ソフトウェアサービスの料金を設定する際には、利用者が考えるサービスの価値を料金に反映させる必要があります。利用者は料金と引き換えに受け取るサービスの価値を理解しているため、利用者に納得して支払っていただける料金を設定しなければなりません。価値に応じた料金設定は、利用者にとって有益であるだけでなく、ビジネスの成長にも有効です。しかし、2021 年の調査では、価値に応じて料金を設定しているのは SaaS (Software-as-a-Service) 企業の 39% にとどまり、27% は社内で判断する、24% は競合他社の料金体系に従うという結果になりました。
SaaS ビジネスは、さまざまな利用者セグメントのニーズに応じて柔軟に料金を設定する必要があります。料金を適正に設定することにより、定着する利用者が増えます。料金体系モデルが適正でないと、購入完了率が減少する可能性があります。
サービスの料金体系を決めるには、自社がどのように差別化されているのか、利用者にとっての価値とは何なのか、利用者は自社のどのサービスをどのように利用するのかを理解する必要があります。市場の最新動向を常に監視し、サービスの成長や変化とともに料金を変更できるようにしておく必要もあります。ここからは、さまざまな SaaS 料金体系モデルを比較し、モデルの仕組みと、最適なモデルを選択する方法について説明します。
この記事の内容
- SaaS 料金体系モデルの種類
- SaaS 料金体系モデルの仕組み
- SaaS 料金体系モデルとほかの料金体系モデルの違い
- 自社の SaaS ビジネスに最適な料金体系モデルを選択する方法
- ビジネスの SaaS 料金体系ベストプラクティス
SaaS 料金体系モデルの種類
SaaS (Software-as-a-Service) の料金体系モデルとは、SaaS ビジネスがオンラインサービスの料金請求に用いることができるさまざまな方法です。モデルごとに固有の論理があり、モデルごとに適しているサービスや利用者のニーズは異なります。ここでは、最もよく見られる種類の概要を説明します。
サブスクリプションモデル
サブスクリプションモデルは、ビジネスと利用者のどちらにもわかりやすいため、人気があります。利用者はソフトウェアアプリケーションにアクセスするための定額料金を定期的に支払います。大抵の支払い頻度は、月次または年次です。利用者は支払額をあらかじめ把握できますし、企業は安定した収益を期待できます。従量課金モデル
従量課金ベースモデルでは、利用者がサービスをどれだけ利用したかによって、料金が決まります。携帯電話の従量課金制のようなものだと考えてください。このモデルは、使った分だけ支払いたい利用者を引き付け、会社の顧客基盤を拡大させることができます。段階制料金
このモデルでは、さまざまな機能と料金による多種多様なパッケージが用意されています。この方法では、個人から大企業まで、さまざまなユーザーグループが、ニーズと予算に最も適したパッケージを柔軟に選択できます。フリーミアムモデル
このモデルでは、ソフトウェアの基本機能を無料で提供し、高度な機能や追加サービスは有償で提供します。これは、利用者に金銭的な負担を求める前に、製品へのロイヤルティを養うのに有効な方法です。ユーザー単位の料金体系
ユーザー単位の料金体系では、ユーザーが 1 人増えるごとに料金が引き上げられます。このモデルは、ソフトウェアを利用するチームメンバーが増えるほど、ソフトウェアの価値が高まる B2B サービスに適しています。定額制モデル
定額制の料金体系モデルはシンプルさを特徴としており、1 つの製品に対する料金は 1 種類です。これは稀なモデルです。さまざまな利用者ニーズには応えられませんが、その会社がシンプルであることを優先し、自社の製品に自信を持っているということを強く表明することができます。
これらのモデルは、それぞれに固有の長所があり、さまざまな利用者の選好と使用パターンに対応しています。SaaS 企業に必要なのは、会社が利用者に提供する価値に料金体系モデルを適合させることです。サービスの価値を料金に反映させるだけでなく、利用者が認識しているサービスの価値に見合う料金を設定します。
SaaS 料金体系モデルの仕組み
SaaS が作成する料金体系モデルは、ビジネスを継続できるだけでなく、利用者に適正であると納得してもらえるものである必要があります。それが長期にわたるロイヤルティと成長につながります。ここからは、SaaS ビジネスが料金体系を決定する方法について説明します。
コスト分析
