海外に商品を販売する電子商取引、「越境 EC」は今日の日本において、日本製品を海外に発信することで、ビジネスの拡大を見込むことのできる事業として注目を集めています。中でも中国への越境 EC は、中国から日本への旅行客の増加によって、日本製品のリピーターも多いことから、越境 EC を行う日本の事業者にとって、進出先として見逃せない国です。
本記事では、中国の越境EC事情について、日本の事業者がおさえておくべき中国ECの市場規模、特徴、関税や商品の規制に関する基礎知識を解説します。
目次
- 中国における越境 EC の市場規模
- 中国に向けて越境 EC を始める方法
- 中国向けの越境 EC で導入すべき決済手段
- 中国向けの越境 EC で注意すべきポイント
- 中国 EC の最新トレンド
- 中国に向けた越境ECを成功に導くために
中国における越境 EC の市場規模
中国は、越境 EC の進出先として大きな可能性を秘めている国です。本章では、中国の越境 EC の市場規模について見ていきましょう。経済産業省の報告書 (105 頁) では、中国の越境 EC 市場規模の推計値および前年比の変化率をグラフで表しています (2023 年以降は予想値)。このデータによると、中国の越境 EC 市場は年々拡大傾向にあり、2025 年の同市場の市場規模は 2,149 億 US ドルにものぼるとされています。
中国で EC 化率が高まる理由
経済産業省の同報告書 (103 頁) によると、中国の EC 化率は48.0%で世界トップを記録しており、年々オンラインショップを利用する人が増加する傾向にあります。これは、第 2 位にランクインしているイギリスの 29.6% と比べても、中国の EC 化率ははるかに高いことがわかります。なお、日本の EC 化率は第 9 位の 13.7% となっています。
中国で多くの消費者が越境 EC を利用する理由はさまざまですが、商品の品質が保証されている(正規品である)、低価格、国内では入手できない商品が入手できる、といった点が主に挙げられます。特に、商品の品質の保証については、中国国内において正規品ではなく偽物や模倣品が出回っていることも多いことから、納得のいく理由といえます。
このほか、冒頭でも解説したように、近年では中国からの訪日インバウンドの需要が高くなっていることも、日本から中国に向けた越境 EC 事業の活発化に影響を与えています。中国から日本へ旅行した人が、旅先で購入した商品を気に入った際、自国に戻ってから越境 EC を使ってリピート購入するといったケースは、その一例といえるでしょう。
中国の EC における特徴
以下に中国の EC の特徴を紹介します。
インフルエンサーによるライブコマースが普及している
中国では、KOL (Key Opinion Leader) と呼ばれるインフルエンサーによる ライブコマースが特に重視されています。ライブコマースとは消費者向けに動画をリアルタイムで配信することで、宣伝効果を図る販売手法を意味します。多くの消費者は、KOLのライブコマースで紹介される、商品の口コミや品質などを参考にして購買するかしないかを決めます。ライブコマースは、実際に使ってみないと効果、質感がわからない化粧品や衣服などに対し、よく用いられている販促活動です。
モバイル決済の導入が欠かせない
中国では、決済のキャッシュレス化が進んでいます。特に利便性の高いモバイル決済は、商品の値段に関わらず幅広く使用されています。そのため、日本の事業者が中国の 越境EC 市場に参入するには、モバイル決済の導入は必須といえるでしょう。中国のモバイル決済には、後ほどご紹介する「アリペイ」や、「WeChat Pay」などが挙げられます。
OMO 戦略がトレンドとなっている
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンライン (ECモールやアプリ) とオフライン(実店舗)の分断をなくし、顧客がオンライン・オフラインの境界を意識する必要のない、最適なショッピング体験の提供を目的とするマーケティング戦略です。日本語では「オンラインとオフラインの融合」と一般的に訳されています。
たとえば、OMO 戦略に注力している日本の事業者に「ユニクロ」があります。ユニクロの場合、顧客は実店舗で気になる商品を試着してから、公式 EC サイトから購入することが可能なほか、公式 EC サイトから商品を購入し、商品の受け取りは実店舗で行うことができるようになっています。
