやデータ入力ミスなどの運営上のエラーが起こるリスクが高まります。これらのエラーにより取引が遅れる可能性があり、解決には多大な労力とコストが必要となります。
不正利用とセキュリティ上の懸念
クロスボーダー決済は、複数の当事者やシステムが関与するため、特に不正利用に対して脆弱です。データ侵害、フィッシング詐欺、不当な取引は、多額の金銭的損失や顧客の信頼低下につながる可能性があります。
支払いの追跡が困難
国際決済は簡単に追跡することができません。従来のシステムの多くには、リアルタイムで確認できる機能がないからからです。このように確実性を欠くため、サプライチェーンが混乱し、プロジェクトのタイムラインに遅延が発生し、サプライヤーやパートナーとの関係に緊張が走る可能性があります。
技術的な互換性の問題
銀行のテクノロジープラットフォーム間の違いにより、取引を効率的に処理できず、追加の照合と手動調整が必要になる場合があります。
バンキングアクセスが困難
一部の地域、特に発展途上国の受取人は、バンキングサービスへのアクセスが難しい場合があります。国際決済いを受け取るのに、安全性が低く速度が遅い代替手段を使用しなければならない可能性があります。
レガシーシステムおよび連携
多くの企業は、いまだに時代遅れのレガシーシステムで支払いを行っており、最新のクロスボーダー決済ソリューションと互換性がないことがよくあります。クロスボーダー決済をこれらのシステムと連携させるには、コストと時間がかかり、エラーが発生しやすくなります。
B2B クロスボーダー決済市場の成長トレンド
いくつかの重要なトレンドが、B2B クロスボーダー決済市場の成長と変革を後押ししています。
リアルタイム決済: リアルタイム決済システムを採用する国が増えており、ほぼ瞬時にクロスボーダー取引を行えます。
フィンテックソリューション: フィンテック企業は、革新的で使いやすい決済ソリューションで従来の銀行モデルを刷新しています。これらの企業は、ブロックチェーン、アプリケーションプログラミングインターフェイス(API)、AI などのテクノロジーを使用して、プロセスをシンプルにし、コストを削減し、透明性を高めています。
透明性と法令遵守: クロスボーダー決済に対する規制当局の監視が厳しくなっています。規制を遵守するため、企業はエンドツーエンドの可視性、自動化された法令遵守チェック機能、および強力なレポート機能を備えたソリューションを採用しています。
地域に合わせた決済体験: さまざまな市場の特定のニーズと好みをサポートする決済ソリューションを企業は求めています。これには、現地通貨での支払い、現地の決済手段への対応、現地の規制への準拠といった機能が含まれます。
デジタル通貨: クロスボーダー決済の代替決済手段として注目されているものに、暗号通貨と中央銀行デジタル通貨 (CBDC) があります。従来の方法と比較して、決済時間が短縮され、取引手数料が安く、透明性が向上しています。
市場統合: 大手企業は小規模なフィンテック企業を買収し、従来型の銀行はテクノロジープロバイダーと提携を行っています。この統合により、より総合的で連携された決済ソリューションが実現しました。
企業間取引 (B2B2C) モデル: 決済プロバイダーは、企業にサービスを提供しその企業が顧客にサービスを提供する、B2B2C モデルを採用することが増えています。このモデルにより、市場でのリーチと拡張性が増大します。
このようなトレンドは、あらゆる規模の企業にとって朗報です。クロスボーダー決済がより速く、より安く、より透明性が高く、よりアクセスしやすくなる未来が示唆されているからです。
革新的なリアルタイム B2B クロスボーダー決済
ここでは、リアルタイム B2B クロスボーダー決済のどこが革新的なのか、主要ポイントをいくつかご紹介します。
リアルタイム決済ネットワーク: アメリカの FedNow やイギリスの Faster Payments などのリアルタイム決済ネットワークにより、ほぼ瞬時にクロスボーダー取引を行えるため、従来のコルレス銀行業務に伴う遅延が軽減されます。
ブロックチェーンと分散型台帳技術 (DLT): RippleNet や IBM Blockchain World Wire などの決済プラットフォームは、DLT を使用して、安全で透明性が高く、不変の決済台帳を作成します。これらの台帳により、仲介者が不要になり、決済時間が短縮され、取引コストが削減されます。
API 主導型プラットフォーム: API により、さまざまな決済システム、銀行、金融機関が連携され、より迅速で効果的なデータ交換、自動照合、簡素化された決済フローが可能になります。Visa B2B Connect などの API 主導のプラットフォームを使うと、リアルタイムクロスボーダー決済がより可視化され、制御しやすくなります。
人工知能 (AI) と機械学習 (ML): AI と ML は、ルーティングを最適化し、不正利用を検出し、リスクをリアルタイムで管理します。これらのテクノロジーは、膨大な量のデータを分析してパターンや異常を特定できるため、意思決定が迅速になり、エラーや遅延の可能性が低くなります。
エンベデッドファイナンス: エンベデッドファイナンスは、金融サービスをビジネスプロセスやプラットフォームに直接連携します。これにより、企業は既存のワークフロー内でクロスボーダー決済を開始および受け取ることができるため、個別の銀行システムが不要になり、支払いプロセスの摩擦が軽減されます。
多通貨ウォレットと口座: 複数通貨対応のデジタルウォレットと口座を持てば、クロスボーダー決済がシンプルになります。企業は異なる通貨で資金を保有・管理できるため、頻繁に両替する必要がなくなり、為替変動のリスクにさらされにくくなります。