最初のステップは、サービス提供に関連するコストの徹底調査です。これには、サーバーの費用、ソフトウェアのメンテナンス、更新、カスタマーサポートが含まれます。それらのコストを賄えるだけでなく、利幅も残るように料金を設定します。価値の評価
次は、利用者にとってのサービスの価値を評価します。サービスの機能、サービスが解決する問題、サービスが利用者の効率をどれだけ高めることができるのかを検討します。利用者が納得して支払う金額は、この価値の認識に影響されます。市場調査
次に、競合他社の動向を理解するための市場調査を実施します。類似サービスの料金を評価して、自社のサービスがその範囲に当てはまるかどうかを判断します。料金が高すぎても低すぎても致命傷になる場合があります。料金体系の選択
利用者の使用パターンと選好に適合した料金体系を決めます。利用者の成長に合わせた段階制モデルであっても、利用者チームのサイズに合わせて拡大縮小するユーザー単位モデルであっても、料金体系には利用者がサービスから得られる価値が反映されている必要があります。調整と柔軟性
SaaS の料金体系は不変ではありません。市場の変動や、新機能のリリース、利用者からのフィードバックの変化に応じて、調整を続けます。見直しや調整を繰り返し行うことで、適正で競争力のある料金体系を維持できます。透明性とコミュニケーション
料金体系と変更内容を明確に伝えます。利用者に料金の対価と理由を理解してもらうことが評価につながりますので、この情報をわかりやすく伝えることは、有効な料金体系戦略の一環です。
SaaS 料金体系モデルとほかの料金体系モデルの違い
ソフトウェアの請求方法は大きく変わりました。製品に対する一括請求ではなく、サブスクリプションで継続アクセスとサポートを提供するようになりました。この方法の場合には、POS だけでなく、長期にわたって利用者を満足させる必要があります。サブスクリプションモデルが際立っている理由を見てみましょう。
顧客生涯価値
SaaS は顧客関係のライフサイクル全体を重視するモデルです。その目的は、利用者が長い時間をかけて受け取る価値を最大化することで、継続利用を促進し、アップセルの機会を創出することです。この長期的な視点は、料金体系や、サービスのマーケティングと販売の手法に影響します。データに基づく料金体系戦略
SaaS モデルを導入している企業は、豊富な利用者データを料金体系に関する判断に役立てることができます。利用者がソフトウェアをどのように使用し、どの機能が最も使用されて高評価を得ているのかを追跡できます。このデータを活用することで、実際の使用パターンに合った精密な料金体系戦略を立てることができます。これは従来の販売モデルではほとんど不可能でした。利用者との関係は最初の販売後に大抵終わってしまうからです。動的な料金体系の柔軟性
SaaS 企業は、リアルタイムの市場フィードバックと利用者データを基に、料金体系を頻繁に調整できます。従来のモデルでは、実際のパッケージの変更や、長期の更新サイクルを経て、料金体系を変更することができますが、SaaS 企業は市場の需要や戦略の変更に応じて料金設定を迅速に繰り返すことができます。業務コスト
SaaS の経常収益モデルでは、堅実な利幅を長期間維持するために、業務コストを慎重に管理する必要があります。クラウドサービスを使用するのか、それとも自社サーバーを運用するのかといった、インフラストラクチャーへの投資に関する戦略上の決定が含まれ、これが収益性に大きく影響する場合があります。解約率と顧客維持率
解約率は SaaS の料金体系戦略にとって重要な指標です。その目的は、サービスの価値全般を維持しながら、解約を減らす料金を設定することです。このバランスは複雑であり、料金体系が原因で解約が発生しないように、微調整を続ける必要があります。価値提案との適合
SaaS 企業は、サービスの価値提案を料金体系モデルでわかりやすく伝える必要があります。そのために、利用者が認識している価値がはっきりとわかり、ソフトウェアが解決する問題に機能が適合するように、機能のバンドルを構成することがよくあります。サービスの進歩に伴う収益化
SaaS 製品が進歩するにつれて、新しい機能とサービスを料金体系モデルで収益化する必要があります。ただし、元のサブスクリプションレベルで提供されている機能に慣れた既存の利用者を失わないようにしなければなりません。
自社の SaaS ビジネスに最適な料金体系モデルを選択する方法