このようにOMO 戦略によって、オンラインでできることと、オフラインでできることを併用して使いこなすことで、顧客はより快適に買い物ができるようになります。中国の EC でも、同様の取り組みが活発で、OMO 戦略による EC サイトの販売拡大を図ることが重要視されています。
中国の主要な EC 事業者
中国市場において主要な EC 事業者は以下のとおりです。
- アリババ (Alibaba)
- 拼多多 (Pinduoduo: ピンドウドウ)
- 京東 (JD.com)
- 抖音 (Douyin: ドウイン)
先ほどの経済産業省の同報告書 (104 頁)では、中国の EC 市場における主要な事業者として、2017 年から 2024 年の間における、上記の 4 大EC 事業者のシェアについてグラフで示しています(2023 年以降は予想値)。2023 年は、4 つの中でもアリババ (Alibaba) が41.6%と、圧倒的なトップシェアであることに加え、上位 4 つの事業者だけで、市場全体の 88.1%を占めていることがわかります。
なお、アリババは 2019 年に市場シェアの過半数を占めていましたが、他の EC 事業者によるSNS やライブコマースによる情報配信などの取り組みの成果もあり、アリババ以外の事業者が年々シェアを伸ばしています。
中国に向けて越境ECを始める方法
越境 EC の始め方は、細かく分けるとさまざまな方法がありますが、ここでは、日本から中国向けの越境 EC において知っておくべき主な方法を紹介します。
EC サイトを構築する
中国にて自社 EC サイトを開設して越境 EC を行う方法です。この場合、サイトの構築においては自由にデザインが可能なため、オリジナリティのあるサイトに仕上げることができ、競合他社との差別化を図ることができます。ただし、サイトの構築や運営に際しては、決済環境を整えたり、在庫管理、物流ルートの確保など、越境 EC のあらゆる業務や必要な機能を自社でまかなわなければなりません。
また、中国語に対応したサイトを構築するには、中国語が堪能な人材の確保や、中国の EC 市場、事業立ち上げに詳しい専門家からのアドバイスも必要となるでしょう。
中国の主要な EC モールに出店して販売
日本の楽天市場や Yahoo! ショッピングのように、中国でも既存の EC モールに出店して越境ECを行う方法です。越境 EC の始め方としては、最もスピーディーに始められる方法といえるでしょう。EC モールにかかる手数料や出店条件や規制については、各 EC モールで異なるため、事前に確認しましょう。
代行業者に依頼して越境EC事業を行う
出店や運営に関するサポートが受けられる、中国の越境ECに特化した代行業者に、パートナー企業として依頼するのも参入方法の 1 つです。このような代行業者は通常、ある程度の実績があり、中国文化や商習慣をはじめとする越境 EC に詳しいエキスパートが揃っていることから、中国向けの越境 EC に関する相談にも幅広く対応してもらえるでしょう。そのため、事業者側が抱える不安を解消しながらビジネスの拡大を目指すことができます。
ただし、出店や運営に関わる業務を代行してもらうには、代行業者側で定める費用がかかります。代行業者によっては、毎月の定額制や、売上に応じた比率の報酬が発生する料金プランなどさまざまなため、自社の事業サイズや経営体制に合ったものを選ぶようにしましょう。
中国向けの越境ECで導入すべき決済手段
JETROによると、中国で利用されている主な決済手段は以下のとおりです。
- アリペイ (Alipay: 支付宝)
- WeChatPay (微信支付)
- クレジットカード
クレジットカードは中国において不正利用を懸念する人が多く、クレジットカード決済をあえて選ばない人もいますが、中国国内で最もメジャーな決済ブランド銀聯(UnionPay)の銀聯カードについては、近年国際的事業展開を積極的に進めており、中国国内で圧倒的なシェアを占めています。また、クレジットカードのほか、キャッシュレス決済のアリペイや WeChat Pay も中国にて幅広く普及しています。
