発生主義会計では、現金取引がいつ発生するかに関係なく、収益の獲得時または費用の発生時に収支が計上されます。対照的に、現金主義会計は、現金のやり取りが生じたときにのみ取引を記録します。
発生主義会計では、収益が実現したとき (通常は商品の納入時またはサービスの実行時) に、支払いがまだ受領されていなくても収益が認識されます。また、費用は必ずしも支払いが行われる時点で認識されるのではなく、現実に発生した時点で認識されます。この方法は、収益と、それを生み出すために発生した費用を、同じ報告期間内で対応させて処理します。そのため、発生主義会計では、企業の財務の健全性と経営実績がより正確に示されます。
アメリカでは、3 年間の収益が 2,500 万ドル以上の企業は発生主義会計を採用しなければなりませんが、小規模企業でも発生主義会計を採用しているところはあります。以下では、見越し計上の種類をはじめ、発生主義会計の仕組み、利点と課題、ベストプラクティスについて解説します。
本記事の内容
- 会計処理方法の種類
- 発生主義会計と現金主義会計の比較
- 発生主義会計の仕組み
- 見越し計上の種類
- 発生主義会計の利点
- 発生主義会計の課題
- 発生主義会計のベストプラクティス
会計処理方法の種類
企業は、発生主義、現金主義、ハイブリッド会計の 3 つの主要な会計処理方法のうちいずれかを採用して財務取引を記録します。この項目では、各処理方法の概要と、収益と費用を計上する上でのルールを解説します。
発生主義会計:発生主義会計では、現金取引がいつ発生するかに関係なく、収益の獲得時または費用の発生時に収支が計上されます。この方法は、企業の財務状況と業績をより正確に示すため、大企業や信用取引を処理する企業に適しています。
現金主義会計:現金主義会計では、現金がやり取りされた場合にのみ取引を記録します。これにより、収益は受領時に認識され、費用は支払い時に認識されます。手元にある現金を任意の時点で把握できるため、小規模企業や個人にこの方法はよく採用されています。
ハイブリッド会計:ハイブリッド会計は、発生主義会計と現金主義会計の両方の要素を組み合わせた会計処理方法です。この方法では、ほとんどの取引に現金主義会計を適用しつつも、主要項目の処理については発生主義会計に切り替えることができます。この柔軟性は、日常の取引を簡素化する必要があると認識しているものの、売掛金、買掛金、または在庫を正確に報告するために発生主義会計を必要とする小規模企業にとって有効です。企業は、税法と会計基準に準拠するために、ハイブリッド会計を慎重に運用していく必要があります。
発生主義会計と現金主義会計の比較
会計処理方法を選択する際には、経営するビジネスの種類を考慮する必要があります。一般的に、複雑な会計処理を必要とする大企業は発生主義会計を優先する傾向にありますが、小規模企業、現金取引の多い企業や個人は、その簡便性から現金主義会計を選択する場合があります。上場企業や多額の収益を上げている企業は、通常、発生主義会計を採用して法的および規制上の基準に従うようにしています。
この項目では、発生主義と現金主義会計の長所と短所について紹介します。
発生主義会計
発生主義会計では、現金の受け取りや支払いの時期に関係なく、収益はその獲得時点で計上し、費用はその発生時点で計上します。
長所
得られた収益と、それらの収益を生み出すために発生した費用を対応させることにより、会社の財務状況がより正確に反映されます。
事業活動と財務成果を一致させることにより、財務計画と分析が容易になります。
アメリカでは一般に公正妥当と認められた会計原則 (GAAP) が、世界規模では国際財務報告基準 (IFRS) が大企業や上場企業に対して、財務報告の一貫性・同等性を保つために発生主義会計の採用を義務付けまたは推奨しています。
短所
売掛金と買掛金を追跡するため、導入と維持に困難が伴います。
キャッシュフローの直接的な指標とはならないため、現金収支を重視する企業にとっては混乱の原因となる可能性があります。
現金主義会計
現金主義会計では、現金を受け取ったときに収益を計上し、現金を支払ったときに費用を計上します。
長所
単純な現金取引を記録することに留まるので、発生主義会計よりも運用が容易です。
現金主義の企業や財務構造が単純な企業は、利用可能な資金額を把握できるというメリットがあります。
収益は現金を受け取るまで課税対象とならず、費用は現金を支払うまで計上されないため、会社の税務を簡素化できます。
