金融サービス業界は劇的な変化を遂げており、特にサービスとしてのバンキング (BaaS) の台頭が顕著です。BaaS により、フィンテック企業、保険会社、大手小売業者などのノンバンクが、バンキング商品・サービスを提供できるようになりました。これまで銀行が支配してきた分野に、これらの企業が参入しています。顧客と企業の両方に対して、特にサービスが行き届いていない人々に向けて、金融サービスにアクセスするための間口を広げています。より多くのノンバンクがバンキング商品・サービスの連携を検討しており、世界の BaaS 市場は 2023 年の約 6,150 億米ドルから 2024 年には 7,310 億米ドル以上に成長すると予想されています。
以下では、BaaS の仕組み、ノンバンクが提供できるバンキングサービスの種類、そのメリットと課題について説明します。
この記事の内容
- サービスとしてのバンキング (BaaS) とは
- BaaS によりノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する方法
- ノンバンクがよく提供しているバンキング商品・サービス
- バンキング商品・サービスを統合するノンバンクの種類
- ノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する方法
- ノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する際の課題
サービスとしてのバンキング (BaaS) とは
BaaS は、免許のある銀行やその他の金融機関が、バンキングのインフラ、商品、サービスをアプリケーションプログラミングインターフェイス (API) を介して、ノンバンクに提供するモデルです。これらのノンバンクは、銀行業の免許がなくても、BaaS により顧客に直接金融サービスを提供できます。
BaaS によりノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する方法
BaaS は、規制がある銀行業界をノンバンクと結び付けます。ノンバンクは、免許のある銀行のインフラと専門知識を活用しながら、改善、顧客体験、市場拡大に注力することができます。BaaS の仕組みは次のとおりです。
API の連携: BaaS プロバイダー (通常は免許のある銀行) は、API を通じてコアバンキングのインフラと機能を共有します。ノンバンクは、これらの API を独自のプラットフォームに連携させることで、口座開設、支払い、送金、融資などのバンキングサービスにアクセスできます。この連携により、ノンバンクはバンキングサービスを自社のアプリケーションやウェブサイト内で直接提供し、ユーザー体験を向上させることができます。
ホワイトラベルソリューション: BaaS プロバイダーはホワイトラベルソリューションを有していることが多いため、ノンバンクは金融サービスを独自のものとしてブランド化できます。これにより、ノンバンクは銀行のインフラを利用しながら、顧客との関係や顧客体験をコントロールできます。
法規制の遵守: 銀行は、金融サービスの複雑な規制と法令遵守という側面に対処しています。ノンバンクは BaaS プロバイダーと提携することで、自分で銀行業免許を取得したり、関連する規制上の制約を克服したりする必要がなくなります。
スピードと敏捷性: BaaS により、ノンバンクは迅速かつ効率的に金融サービスを立ち上げることができます。その結果、ノンバンクは、銀行業務の複雑さではなく、中核となる能力と顧客体験に集中できます。
柔軟性とカスタマイズ: BaaS プロバイダーは、多くの場合、さまざまなモジュール式サービスを備えているため、ノンバンクは必要な特定の機能を選択して組み合わせることが可能です。この柔軟性により、ノンバンクは金融商品・サービスをターゲット市場に合わせてカスタマイズし、競合他社から差別化を図ることができます。
ノンバンクがよく提供しているバンキング商品・サービス
ここでは、ノンバンクが一般的に提供しているさまざまな種類の商品とサービスを紹介します。
融資およびクレジット: 個人ローン、ビジネスローン、住宅ローン、ピアツーピア (P2P) 融資サービス、クレジットカード
支払いと送金: 送金、支払い処理、プリペイドデビットカード、小切手換金
投資および資産管理: 個別の投資アドバイス、資産運用サービス、仲介サービス
保険: 生命保険商品、健康保険、損害保険 (自動車保険、住宅保険など)
外貨両替: 銀行と比較して互角以上の可能性がある為替レート
マイクロファイナンス: 開発途上国の個人および企業向けの小口融資およびその他の金融サービス
ファクタリング: 企業の売掛金の割引価格購入の可能性があるファクタリングサービス
バンキング商品・サービスを統合するノンバンクの種類
テクノロジー企業がバンキング商品を提供することが多いですが、他の業種でも同様に提供できます。ここでは、バンキング商品・サービスを統合できるさまざまな業種を紹介します。
