安全で効率的な統合型決済体験を提供するには、企業、特に複数のチャネルで売上を処理している企業が、決済業界のエコシステムを理解する必要があります。
決済体験を最適化すると、顧客満足度が向上するだけでなく、企業の収益や成長見通しにも影響を与えます。決済システムが効率的だと、決済を受け付けられる市場が増えるだけでなく、業務コストの削減やキャッシュフロー管理の改善にも役立ちます。
このガイドでは、決済業界のエコシステムに関する洞察を提供することで、あらゆるチャネルにおける顧客体験を向上させる優れた決済戦略を企業が策定できるようにします。
この記事の内容
- 決済業界のエコシステム
- 決済業界の動向と予測
- 企業と決済業界のエコシステムの連携方法
決済業界のエコシステム
決済業界のエコシステムとは、商品やサービスを介して金銭的価値の交換を促進する利害関係者、テクノロジー、プロセス、規制から成る複雑なネットワークのことをいいます。エコシステムは、顧客、企業、金融機関の間で安全、効率的、シームレスな取引を可能にする仕組みづくりがなされています。
決済業界のエコシステム内では、カード発行会社、アクワイアリング銀行、決済代行業者、ペイメントゲートウェイ、決済ネットワークが協力して円滑な運営を確保しています。エコシステムは、非接触型決済やデジタルウォレット、リアルタイム取引など、新たなトレンドやテクノロジー、顧客の嗜好に常に適応し、なおかつそれらを取り込んでいます。加えて、金融システムの完全性と安定性を維持するために、コンプライアンス、セキュリティ、および消費者保護対策に力を入れている世界各地の規制機関の指導の下、エコシステムは運営されています。
主要関係者
決済エコシステムは、以下を代表とする複数の構成要素と参加者で構成されています。
顧客
顧客とはもちろん、決済サービスを利用して商品の購入、請求書の支払い、または資金の移動を行う個人または組織を指します。企業
企業は、オンライン / 対面を問わず、商品やサービスの支払いを受け付けます。決済ネットワーク
決済ネットワークは、カードネットワークまたは決済スキームとも呼ばれ、決済エコシステム内の異なる関係者間の電子取引を促進するシステムです。これらは、クレジットカードやデビットカード、デジタルウォレットでの取引など、支払いを処理するために必要なインフラ、ルール、基準を提供・定義しています。代表的な決済ネットワークの例として、Visa、Mastercard、アメリカン・エキスプレス、ディスカバーなどがあります。カード発行会社
カード発行会社は、クレジットカードやデビットカードなどの決済カードを顧客に提供する金融機関です。カード発行会社は、カードに関係する信用リスクの評価、カード保有者の与信限度額の設定、カード保有者の口座管理を担当します。また、決済プロセスにおいて取引を承認し、資金に対する責任を引き受けるなど、決済エコシステム内で重要な役割を果たしています。アクワイアリング銀行
アクワイアリング銀行 (別名: マーチャントバンク、アクワイアラー) は、クレジットカード / デビットカード取引の電子決済を処理するために企業と提携している金融機関です。アクワイアリング銀行は、加盟店口座の開設および管理、取引の決済、カード保有者の口座から企業の口座への送金を代理し、電子決済の受け入れ体制を整えています。電子取引の円滑な処理と決済を保証するという目的において、アクワイアリング銀行は決済エコシステムにとって必要不可欠な存在です。決済代行業者
決済代行業者は、企業とそのアクワイアリング銀行に代わって電子決済取引プロセスを管理する組織です。カード発行会社、アクワイアリング銀行、企業の三者間で発生する取引のオーソリ、清算、決済について、その技術的側面を処理します。決済代行業者は、クレジットカード、デビットカード、モバイルウォレットなど、さまざまな形態の電子決済を企業が受け付けられるようにしており、決済エコシステムにおいて重要な役割を果たしています。ペイメントゲートウェイ
ペイメントゲートウェイは、電子取引において企業、決済代行業者、アクワイアリング銀行間の決済情報を伝達するデジタルサービスです。これらは、企業のウェブサイトまたは販売時点情報管理 (POS) システムと決済代行業者をつなぐブリッジとして機能します。ペイメントゲートウェイは、決済エコシステムの重要な一要素であり、機密性の高い決済データの安全な交換を保証し、オンライン取引および店頭取引のオーソリ、キャプチャー、決済を容易にする役割を担っています。加盟店サービスプロバイダー (MSP)
