海外の顧客向けにオンラインショップを展開する EC 事業、「越境 EC 」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。越境 EC とは、国を越えて海外に向けて商品やサービスを販売する電子商取引 (EC) です。
海外に販売を展開する越境 EC は、日本国内の消費者だけでなく、海外の消費者がターゲットとなることで販売機会の拡大を見込めるため、今日において多くの事業者によって注目されています。
本記事では、越境 EC の基礎知識として、市場規模、メリットやデメリット、注意点のほか、日本の成功事例などについて解説します。
目次
- 越境 EC とは
- 越境 EC の市場規模: 現状と将来性
- 越境 EC のメリット
- 越境 EC のデメリット
- 越境 EC を始める準備
- 越境 EC についておさえておくべき注意点
- 日本企業の越境 EC 成功事例
- 越境 EC に関するよくある質問
- 越境 EC ビジネスを成功に導くには
越境 EC とは
冒頭の解説のように越境 EC とは、商品やサービスを海外に向けて販売する電子商取引のことです。英語では「Cross Border E-Commerce」と表記します。
わかりやすく言い換えると、日本国内での販売にとどまらず、アメリカや中国、欧州など、海外に居住する消費者が対象の EC 事業を意味します。
海外旅行の経験がある方の場合、旅行先の現地で購入した商品を使ってみて、とても気に入ったけれど、自国では入手が難しいという経験をされた方もいるかもしれません。しかし、このように本来であればその国でしか買えない商品でも、越境 EC サイトなら、自国から簡単に購入および入手することができます。つまり、日本の事業者の視点からすると、越境 EC には、日本ならではのブランドとしての強みを活かしながら、自社商品を世界へ発信できる可能性が秘められているのです。
越境 EC の市場規模: 現状と将来性
越境 EC 市場は年々拡大していますが、その背景には、越境 EC の認知度の向上、自国にはない商品への購買欲求、自国よりも低価格で購入できる商品の存在、メーカーや品質への信頼性などが挙げられます。また、越境 EC によって世界各国の消費者をターゲットとし、ビジネスの拡大を試みる事業者側の積極的な取り組みも、拡大の背景として挙げられます。
まずは、2024 年 9 月に公表された経済産業省の『令和 5 年度 電子商取引に関する市場調査 報告書』の資料を参考に、世界の EC 市場シェアの現状を見てみましょう。同資料 (98 頁) の図表では、2023 年の国別の EC 市場規模 (B2C) について、中国とアメリカが 2 カ国のみで全世界の 70% 以上のシェアを占めていることを示しています。
特に中国については、市場全体の過半数を占めており、その市場規模の勢いが際立っています。したがって、越境 EC 市場について考察するにあたり、これら 2 カ国の EC 市場シェアを把握しておくことは大変重要となります。
また、同資料では、世界の越境 EC 市場規模の拡大予測として、2030 年には 7 兆 9,380 億 US ドルに達するとし、年間の平均成長率は約 26.2% と推計しています。こうした予測からも、越境 EC 市場は、将来的にも成長し続けるポテンシャルが伺えます。
越境 EC のメリット
越境 EC には、以下のようないくつかのメリットがあります。
海外の顧客に販売できる
ここまでで記事を読まれて、すでにおわかりかもしれませんが、越境 EC の最大のメリットは、なんといっても海外にいる顧客に対して商品を販売できるということです。つまり、日本国内という限定された範囲ではなく、日本国外の顧客を獲得できるため、より幅広い販売機会が期待できます。
たとえば、中国のように、日本と比べると遥かに人口の多い国への越境 EC を行えば、それだけ多くの人に、自社の商品やサービスをアピールできるようになります。さらに、現地で商品が高く評価されれば、商品の認知度はさらに向上し、売上の拡大にもつながります。
また、今日のインバウンド需要の拡大によって、外国人による日本製品の認知度はさらに向上しています。そのため、訪日外国人が自国へ帰国した後の、越境 EC を活用した商品のリピート購入も期待できるでしょう。
