請求書とは、売り手側の事業者が商品やサービスを提供した際に、買い手側に対して代金を請求するために発行する書類です。日本でビジネスを行う方の中には、請求書の発行業務に携わった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
日本の請求書の要件には、請求書としての役割を果たすためのさまざまな必須記載項目のほか、一般的に記載しておくとよい項目もあります。そのうちの 1 つが「請求書の発行日」です。
本記事では、日本の事業者が知っておくべき、請求書の発行日に関する基礎知識として、記載がのぞましい理由、発行日の決め方や発行のタイミング、注意点などについて詳しく解説します。
目次
- 請求書発行日の記載がのぞましい理由
- 請求書の発行日の決め方
- 請求書の発行方法
- インボイス制度開始後の請求書発行への影響
- 請求書の発行日に関する注意点
- 請求書発行に関するよくある質問
- 事業者間の円滑なコミュニケーションを心がける
請求書発行日の記載がのぞましい理由
請求書の発行日が一般的に必要とされている理由は、以下のとおりです。
債権の確定日を明確にするため
請求書の発行日は、「債務が確定した日」を意味します。わかりやすくいうと、請求書を発行した日をもって取引先 (買い手) に対して債務が確定したことを示す日付になります。
請求書の発行日については、法律上で記載が義務付けされているものではありません。しかし、買い手側から売り手側へ代金が適切に支払われるための重要な記載項目として位置付けられています。これは、発行日の記載がない請求書だと債務の確定日がはっきりせず、どの取引に対する請求なのかが把握しづらくなるからです。たとえば、3 月に行われた取引に対する請求であるはずが、請求書を受け取った買い手側が 1 月や 2 月分の取引に対する請求と誤解するケースが挙げられます。
一方、請求書に発行日を記しておけば「いつ債務が発生したのか」が明確になり、事業者間の支払い業務における混乱を避けることができます。
架空取引と疑われないようにするため
売り手側が、代金を支払う買い手側の利便性を考えて、請求書の発行日を意図的に記載しないで請求書を交付してしまうと、取引内容の信憑性が曖昧となってしまいます。その結果、税務調査の対象となった際、取引事実の証明がしづらく、税務署から架空取引を疑われてしまう恐れがあります。
以上の理由から、請求書発行日の記載は任意とはいえど、請求書を発行する際の習慣として必ずといっていいほど明記しておくことがのぞましいとされているのです。
請求書の発行日の決め方
請求書の発行日の決め方は、取引先、すなわち買い手側事業者の締め日に合わせるのが一般的です。特に、次章以降で紹介する「掛売り方式」においてはこの決め方が主流となっているため、発行日をいつに設定するかについては、事業者間で前もって取り決めておくことが大切です。
注意点としては、発行日が必ずしも請求書を発行した実際の日付になるとは限らないということです。たとえば、1 月 10 日に納品した商品に対し、請求書を実際に発行した日が 2 月以降だった場合でも、取引先の締め日が月末であれば請求書発行日は該当月末日の 1 月 31 日、締め日が 20 日であれば 1 月 20 日と記載します。
このように、「月末締めの翌月末払い」、「月末締めの翌々月 10 日払い」、「20 日締めの翌月末払い」などのように、締め日および支払日は事業者によって異なります。そのため、売り手側事業者は請求書を発行する前に、買い手側が定める締め日についてしっかりと確認をとり、買い手側にとって無理のない支払いサイクルとなるよう配慮が求められます。
請求書の発行方法
ビジネスを行ううえで請求書の発行は日常業務として欠かせません。そのため、請求書の発行にあたっては、繰り返し使用可能な専用テンプレートを準備しておくか、請求書の自動作成機能を活用するとよいでしょう。
