ライブコマースとは、ライブ動画配信を用いて商品やサービスをリアルタイムで紹介し、消費者の購買意欲の促進を目的とする販売手法です。ライブコマースは、特に中国で成長が著しく、日本でも今後さらなるライブコマース市場の拡大が期待されています。これには、2020 年のコロナ禍以降に定着した「おうち時間」をきっかけとして、自宅から SNS による配信動画を作成したり、ライブ動画を視聴する機会が増えたことが背景にあります。
本記事では、ライブコマースの基礎知識について、メリットやデメリットのほか、ライブコマースに向いている商品などについて事例を交えながら解説します。
目次
- ライブコマースとは
- ライブコマースの背景
- ライブコマースを導入するメリット
- ライブコマースを導入するデメリット
- ライブコマースに向き・不向きの商品と成功事例
- ライブコマースをビジネスの拡大に繋げるために
ライブコマースとは
冒頭で解説したように、ライブコマースとは消費者向けにライブ動画を配信することで、宣伝効果を図る販売手法を意味します。
ライブコマースの配信者としては SNS で人気を集めるインフルエンサーが代表的ですが、店舗スタッフや 企業の PR 担当スタッフがライブコマース動画を配信するケースも見られます。ライブコマースは、商品の感想や実演のほか、視聴中のファンとコミュニケーションを取りながらリアルタイムで進められるため、臨場感のある宣伝コンテンツであることが特徴です。また、ライブ配信中に視聴者が商品を購入したり、動画配信中に割引コードが提供されることもあり、視聴者の購買意欲が高まりやすくなるように構成されています。
このようにライブコマースは、配信者側、視聴者側との双方のやり取りを活かすことのできる販促活動です。 また、フォロワーやファンにとってエンターテイメント性に富んだ内容となっているため、SNS 上でも注目を集めています。
現在の日本市場におけるライブコマース
日本市場においては、さらなる成長が期待されているライブコマースですが、冒頭で解説した中国のように、日本ではライブコマース市場が成熟しきっていないのが現状です。その理由としては、商品の紹介や販売に特化した、知識・経験の豊富なライバーが十分足りていないことが考えられます。そのため、ライブコマースを目的とするライバーの育成やサポートのほか、主流となり得る複数のライブコマース専用プラットフォームを構築させることが、今後の課題でもあります。
また、日本の場合、実店舗や EC モールで、好きな時間帯で自由気ままに商品を吟味しながらショッピングを楽しむことで、顧客が満足する傾向にあります。たとえば、もしライブコマースがきっかけで、ある商品に興味を持ったとしても、実際にはライブコマースの動画を視聴中に購入するのではなく、後日実店舗や EC サイトから購入するケースもあります。特に EC モールでは、「毎月 3 日はポイント 3 倍デー」のような特定の日程に高い倍率のポイントが付与されたり、週替わりセールなどが頻繁に開催されるため、ライブコマース単体による確実な売上実績を算出することが難しいとも言われています。
一方、ライブコマースについては、ライブ動画配信中の売上ばかりを重視するのではなく、ライブコマースだからこそ可能なビジネスの拡大に繋がる要素を持っています。たとえば、認知度が低い商品のアピールや、事業者および配信者側と視聴者側 (顧客) のエンゲージメントを図るコミュニティーの場としてライブコマースを用いることで、のちの売上に繋がる可能性が十分にあります。したがって、日本市場におけるライブコマースの展望については、今後の成長と動向を注視する必要があるでしょう。
ライブコマースの背景
ライブコマースが世界規模で盛り上がりを見せている背景には、SNS 上の動画市場そのものが急速に拡大していることが挙げられます。特に近年は、モバイル通信技術において活発的な改善が重ねられていることで通信速度はさらに高速化し、スマートフォンについては高性能なモデルが次々と開発され、誰でも気軽に動画配信ができるようになりました。これに伴い、芸能人に劣らない人気を誇るインフルエンサーも数多く誕生しています。
また、コロナ禍によって EC サイト上での買い物文化が浸透したほか、外出自粛に伴う芸能人の SNS 動画配信が一般的となったことで、著名人やタレント、さらに一般市民のインフルエンサーによって商品やブランドを推奨するライブコマースが TV コマーシャル同様に定着するようになりました。ライブコマースの場合、インフルエンサーを応援したい、インフルエンサーのコンテンツを手軽に楽しみたい数万単位のフォロワーをターゲットにできるため、大きな宣伝効果が期待されます。最近では、視聴者にとって身近に感じられる一般市民のインフルエンサーが、知名度を上げています。一般市民のインフルエンサーは、親しみやすく、商品の感想もよりリアルに伝えられることから、ライブコマースの動画配信者として一役買う存在でもあります。

ライブコマースを導入するメリット