短所
将来の債務や売掛金を考慮していないため、長期的な財務の健全性が正確に示されているとは言い切れません。
キャッシュフローのタイミングに基づいて財務活動の結果を誤って伝える可能性があるため、企業全体の長期的な収益性に関するインサイトが得られにくくなります。
発生主義会計の仕組み
発生主義会計では、現金の受け取りや支払いの時期に関係なく、収益の獲得または費用の発生時点で収支が計上されます。対照的に、現金主義会計は、現金のやり取りが生じたときにのみ取引を記録します。
発生主義会計の仕組みは以下のとおりです。
収益認識
企業は、顧客に商品やサービスを提供し、契約または合意に基づく義務を果たした時点で収益を計上します。
その収益は、企業が商品またはサービスの支払いを期待できるようになったときに実現可能になります。
収益が獲得され、実現可能になると、現金の支払いをまだ受け取っていなくても、企業は損益計算書に収益を計上します。また企業は、顧客が支払うべき金額を追跡するために、売掛金勘定も作成しておく必要があります。
費用認識
企業は、サプライヤーや従業員から商品やサービスの提供を受けた時点でその代金を支払う義務が生じ、費用が発生したとみなします。
その後、企業は、まだ現金を支払っていない場合でも、発生した費用を損益計算書に計上します。企業は、サプライヤーまたは従業員に支払うべき金額を追跡するために、買掛金勘定を作成しておく必要があります。
費用収益対応の原則
発生主義会計は、同じ報告期間内の費用と対応する収益を一致させることを目的とする「費用収益対応の原則」に従います。この原則により、企業は収益を生み出すために発生した費用を、その収益と同じ期間に認識しなければなりません。
たとえば、ある会社が 12 月に顧客に商品を販売し、翌年の 1 月まで支払いを受け取らなかったとします。発生主義会計では、現金の支払いをまだ受けていなくても、収益は獲得時点である 12 月に認識されます。会社は、未収額を追跡するための売掛金勘定を作成します。会社が 1 月に現金の支払いを受けると、売掛金が減少し、現金勘定が増加します。
見越し計上の種類
見越し計上の種類には、未収収益と未払費用の 2 つがあります。見越し計上は、発生主義会計の決算整理処理において重要な要素となります。会計における費用収益対応の原則に従い、見越し計上によって、特定の期間に獲得したすべての収益と発生したすべての費用が財務諸表に反映されます。
未収収益:未収収益は未収資産とも呼ばれ、獲得したがまだ現金の支払いを受けていない収益のことを指します。未収収益は、企業がサービスを提供しているにもかかわらず、請求書をまだ発行していないか、支払いを受け取っていない場合によく発生します。たとえば、月末にコンサルティングサービスを提供し、翌月にクライアントに料金を請求する会社は、発生主義会計の報告期間に得た収益を認識する必要があります。
未払費用:未払費用は未払債務とも呼ばれ、発生したがまだ現金の支払いが済んでいない、または勘定に記録されていない費用のことを指します。たとえば、多くの企業は、従業員の給与を稼いだ月の翌月に支払っています。これらの費用は、従業員の奉仕があった月に計上する必要があります。
発生主義会計の利点
発生主義会計は、現金がやり取りされるときではなく、収益と費用が発生した時点でその計上を行うため、企業の財務状況をより正確に反映します。この項目では、正確な会計処理が企業にもたらすメリットをご紹介します。
財務インサイト:発生主義会計は、費用とその費用が生み出す収益を対応させることで、真のコストと収益性に関するインサイトを提供します。このインサイトは、予算編成、予測、戦略計画の立案に役立てることができます。また企業は、キャッシュフローのタイムラグによって生じる不正確な影響を排除して、業績を分析することが可能になります。
長期契約管理:長期契約を扱う企業の場合、発生主義会計は、収益と費用を関連する契約上の義務に対応させます。これにより、企業は各プロジェクトの財務状況をより正確に追跡できます。
信用取引の追跡:現金の受け渡しに先立って商品やサービスを提供したり、受け取ったりする信用取引を行っている企業は、発生主義会計によって売掛金と買掛金をより効果的に追跡することができます。このことは、キャッシュフロー予測を管理したり、経営を支えるために必要な流動性を評価したりする上で役立ちます。