また、請求書発行の方式には「掛売り方式」と「都度方式」があり、請求書を発行するタイミングは、各方式で異なります。タイミングの基本としては、前章で解説した「取引先で指定する締め日」となり、掛売り方式で広く用いられていますが、都度方式では「商品の納品やサービスの提供が完了した日」が一般的です。以下で各方式と発行のタイミングについて詳しく見てみましょう。
「掛売り方式」での請求書発行のタイミング
掛売り方式とは、一定の期間内に複数回納品した商品やサービスにかかった代金を、まとめて請求する方式です。継続的に取引が行われる場合は、この掛売り方式が広く用いられており、毎月決められている締め日にまとめて請求する流れになります。
掛売り方式のメリットは、取引が発生するたびに毎回請求書を発行せずにすむため、業務への負担が軽減される点です。ただし、各取引の詳細については、後ほどまとめて請求する際に必要となることから「いつ、何個納品したか」などの記録をしっかりと残しておく必要があります。そのため、商品の納品時には納品書を用意しておくとよいでしょう。
このように、取引が継続する場合において、一定期間の取引分を後日まとめて請求するのが掛売り方式です。
掛売り方式では、事業者間における円滑なやり取りは勿論、売り手、買い手の双方で良好な信頼関係の維持を日頃から心がけることが重要視されています。お互いの合意に基づいて毎月の請求書が取り交わされるためにも、掛売り方式を用いた請求書発行の流れについては十分に理解しておきましょう。
「都度方式」での請求書発行のタイミング
都度方式とは、その名の通り取引が発生するたびに、その都度請求書を発行する方式です。取引が今後継続して行われるかが明確でない場合や、そもそも単発の取引として買い手から依頼を受けている場合に用いられます。つまり、都度方式においては、前述の掛売り方式とは異なり、取引ごとに商品の納品が完了したタイミングで請求書が発行され、その都度請求書に記載された支払期限に応じて入金してもらうのが一般的な流れとなります。
都度方式の場合、取引ごとに請求書を発行しなければならず、売り手側、買い手側双方の負担が大きくなりやすいことから、取引回数が年に数回と少ないケースや単発の取引に向いているといえます。また、初めて取引を行う際、試しに都度方式を採用するのもよいかもしれませんが、継続的な取引が前提となる契約の場合は、掛売り方式の方が効率的といえるでしょう。
インボイス制度開始後の請求書発行への影響
インボイス制度とは、仕入税額控除の適用に関する制度で、2023 年の 10 月 1 日に導入されました。買い手側事業者にとっては、仕入時に支払った消費税が控除されるかどうかに影響することから、事業者間の対応が必須となる重要な制度です。そのため、請求書の発行に際しては、現行のインボイス制度について、十分に知識を深めておくことがとても大切です。
まず、インボイス制度に準拠した書類となる適格請求書 (通称: インボイス) を発行するためには、同制度で定められている要件を満たす必要があり、適格請求書発行事業者として登録を済ませておくこともそのうちの 1 つです。また、適格請求書発行事業者になるには、課税事業者であることが前提となっているため、免税事業者は適格請求書を発行することができないということについても理解しておく必要があります。
適格請求書発行事業者としての登録が完了すると、インボイス制度の登録番号が付与されますが、この番号も適格請求書の必須記載項目の 1 つとなっています。このほかの適格請求書の記載項目には、税率ごとに区分した税抜または税込の合計金額と適用税率 (10%・8%) の表示など、通常の請求書に比べてより細かな必須項目がインボイス制度では定められています。したがって、適格請求書の作成にあたっては、これらの項目が適切に記載されているかどうかを発行前に十分に確認しましょう。
なお、通常の請求書については、発行そのものに対して法的義務がない一方、適格請求書については、買い手側からの要求があった場合、売り手側 (インボイス制度に登録済みの課税事業者に限る) はその要求に応じなければならず、適格請求書の発行が義務付けされています。
