近年、さまざまなキャッシュレス決済が誕生する中で、WeChat Pay (ウィーチャットペイ) に注目が集まっています。WeChat Pay は中国生まれの決済サービスで、中国国内で広く利用されています。また、実店舗だけでなく EC サイトでのオンライン決済にも対応しています。
日本でも、中国からの訪日旅行客によるインバウンド需要が高まっている今日において、重要な決済手段として位置付けられています。そのため、最近では日本の事業者が WeChat Pay を導入するケースも見られるようになってきました。
本記事では、WeChat Pay の基礎知識として、市場規模、決済方法のほか、日本の事業者が WeChat Pay を導入するメリット・デメリットなどを解説します。
目次
- WeChat Pay (ウィーチャットペイ・微信支付) とは
- WeChat Pay を導入すべき理由
- 決済代行業者を用いた WeChat Pay の導入方法
- WeChat Pay を導入するメリット
- WeChat Pay を導入するデメリット
- WeChat Pay の導入事例
- WeChatPay などの決済手段を増やして顧客の決済ニーズに対応しよう
WeChat Pay (ウィーチャットペイ・微信支付) とは
WeChat Pay とは、日本で主流な「LINE」の中国版ともいわれているメッセンジャーアプリ、「WeChat (微信)」が提供するモバイル決済機能です。中国語では「微信支付」と表記します。
冒頭でも解説したように、中国人訪日客をターゲットとするインバウンドビジネスにおいて欠かせない決済手段となっており、日本国内のデパート、レストラン、コンビニ、空港などさまざまなシーンで使用可能となっています。1 つ特筆しなければならない点としては、WeChat Pay を日本国内で利用するには、中国国籍であることが条件となっているということです。この点については、後ほど「WeChat Pay のデメリット」にて解説します。
WeChat Pay による決済プロセス
WeChat Pay には、実店舗とオンラインの 2 通りの決済プロセスがあります。いずれの場合も、決済方法は QR コード決済 が基本となります。
実店舗での決済プロセス
レストランやコンビニなどの実店舗で WeChat Pay を利用する場合、販売者か購入者のどちらかが QR コードを提示する流れとなり、以下の 2 種類のタイプに分けられています。
- ユーザースキャン型 (店舗掲示型): 店舗側 (販売者) が店内のステッカーや POP にて提示する QR コードを用いて決済する方法です。消費者はスマートフォンの WeChat Pay アプリを起動して QR コードをスキャンし、金額を入力することで決済ができます。
- ストアスキャン型 (消費者掲示型): 消費者 (購入者) はスマートフォンで WeChat Pay のアプリを起動し、画面上に表示される支払専用の QR コードを店舗側に提示します。店舗側はこのコードをスキャンしたうえで金額を入力し、決済を実行します。
オンラインでの決済プロセス
EC モールなどの EC サイトで WeChat Pay を使って決済を行う場合のプロセスについては、以下のとおりです。
- EC サイト上で決済画面に進むと画面上に QR コードが表示される
- 購入者はスマートフォンから WeChat Pay を起動し、先ほどの QR コードを読み取って決済を実行
- QR コードが認証され、6 桁のパスコードの入力画面に移動
- 画面上の指示に従ってパスコードを入力すると決済が完了する
WeChat Pay を導入すべき理由
日本の事業者が WeChat Pay を導入すべき理由としては、以下の 3 つが挙げられます。
中国のモバイル決済普及率は世界トップ
まずは、中国のモバイル決済の普及率について注視してみましょう。人民網の報告によると、中国における 2023 年時点でのモバイル決済の普及率は 86% で世界トップといわれています。このように高い普及率を誇る中国の代表的なモバイル決済の 1 つが WeChat Pay です。WeChat Pay は買い物だけでなく、個人間での送金、公共料金の支払いにも用いられており、その使用用途は実に幅広く、中国では日々の生活になくてはならない決済手段となっています。
また、総務省による情報通信白書 (2024 年版) の「世界のモバイル決済での取引額の推移及び予測」では、モバイル決済の取引額が 2025 年中に 4 兆 3,400 億ドル、 2028 年には約 6 兆 1,100 億ドルにも達すると予想されています。このように、世界レベルでモバイル決済の市場規模を見ても、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末による決済が急速に普及していることがわかります。これには、多くの人口を抱える中国の WeChat Pay を含むモバイル決済市場の活性化が、大いに寄与していると考えられるでしょう。
