売掛金 (AR) 管理は企業における複雑な業務の 1 つであり、与信ポリシー、請求手順、回収戦略などが含まれます。これらのプロセスにはそれぞれ特有の課題があり、改善の余地があります。たとえば、請求書が適切に作成されている場合、支払い回収までの期間を短縮できますが、わかりにくかったり不明瞭だったりすると、遅延、不審請求の申請、法的措置を引き起こす可能性があります。
自動化を行うと、企業は売掛金に関する多くのことが可能になります。高度な分析を活用することで、支払い行動を予測して潜在的な支払い延滞を事前に把握できます。決済ポータルを運営することで、顧客に柔軟な選択肢を提供して請求の支払いを促し、回収チームの負担を減らすことができます。自動化の導入で、企業によるさまざまなカスタマイズが可能になります。売掛金管理用の技術ソリューションは企業の財務業務の改善に役立ちます。売掛金自動化市場は 2030 年までに 13.3% 成長すると予想されています。
ただし、優れた技術スタックがあってもそれだけに頼るのは不十分です。企業がリソースを最大限に活用するには、慎重に戦略を練る必要があります。この記事では、企業の売掛金管理で実践可能なベストプラクティスをご紹介します。
この記事の内容
- 売掛金とは
- 売掛金管理が企業にとって重要である理由
- 売掛金管理に関するベストプラクティス
売掛金とは
売掛金とは、企業が顧客から回収する権利を有する商品やサービスの代金を指します。企業が商品やサービスを販売したもののまだ支払いを受けていない場合、その代金は売掛金の一部となります。そのような売掛金は、企業の貸借対照表では短期資産に該当し、多くの場合、クライアントや顧客に対する債権として記載されます。
業界ごとの売掛金の扱いについて以下にご説明します。
クリエイターエコノミー
クリエイターエコノミーの場合、売掛金とは、プラットフォームやスポンサーのほか、コンテンツ、パートナーシップ、広告活動などのコラボレーターがコンテンツクリエイターやインフルエンサーに支払う金額を指します。たとえば、クリエイターが動画、記事、ポッドキャストなどの制作物を提供し、その代金がまだ支払われていない場合、その金額が売掛金に該当します。E コマースと小売業
E コマースと小売業の場合、売掛金とは、顧客が企業に支払い義務を負う購入商品の代金を指します (発注書を用いて購入した場合や返済期限を延長した場合など)。また、売上の送金にタイムラグがある特定のペイメントゲートウェイや第三者販売チャネルによる支払い金額も売掛金とみなされる場合があります。マーケットプレイス
マーケットプレイスでは、買い手からマーケットプレイスに支払われる購入品の代金が売掛金に関係します。また、マーケットプレイスから売り手に対し、プラットフォーム手数料やその他の料金を差し引いた上で支払われる販売品の代金を指すこともあります (支払いスケジュールや猶予期間が設けられている場合など)。オンデマンドサービス
自動車の相乗り、フードデリバリー、在宅サービスといったオンデマンドサービスの場合、売掛金とは、サービスを利用した顧客がサービスプロバイダーに支払うべき代金のうち、まだ支払われていない金額を指します。また、取引管理を担う仲介プラットフォームから受け取る金額を指す場合もあります。プラットフォーム
プラットフォームに関連する場合、広告主、サブスクリプション登録者、ビジネス目的でプラットフォームを使用するその他の法人が支払う金額が売掛金に該当します。たとえば、広告スペースやプレミアム機能など、プラットフォームの収益源となる商品・サービスの代金が挙げられます。サービスとしてのソフトウェア (SaaS)
SaaS 企業の場合、ソフトウェアサービスのサブスクリプション登録や購入を行ったクライアントや企業が支払いを完了していない金額が売掛金に該当します。たとえば、サブスクリプションの月額料金、年間ライセンス、カスタムソフトウェア開発などが挙げられます。サブスクリプション
サブスクリプション型サービスでは、売掛金とは、サブスクリプション登録者がコンテンツ、製品、サービスへのアクセスに対して継続的に支払う金額を指します。たとえば、サブスクリプション登録者が請求を受けた月額料金の支払いを完了していない場合、その金額は企業の売掛金の一部になります。
売掛金管理が企業にとって重要である理由
売掛金は日常的な存在として軽視されがちですが、決済手段や規約の高度化に伴い、売掛金の取り扱いを戦略的に行うことで企業は大きなメリットを得られる可能性があります。具体的な例を以下にご紹介します。
流動性と支払い能力
売掛金を効果的に管理することで、企業は短期的な義務を果たすのに十分な流動性を確保できます。売掛金の回収に遅れが生じた場合、企業の手元資金が圧迫され、営業費の賄いが難しくなる可能性があります。業務効率