オンラインショップなら実店舗より運営しやすい
越境 EC はあくまでインターネット上のビジネスとなるため、海外拠点として実店舗を構えるよりも、よりスムーズで簡単に出店が可能です。また、オンラインショップなら、実店舗のような土地や建物にかかる費用や店舗スタッフなどの人件費を抑えることができます。
ライバルが少ないケースがある
販売する商品分野によるかもしれませんが、越境 EC で海外の消費者を対象に商品を販売する場合、日本で販売を行うよりも比較的ライバルが少なくなる可能性があります。
たとえば、日本人であれば誰でも知っているような、既に日本で幅広く認知されている商品は、日本国内市場では競争が激化しているのが一般的です。一方、こうした商品でも、海外では認知されていない場合、越境 EC で販売を開始すれば、まだまだ市場が確立していない分、競合相手はほとんどいないというケースも考えられます。
越境 EC のデメリット
次に、以下のような越境 EC のデメリットについてもおさえておきましょう。
輸送にかかるコストが高額
日本国内での配送だけを対象にしている場合と比べ、越境 EC のように海外を視野に入れた事業の場合、輸送にかかるコストが高額となってしまうことが、デメリットの 1 つに挙げられます。また、輸送コストについて、最終的に海外にいる消費者がその多くを負担をしなければならないとなると、購入を断念してしまう可能性もあります。
国・地域で異なる法律、商習慣などに関わる業務負担
海外に居住する顧客を対象にビジネスを行うということは、これらの国の法律や制度に準拠していることが大前提です。そのため、越境 EC を行う際には、進出先の国の法律への理解を十分に深めて、適切に対応する必要があります。たとえば、欧州連合 (EU) の各国で適用されている GDPR については、個人情報に関する厳しい規制があることから、十分な注意が必要です。
このような越境 EC にかかる業務は、販売先の国や地域で異なるため、海外事業への対応に慣れていないと大きな負担にもなりかねません。
また、文化背景や商習慣が大きく異なる海外の顧客に対しては、日本での常識を貫くのではなく、柔軟なサービスや商品開発が求められるでしょう。
グローバル化による不正利用の増加
日本以外で発行されたクレジットカードによる不正利用も、事業者側の懸念材料です。海外の幅広い顧客へ自社ビジネスをアプローチできることは、大きなメリットではありますが、同時に悪意ある個人や組織による不正行為が発生するリスクが広がってしまう可能性もあるのです。
したがって、こうしたトラブルを避けるためにも、越境 EC の決済では、徹底した不正利用防止対策を講じることがとても大切です。
越境 EC を始める準備
越境 EC を行うためには、まず越境 EC の始め方 (事業モデル) や仕組みを理解したうえで、以下の準備を進めることが大切です。
出店・出品方法を決める: どのような事業モデルにするか、自社に最適なものを選択する
在庫準備: 十分な在庫の準備と、現地の税関や輸出入に関する法制度に準拠した輸送計画を立てる
複数言語への対応: 進出先の言語にローカライズされたサービスを提供するために、複数言語に対応可能な人材を確保する
越境 EC についておさえておくべき注意点
越境 EC については、先ほど解説したデメリットについて、十分な注意が必要となりますが、この他の主な注意点として、以下の項目についても事前に確認しておきましょう。
商品が越境 EC に適しているか、現地のニーズとマッチしているかを調査する
出店・出品後のマーケティング戦略、販売計画を立て、社内体制を整えておく
資金調達、資金繰りをはじめとし、正確な収支管理を行う
日本企業の越境 EC 成功事例
越境 EC について一通り解説したところで、越境 EC サイトの成功事例として、いくつかの日本の企業をご紹介します。
北海道お土産探検隊
北海道お土産探検隊とは、日本国内でも北海道のお土産品としての人気を誇る「白い恋人」や「六花亭」、「ロイズ」などの商品が有名な越境 EC です。北海道千歳市に拠点を置く株式会社山ト小笠原商店が運営しています。