その理由は、買い手側が消費税の仕入税額控除を受けるためには適切な消費税の計算方法に基づいて確定申告を行う必要があり、そのためにはインボイス制度の要件を満たした適格請求書は必須で、売り手側は適格請求書発行事業者として、買い手側に適用されるべき控除に対して責任があるからです。
このように、インボイス制度導入後の現在では、事業者間での請求書の取り扱いが買い手側の仕入税額控除適用の可否に大きく影響するため、取引上で生じる業務内容の見直しが求められます。
請求書の発行日に関する注意点
請求書の発行日については、以下のようにいくつかの注意点があります。
請求書の再発行が必要な場合でも発行日を変更しない
請求書の記載内容に不備があったり、取引先で請求書を紛失してしまった場合には再発行が必要です。その際、請求書の発行日は変更しないようにしましょう。理由としては、日付を変更してしまうと、当初送付した請求書が後々見つかった場合に、再発行した請求書と発行日が異なっていることで、買い手側が別の取引に対する請求書と誤解して、二重で支払いを行ってしまう問題が生じ得るからです。
発行日は通常、買い手側の締め日に合わせるため、もともと事業者同士で取り決めておいた発行日と異なる日付を記載してしまうと、このような混乱が起きる可能性があるのです。
なお、請求書を再発行する際は、書類のタイトルとして「請求書 (再発行)」のように括弧書きを加えておくと、再発行した請求書だということが見分けやすくなり、紛失した請求書が見つかった際にも簡単に照合できます。
このほか、発行日に誤りがあった請求書を送付した場合については、早めに買い手側に謝罪の連絡を入れ、請求書を回収するか買い手側で破棄してもらうよう依頼したうえで、再発行した請求書を速やかに送付しましょう。
発行日が土日祝日でも事前に決められた日付を記載する
掛売り方式の場合、請求書の発行日が土日祝日の休業日に重なる場合でも、発行日を変更せずに、あらかじめ取り決めておいた日付を記載します。したがって、その年によって請求書の発行日が買い手側の休業日にかぶるケースがあるかもしれませんが、発行日を平日に変更する必要はありません。
もしも発行日をあえて変更した請求書を送付した場合は、本来取り決めていた日付に修正して請求書を再発行しましょう。この際にも、取引先にその旨を連絡したうえで、請求書の差し替えを依頼します。
請求書の保存期間は発行日からの起算ではない
請求書には一定期間の保存義務があります。保存期間は、法人か個人事業主かによって以下のように異なります。
- 法人: 7 年
- 個人事業主: 5 年 (ただし、消費税の課税事業主の場合は 7 年)
ここでの重要なポイントとしては、上記の保存期間の起算日が請求書の発行日ではなく、以下のとおり、確定申告書の提出期限に紐づいていることです。
- 法人: 該当する事業年度の確定申告書提出期限の翌日から数え始める
- 個人事業主: 確定申告書提出期限の翌日から数え始める
このように、請求書の保存期間を数え始める最初の日を、請求書の発行日と間違えないようにしましょう。なお、消費税の申告と納付期限は同一で、法人、個人事業主、それぞれの申告書の提出期限は以下のとおりです。
- 法人: 事業年度の終了日 (決算月末日) の翌日から 2 カ月以内。たとえば、事業年度の開始が毎年 4 月 1 日で終了が 3 月 31 日であれば、納付期限は 5 月 31 日
- 個人事業主: 該当する年の翌年の 3 月 31 日まで (土日にかかる場合は次の月曜日)
また、請求書や見積書、契約書などの書類の保存については、以前は紙での保存が義務付けられていましたが、電子帳簿保存法のもと現在では、事業者の事務負担軽減を目的として紙ベースではなく電子データでの保管が任意として可能となっています。一方、もともと電子データにて書類のやり取りが行われている場合には、電子データのまま保存することが完全に義務化されているため、注意しましょう。
請求書発行に関するよくある質問
最後にここでは、請求書の発行に関するよくある質問について見てみましょう。
請求書の発行日は未来の日付でもいいですか?