フィンテック企業: これらの企業は、テクノロジーを使用して、モバイルバンキング、P2P 決済、個人財務管理、自動投資プラットフォームなどのサービスを提供しています。多くの場合、BaaS を使用して、銀行業の認可を必要とせずに、普通預金口座やローンなどの従来のバンキング商品を提供しています。
テクノロジー企業: E コマース、ソーシャルメディア、テクノロジーサービスを専門とする大手テクノロジー企業は、決済処理、デジタルウォレット、クレジットファシリティなどの金融サービスを、自社のサービスに組み込んでいます。
小売業者と E コマースプラットフォーム: 小売業者と E コマースプラットフォームには、多くの場合、ブランドのクレジットカードと購入用の融資オプションがあります。これらのサービスを用意することで顧客の購買力を高め、消費習慣に関する貴重なデータを収集します。その後、そのデータを使用してマーケティング戦略を改善し、顧客ロイヤルティを高めることができます。
通信会社: 世界中の通信会社が金融サービスの統合を開始しています。広範なモバイルネットワークインフラにより、モバイルマネーアカウント、送金サービス、支払い処理などの機能を幅広い顧客ベースに提供できます。
保険会社: 一部の保険会社は、従来のサービスに加えて、投資商品や退職金口座を提供しています。また、ローンや貯蓄商品を提供し、財務インサイトと顧客ベースを活用して、より広範な金融サービスポートフォリオを構築することもできます。
自動車会社: 自動車メーカーやディーラーは、金融サービス部門を通じて、自動車購入のためのローンやリースなどの資金調達オプションを提供しています。これにより、顧客は新車を購入しやすくなり、同社は追加の収益源を得ます。
スタートアップ・中小企業(SME): スタートアップや中小企業は、クラウドファンディングやスタートアップ向け投資、特定の業種や顧客層に合わせた金融サービスなど、ニッチなサービスを提供しています。
不動産会社: 一部の不動産会社には、住宅ローンおよび関連する金融サービスがあります。これにより、顧客の住宅購入プロセスがシンプルになり、垂直統合の利点が企業にもたらされます。
ノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する方法
ノンバンクは、免許のある金融機関と提携したり、BaaS プラットフォームを利用したりすることで、銀行業の免許を必要とせずに、デジタルウォレットや決済処理などのバンキング商品やサービスを提供できます。ここでは、その方法をご紹介します。
市場調査
潜在顧客への調査とインタビューを実施して、特定のバンキングニーズと問題を理解します。
顧客の統計分布と行動を分析します。データ分析を使用して、既存の顧客ベースやターゲット市場に関するインサイトを得ます。
従来の銀行や既存のフィンテックソリューションでは十分なサービスを受けられない可能性がある、特定の顧客グループを見つけます。
規制
適切な規制の枠組みを特定します。連邦政府と地方自治体の両方の要件を調査します。
パートナーシップの選択肢を調べます。ビジネス目標とターゲット市場に沿った、候補の BaaS プロバイダーまたは免許のある銀行を特定します。貴社の業界での法令遵守の実績と経験を評価します。
法務および法令遵守の専門家に相談して、ビジネスモデルと業務があらゆる適用規制に準拠していることを確認します。
バンキング商品やサービス
顧客のニーズに優先順位を付ける。市場調査で特定された特定の問題とニーズに基づいてサービスを設計します。
銀行全体を複製するのではなく、主要事業を補完する特定の金融サービスに焦点を当て、顧客のためなる価値を創出します。
技術インフラ
信頼性の高い API インフラ、安全なデータ処理慣行、および成長をサポートする柔軟性を兼ね備える BaaS プロバイダーを選択します。
カスタム連携を開発します。開発者と協力して、BaaS API を既存のプラットフォームに連携し、便利なユーザーエクスペリエンスを実現します。
セキュリティに投資します。暗号化、多要素認証、定期的な脆弱性評価などの業界標準のセキュリティ対策を実装して、顧客データを保護します。
マーケティングと顧客獲得
独自の価値提案を伝えます。組み込み型金融サービスが競合他社のものとどのように異なるかを実証し、特定の顧客の課題を解決します。
既存のプラットフォームや商品内でバンキングサービスを宣伝して、対象者にリーチし採用してもらえるようにします。
同業他社と提携して、自社の製品を相互プロモーションし、より多くの対象者にリーチします。
カスタマーサポートと顧客維持
金融サービスに特化したサポートを提供します。カスタマーサポートチームが問い合わせや問題を処理できるようトレーニングし、リソースを整えます。
アプリ内通知、メール、テキストメッセージ (SMS) を使用して、取引、口座残高、および関連する更新について顧客に通知します。
バンキングサービスに関する顧客からのフィードバックを収集し、継続的に改善を行い、ユーザー体験の向上に役立てます。