中国で利用されている決済にはさまざまなものがありますが、越境 EC が活発な中国をターゲットとする場合、少なくともこれらの決済手段について対応可能にしておくことが望ましいといえるでしょう。
Stripe では、クレジットカード決済などの キャッシュレス決済をはじめとする決済手段の導入や、情報処理および収益管理など、決済業務の効率化を後押しする機能を幅広く提供しています。たとえば、Stripe Checkout なら、30 カ国以上の言語と 135 種類以上の通貨に対応し、越境 EC サイトの決済ページの最適化と簡易化を図ることができます。また、これによって、顧客へのスムーズで快適な決済体験の提供が実現できるため、購入完了率の向上にもつながります。
中国向けの越境ECで注意すべきポイント
ここでは、中国向けの越境 EC における課題ともいえる注意点について解説します。
出店することや利益を出すことが難しい
中国の EC モールで日本の事業者が出店するハードルは決して低くはありません。たとえば、アリババが運営するECモール「天猫国際 (Tmall Global)」のように、中国で名の知れた EC モールに出店できるようになるには、ある程度の売上実績が問われるからです。また、出店には高額な初期費用がかかるため、十分な資金を工面しておく必要があります。したがって、中国の EC サイトの出店者は、現地の事業者でも大手企業が中心となっているのが現状です。
さらに、たとえ出店がかなったとしても、なかなか売上を生み出すのが難しい可能性があります。中国の場合、薄利多売が基本となっており、日頃から少しずつ販売実績を積んでいくことが一般的です。そのため、「独身の日」のような一大セールイベントの開催時に、消費者に見つけてもらえるようなショップとして注目を集めるためには、薄利多売のスタイルの状況下でも、EC モール上での普段の販売実績が鍵となるのです。つまり事業者からすると、事実上の利益がなく、赤字状態が続くケースも少なくはないのです。
このように、中国の EC モールの現状としては、日本国内での出店と比べてもハードルが高く、利益を圧迫せずに運営を続けるのは比較的難しいことを理解しておきましょう。
物流形態で異なる中国の関税
国を越えて商品を輸出入する越境 EC ビジネスには関税がかかります。そのため、輸入の際に発生する関税への対応が滞りなく進められるよう、日本から適切な輸出手続きを行っておくことが大切です。
中国の関税については物流形態によって税率が異なる「行郵税」と「越境 EC 総合税」があります。行郵税とは、個人(消費者)による利用を目的に荷物を送る際に発生する税金で、輸入時に納付します (50 元以下の場合は免税)。税率は税目番号ごとに分類されている各物品によって異なります。
越境EC総合税の税率も、対象品目やカテゴリー別に細かく定められており、越境 EC 総合税が適用されると関税そのものは 0% となり、付加価値税 (VAT) と消費税のみが課税されます。
中国の越境 EC の物流形態は、「保税区モデル」と「直送モデル」の2種類に分けられ、それぞれの形態に適用される関税は以下のとおりです。
保税区モデル: 中国国内の保税区内に設けられている倉庫に商品を輸送および保管し、注文後に倉庫から商品が届けられる形態で、越境 EC 総合税が適用される。
直送モデル: 注文後に日本から直接商品が届けられる形態で、行郵税が適用される。
関税は、日本の事業者が越境 EC を行う際に、知っておくべき重要な要素ではあるものの、細かくすべてを把握するには多くの時間を要します。したがって、十分に理解を深められるよう、あらかじめ時間に余裕を持つようにし、複雑な点については専門家に相談するとよいでしょう。
なお、日本の消費税 については、日本国内で消費されるものに適用されるため、越境ECでは消費税はかかりません。したがって、日本から海外へと越境ECで商品を販売する事業者は、適切な手続きを踏むことで消費税の納税金額を抑えることができるため、越境ECにおける消費税の知識を身につけておくことも大切です。
中国電子商取引法に準拠
中国では、EC 市場の秩序と発展、消費者保護などを目的とする中国電子商取引法が定められています。2019 年に施行されたこの法律の正式名称は「中華人民共和国電子商取引法」で、EC 全般に特化した中国初の法律です。
中国電子商取引法の規制のもと、日本の事業者が中国への越境ECで主に気をつけるべき点は、以下のとおりです。