商品の感想や魅力をリアルタイムに動画で伝えられる
ライブコマースの場合、テキストや画像では伝えきれない細かな情報を、ライブで伝えられることが最大のメリットの 1 つです。たとえば、衣類の場合、画像だと一方向または幾つかの方向からしか表現できませんが、ライブコマースであれば、角度を動かしながら商品を見せることができ、他の服とのコーディネートや着心地などの魅力をその場で伝えることができます。
ファンやフォロワーに効果的なアプローチができる
ライブコマースは通常、既に多くのファン、フォロワーを抱える配信者によって行われます。よって、ファンやフォロワーのほとんどが配信者のライブコマースを視聴することが予測されるため、効果的な動画への集客を見込めます。また、こうしたファンは、商品に関する質問をしたり、商品への積極的な興味を示すことで配信者をサポートしながらポジティブな姿勢でライブ動画を視聴するため、ファンに向けた宣伝効果が高まります。
たとえば、SNS で料理動画を投稿する数十万のフォロワーを持つインフルエンサーが、大手出版社から自ら手がけた料理のレシピ本を発売することになった場合、多くのフォロワーがインフルエンサーをサポートするために、レシピ本を購入することもあります。また発売に際して、レシピ本を用いて料理動画を配信する形式でライブコマースを行うこともできます。
動画制作に際して時間や場所を設定しやすい
配信は基本的にいつでもどこでも可能なため、日本の事業者が海外在住のインフルエンサーに依頼して、日本のフォロワーを始めとする視聴者向けにライブコマースを行うことも可能です。また、ライブコマースなら TV コマーシャルのように大掛かりな撮影や編集をしなくても気軽に動画を制作できるだけでなく、視聴者が身近に感じられる庶民的なシーンをあえて演出することで、実用性や使用感をイメージしやすくなるといった効果をもたらすことができます。
ライブコマースを導入するデメリット
視聴者がいないと売上には結び付かない
ライブコマースの場合、ライブ配信中の集客は不可欠です。そのため、もし事業者が商品イメージにマッチしない配信者を選んでしまったり、準備が間に合わず、事前に告知しないまま突然ライブ動画を配信した場合、思うように集客できない可能性があります。その場合、せっかくライブコマースを実施したものの、売上に結び付かない結果となってしまいます。
したがって、配信者にライブコマースを依頼をする前には、配信者のフォロワー数だけでなく、ライブ配信の視聴者となるフォロワー側が求めるものやイメージと、宣伝したい商品がマッチしているかどうかを十分に確認しましょう。また、インフルエンサーと事業者間での事前打ち合わせや告知を怠らないことも大切です。
ライブ動画のクオリティは完全に配信者のスキルに依存する
入念な計画をもとに制作される TV コマーシャルの場合、経験豊富な撮影クルーや動画編集チームが揃っており、撮影準備をはじめ、台本の修正やシーンの撮り直し、不要な箇所を省いたり強調したい情報は CG エフェクトで編集するなどさまざまな改善が可能です。よって、TV コマーシャルとしてのクオリティを満足いくまで高めることができます。
しかし、ライブコマースとなると、動画は編集されないままリアルタイムな演出で進行するため、動画のクオリティはすべて配信者に委ねられます。そのため、たとえ意図的ではなかったとしても、問題発言が口からこぼれてしまったことでブランドや商品のイメージが損なわれたり、配信が途切れてしまったりなどの予期せぬトラブルが発生するリスクを伴います。
したがって、事業者が配信者を決める際には、機材や小道具の手配やリハーサルなどの事前準備に抜かりのない、トラブルに柔軟かつ落ち着いて対応できる、ライブ配信慣れしているインフルエンサーに出演を依頼するようにしましょう。
ライブコマースに向き・不向きの商品と成功事例
ライブコマースを実施する前に知っておくべき注意点として、すべての商品がライブコマースに向いているというわけではないことを理解しておきましょう。すなわち、ライブコマースで宣伝したい商品そのものについては、決定するにあたって注意が必要です。
以下にライブコマースに向いている商品と向いていない商品をご紹介します。
ライブコマースに向いている商品
アパレル商品 (衣料品)
アパレル商品をライブコマースで紹介する場合、配信者が実際に着用して動く姿やシルエット全体を見せることで、丈やサイズ感をより忠実に視聴者側に伝えることができます。また、生地の肌触りや着心地について視聴者から質問されるときにも、率直な回答を提供しやすくコミュニケーションを円滑に交わしやすく、ライブコマースとの相性の良い商品カテゴリーといえます。
- 成功事例: Graniph (グラニフ)
オリジナルキャラクターや人気アニメとのコラボレーションによるユニークなデザイン性を活かした衣類や雑貨を展開する Graniph では、オンラインショップに掲載される写真だけでは表現しきれない箇所 (首回りや、サイドのスリット、ポケットの内側のデザインなどの細かな部分) を解説しながら SNS のライブ動画で商品を紹介しています。