予算統制:費用と収益を直接に対応させるため、企業はどの領域が予算を上回っているか、または下回っているかを分析し、それに応じて戦術を調整できます。これにより、統制された戦略的なリソース配分が可能になります。
ステークホルダー分析:投資家、債権者、その他の利害関係者は、正確な財務諸表に基づいて意思決定を行えるようになります。発生主義会計は、企業の経営効率と財務の安定性を利害関係者により明確に示します。
発生主義会計の課題
発生主義会計には多くの利点がありますが、一方で以下のような問題もあります。
導入:発生主義会計を採用する企業は、売掛金、買掛金、および即時の現金取引を伴わないその他の財務イベントを追跡しなければならないため、会計処理が複雑になります。収益と費用を正確に計上し、それらを対応させるためには、強力なシステムやポリシーを導入する必要があります。
人員:企業には、会計原則を理解し、財務データを正確に記録・分析できるプロの会計士が必要です。会計士を雇う場合、追加の研修や高額な人件費を要する可能性があります。
コスト:発生主義会計システムを導入・維持する場合、単純な現金主義会計システムを採用するよりもコストがかかります。このコストには、より高度な会計ソフトや、監査および法令遵守に要する多額の費用も含まれます。
キャッシュフロー管理:発生主義会計は、キャッシュフローではなく、獲得収益と発生費用に重点を置いているため、手元の資金額を正確に表示できていない可能性があります。企業は、発生主義会計とは別にキャッシュフローを慎重に管理することで、日常業務に必要な流動性を確保しておく必要があります。
推定判断:発生主義会計では、貸倒引当金 (未払いにより損失となる可能性のある売掛金)、減価償却方法、税金や賞与に係る未払費用など、推定判断が必要な場面が多々あります。これらの見積もりは、財務諸表に誤りやバイアスをもたらす可能性があります。
法令遵守:発生主義会計は複雑であるため、財務諸表に誤りが生じるリスクも相応に高まり、監査結果やコンプライアンス面で問題が生じるおそれがあります。
照合:発生主義会計を採用する企業は、売掛金、買掛金、未払費用を定期的に照合する必要があります。これらの照合は通常、時間のかかる作業であり、不一致を修正するために細心の注意を払う努力が求められます。
不正操作:不正行為者は、発生主義会計におけるタイミングや見積もりの裁量を不正に操作し、より有利な財務状況を作り上げようとします。このような行為は、収益の不正管理または不正報告につながりかねません。
発生主義会計のベストプラクティス
企業に発生主義会計を導入する際のベストプラクティスをご紹介します。
収益認識
サブスクリプションベースのモデルを使用している企業は、収益認識のタイミングを慎重に検討しなければなりません。サブスクリプション期間や商品やサービスの管理権の移動に基づく特定のマイルストーンなどで収益を認識できます。
契約を詳細に分析して、履行義務を明確に識別し、それに応じて取引価格を配分します。これによってバンドル商品とサービスの収益を正しく認識することができます。
変動がある報酬 (ボーナス、インセンティブなど) を正確に見積もり、報酬が発生するかどうかの確率に従って収益認識を調整します。
費用認識
賃貸料、公共料金、給与など、定期的な費用の発生プロセスを標準化して、エラーを減らし、確実に適時に認識できるようにします。
偶発債務 (訴訟の可能性、保証請求など) を評価する手順を確立します。見込まれる債務を計上し、発生しうる債務を財務諸表の脚注で開示します。
不良債権 (帳消しが必要な未収残高) な度として計上される見積額を定期的に精査します。履歴データと現在の傾向を統合して精度を高めます。
社内処理
取引の承認、記録、勘定の照合の責任を分離します。これにより、エラーや不正の発生リスクを下げることができます。
見積もりや仕訳入力をはじめとして、発生主義会計のプロセスを定期的に調べ、誤りを修正します。ます。
発生主義会計ポリシー、手順、計算のすべてを詳細に記録して保管し、透明性を維持し、監査に備えます。
計算、見越し額の追跡、精度の高いレポートの生成を自動化できる、発生主義会計機能が強力な会計管理ソフトウェアを使用します。
データアナリティクスを使用して、収益と費用の傾向分析、異常の特定、予測精度の向上を実現します。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。