クロスボーダー決済関連のクラウドテクノロジーの進歩
クラウドテクノロジーの進歩により、クロスボーダー決済はより速く、より安全に、よりアクセスしやすくなりました。ここでは、クラウドテクノロジーがクロスボーダー決済をどのように変革しているかをご紹介します。
イノベーションとコラボレーション: クラウドは、イノベーションを進めやすくコラボレーションをしやすい環境を作り出します。フィンテック企業や従来の金融機関は、クラウドプラットフォーム上で新しいソリューションを迅速に開発し、展開することができます。また、クラウドテクノロジーにより、さまざまな法人が共有プラットフォームやデータセットで連携することもできます。
拡張性と柔軟性: クラウドプラットフォームは大幅に拡張できるため、金融機関や決済代行業者は、大規模なインフラ投資をすることなく、量が増え得続けている取引を処理できます。柔軟性が高いため、特に取引量が休日やその他のピーク時に急増するという場合の、処理に役立ちます。
セキュリティ: 最新のクラウドプラットフォームは、暗号化、多要素認証、継続的な監視といった、強力なセキュリティ対策を備えています。これらの対策は、機密性の高い財務データを侵害や不正利用から守るのに役立ちます。
リアルタイム処理: ラウドテクノロジーは、高速インターネット接続と強力な処理能力により、国際取引の決済時間を短縮します。その結果、企業は数日ではなく数分で国境を越える資金送金を行えます。
コスト効率: クラウドサービスを利用する金融機関では、物理的インフラへの投資額が減り、メンテナンスコストも低く抑えられます。この運営面での節約により顧客も、国際取引の手数料の引き下げという形でメリットを得られます。
相互運用性: クラウドベースのシステムは、さまざまな国のさまざまな銀行システム、決済ネットワーク、規制枠組みと連携されています。この相互運用性により、複数の銀行や管轄区域を経由する決済の移動がシンプルになり、エラーや遅延が減ります。
高度な分析と AI: クラウドプラットフォームには、多くの場合、高度な分析機能と AI 機能があります。これらのツールでは、不正利用を検出、取引パターンを予測し、支払いのトレンドに関するインサイトを得ることができます。高度な分析で不審な行動を自動的に検出することで、規制要件にもよりよく準拠できます。
法規制の遵守: クラウドサービスプロバイダーは、多くの場合、国際的な規制を遵守するためのツールやフレームワークを用意して、金融機関を支援します。具体的には、データ所在地ソリューション、法令遵守レポート、安全な取引記録ストレージなどが挙げられます。
顧客体験: クラウド技術により決済サービスプロバイダーは、よりユーザーが使いやすい仕様を提供できます。リアルタイムの支払い追跡、即時通知、手軽にアクセスできる支払い履歴などの機能により、透明性が向上し、顧客と信頼関係を築けます。
世界規模のアクセシビリティ: クラウドテクノロジーにより、企業や個人は世界中のどこからでも決済サービスにアクセスできます。国際的に市場を拡大しようとしている中小企業 (SME) は、特にこのアクセスの恩恵を受けています。
災害復旧と事業継続性: クラウドプラットフォームは、強力な災害復旧ソリューションと事業継続性ソリューションを提供します。万が一、システム障害や自然災害が発生した場合でも、クロスボーダー決済サービスを中断することなく、データやサービスを迅速に復旧させることができます。
グローバル取引関連の規制や税金への対処方法
ここでは、クロスボーダー取引にかかわる規制や税金に対処するときのヒントをいくつか紹介します。
規制
自分の義務を知る: 各国には、金融取引に関する独自のルールがあります。多くの場合、マネーロンダリングやテロ資金供与などの違法行為を防ぐ目的で、制裁、EU の一般データ保護規則(GDPR) などのデータ保護法、およびマネーロンダリング防止 (AML) 規制などが定められています。貴社および関係する国に適用される具体的な規制を調査してください。
専門家と提携する: 国際取引を専門とする法律および金融の専門家に相談してください。法令遵守の問題を解決し、税効率の高い方法で事業構造を設定するサポートが得られます。
テクノロジーを使う: 最新の決済プラットフォームやソフトウェアソリューションの多くには、法令遵守機能が組み込まれています。これらのツールは、取引の潜在的な問題について自動的に精査し、レポートを生成し、必要なあらゆるドキュメントを追跡するのに役立ちます。
税金
租税条約を理解する: 租税条約は、クロスボーダー所得への課税方法を決定する国家間の協定です。これらの条約により、税率の軽減や特定種類の所得の免税といった利点が得られます。これらの条約が、貴社および取引にどのように適用されるかを理解しましょう。
前もって計画を立てる: 国際税務を専門とする税理士や会計士と提携して、全体的な税負担を法的に最小限に抑える戦術を開発します。たとえば、ビジネス構造を見直したり、業務を行う特定の場所を選択したり、戦略的に取引のタイミングを計ったりできます。
詳細な記録を保持する: 国際取引に関連するすべての収入、支出、資産、負債の詳細な記録を保管します。記録を整理することで、納税申告書の提出、監査への対応、罰則の回避がスムーズになります。
移転価格: 複数国で事業を展開している場合は、移転価格税制を調査してください。これらのルールは、企業のさまざまな部門間で転送される商品やサービスの価格設定に関する規定です。企業が人為的に低税率な管轄区域に利益を移転することを、防止するのが目的です。
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