ノンバンクがバンキング商品・サービスを提供する際の課題
ノンバンクは銀行の商品やサービスを提供することで、多くのメリットを得られますが、特有の問題もあります。ここでは、注意が必要な問題点をいくつかご紹介します。
サードパーティプロバイダーへの依存
企業が利用している BaaS プロバイダーで、ダウンタイムや運用に影響を与える技術的な問題が発生した場合、顧客は不満をつのらせる可能性があります。
企業の特定のニーズや将来の計画は、BaaS プロバイダーのバンキング機能の開発と必ずしも一致するとは限りません。
有利な契約条件と商業条件を交渉する必要があります。また契約に柔軟性をもたせて、長期的に成功をおさめ変化する市場環境に適応できるようにする必要もあります。
ユーザー体験の制御が限定的
企業のプラットフォームと BaaS プロバイダーのインターフェイス全体で、便利で一貫性のあるユーザー体験を提供することは簡単ではないかもしれません。
ユーザーインターフェイスをカスタマイズしたり、独自の機能を追加したりする機能は限られている可能性があり、その場合はサービスの差別化が難しくなります。
ビジネスのプラットフォームと BaaS プロバイダーのインターフェイス間の移行がスムーズでない場合、ユーザー体験に支障をきたす可能性があります。
レベニューシェアと料金体系
BaaS プロバイダーと収益を共有したり、そのサービスの料金を支払ったりすると、ビジネスの収益性に影響が出る可能性があります。これは、顧客獲得コストが高い初期段階に特に当てはまります。
企業は、BaaS プロバイダーの金融サービスの価格設定を限定的に制御できる場合があります。これは、価格競争や魅力的なプロモーションを提供する能力に影響を与える可能性があります。
企業は、効果的な財務計画と予測のために、潜在的な隠れた手数料や変動費など、BaaS パートナーシップのコスト構造全体を理解する必要があります。
顧客の獲得とオンボーディング
競合が多い市場で顧客を獲得しなければならないため、注目を集めるにはかなりのマーケティングと広告の努力が必要です。
企業は、複雑な本人認証 (KYC) およびマネーロンダリング防止 (AML) の要件に対処する必要があります。これは、顧客獲得率に影響を与え、オンボーディングプロセスに摩擦を生み出すおそれがあるだけでなく、時間とコストがかかる可能性があります。
企業は、財務データを共有しノンバンクと取引を行うよう、顧客を説得する必要があります。そのためには、免許のある銀行とのパートナーシップについて、明確に説明し透明性を確保する必要があります。
顧客の期待
顧客の失望や潜在的な苦情を回避するため、企業は金融サービスの範囲を明確に伝え、現実的な期待を設定する必要があります。
顧客満足度を維持するためには、バンキング関連の問題に迅速かつ効果的に対処できるカスタマーサポートが必要です。
企業は、ノンバンクとしての役割と BaaS プロバイダーとのパートナーシップについて、透明性を確保する必要があります。これにより信頼が構築され、顧客の期待を管理できます。
改善と法令遵守
企業は、進化し続ける規制に対応する必要があります。これには、継続的な法令遵守のための継続的な監視と適応が必要です。
新しい規制や既存のルールの解釈により、不確実性が生じる場合があります。また、特定の金融サービスやビジネスモデルの実行可能性にも、影響が出る可能性があります。
規制のグレーゾーンに該当する企業は、適用される規則を慎重に調査し、場合によっては法律や法令遵守の専門家に助言を求めなければなりません。
データセキュリティとプライバシーに関する懸念
企業は、機密性の高い財務データを侵害やサイバー攻撃から保護する必要があります。そのためには、セキュリティインフラへの投資と継続的な警戒が必要です。
EU の一般データ保護規則 (GDPR) やカリフォルニア州消費者プライバシー法 (CCPA) などのデータプライバシー規制を遵守する必要があります。明確なポリシーおよびデータ処理手順を確立し、場合によってはユーザーの同意を得る必要があります。
風評被害や潜在的な責任を回避するため、企業は、BaaSプロバイダーや顧客データを扱うその他のサードパーティベンダーが、同じ高水準のセキュリティとプライバシーに準拠しているか確認する必要があります。
ブランドの認知度と評判
企業は、ノンバンクの金融サービスプロバイダーとして信頼を得る必要があります。そのためには、高品質のサービスを一貫して提供し、先を見越して顧客とやり取りすることが必要です。
肯定的なブランドイメージを維持し顧客を引き付けるには、正当性、セキュリティ、データ処理慣行に関する、否定的な認識や懸念に対処しなければなりません。
競争の激しい市場で注目を集めるには、独自の価値提案を行い、従来の銀行や他のフィンテックソリューションではなく貴社サービスを選択する利点を明確に伝える必要があります。
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