中国向け越境 EC において主要な決済手段
次に、前章で解説した普及率を踏まえて WeChat Pay の必要性を考察する際には、日本から中国への越境 EC についても理解を深めておく必要があります。
日本の電化製品や化粧品のように、中国の消費者からの評価が高い製品は、越境 EC でも人気を博しています。経済産業省の報告書によると、2025 年の中国の越境 EC の市場規模は 2,149 億 US ドルにものぼるとされています。したがって、中国の消費者が対象となる越境 EC 事業では特に、現地消費者の決済ニーズに応えるために、WeChat Pay のような中国の越境 EC で主要な決済手段を採用することがのぞましいといえるでしょう。
中国からの訪日旅行客によって重宝されている
先ほども少し解説したように、海外からの訪日旅行客は年々増加傾向にあり、日本のインバウンド市場は非常に活性化しています。こうした状況のもと、中国からの旅行客の決済ニーズを考慮すると、日本の事業者にとって WeChat Pay は外せない決済手段といえます。また、上述の越境 EC と同様、日本製品は中国の消費者に好評で、訪日を機に低価格製品から高額な製品までさまざまな製品を日本で購入して母国に帰る中国人旅行客も少なくはありません。
このように、WeChat Pay を含むモバイル決済市場の大きさに加え、越境 EC やインバウンドへの対応策としても、WeChat Pay が日本の事業者にとって導入を検討すべき決済手段であることがわかります。
WeChat Pay の安全性
WeChat Payでは、利用者の安全性を考慮した多層的なセキュリティ対策を実施しています。
- 高度な暗号化技術: データ通信時や保存時において暗号化技術、AES (Advanced Encryption Standard) を採用することで、取引データや利用者の個人情報を保護します。
- グローバルな対応: 中国およびその他地域での運営にともない、カード情報セキュリティ基準 (PCI DSS) など国際的なセキュリティ基準に準拠。また、すべての通信情報については SSL (Secure Sockets Layer) によって保護されているため、悪意ある第三者によるデータの盗難を防止
- 多要素認証: 支払い専用パスワードをはじめ、利用者の指紋や顔による生体認証 (バイオメトリクス認証) など、徹底した本人認証を実施
- 定期的なセキュリティアップデート: 誤作動などのトラブルが発生しないよう定期的なテスト・評価を実施し、セキュリティを強化
- 不正検知システム: 不正アクセスや詐欺防止を目的とするアルゴリズムを用いて、疑わしい取引のモニタリングと検出をリアルタイムに実施
決済代行業者を用いた WeChat Pay の導入方法
WeChat Pay の導入にあたっては、決済代行業者を利用することをおすすめします。決済代行業者なら、決済の導入にかかるさまざまな業務を代行してもらえるだけでなく、決済代行業者が提供するシステムも利用可能となっているため、売上や集客率の一元管理など、運用業務の負担軽減を図ることができるでしょう。
具体的な導入の流れは以下のようになっています。
- 決済代行業者と見積もり内容を確認したうえでサービスを申し込む
- 加盟店審査を受ける
- 審査の通過後、決済システム管理画面のアカウントの発行
- 初期設定の完了後、利用可能かどうかテストを実行
- WeChat Pay の決済サービスの提供を開始
WeChat Pay を導入するメリット
事業者が WeChat Pay を導入するメリットについては以下のとおりです。
決済をスピーディーに完了できる
WeChat Pay を利用できれば現金を準備する手間が省け、決済をスピーディーに完了でき、顧客満足度の向上が期待できます。また、レジ周辺の混在を防ぐことができるほか、現金取引のような釣銭の渡し間違いによるトラブルも発生しません。
多くの中国人顧客の獲得が期待できる
日本国内で WeChat Pay が利用できる機会は増えつつありますが、現金のようにまだまだすべての買い物や外食シーンで使えるというわけではありません。そのため、特に中国人訪日客が多い観光地付近の店舗の場合、WeChatPay を導入しておくことで、競合他社との差別化にもつながるでしょう。
リピーター獲得と潜在顧客へのアピールになる
WeChatPay には、商品を購入した店舗の WeChat 公式アカウントをフォローする機能があります。店舗のフォロワーには、後日開催されるセールやキャンペーンなどの情報が配信されるため、引き続きリピーターとして取り込むことが可能です。さらに、これらのキャンペーン情報については、フォロワーによって拡散してもらうことで、さらに多くの客層へのアピールにもつながります。
