課税対象支払い年間報告書とは?オーストラリアに拠点を置くビジネスが知っておくべきこと

  1. はじめに
  2. 課税対象支払い年間報告書の目的
    1. 税務コンプライアンスの向上
    2. 脱税の抑止
    3. 税制の公平性の保証
    4. 監査・執行活動の支援
    5. 経済分析のためのデータ収集
  3. 課税対象支払い年間報告書の内容
  4. 課税対象支払い年間報告書の影響を受ける業界
    1. 報告が義務付けられている業界
  5. 課税対象支払い年間報告書の会計処理方法
    1. 準備
    2. 会計プロセス
    3. TPAR の提出
  6. 課税対象支払い年間報告書の免除
    1. 一般的な例外
    2. 業界固有の免除
    3. 政府との契約
    4. その他の免除
    5. その他の考慮事項
  7. 課税対象支払い年間報告書の提出プロセス
    1. 電子提出
    2. 紙による提出 (一般的ではありません)
    3. その他のポイント

課税対象支払い年間報告書 (TPAR) は、特定のビジネスや政府機関が固有のサービスを提供するために請負業者に支払った金額を報告するために提出しなければならないオーストラリアの書類です。TPAR は、特定の業界 (特に建築・建設業界) の請負業者に脱税が蔓延していることを懸念して 2012 年に制定されました。

政府は、請負業者に支払った金額を報告する責任をビジネスに負わせることで報告と法令遵守を向上させ、透明性を高め、オーストラリア国税庁 (ATO) が税金逃れの可能性を特定できるようにすることを目指しました。2020 ~ 2021 会計年度に、ATO は 4,750 億オーストラリアドル (AUD) 以上を徴収し、このうち約半分が個人の所得税によるものでした。以下では、TPAR についてビジネスが知っておくべきことについて説明します。

この記事の内容

  • 課税対象支払い年間報告書の目的
  • 課税対象支払い年間報告書の内容
  • 課税対象支払い年間報告書の影響を受ける業界
  • 課税対象支払い年間報告書の会計処理方法
  • 課税対象支払い年間報告書の免除
  • 課税対象支払い年間報告書の提出プロセス

課税対象支払い年間報告書の目的

税務コンプライアンスの向上

TPAR により、税務当局は請負業者が利益を正確に報告しているかどうかを追跡できます。請負業者が広く利用されている業界では、利益の過少申告や申告漏れのリスクが高くなるため、TPAR は請負業者に対する支払いの明確な記録となります。

脱税の抑止

TPAR のような報告制度の存在は、脱税の抑止力となります。請負業者は、雇用企業が支払いを報告していることを知っているため、利益を正確に申告する可能性が高くなります。

税制の公平性の保証

TPAR は、税制における公平な競争環境を作り出すのに役立ちます。支払いの正確な報告を求めることで、すべての個人や法人の税負担を公平にすることができます。

監査・執行活動の支援

TPAR により、税務当局は監査・執行活動で利用できる貴重なデータを得ることができます。TPAR を確認すれば、報告された利益と支払いの不一致をすぐに特定できます。

経済分析のためのデータ収集

税務コンプライアンス以外にも、TPAR から得られる豊富なデータを分析することで、請負業者を多用する業界の経済パターンを把握できます。この情報は、ポリシーの策定や経済予測に役立ちます。