化粧品・美容関連グッズ
ファンデーション、アイシャドウなどのコスメ商品や、フェイスパック、フェイシャルローラーなどの美容関連グッズも、使用方法を紹介しながらビフォーアフターを実演して見せたり、直接的な使用感をアピールできるため、視聴者への視覚的効果が高いカテゴリーです。
化粧品のライブコマースの場合、視聴者側は、質感や香りなど実際に使ってみるまでわからない不明点をその場で質問できるほか、使用後の仕上がりもリアルタイムで確認できるため、説得力と安心感を与えることができるでしょう。
- 成功事例: 資生堂
資生堂オンラインストアでは、売上の拡大や顧客エンゲージメントの向上を目的としてライブコマースを採用しており、人気商品や季節のおすすめ商品について、商品の特徴や使い方をデモンストレーションしながら紹介しています。
食品
食品のライブコマースの場合、視聴者に代わって配信者が試食、あるいは調理し、他の飲み物や食材との食べ合わせをライブ動画で紹介することで、視聴者は味や食べ応えについて、自らが試食するときと似た体験をすることができます。また、生産地、食品に含まれる栄養成分、時短レシピやアレンジ方法などの有益情報を盛り込むなど、さまざまな側面からアプローチすることが可能なため、単なる食レポ以上に効果的なアピールがしやすいカテゴリーといえます。
- 成功事例: ANA (All Nippon Airways)
日本の大手航空会社 ANA グループが提供する「ANA LIVE SHOPPING」は、ライブ動画を視聴しながら気になる商品をすぐに購入できる、ライブコマース専門の EC サイトです。食品以外の商品が時折配信されることもありますが、食品がメインとなっています。たとえば、魚介類など季節によって異なる旬の食材や、さまざまなグルメ食品が生産地からライブ配信されることもあるなど、視聴者側が楽しみながらショッピングできる動画が提供されています。また、過去の配信動画の閲覧や、今後の配信スケジュールについてもサイト上から簡単に確認できます。
ライブコマースに向いていない商品
- 年齢層が高い商品
ライブコマースを知らない、または視聴方法がわからない世代へのライブコマースによるアプローチは難しいと考えられています。そのため、高齢者向けのサプリメントや歩行器など購入者の年齢層が高い商品は避けたほうが良いかもしれません。ただし、敬老の日などをターゲットにしたギフトであれば、視聴者の年齢層は低くなるため、一概にすべてのシニア専用商品がライブコマースに向いていないというわけではありません。
- 付加価値の低い商品
「ここでしか買えない」という付加価値がない、または低い商品の場合、消費者からすると特別感が得られず、わざわざライブコマースをとおして購入する必要はないと考えられます。そのため、コンビニやスーパーに常時ストックがある食品や日用品など、近所で簡単に購入できるものは、ライブコマースには向いていません。
- すぐに結果を伝えられない商品
たとえば、ダイエット食品のように、数週間から数ヶ月の間継続して摂取することで結果が出る商品の場合、ライブ動画の配信中に商品を紹介したとしても、スリムになった、体重が減ったなどの結果をその場で見せることはできません。そのため、すぐに結果を伝えられない商品については、ライブコマースにあまり適していないといえるでしょう。
ライブコマースをビジネスの拡大に繋げるために
今回はライブコマースの基礎知識として、メリットやデメリット、ライブコマースに向いている商品と不向きな商品などについて解説しました。
ライブコマースでは、動画がリアルタイムで配信されるため、トラブルが発生した際に撮り直しや修正ができません。そのため、ライブコマースを実施する際は事前準備をはじめとし、十分な注意が必要です。一方、視聴者からの質問やコメントに瞬時に反応できるライブコマースは、視聴者とコミュニケーションを交わしながら販売活動ができる、貴重なコミュニティーの場でもあります。そのため、ライブコマースを通して商品をアピールしながら、ライブ動画だからこそできる情報発信を定期的に実施し、顧客とのエンゲージメントを向上させることで、今後のビジネスの拡大を実現することは、不可能ではないといえるでしょう。
また、ライブコマースで商品に関心を持った顧客が、スムーズな決済を行えるようにするには、自社の決済環境を最適化しておくことも大切です。Stripe は、さまざまな決済手段の導入をはじめとし、情報処理や収益管理など、決済業務の効率化を後押しするツールや機能を幅広く提供しています。たとえば、ライブコマースを活かした EC サイトを運営する事業者の方の場合、オンライン決済に柔軟に対応可能な Stripe Payments を導入すると、自社システムの開発を行うことなく、事業スタイルに合った決済環境を整えることができます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。