請求書の発行日は、請求書を実際に作成した日付を記載するとは限らないということを、本記事内にて解説しました。掛売り方式の場合は、買い手側の締め日に合わせるかたちで事業者同士で事前に確認して取り決めます。また、都度方式の場合は、納品が完了した時点の日付を記載するのが一般的です。したがって、請求書に未来の日付を記載するというケースはあまり起こり得ません。
たとえば、商品納品の直後に、締め日に合わせて請求書を作成しておく場合、その時点では締め日が後日となるため、未来の日付という考え方にはなりますが、請求書の送付については、締め日以降に毎月同じタイミングで送るのがマナーです。したがって、買い手側が請求書を受け取った時点で、未来の日付が発行日として記載されることはないでしょう。
一方、納品後に多忙な日々が続き、請求書の作成ができないまま締め日を過ぎてしまうことがあります。このような事態を避けるためには、事前に請求書を作成しておき、いつでも請求書の発送 (または送信) が可能な状態にしておくとよいでしょう。
なお、繰り返しになりますが、請求書の発行日は必ずといっていいほど実務上で求められる記載項目です。したがって、発行日をいつに設定すればよいか不明の場合は空欄のままにせず、後々のトラブルとならないよう事業者同士であらかじめ確認をとり、発行日を適切に記載することが大切です。
納品書があれば請求書の発行は必要ないですか?
納品書と請求書は、それぞれ別の目的をもって発行される書類です。納品書は、商品を納品した事実を証明する書類で、納品と同時に買い手側に交付するのが一般的です。一方、請求書は、納品した商品に対して、商品の代金を請求するための書類です。いずれの書類も、発行そのものへの法的義務はありません。しかし、売り手側が買い手側から代金を回収するためには、納品書の発行だけでは不十分といえます。したがって、買い手側にスムーズに代金を入金してもらうため、且つ、売り手側からの請求の意思表示として、請求書の発行は業務上必要な書類となります。
また、逆のケースにおいても同じく、商品の納品後に請求書を発行したにも関わらず、納品書を発行していないと、買い手側から「請求代金に該当する商品は納品されていない」と主張されてしまうリスクもあるため、商品の納品やサービスを提供した時点で、買い手側に納品書を交付することを習慣付けておきましょう。
売り手側が請求書を発行してくれない場合はどうするべきですか?
買い手側の注意点として、もし売り手側の諸事情により請求書を発行してくれない場合は、請求書の代わりに領収書を発行してもらいましょう。領収書は、請求書と同様に取引内容を証明するための証憑として認められる書類です。また、領収書は、買い手側が売り手側に代金を支払ったこと、売り手側は買い手側から代金を確実に受け取ったことを証明するための証拠書類となるため、買い手側としては代金の支払い後に必ず売り手側から入手しておくべきものです。
このほか、いつまでたっても請求書が届かない場合については、請求書発行業務の担当者が失念しているというケースも考えられます。そのため、しばらく待ってみても請求書が送られてこない際には、一度催促メールか電話で連絡をとってみるとよいでしょう。
事業者間の円滑なコミュニケーションを心がける
今回は請求書の「発行日」に焦点をあてて、請求書発行のタイミングや、発行日について気をつけるべき注意点などを解説しました。
請求書発行日の記載は任意ではありますが、事業者間でスムーズに取引を行うためには記載がのぞましい項目の 1 つです。そのため、発行日の決め方や発行のタイミングについては、本記事で紹介した内容を踏まえたうえ、買い手側で定める締め日に配慮し、事前に取り決めておくことが良好な信頼関係を維持するためにも大切といえるでしょう。
なお、請求書を作成する際には、作業を最適化できるオンラインツールが便利です。そのため、消費税の自動計算機能や会計ソフトなどの導入についても検討するとよいでしょう。Stripe が提供する Stripe Invoicing は、インボイス制度で定められている要件に対応しており、自動生成機能による請求書の発行と保存を適切に行うことができます。また、売掛金の管理、支払いの回収、取引の照合の自動化など、請求業務に関わるあらゆる機能が備わっているため、よりスムーズで効率的なバックオフィスの改善を図ることができます。
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