MSP は、企業が電子決済を受け入れ、処理するためのさまざまなサービスを提供している組織です。アクワイアリング銀行と緊密に協力し合うことが多く、ペイメントゲートウェイ、POS システム、不正防止などの追加サービスも提供していたりします。MSP が一般的に提供しているのは、ビジネスや業界のニーズに合わせたさまざまな決済ソリューションです。独立販売組織 (ISO)
ISO は、企業とアクワイアリング銀行の間の仲介役を務める第三者組織です。アクワイアリング銀行または決済代行業者を代理して、加盟店口座および決済処理サービスを販売する責任を担います。ISO は通常、企業にサービスを販売する販売代理店または再販業者のネットワークを持ちます。また、POS システム、ペイメントゲートウェイ、ビジネス管理ツールなどの付加価値サービスを提供している場合もあります。ISO は、Visa や Mastercard などの決済ネットワークの規制下にあり、ステータスを維持するために特定のコンプライアンス基準を満たすことを義務づけられています。ペイメントファシリテーター (Payfac)
決済サービスプロバイダー (PSP) とも呼ばれる Payfac は、企業がアクワイアリング銀行や専用の加盟店口座と直接関係を持つことなく電子決済を受け付けられるようにする、仲介的役割を担う組織です。Payfac は複数のビジネスを一つのマスター加盟店口座にまとめることで、オンボーディングプロセスの簡素化と、企業コストの削減に貢献しています。また、取引のオーソリ、決済、不正管理など、決済処理のさまざまな側面で活躍しています。規制機関
決済業界のエコシステムにおける規制機関とは、決済業界の完全性、セキュリティ、効率性を維持するための規則や規制を作成・施行する政府機関または組織のことを指します。金融活動作業部会 (FATF)、米消費者金融保護局 (CFPB)、欧州中央銀行 (ECB)、英金融行動監視機構 (FCA)、欧州銀行監督局 (EBA)、金融システムのグリーン化ネットワーク (NGFS)、各国の中央銀行など、世界各地の規制機関が決済業界に影響を与えています。これらの組織は、基準の設定、コンプライアンスの徹底、安全で安定した金融エコシステムの確保など、決済業界の形成において中心的な役割を果たしています。
これらのさまざまな構成要素が連携し合うことで、カード提示 / 非提示取引やデジタルウォレット取引など、さまざまな取引の利用が実現しています。決済業界のエコシステムは、技術の進歩、顧客行動の変化、規制の変化を基に常に適応を続けており、その一方で、新たな決済手段、サービス、ビジネスモデルを生み出す場となっています。
決済エコシステムで決済が処理される仕組み
決済処理エコシステムは、それぞれの関係が複雑に入り組むネットワークであり、そこではシームレスかつ安全な取引の実現に取り組む関係者が共に協力し合っています。「エコシステム」という言葉が示すように、それぞれの関係や機能は相互に作用しています。ここでは、これらの関係者が決済処理においてどのように関わりあっているかを概説します。
- 顧客:顧客がクレジットカード、デビットカード、デジタルウォレットなどの決済手段を使用して購入することを決定したタイミングで決済処理のプロセスが開始します。
- 企業:顧客は、物理的な POS 端末でカードをスワイプ、ディップ、またはタップするか、オンラインでカード情報を入力するか、デジタルウォレットを使用するなどして企業に決済手段を提示します。
- ペイメントゲートウェイ:オンライン取引において、ペイメントゲートウェイは、企業のウェブサイトやアプリから決済代行業者に決済情報を安全に伝達します。
- 決済代行業者:決済代行業者は取引の詳細を受け取った後、オーソリを担当する決済ネットワーク (Visa、Mastercard、アメリカン・エキスプレスなど) に取引情報を転送します。また、決済代行業者は、不正リスクやセキュリティ・コンプライアンスのチェックも担当しています。
- 決済ネットワーク:決済代行業者から送られた取引情報が決済ネットワークで受信されると、オーソリのためにカード発行会社に情報がルーティングされます。
- カード発行会社:カード発行会社によって取引の詳細 (カード保有者の口座残高など) が確認されます。この情報を基に、カード発行会社は取引を承認または拒否し、その決定を決済ネットワークに送り返します。