ソフトウェアサブスクリプションサービスの料金体系の選択は複雑で、製品と利用者をよく理解したうえで決定する必要があります。ここからは、最適な料金体系戦略を見つけるのに役立つガイドを紹介します。
製品価値を評価する
はじめに、提供する製品と、その製品が利用者に提供する具体的な価値を評価します。利用者が最も使用し評価している機能を見つけて、それらの使用パターンに料金体系モデルを適合させます。たとえば、幅広い機能が製品の価値であるとすれば、段階制の料金体系モデルが最適である可能性があります。利用者セグメントを理解する
潜在顧客基盤をセグメントに分けて、セグメント別にニーズと価値を把握します。予算が限られているスタートアップと大企業とでは、ニーズや価格感応性が異なります。さまざまなセグメントに有効に対応する必要があるため、利用者に応じて拡大や縮小が可能な段階制の料金体系モデルを適用できます。競合他社の料金体系を分析する
直接の競合他社や、類似するサービスプロバイダーが、製品に対する料金をどのように設定しているのかを調査します。そうすることで、市場標準を理解して、自社製品に固有の価値提案がわかるようになり、他社に負けない料金設定が可能になります。市場ポジションとブランディングを評価する
高級サービスを提供している会社なのか、コスト効率のよいサービスを提供している会社なのかを考慮して、市場における自社全体のブランディングとポジショニングに適合する料金体系モデルを選びます。コストと利幅を考慮する
サービスの提供コストと、目標とする利幅を考えます。料金体系モデルはビジネスを維持し、成長を促すものでなければなりません。目的は収益性であり、サービスの質とコストを料金体系に反映させる必要があります。モデルを試す
さまざまな料金体系モデルを恐れずに試してから 1 つ選びましょう。顧客基盤のさまざまなセグメントを対象に、各種モデルの A/B テストを実施することで、導入率と収益を最大化する方法についての貴重なインサイトを得られます。進歩に向けて計画する
自社のサービスと市場が成熟するにつれて、料金体系モデルも進歩する必要があります。ビジネスが拡大し、利用者のニーズが変化するにつれて、モデルをどのように調整するのかを検討します。
ビジネスの SaaS 料金体系ベストプラクティス
SaaS 料金体系の目的は、請求額を決めるだけではなく、料金体系戦略を策定して実施することでもあります。効果的な料金体系戦略であれば、満足した利用者を維持し、決済プロセスでの摩擦を最小限に抑えることができます。これを実現するためのベストプラクティスをここでいくつか紹介します。
単純明快な料金体系を作る
シンプルで理解しやすい料金体系を維持します。料金体系が複雑であると、潜在顧客は困惑して、躊躇するか、関心を失ってしまう可能性があります。各料金には何が含まれているのかを明確に定義し、信頼と満足感を低下させる可能性がある隠し料金は避けましょう。利用者にとっての価値に見合う料金を設定する
利用者がサービスから得られる価値を反映するように料金を設定します。つまり、利用者の視点からメリットを理解して、利用者の期待と利用者が得る結果に見合う料金を設定します。料金体系を繰り返し見直して現状に適応させる
市場と製品が変化したら、料金体系も変化する必要があります。繰り返し見直すことで、新機能やコスト変動、競合圧力、利用者の需要と使用パターンに基づいて、料金を調整できます。明確に伝える
料金を変更する際には、利用者に明確に伝えます。料金引き上げや料金体系変更の理由を説明し、変更が適用されるまでの時間を十分に確保して、利用者に知らせます。価値に応じたアップセルを促進する
明確な価値提案を付けることで、アップグレードやアップセルを促進します。上の料金階層への移行や追加機能の購入による直接のメリットを利用者に説明します。データに基づいて決定する
利用者の使用データを分析して、料金体系戦略に活用します。最も使用されている機能と、最も使用されていない機能を見つけて、料金体系をどのように調整すれば導入と収益が増えるのかを考えます。適正な料金を設定する
利用者への搾取が生じないよう、適正な料金を設定します。料金を適正に設定することにより、長期の関係と顧客ロイヤルティを育むことができます。これはサブスクリプションの更新に依存する SaaS 企業にとって極めて重要です。
SaaS ビジネスのカスタマイズ可能な動的請求モデルは、Stripe で実現できます。その方法の詳細をぜひご確認ください。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。