日本国内から、海外に住む消費者向けにビジネスを展開できる越境 EC は、今日の日本において、多くの事業者から注目を集めています。越境 EC で販路を拡大させるためには、進出先の国の消費者のニーズに合う決済方法を提供できることがとても重要です。
本記事では、越境 EC の「決済」に着目し、越境 EC ビジネスを展開するうえでおさえておきたいポイントや越境 EC の決済に関する注意点などについて解説します。
目次
- 越境 EC とは
- 越境 EC で使われる決済方法
- 中国・アメリカで使われている主な決済方法
- その他のアジア圏で使われる決済方法
- 越境 EC において決済方法・決済サービスを選ぶ際のポイント
- 越境 EC の決済に関する注意点
- 越境 EC を成功に導くために
越境 EC とは
越境 EC とは、英語で「Cross Border E-Commerce」といい、商品やサービスを海外に向けて販売する電子商取引を意味します。近年の通信技術の向上やインターネット、SNS の普及に伴い、多くの人が海外製品に関心を持つようになり、越境 EC 市場は年々成長を続けています。
日本の事業者が越境 EC に参入するにあたり、見過ごしてはならないのが中国とアメリカの消費者の存在です。これは、この 2 カ国の越境 EC の市場規模が他の国と比べて非常に大きいためです。さらに、中国やアメリカについては、これらの国に住む消費者の多くが、越境 EC を通して日本から商品を購入しており、日本の事業者の越境 EC ビジネスに大きな影響を与えているため、特に注目度の高い国となっています。
このことからも、越境 EC を通して中国やアメリカの消費者に商品を購入してもらうために、現地の消費者が安心して決済を行えるよう、柔軟な決済手段を提供できることはとても大切といえます。
越境 EC で使われる決済方法
まず、越境 EC にはどのような決済方法が利用されているのか、ひとつひとつ見ていきましょう。
クレジットカード
クレジットカードは、消費者にとって、比較的使いやすく、馴染みある決済方法なため、一般的に越境 EC を含む幅広いシーンで使われています。ただし、消費者がクレジットカードを商品の購入時に利用する場合、カードによっては通過換算手数料がかかります。
また、クレジットカード決済における安全面が懸念されることもあるため、事業者は、消費者が安心して決済を行えるよう、徹底したセキュリティ対策を講じる必要があります。
デビットカード
デビットカードは、連携している銀行口座から、購入と同時に代金が引き落とされる決済方法です。クレジットカードと異なり、消費者の銀行口座の残高範囲内に限った決済が可能となります。そのため、クレジットカードのように知らないうちに借り入れをし過ぎてしまうことはありません。デビットカードは日本国内ではあまり利用されていませんが、アメリカなどの海外では、よく利用されています。
第三者の決済代行サービス (PSP)
第三者決済サービスを介した決済方法の場合、クレジットカード情報や銀行口座情報を越境 EC サイト上に登録せず、複数の決済方法から好みのものを選んで取引ができます。つまり、消費者は 越境 EC サイト運営者に、個人情報を直接伝えることなく決済ができ、消費者にとって信頼度が高く、安全性に優れた決済環境が整っていることが特徴的です。
さらに、決済代行サービスでは通常、クレジットカード決済だけでなく多種多様な決済手段に対応しているため、事業者が自社の越境 ECサイトの決済環境を構築するうえで決済代行会社を利用すると、サイトの利便性向上が期待できるでしょう。
電子マネー
「電子データ化されたお金」を意味する電子マネーは、越境 EC において消費者がよく使う決済方法です。電子マネーの場合、あらかじめ現金をチャージして支払う前払い (プリペイド) と、電子マネーアカウントを銀行口座やクレジットカードに紐付けることで、引き落としが可能な後払い (ポストペイ) があります。
日本では、PASMO (パスモ) や ICOCA (イコカ) のように、IC カード乗車券が電子マネーとしての役割を担っている場合もあります。これらのサービスでは、提携するコンビニや自動販売機、飲食店でも利用できるため、日常での利便性に優れています。
オンラインバンキング