- 決済ネットワーク:カード発行会社から回答を受信すると、決済ネットワークは承認または拒否のメッセージを決済代行業者に転送します。
- 決済代行業者:決済代行業者は、決済ネットワークから回答メッセージを受信し、直接またはペイメントゲートウェイ (オンライン取引の場合) を介して企業に送信します。
- 企業:企業はオーソリの回答を受信し、その結果を基に取引を完了します。取引が承認された場合、企業は商品またはサービスを顧客に提供します。承認された取引は、後に売上処理が行われる取引バッチに追加されます。
- 売上処理:営業終了時または所定期間の終了時に、企業は承認された取引のバッチを決済代行業者に送信して売上処理を行います。決済代行業者はバッチを決済ネットワークに転送し、決済ネットワークは各取引を対応するカード発行会社にルーティングします。
- カード発行会社とアクワイアリング銀行:カード発行会社は、承認された取引の売上をアクワイアリング銀行に送金します。このプロセスは通常 1〜3 営業日かかります。その後、アクワイアリング銀行は、売上から手数料を差し引いて企業の口座へと入金します。

決済処理の過程で各関係者は、取引が迅速かつ安全になされ、さらに業界標準や規制に従っていることを保証した上で、それぞれの役割を果たしています。決済エコシステムが円滑に機能するためには、これらの関係者間の協力が不可欠です。
決済業界の動向と予測
ここでは、決済業界の現状、および今後に影響を与える主な動向について企業が知っておくべきことをご紹介します。
市場勢力図
決済業界は競争が激しく、銀行や決済ネットワークなどの昔ながらの関係者と、フィンテック企業や大手テクノロジー企業が市場シェアを奪い合っています。この競争によりイノベーションが進み、顧客体験の向上に焦点が当てられるようになりました。企業はこれをうまく利用して、競争力のある価格設定、強力なテクノロジー、優れた顧客サポートを提供する決済パートナーを選ぶ必要があります。
非接触型決済
近年、タッチ決済に対応したクレジットカードやデジタルウォレットなどの非接触型決済の需要が、利便性、スピード、清潔さを求める顧客の声に後押しされ大きく伸びています。企業は非接触型決済ソリューションに引き続き投資し、顧客の好みに対応しながら、ショッピング体験全体を向上させる必要があります。
小売チャネルの統合
顧客がすべてのチャネルでシームレスな体験を期待するようになり、オンラインショッピング、実店舗での買い物、モバイルショッピングの境界線が曖昧になりつつあります。企業は販売チャネル、在庫管理、決済システムを統合し、ユニファイドコマース体験を生み出すことに注力すべきです。これにより顧客体験が向上するだけでなく、業務が効率化され、データに基づく意思決定が容易になります。
デジタルウォレット
Apple Pay、 Google Pay、Samsung Pay など、デジタルウォレットの普及が進み、スマートフォンを利用して取引を行う顧客が増えています。企業はデジタルウォレット決済を確実に受け付けることで、このような顧客層の拡大に対応し、スムーズな決済体験を提供する必要があります。
仮想通貨
ビットコイン、イーサリアム、ステーブルコインなどの仮想通貨を決済に利用する動きは、他のトレンドに比べるとペースは遅いものの拡大しています。仮想通貨に関する規制環境や一般的な認識が進化する中、テクノロジーに精通している顧客や、海外に顧客がいる企業の場合は特に、仮想通貨を決済手段として受け付ける準備を整えておく必要があります。
生体認証
指紋スキャン、顔認識、音声認識などの生体認証方式が、支払いのオーソリに使用されることが増えています。こうしたテクノロジーはセキュリティを強化し、不正利用のリスクを低減します。企業は対面取引で生体認証を採用することを検討し、オンラインおよびモバイル決済に応用する可能性を探る必要があります。
モノのインターネット (IoT) 決済
IoT デバイスの普及に伴い、車内決済が可能なコネクテッドカーや、商品の注文と決済を自動的に行うスマート家電など、新たな決済機会が生まれています。企業は関連する IoT 決済の機会を探り、この新たな動向を受け入れる準備を整える必要があります。
AI と機械学習
決済業界では、AI と機械学習が不正利用の検出、リスク管理、顧客体験のパーソナライズに広く利用されています。企業はこうしたテクノロジーを活用することで決済プロセスを強化し、不正利用を減らし、顧客の行動を的確に把握する必要があります。