同越境 EC サイトでは、翻訳機能を駆使しながら海外顧客とのコミュニケーションに円滑に対応しているほか、中国語や英語を話す人材が海外販売を担当することで、海外向けのサービスとして成功しています。
Tokyo Otaku Mode Shop
Tokyo Otaku Mode Shop は、日本のアニメやゲームに関する商品を、世界 100 カ国以上に販売提供を行っている越境 EC です。主にアメリカやカナダ、フランスからの海外ファンが集まる同越境 EC サイトでは、サブカルチャーに興味を持つ顧客ニーズに応えるために、利用者が容易にショッピングを楽しめるサイトを構築しており、日本のポップカルチャーに特化した情報配信など、SNS を通したマーケティング戦略も積極的に行っています。このように、越境 EC サイトへ顧客を導き、購買意欲を促すことで、売上を拡大させています。
無印良品
日本でも多くのファンを抱える無印良品は、越境 EC サイトを取り入れることで海外の顧客を確実に獲得しています。特に無印良品の場合、そのシンプルなデザイン性と、情報の透明性、品質へのこだわりが、環境への配慮を意識する海外顧客にとって受け入れられやすく、無印良品が掲げるサステイナビリティとも一致している点が、成功の要因として考えられています。
こうした海外の消費者に寄り添ったマーケティング戦略は、越境 EC サイトとしても大切な要素といえるでしょう。
越境 EC に関するよくある質問
越境 EC と現地 EC の違いは何ですか?
2 つの大きな違いは、商品がどこからどこへ発送されるかという点にあります。越境 EC は、その言葉どおり、日本の場合であれば日本国内から海外へ発送されます。一方現地 EC の場合、商品は現地から発送されます。このほか、現地 EC では、現地の通貨で決済が行われますが、越境 EC では基本として、日本円建てで決済が行われます。
越境 EC で消費税はかかりますか?
消費税とは、日本国内で購入かつ消費されるものに適用されます。そのため、日本国外での使用を目的とする商品の販売になる越境 EC では消費税はかかりません。これを輸出免税と呼びます。
越境 EC の関税は誰が負担するのですか?
海外に商品を販売する場合、関税が発生します。越境 EC で発生する関税については、基本的には購入者が負担しますが、越境 EC サイトの運営事業者側や出店者などが負担するケースもあります。購入者が負担する場合は、関税を事前に考慮したうえで価格設定を行うようにし、関税を含んだ料金が越境 EC サイト上で購入前に確認できるようになっていることが理想的です。
越境 EC ビジネスを成功に導くには
今回は、越境 EC とはなにか、市場規模やメリット・デメリットを交えながら解説しました。
越境 EC は、海外の顧客をターゲットとするビジネスです。そのため、日本人だけでなく、多様な文化的価値観を持つ現地の顧客への理解や、多言語における柔軟な対応が事業者に求められます。また、消費者のニーズを満たすことのできる越境 EC を行うには、進出先の国の市場調査は欠かせません。まずは、現地の市場や動向について十分に調査を行い、自社商品が海外の消費者に適しているかどうかを見定めたうえで、ビジネス拡大と成長の可能性を探るとよいでしょう。
このほか、本記事内でも解説したように、越境 EC の参入に際しては、事業モデルや仕組みを正しく理解し、現地の法規制に関する事前の把握や、物流経路や決済環境などを万全に整えておくことも大切です。何より、海外の消費者にとって、安心して商品を購入できることは、消費者の購買意欲とサービスの信頼性に直結します。そのため、こうした事前準備をきちんと行うようにしましょう。
Stripe プロダクトのひとつ、Connect では、複数の取引先との支払いを効率的に管理することができ、売上の分配、手数料の徴収、国際的な取引対応など、多くの機能を提供しています。そのため、ショップ (出店者・出品者)、顧客 (商品の購入者) など、複数の当事者が関わる自社 EC サイトやマーケットプレイスを開設および運営するにあたり、決済機能の強化と決済フローの簡易化を目指す方は、Connect を導入することで、よりスムーズで効率的な事業展開を図ることができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。