オンラインバンキングによる指定銀行口座への振り込みは、日本国内での取引でよく利用される決済方法で、主に高額な商品に対する支払いに利用されています。振り込みは ATM や銀行経由、アプリ上から行うことができ、越境 EC でも利用可能ではありますが、国際銀行送金となることから時間がかかったり、銀行間でエラーが生じたり、手数料が高額となることがあるため、それほど一般的な決済方法ではありません。
代金引換
代金引換は、自宅や勤務地などに注文商品が配達された時に、配送業者に直接代金を支払う決済方法です。クレジットカード情報を EC サイトで入力する必要がなく、対面で決済が行われるため、諸事情によりクレジットカードを持たない消費者には最適といえます。
後ほど「その他のアジア圏で使われる決済方法」にて解説しますが、いくつかの国では、越境 EC で代金引換が用いられています。そのため、進出先の国によっては代金引換も考慮しておく必要があるといえるでしょう。
中国・アメリカで使われている主な決済方法
先ほども解説しましたが、中国とアメリカは、越境 EC において注目度の高い国となっています。ここでは、この 2 カ国の代表的な決済方法についてご紹介します。
中国
越境 EC が活発な中国では、アリペイ (Alipay: 支付宝) や WeChat Pay (微信支付) のような第三者決済サービスが盛んに活用されています。このほか、中国国内で最もメジャーな決済ブランド、銀聯 (UnionPay) が提供するデビットカード機能付きの銀聯カードも、中国国内で圧倒的な人気を誇っています。
なお、JETROによる地域・分析レポート『中国の越境 EC 』では、アリペイや WeChat Pay などの第三者決済サービスの利用割合が 82.9%、銀聯カードを含むクレジットカード、デビットカードの利用割合が 65.3% となっています。
アメリカ
クレジットカード大国のアメリカでは、越境 EC においてもクレジットカード決済が主流です。クレジットカード以外によく利用される支払方法としては、デビットカードや、第三者決済サービスの PayPal が挙げられます。そのため、越境 EC に参入するにあたって、進出国にアメリカを視野に入れている場合、決済方法としてまず第一に、クレジットカード決済や Paypal を利用可能にしておくとよいでしょう。
経済産業省の 『電子商取引に関する市場調査』によると、アメリカにて EC サイトでよく使われる決済手段について、クレジットカードが 55%、デビットカードが 25%、ペイパルが 10% となっています。
その他のアジア圏で使われる決済方法
ここでは、中国とアメリカ以外の、その他アジア圏において越境 EC でよく使われている決済方法を、いくつか国別にまとめました。
韓国: Visa/MasterCard、KakaoPay、Naver Pay、Samsung Pay
台湾: Visa/MasterCard、LINE Pay、JKoPay (街口支付)
シンガポール: Visa/MasterCard、PayPal、GrabPay、AliPay
タイ: Visa/MasterCard、PromptPay、TrueMoney、Rabbit LINE Pay、代金引換、銀行振込
フィリピン: GCash、PayMaya、代金引換、銀行振込
マレーシア: Visa/MasterCard、Touch ‘n Go eWallet、Boost、FPX
いずれの国における共通点としては、モバイル決済を含む電子決済が普及し、キャッシュレス化が進んでいることが挙げられます。こうした動向には、各国政府によるキャッシュレス化の推進と支援をはじめ、銀行やフィンテック企業の取り組みによって決済のデジタル化が加速していることが背景にあります。
また、タイやフィリピンのように、電子決済が普及している一方、依然として現金 (代金引換) によって決済が行われているケースもあります。
越境 EC において決済方法・決済サービスを選ぶ際のポイント
進出先の国・地域の決済習慣