クロスボーダー決済と送金
EC ストアや国際取引の拡大に伴い、低コストで効率的なクロスボーダー決済に対する需要が高まっています。企業は、クロスボーダー取引に対応し、国際決済特有の課題や規制要件を理解している決済代行業者と連携する必要があります。
リアルタイム決済
即座に売上を送金できるリアルタイム決済システムは、スピードと利便性に対する顧客の需要に後押しされ、一般的になりつつあります。企業は各市場におけるリアルタイム決済への取り組みを認識し、顧客体験の向上とキャッシュフローの合理化を実現するためにも導入を検討すべきです。
企業と決済業界のエコシステムの連携方法
ビジネスで決済エコシステムを最大限に活用するには、以下のステップを検討します。
ビジネスニーズと目標の評価
まずは対象となる顧客層、販売チャネル、平均取引額、予想される決済額など、ビジネス独自の要件を分析します。成長計画や新しい市場またはチャネルへの進出の可能性について検討してください。支払いオプションの調査
さまざまな支払い方法 (クレジットカード、デビットカード、モバイルウォレット、銀行振込など) を評価し、顧客層とビジネスモデルに最も関連しているものを特定します。国際市場にサービスを提供する予定がある場合は、複数の通貨とクロスボーダー決済機能に対応することを検討します。加盟店サービスプロバイダーの選択
連動する広範な決済ソリューションを提供する包括的な加盟店サービスプロバイダーを探してください。Stripe のようなプロバイダーは冗長性を減らしながら、決済を効率化し、シームレスな顧客体験を提供します。統合とカスタマイズ
Stripe が提供する API と開発者ツールにより、決済処理ソリューションを、既存のウェブサイト、モバイルアプリ、POS システムに簡単に統合できます。これにより決済体験を自社ブランドに合わせてカスタマイズし、すべてのチャネルで一貫したユーザーインターフェースを提供することができます。不正防止
不正防止を優先するプロバイダーと連携することで、顧客データのセキュリティを確保し、顧客からの信頼を維持できます。たとえば、Stripe Radar の高度な機械学習アルゴリズムとセキュリティ機能は、不正使用取引からビジネスを保護するのに役立ち、チャージバックとそれに伴うコストを削減します。拡張性と柔軟性
決済処理のニーズは、ビジネスの成長に伴って変わる可能性があるため、今だけでなく将来にわたって顧客をサポートできる決済処理プロバイダーを探してください。Stripe の決済ソリューションスイートは、顧客のビジネスに合わせて拡張できるように設計されており、請求書発行、サブスクリプション管理、マーケットプレイスでのペイメントファシリテーションなど、必要に応じて追加の機能やサービスを提供できます。レポートと分析
確かな戦略の中心となるのがデータに基づく学習です。このことからも、決済のパフォーマンスの監視、動向の特定、データに基づく意思決定による決済戦略の最適化を支援する、包括的なレポート / 分析機能を提供するプロバイダーを見つけたいものです。顧客サポート
統合プロセス中やサービス利用中に発生する可能性のある問題や懸念に対処できるように、選択した加盟店サービスプロバイダーが、迅速で信頼できる顧客サポートを提供していることを確認してください。規制への準拠
加盟店サービスプロバイダーによって法令遵守に関するサポートのレベルは異なるため、必要なものを提供してくれるプロバイダーを選んでください。Stripe の決済ソリューションは、PCI データセキュリティ基準 (PCI DSS) や一般データ保護規則 (GDPR) などの規制への準拠に対応するよう設計されており、このような複雑な要件を社内で管理する負担を減らすうえで役立ちます。コスト分析
さまざまな加盟店サービスプロバイダーの価格と手数料体系を比較し、予算と取引量に合ったものを見つけてください。Stripe の価格モデルについては、こちらを参照してください。
Stripe のような包括的な加盟店サービスプロバイダーと連携すると、決済の効率化、重複の削減、不正利用からの保護を実現するユニファイドコマース体験を構築することができます。このアプローチは、成長企業の幅広いユースケースに対応し、複数のチャネルや市場にわたり、顧客からの決済を効率的に受け付けて処理することができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。