売掛金の適切な管理によって、企業の請求プロセスと回収プロセスに与えている影響を明確にできます。それらのプロセスを効率化することで、販売から支払い回収までの期間を短縮できます。財務の健全性の指標
売掛金の状態は企業の財務の健全性を表す指標となります。未回収の売掛金が高い水準で推移している場合、不満を抱えている顧客の存在や与信審査プロセスの非効率さを示しています。顧客関係管理
売掛金を定期的に確認することで、支払いの延滞が頻発している顧客を特定できます。この情報は、今後その顧客に対する与信枠の拡大や健全な取引関係の維持に関する意思決定に役立てることができます。収益認識
発生主義会計を採用している企業の場合、現金の受領時ではなく売上の発生時に収益認識されます。適切な売掛金管理を行うことで、収益認識と財務報告の正確性を確保できます。コストの削減
売掛金プロセスを効率化することで、債権回収、回収不能金、管理費に伴うコストを削減できます。キャッシュフロー予測
計画立案、設備投資、成長への取り組みにあたっては、予測可能なキャッシュフローの維持が重要です。売掛金を適切に管理すると、売掛金が現金に変わる時期を明確に予想できるようになるため、正確なキャッシュフロー予測の維持につながります。未払いの売掛金から回収できる資金を、成長機会への投資、必要な業務の実施など、他の用途で有効に活用できるようになります。効率的に回収を行うことで、こうした機会が広がります。回収不能金の削減
効果的な売掛金管理により、回収不能の恐れがある売掛金を早期に検出できるようになり、引当金の設定や与信ポリシーの厳格化などの措置を適切なタイミングで講じられるようになります。意思決定のサポート
売掛金に基づくデータから、売上傾向、顧客の購買行動、市場の状況に関する貴重なインサイトを得られます。このインサイトは、製品提供から市場拡大まで、事業に関する意思決定に役立ちます。
売掛金管理に関するベストプラクティス
企業の売掛金管理戦略を最大限に活用するための定石はありませんが、ほとんどの企業に役立つ汎用的なベストプラクティスがあります。売掛金管理に関するベストプラクティスを以下にご紹介します。
自動化とテクノロジーの利用
売掛金管理の一貫としてテクノロジーを取り入れることで業務改善を実現し、請求プロセスと回収プロセスの効率化と強化が可能になります。売掛金管理の自動化には次のようなメリットがあります。
- 業務の高速化: 自動化は裏側で機能して、繰り返し発生する作業を正確に、手作業よりもわずかな時間で実行できます。この業務の高速化により決済サイクルが加速し、キャッシュフローが改善します。
- 正確な実行、ミスの削減: 手作業の場合、どんなに注意しても見落としが起こりやすくなります。自動化によってそのようなミスが劇的に減り、システムの信頼性を向上させることができます。
- リソース配分の向上: 定型業務を自動化することで、従業員はより複雑で重要な売掛金管理業務に注力できます。それにより、価値の向上やイノベーションの促進につながります。
自動化には通常、売掛金業務への技術統合の導入を伴います。これにはさらに次のようなメリットがあります。
- ソフトウェアソリューションの同期: 既存の販売・サービスプラットフォームと連携可能なソフトウェアを選ぶことで、商品・サービスの引き渡し後すぐに請求書を発行できます。
- 戦略的な自動リマインダー: 一定の間隔でリマインダーを自動配信することで、期限間近の支払いや期限を超過した支払いに関して顧客への催促が可能です。このように継続的な連絡体制を保つことにより、顧客に自身の支払い義務を常に意識させることができます。
- リアルタイムのデータ同期: プラットフォームがリアルタイムの同期機能を備えている場合、正確な財務状況を確認できます。不要な通知を送ったり、同じ通知を繰り返したりせずに済むため、顧客の時間と体験を尊重できます。
綿密な与信管理
社内で、またはサードパーティーパートナーを通じて顧客に対する与信枠を拡大することで新たな収益源を開拓できます。ただし、それには相応の複雑さと責任が伴います。顧客の信用度を完全に把握し、顧客との関係を管理することで、財務の安定性を高め、財務の脆弱性を減らすことができます。与信管理が重要な理由を以下にまとめました。
- リスクの軽減: 顧客の経済活動と背景を把握することで、支払いに関する潜在的なリスクを予測し、今後起こり得る金銭上の問題に備えることができます。
- 財務の健全性の強化: 慎重に与信管理を行うことで売掛金を抑制し、流動性に影響するほどの回収不能金を避けることができます。
- 取引関係の信頼: 詳細な評価に基づいて与信条件を定めることで、信頼性の高い環境が育まれます。企業と顧客の双方が与信条件の根拠を理解し、互いを尊重する関係を築くことができます。