課税対象支払い年間報告書の内容

TPAR には、会計年度中に行われた請負業者に対する支払いの詳細情報が記載されます。主な要素は次のとおりです。

  • 請負業者の詳細: 請負業者の名前、住所、オーストラリア事業者登録番号 (ABN) などです。

  • 支払い情報: 会計年度中に請負業者に支払われた総額が報告されます。現金、小切手、クレジット、口座振込など、すべての支払い方法が含まれます。

  • GST コンポーネント: 請負業者への支払いに物品サービス税 (GST) が含まれている場合は、通常、別途報告されます。

  • 請求書の詳細: 報告書には、請求書番号や日付など、支払いに関連する請求書の詳細が記載されることがあります。

  • サービスの性質: TPAR は、請負業者が提供するサービスの説明を要求する場合もあります。これは、行われた作業の性質を特定するのに役立ちます。

課税対象支払い年間報告書の影響を受ける業界

オーストラリアでは、多くの業界が TPAR 要件の対象となっています。ここでは、その詳細について説明します。

報告が義務付けられている業界

  • 建設・建築: リノベーション、配管、電気、造園など、あらゆる種類の建設工事が含まれます。

  • クリーニングサービス: すべての商用・住宅用クリーニングサービスがこのカテゴリーに該当します。

  • 宅配便・メッセンジャーサービス: 配達、小包の運送、その他の同様のサービスが含まれます。

  • 情報テクノロジー (IT) サービス: ソフトウェア開発、ネットワークサポート、データ処理、その他の IT サービスが該当します。

  • 陸運サービス: トラック、ライトバン、その他の同様の車両による貨物輸送が含まれます。

  • 警備サービス: 警備員、私立探偵、監視業務などが該当します。

次の業界では、特定のサービスを実施する場合にのみ TPAR が義務付けられています。

  • 法務サービス: 不動産譲渡や債権回収といった特定の法務サービスにのみ適用されます。

  • 医療・健康サービス: 救急搬送や病理検査などのサービスが含まれることがあります。

  • 輸送サービス: タクシーサービス、旅客車、リムジンはすべて、場合によっては TPAR が必要になります。

一般的に、上記のいずれかのサービスについてオーストラリア居住者に支払いを行い、会計年度の事業収入の 10% 以上が該当サービスによるものである場合は、TPAR を提出する義務があると考えられます。TPAR 要件は、事業拠点や請負業者の所在地とは関係なく、オーストラリアで登録されているビジネスや政府機関に適用されるため、通常、オーストラリア国外に拠点を置くビジネスはオーストラリア国内の請負業者に対して行った支払いの TPAR を提出する必要はありません。

ただし、外国企業が TPAR を提出しなければならない次のような例外があります。

  • オーストラリアに恒久的施設を有する場合: オーストラリアで事業を行うための決められた場所 (オフィスや支店など) が該当します。この場合、外国企業は税務上オーストラリアの法人として扱われるため、TPAR を含むオーストラリアの納税義務を遵守する必要があります。

  • オーストラリアの不動産物件に関連するサービスの請負業者に支払う場合: オーストラリアにある不動産の建設、クリーニング、警備などのサービスが含まれます。外国企業がオーストラリアに恒久的施設を有していなくても、このような支払いについては TPAR の提出が必要になる場合があります。

  • オーストラリアの請負業者に対する支払いから税金を源泉徴収している場合: 外国企業が ABN を持たず、オーストラリアの請負業者に対する支払いが源泉徴収税の対象になる場合は、TPAR を提出して源泉徴収額を報告する必要が生じることがあります。

課税対象支払い年間報告書の会計処理方法

ここでは、ビジネスの TPAR を正しく会計処理する方法をご紹介します。

準備

  • 報告義務のある取引の特定: 財務記録を確認し、会計年度中に TPAR 適用対象のサービス (前項を参照) に対して請負業者または下請け業者に行われたすべての支払いを特定します。

  • 請負業者の情報の収集: 名前、ABN (ある場合)、住所、オーストラリアの在留資格など、報告義務のある請負業者の詳細情報を収集します。

  • 支払いの分類: 正確に報告するために、請求書や取引の種類 (賃金、資材、賃貸料など) ごとに支払いを分類します。

  • GST と源泉徴収税の追跡: 支払いに含まれる GST と請負業者が ABN を提供しなかった場合に源泉徴収された税金の金額を記録します。

会計プロセス

  • 会計ソフトウェア: 多くの会計ソフトウェアプログラムに、TPAR を自動生成する機能が含まれています。

  • 手作業での計算: ソフトウェアを使用していない場合は、請負業者ごとに GST や源泉徴収税を含む年間支払い額の合計を計算します。

  • 消し込み: 正確性を期すためにすべての情報を再度確認して、会計記録と請負業者の請求書が一致することを確認します。

TPAR の提出

  • 期限: 毎年 8 月 28 日までに前会計年度 (7 月 1 日から 6 月 30 日) の TPAR を ATO に電子提出します。

  • 提出方法: ATO ポータルから報告書を直接提出する方法、会計ソフトウェアの TPAR 機能を使用する方法、ハードコピーを送付する方法 (ただし、今ではあまり利用されていません) があります。

  • 記録保持: ATO の記録保持要件に準拠するために、TPAR のコピーと補足書類を 5 年間保管します。

課税対象支払い年間報告書の免除

オーストラリアの TPAR は多くの業界や取引に適用されますが、次のような例外があります。

一般的な例外

  • 資材: 請負業者への支払いが労働力に対してではなく資材に対してのみ行われる場合は、TPAR 要件が免除されます。

  • 政府機関: ATO ウェブサイトに掲載されている教育、保育、医療サービスなどを提供する特定の政府機関は、TPAR が免除されます。

  • オーストラリアに拠点を持たない外国企業: 外国企業は、オーストラリアに恒久的施設を持たない場合やオーストラリアの不動産に関連する特定のサービスへの支払いを行わない限り、通常は TPAR を提出する必要はありません。