各国や地域の文化背景や習慣は、それぞれ大きく異なります。これは決済についても同じで、国や地域別に異なる決済習慣があります。たとえば、中国ならアリペイや WeChat Pay が代表的で、アメリカであればクレジットカードや PayPal が圧倒的に支持されているように、こうした国によって異なる人々の決済習慣を把握しておくことが大切です。越境 EC の進出先で求められる決済方法を準備すれば、サイトの利便性にもつながり、越境 EC を利用する消費者の満足度も向上するため、売上の増加が期待できるでしょう。
自社に見合う運用コスト
越境 EC には、運用にかかるさまざまなコストが発生します。たとえば、クレジットカード会社や、決済サービスプロバイダー (PSP) によって決められた、決済ごとに発生する手数料がこれに該当します。事業者は、こうした手数料などの料金を支払う必要があるため、顧客への充実した決済環境の提供が重要であると同様に、自社が無理なくビジネスを運用できるような決済サービスプロバイダーを選択することは、とても重要です。ひいては、越境 EC で商品を販売する事業者は、費用対効果を見極めたうえで、出費を抑えつつ継続可能な決済サービスを検討するようにしましょう。
万全なセキュリティ対策
越境 EC では、セキュリティ対策も忘れてはならない重要ポイントです。セキュリティが万全でなかったことで情報が漏えいしてしまうと、顧客に大きな損害を与え、事業者側の社会的な信用は失われてしまいます。そのため、事業者は、決済に関わる個人情報の取り扱いや、顧客のプライバシー保護を徹底する必要があります。また、なりすましなど、クレジットカードの悪質な不正利用を防止するためには、3D セキュア 2.0 の導入についても怠らないようにしてください。
越境 EC の決済に関する注意点
越境 EC のように国と国をまたがった決済では、日本国内だけで EC ビジネスを展開する場合とは異なる注意点があります。
多様な通貨と為替の変動
海外の消費者が安心して商品を購入できることは、消費者の購買意欲の向上と、サービスの信頼性に直結します。そのため、越境 EC では、消費者が自国から決済できるよう、国ごとに異なる複数の通貨に対応していることが大切です。
また、消費者にとっては越境 EC の利用にあたって通貨換算手数料が発生したり、為替の変動によって現地通貨での商品価格が上昇する場合があることも、商品価格を設定するうえで理解しておきましょう。
関税
越境 EC では、商品の輸出入にかかる関税が発生します。関税は、基本的に購入者が負担するものです。そのため、事業者は自社の商品における越境 EC で生じる関税について十分に把握したうえで、消費者が商品を購入する時に関税率や関税見込額がわかるよう、情報を明記するなどの配慮を心がけるようにしましょう。また、上述した為替の変動と同様に、関税がかかることを考慮した価格を設定することも大切です。
消費税
消費税は、日本国内で消費されるものに適用されるため、越境 EC では消費税はかかりません。これは、越境 EC を通した取引が、日本国外での使用を目的とする商品の販売に該当し、免税対象となるためです。したがって、日本から越境 EC で商品を販売する事業者側は、適切な手続きを踏むことで消費税の納税金額を抑えることができるため、越境 EC における消費税の知識を身につけておくことが大切です。
越境 EC を成功に導くために
自社の商品やサービスを世界に発信できる越境 EC は、日本という限られた範囲を超え、海外での売上向上を見込めるといった、大きなポテンシャルを秘めています。越境 EC を成功に導くためには、事前の市場調査や現地ニーズの分析を含むさまざまな準備が必要ですが、販売先となる各国の決済手段に対応可能にしておくことも、とても大切です。
そのため、本記事内でもご紹介したアリペイや PayPal のように、越境 EC 市場が活発な国にてメジャーな決済方法の提供はもちろん、消費者が安心して買い物を楽しめる決済環境の整備について、万全に取り組むようにしましょう。
Stripe は、さまざまな決済手段の導入をはじめとし、情報処理や収益管理など、決済業務の効率化を後押しするツールや機能を幅広く提供しています。たとえば、越境 EC への参入を検討中の事業者の方の場合、オンライン決済に柔軟に対応する Stripe Payments を導入すると、自社システムの開発を行うことなく、ビジネスに適した決済環境を整えることができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。