与信管理業務を発展させる方法を以下にご紹介します。
- 与信申請の効率化: 一貫性のある徹底した与信申請手順を導入し、すべての新規顧客に適用します。こうしたことが、透明性と相互信頼を基盤とする関係の構築につながります。
- 専門業者の活用: 専門の信用調査機関との提携により、見込み顧客の過去の経済活動に関する詳細情報を得ることができます。そのような提携を通じて、企業は適切な与信判断に必要なデータを取得できます。
- 与信限度の動的な見直し: 取引関係の発展に伴い、注文の規模や頻度も発展していきます。付き合いの長い顧客の与信限度を定期的に再評価して調整する必要があります。これにより、取引関係に見合った与信条件の適用を確保できます。
不審請求の申請の解決プロセスの改善
特に E コマースと SaaS では、不審請求の申請は避けられません。企業による不審請求の申請への対処方法は、財務の健全性と評判の両方に影響を与える可能性があります。不審請求の申請を効果的に解決することで、収入サイクルが円滑になるだけでなく、長期的な顧客関係の基盤を構築できます。不審請求の申請の管理が企業にとって非常に重要である理由を以下にご説明します。
- 財務上の影響: 多くの場合、不審請求の申請を適時に解決すると、支払いを早く受けることができ、キャッシュフローの健全化につながります。
- 顧客ロイヤルティ: 不審請求の申請に慎重かつ効率的に対応することで、大切にされているという印象を顧客に与えられます。これにより、長く続く強固な取引関係を築くことができます。
- ブランドイメージ: 問題解決能力に優れる企業として認知されることで、市場での印象が良くなり、クライアントの獲得や維持に有利となる可能性があります。
不審請求の申請の解決を促進するための戦略をご紹介します。
- プロセスの体系化: 不審請求の申請を処理するための明確で段階的な手順を定めることで、解決プロセスを効率化できます。役割と責任を明確に定義することで、不審請求の申請の発生時に求められることを各チームメンバーに自覚させることができます。
- 文書化の重視: すべての不審請求の申請を記録し、モニタリングするための仕組みを統一することで、進捗状況や結果を追跡しやすくなります。そのような一元管理のアプローチを採用することで、将来の参考になる貴重なインサイトが得られるとともに、プロセスの透明性を確保できます。
- 顧客との関わり: クライアントと率直な対話を行うことで、不審請求の申請の根本原因を明らかにできます。中核にある問題に直接対処することで、紛争の再発を大幅に減らすことができ、時間とリソースの節約になります。
- チームの強化: 交渉術や優れたカスタマーサービスに特化した総合的な研修プログラムに注力し、顧客との問題を巧妙かつ効率的に処理するスキルをチームメンバーに身につけさせます。
不審請求の申請の解決戦略を改善することはビジネスにとってメリットとなります。目の前の財務上のメリットだけでなく、信頼できる顧客重視の企業という地位を築くことができ、成長と長寿化を促進します。
売掛金管理における明確で信頼できるコミュニケーションの重視
売掛金管理を成功に導くには、強力で、一貫性があり、効果的で、理解しやすいコミュニケーションの取り組みが重要です。売掛金管理におけるコミュニケーションには次のような効果があります。
- 信頼の構築: 顧客に十分な情報を提供して、企業に何を期待できるか理解してもらうと、信頼が高まります。
- 不明確さの除去: 明確なコミュニケーションは誤解を招く可能性を排除します。コミュニケーションが不明確な場合、支払い延滞や不審請求の申請につながる可能性があります。
- 企業イメージの反映: 企業が用いるコミュニケーションの手段や様式、特に請求書やリマインドメールなどの文書は、その企業のプロ意識や価値観を映し出すものです。
コミュニケーションの効果を高める手順を以下にご紹介します。
- 予測可能なスケジュールの設定: 請求を一定の周期で行うことで、顧客が予測できるようにします。これにより、顧客は次回の請求を予想して備えることができ、資金繰りを行いやすくなります。
- 簡潔で正確な表現: 理解しにくい言い回しを避けます。常に単純明快なコミュニケーションを行うことで、内容が伝わりやすくなります。
- テンプレートの更新: ビジネスの変化に応じてコミュニケーション方法も変えていく必要があります。コミュニケーションに用いる文書等を定期的に改訂・更新して、適切な内容に保ち、その時代のビジネスマナーを反映させます。