業界固有の免除

  • 特定の種類のサービス: TPAR が義務付けられている業界のうち、次のような特定のサービスは TPAR が免除される場合があります。

    • 家族法や訴訟などの特定の法務サービス
    • 病院や登録医が提供する一部の医療・健康サービス

政府との契約

特定の政府との契約の下で請負業者に行われた支払いは、特有の規制によって TPAR が免除される場合があります。これらには、以下が含まれます。

連邦調達規則 (CPR)

  • 一般規則: オーストラリア国内で請負業者が作業を行う場合、CPR に準拠する契約の下で行われた支払いは、通常 TPAR が免除されます。この規則は、オーストラリア政府が調達するほとんどの物品とサービスに適用されます。

  • 例外: CPR の下でも、次の場合は免除が適用されないことがあります。

    • 請負業者が在留外国人である場合 (特定のプロジェクトに従事しておらず、一時居住者ビザを保有していない場合)。
    • 契約で TPAR の提出が明示的に義務付けられている場合。
    • TPAR が義務付けられている業界のいずれかによってサービスが提供されている場合 (建設、商用クリーニング、IT など)。

州・準州の調達規則

  • 同様の枠組み: ほとんどの州・準州には CPR に似た独自の調達規則があり、多くの場合、政府との契約と同様に TPAR が免除されます。ただし、免除や具体的な条件は異なることがあるため、関連する州 / 準州の法規制の確認や調達機関への相談を行う必要があります。

その他の免除

  • 登録された慈善団体や公立病院への支払い: 通常は TPAR の提出が免除されます。

  • 個人向けサービスに対する個人への支払い: 個人によるハウスクリーニング、ガーデニング、保育などのサービスに対する支払いは、TPAR が免除されます。

  • 金融商品・サービス: 利息、配当、その他の金融商品に対する支払いは TPAR 提出の対象外です。

その他の考慮事項

  • 独立請負業者と従業員: TPAR の免除は独立請負業者に対する支払いに適用され、従業員には適用されません。両者の区別は複雑なため、正しく分類することが重要です。

  • 下請け: 政府の請負業者が作業の一部を下請けに出す場合、下請け業者が TPAR 提出義務のある業界に該当すると免除が適用されないことがあります。

  • GST と源泉徴収税: TPAR の提出が免除される場合でも、GST と源泉徴収税の規則は、定められた規制に従って政府との契約に適用されます。

課税対象支払い年間報告書の提出プロセス

ここでは、TPAR の提出方法について説明します。

電子提出

  • 情報を収集する: ABN、myGovID、AUSkey などの認証情報と、報告義務のあるすべての請負業者の詳細情報を準備します。

  • ATO ポータルにアクセスする: 認証情報を使用して、ウェブサイトのビジネス向け ATO オンラインサービスにログインします。

  • 提出に移動する: 「Lodgements」セクションを探して、「Taxable Payments Annual Report」を選択します。

  • 提出オプションを選択する: 「New」を選択して新しい報告書を提出するか、以前の提出を更新する場合は「Amended」を選択します。

  • TPAR フォームに記入する: ビジネスに関する詳細、支払いを受けた各請負業者、支払いの総額を入力します。

  • 確認して送信する: 情報を再度確認して送信します。電子データで受領書が届きます。

紙による提出 (一般的ではありません)

  • 紙のフォームをダウンロードする: ATO ウェブサイトから「Taxable payments annual report」フォーム (NAT 74109) を入手します。

  • フォームに記入する: ビジネスや請負業者に関する必要な詳細情報をフォームに手作業で記入します。

  • 補足書類を添付する: 請求書や支払いサマリーのコピーなど、必要な書類を添付します。

  • フォームを郵送する: 完成したフォームと書類を指定された ATO の住所に送ります。

その他のポイント

  • 提出期限: 毎年 8 月 28 日までに前会計年度 (7 月 1 日から 6 月 30 日) の TPAR を提出してください。提出が遅れると罰金が科される場合があります。

  • 下書き: ATO ポータルでは、未完成の TPAR を下書きとして保存し、後で再開して仕上げることができます。

  • 提出の確認: TPAR が正常に電子提出されると、メールまたは SMS で確認書が届きます。

  • サポート: 問題が発生した場合やサポートが必要な場合は、ATO ウェブサイトに役立つガイドやサポートへの問い合わせ情報が記載されています。

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