WeChat Pay を導入するデメリット
WeChat Pay を導入するデメリットには以下のようなものが挙げられます。
日本国内での利用は中国国籍の方のみが対象
日本でも利用が可能となっている WeChat Pay ですが、現時点における日本国内での WeChat Pay の利用については、中国国籍の方のみが対象となっています。また、日本人の方が WeChat Pay を登録した場合に活用できるシーンは、中国への出張などの訪中の場合に限られます。そのため、中国からの旅行者がほとんどいないような、観光地以外の地域にある店舗の場合、WeChatPay を導入してもあまり効果がないかもしれません。
方針が変わり仕様内容が変更される可能性がある
中国ではインターネットの規制が厳しく、政府による管理体制のもとで機能しています。そのため、今後政府の方針が改変され、WeChat Pay の導入に関する条件がより厳しくなったり、一部サービスの利用が制限されるといった可能性も考えられます。
このように、ある日突然利用ができなくなるというケースがないとも言い切れないため、中国経済や政治の動向についても、日頃から留意しておく必要があるかもしれません。
WeChat Pay の導入事例
ここでは具体的に WeChat Pay が日本国内のどのような店舗で利用できるかを知るために、いくつかの事例を紹介します。
ドラッグストア
日本国内の数多くのドラッグストアでは WeChat Pay が導入されています。ドラッグストアでは医薬品・医薬部外品をはじめ、化粧品や日用品、スナック菓子、酒類などが購入できますが、そのほか、最近では野菜や肉などの生鮮食品も購入できる店舗が増えています。日本のドラッグストアは中国人訪日旅行客からのニーズが高く、街中のドラッグストアで化粧品や医薬品が大量に購入されるケースもよく見られます。
このようにドラッグストア各社では、WeChat Pay などの決済手段を幅広く消費者に提供することで、売上アップやビジネスの拡大に取り組んでいます。
- 事例: スギ薬局、ココカラファイン、マツモトキヨシ
コンビニエンスストア
日本の大手コンビニエンスストア (以下、コンビニ) でも、WeChat Pay が利用できます。私たちの日常生活に欠かせないコンビニは、優れた品質と豊富な品揃え、利便性の高さから、世界各国からの訪日旅行客に人気があります。最近ではインバウンドの需要に応じて、お土産品を販売する店舗も増えています。
安上がりで簡単に食事を済ませたいときや、旅行中に忘れ物に気づいたときなどに身近にあると安心できるのがコンビニの強みです。コンビニで WeChat Pay が使えると、急いでいる時でもすぐに必要なものを購入できるため、中国人観光客によるコンビニの利用頻度が高まるでしょう。
- 事例: ローソン、セブンイレブン、ファミリーマート
このように、ドラッグストアやコンビニなどの業種では、ほとんどの大手企業が WeChat Pay に柔軟に対応しています。また、上記以外にも、ビックカメラなどの家電量販店や、ユニクロなどのアパレル小売店でも利用できるようになっており、日本国内での WeChat Pay の導入が着々と進んでいることがわかります。
WeChat Payに代わる決済手段
中国の消費者を考慮したうえで WeChat Pay に代わるその他の決済手段を導入したい場合、以下の決済手段を検討してみるのもよいかもしれません。これらはいずれも中国で利用されている主な決済手段となります。
- Alipay (アリペイ: 支付宝)
- 銀聯 (UnionPay) の銀聯カード
Alipay は WeChat Pay と並んでキャッシュレス決済の代表格といわれており、銀聯は中国国内で最もメジャーな決済ブランドとなっています。
WeChat Pay などの決済手段を増やして顧客の決済ニーズに対応しよう
決済手段の選択肢が増えると、消費者はより快適に買い物を楽しめるようになります。これによって多くの消費者の満足度が向上すれば、自社商品やサービスの継続利用や店舗への再訪を見込むことができるでしょう。
キャッシュレス決済には多種多様な決済手段があり、事業者側がどれを導入するべきかは、業種や客層によって異なります。WeChat Pay は、中国国籍の方や、中国国内にいる際に日本人でも利用が可能な決済手段です。そのため、事業者は WeChat Pay の必要性を十分に考慮したうえで、売上の向上につながるかどうかを見定めてから導入すべきかを判断しましょう。また、WeChat Pay を含む複数の決済手段を同時に導入したい場合は、購入トレンドの分析や売上高の管理など、充実したサポート体制が整っている決済代行業者を利用すれば、より心強いといえるでしょう。
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