- 社内での対話の促進: 社内でチームへの十分な情報提供とチームの結束強化を図ることで、顧客とのやり取りの向上につながります。売掛金戦略、顧客のフィードバック、遭遇した課題についてチームメンバー同士が自由に話せる手段を提供します。このように社内で協力体制が敷かれると、多くの場合、顧客との関係向上につながります。
売掛金管理に関するコミュニケーションの強化により、請求サイクルにおける衝突の発生を抑制し、クライアントと長期的な望ましい関係を築くことができます。長期的に見ると、それらのメリットが収益源の安定と信頼できるという企業イメージの定着をもたらします。
柔軟性のある支払い規約とオプションの提供
関係を育み、愛顧に報い、事業利益を保護するには、クライアントの履歴や行動に基づいて支払い規約を調整することが有効です。柔軟な支払い規約の導入には次のようなメリットがあります。
- クライアントとの関係強化: 常連客に対し有利な条件を提示することで、日頃の愛顧に報いながら、継続的な取引を促すことができます。
- 財務上のリスクの軽減: 比較的新しいクライアントや支払い行動が予測しづらいクライアントに対して部分的な前払いを求めることで、全額不払いのリスクを軽減できます。
- 望ましい支払い行動の促進: 早期支払い割引を適用することで、他社よりも自社への支払いを優先するよう促し、支払いサイクルの短縮を実現できる可能性があります。
動的な支払いの導入に関する考慮事項を以下に簡単にまとめました。
- クライアントの履歴評価: 各クライアントの支払い履歴をレビューします。支払い延滞の頻度はどの程度ですか?通常は早めに支払いを済ませていますか?このデータを参考にして、クライアントごとに最適な条件を判断します。
- 支払いオプションの拡大: 汎用的な支払い規約を適用する代わりに、さまざまな支払いオプションを提供することができます。たとえば、支払いが安定しているクライアントの場合は、早期支払いに少額の割引を適用するように規約を拡張し、支払いが不安定なクライアントの場合は、標準的な規約を適用しつつ、分割払いのオプションを提供します。
- 定期的なレビューと改善: 適用した支払い規約の有効性を定期的にレビューしてください。規約によって支払いのスピードが速まりましたか?割引をクライアントが利用していますか?継続的なレビューによって規約の微調整や改善を行い、最良の結果を得ることができます。
クライアントごとに支払い規約をカスタマイズする (財務上の潜在的リスクを考慮しながら、支払いが安定しているクライアントを評価し重視する) ことで、クライアントと良好な関係を構築できます。この取り組みは直接的な財務上のメリットがあるほか、企業の長期的な健全性と評判を後押しする効果があります。
データを最大活用して、情報に基づく財務上の選択を強化
完全で正確なデータを活用することで、入金された売上の有効性と予測可能性を大幅に向上できます。データ活用の強化による主なメリットを以下にご説明します。
- 予測可能性の向上: 支払い履歴を緊密にモニタリングすることで、支払いが行われる時期を予測できるようになり、財務計画が立てやすくなります。
- リスクの軽減: 支払い延滞や支払い漏れのパターンを把握することで、規約の調整またはフォローアップを強化して、それらの問題に早めに対処できるようになります。
- リソース配分の効率化: 問題が起きそうなアカウントを把握することで、リソースを効果的に割り当て、見込みの薄い支払いに執着して時間を浪費することを避けられます。
支払いデータを活用して売掛金へのアプローチを向上させる方法には次のようなものがあります。
- 支払いの傾向分析: 傾向分析の一環として、顧客の支払いの時期と規則性をレビューします。長期にわたりそれらのパターンをモニタリングすることで、顧客の財務健全性の変化や請求戦略の有効性に関するインサイトを得られます。
- パフォーマンス指標: 販売を行ってから支払いを受けるまでの平均時間などの指標をモニタリングすることで、業務効率に関するインサイトが得られます。この時間が短い場合は売掛金管理が有効であることを示している一方で、長い場合は改善の余地があることを示しています。
- 予測分析: 予測分析とは、過去の行動に基づくデータを活用して将来の結果を予測することを意味します。たとえば、特定の業界の顧客による支払い延滞が特定の月に増加することに気付いた場合、今後も同じ傾向が表れることを予測し、それに応じて計画を立てることができます。
このようにデータを活用することで、企業は賢明な意思決定が可能になり、問題を予測して事前に対処できるようになります。このような対応はキャッシュフローの改善をもたらすだけでなく、クライアントの関係強化にもつながります。
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