営業許可証の取得と納税
中国の消費者に対して EC サイトなどから商品を販売する個人および事業者は、中国電子商取引法に基づいて、必ず営業許可証を取得する必要があります。また、先ほどの「物流形態で異なる中国の関税」にもあるように、中国に輸送する商品には中国での納税義務があるため、詳細をしっかりと確認しておくことが大切です。
商品に関する品質基準と中国語での情報提供
中国の消費者を対象に商品を販売する場合、中国の品質基準を満たしている必要があります。たとえば、商品に関する詳細情報や製品ラベルについては中国語での対応が必須で、これには商品に含まれる成分、使用方法、注意事項、製造元、カスタマーサービスなどの問い合わせ先も含まれます。このように、中国電子商取引法に基づいて、情報を明確に提供することは義務となっているため、中国仕様にローカライズしたパッケージや商品の準備などを怠らないよう注意しましょう。
消費者保護を考慮した事業者側のサポート体制
返品や交換についても適切な対応が求められ、事業者側で返品交換に関するサポート体制を設けておく必要があります。よって、体制が十分に整っておらず、返品交換への対応を怠ってしまうと、消費者からのクレームが殺到したり、規制当局から罰則が下される恐れがあります。そのため、中国への越境ECに際しては、顧客へのサポートを適切に行うようにしましょう。
物流サービスの質が異なる
中国国内の物流会社によってサービスの質が異なるということも理解しておく必要があります。たとえば、提携する物流会社側による商品の破損や紛失や、配達が大幅に遅れるケースのように、日本ではあまり見られないトラブルが頻繁に発生することがあります。これに加え、間違えたトラッキングナンバーが商品に紐づいてしまっていることで、荷物の追跡ができないという点も問題視されています。
このように、中国に商品が到着しているにも関わらず、消費者の手元に届かないという事態を避けるには、日本の事業者が推奨している物流サービスを事前に把握しておくことも1つの対策です。また、中国の越境ECに詳しい専門家や、中国国内の物流に特化したサポートを提供する事業者に問い合わせてみるとよいでしょう。
中国 EC の最新トレンド
先ほど解説したライブコマース以外にも、近年の中国の EC 事情における興味深い点として、没入型のショッピング体験があります。没入型ショッピングとは VR や AR 技術を用いて、視覚、聴覚、触覚などの感覚に働きかけることで、まるで顧客が実際に体験しているかのように、商品やサービスを体験することです。
中国での没入型ショッピングの具体例としては、アリババが「独身の日」で起用したライブストリーミング用の AR 試着ツールがあります。また、事業者によっては、ライブストリーミングでバーチャルインフルエンサーを利用するケースもあります。
このほか、ソーシャル面においては、バーチャルアバターを用いたオンライン交流機能も開発されており、アバターを用いてバーチャルで開催されるファンイベントや、仮想世界のバーチャル店舗でショッピングを楽しむことができるサービスもあります。
中国に向けた越境 EC を成功に導くために
今回は、中国向けの越境EC に注目して、市場規模や特徴、注意点などを解説しました。中国は、その EC 市場規模の大きさや、中国からのインバウンド需要による日本ブランドおよび日本製品へのリピーターが期待できるため、越境 EC ビジネスの進出先として、大きな可能性を秘めています。
中国の消費者が販売対象となる越境 EC を成功に導くためには、中国の EC 事情や最新の EC トレンドや輸入商品に対する規制について、十分に理解を深めておくことがとても重要です。また、日本とは異なる商習慣や中国語についても、柔軟な対応が求められます。
したがって、日本の事業者が中国向けに越境 EC を行う際は、中国の消費者ニーズをしっかりとおさえ、市場や動向についても十分に調査を行い、自社商品が中国の消費者に適しているかどうかを見定めたうえで、ビジネスの参入にかかる準備を進めるとよいでしょう。そして何よりも、中国の消費者が日本の製品を購入してよかった、と思ってもらえるように、きめ細かな対応を事業者側で心がけることが大切といえます。
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