小口現金とは、顧客へのお釣りやベンダーへの支払いなど、企業が日常経費をカバーするために使用する手許金です。また、小切手やカード支払いのように、口座から資金が出て正式に決済されるまでの間のことを指す場合もあります。
本記事では、小口現金の重要性、小口現金の必要額の求め方、さらには小口現金を最適化する方法を解説していきます。
本記事の内容
- 小口現金が必要とされる理由
- 小口現金と現金準備金の違い
- 企業における小口現金の必要額の求め方
- 小口現金の利用機会が多い業種
- 小口現金の最適化
小口現金が必要とされる理由
企業は、必要になるまで小口現金の利用を検討しないことがよくあります。イギリスでは、中小企業経営者の 34% が事業を継続するために個人資金を投入した経験があると報告しています。ですがこの問題は、十分な小口現金を用意しておくことで回避できます。この項目では、小口現金によって企業にどのようなメリットがもたらされるかをご紹介します。
資金を受け取ってから他に払うまでのキャッシュギャップに余裕ができる
顧客に請求書を発行してから支払いを受けるまで 30 日や 60 日、長い場合で 90 日待つこともあります。しかし、その間にも会社は他の請求書を支払わなければなりません。十分な額の小口現金が手元にあればそのギャップを埋められるため、借金や支払い遅延、給与の未払いを余儀なくされることもありません。
交渉に自信がつく
手元現金というのは、会社が自由に利用できる資金です。自由に動かせる資金が多いほど、早期支払い割引に利用したり、低価格でまとめ買いしたり、サプライヤーとより良い条件を結ぶことができます。一方で資金繰りに悩む企業は、延滞料、値上げ、不利な契約条件に見舞われる可能性があります。
評判 (と信用) を損なうことなく維持する
ベンダー、家主、貸し手のいずれに対しても、支払いが継続して遅れれば、その相手からの信頼は損なわれます。資金調達が必要になったときに、このような滞納実績があると会社に不利に働きます。小口現金を適切に管理することで期限内の支払いも可能になり、信頼関係が強く保たれ、将来的により良い資金調達手段が利用できることにつながります。
小口現金と現金準備金の違い
小口現金と現金準備金はどちらも企業が手元に置いておく資金を指しますが、それぞれの目的は異なります。小口現金は、日々のキャッシュフローを管理するために使用するお金であり、現金準備金は、より大規模で発生頻度の低い事象に対する財務上のセーフティネットといえます。用意している小口現金が少額な場合、支払いを遅らせたり、準備金に手を付けたり、短期的な借り入れを迫られるかもしれません。一方、現金準備金が底をつくと、緊急事態や大規模な移転の際に頼れる資金的な後ろ盾がなくなります。
賢明な企業は、資金の逼迫を避けるために十分な小口現金を維持しながら、より大きな課題や機会に対処するための準備金を積み立てるという、二段構えの管理を行っています。それぞれの資金の詳細については、以下の説明をご覧ください。
小口現金
小口現金は、支払いが終わってから次の支払いを受けるまでの間、会社を安定して運営し続けるために使用されるものです。人件費、家賃、仕入、その他のランニングコストなど、流動的な経費を賄うために利用するお金であり、これを用意しておくだけで、クレジットや緊急の借入に頼ってまで事業を継続する心配もなくなります。
必要な金額は請求サイクルや支払いサイクルによって異なり、企業によっては他社よりも多くの資金を必要とする場合もあります。
現金準備金
現金準備金は、予期せぬ出費や将来の出費のために取っておく資金です。必要な場合にのみ活用されることを想定した、一種の積立金といえます。現金準備金は、緊急時 (景気後退、予期せぬ出費、大規模な設備故障など) のクッションとして機能し、成長投資 (事業拡大、新製品の発売、新しいチームメンバーの雇用など) に使用できます。通常は、日常経費に使用されないように、別口座またはそのようなミスが起きない預入先に保持されます。
企業における小口現金の必要額の求め方
小口現金の必要額を正確に把握するには、経費を計算し、支払いスケジュールを決定し、手元にある在庫の量を確認する必要があります。ただし、運営するビジネスによって計算方法は少しずつ異なります。以下の手順をご覧いただき、計算要素として何が必要かを確認してください。
経常経費を計算する
まず、固定費と必要な費用、つまり何があっても支払わなければならない経費を明確に把握します。この経費には通常、次のような費用が含まれます。
給料
家賃または住宅ローン
公共料金
サプライヤーへの支払い
借入金の支払い
保険
販促費および広告宣伝費
過去 3〜6 カ月の費用を調べて、信頼できる平均月額を算定します。
入金タイミングを把握する
次に、実際にいつ支払いを受けるのかを確認しましょう。請求書の支払いは毎日回収できるのか、それとも 30 日や 60 日、あるいは 90 日などの期間待つ必要があるのかを見極めます。このとき、売上の季節的な落ち込みや、支払いスケジュールが予測できない大口顧客なども考慮する必要があります。
入金のタイミングを理解することは、先ほどの経費を把握するのと同じくらい重要です。売上の到着が遅いようであれば、小口現金を増やす必要があります。
キャッシュギャップを把握する
キャッシュギャップとは、口座に売上が入金された時点から経費を支払わなければならない時点までの日数 (期間) を指します。計算方法は次のとおりです。
キャッシュギャップ = 顧客から支払いを受けるのにかかる日数 + 販売可能な在庫の日数 - サプライヤーへの支払いにかかる平均日数
計算例
販売後 45 日後に支払いを受け取っている。
30 日分の在庫がある。
サプライヤーへの支払いは通常 15 日後に行っている。
キャッシュギャップ = 45 + 30 - 15 = 60
つまり、支払いを回収する前に、60 日分の費用をカバーできる小口現金を用意しておく必要があります。
小口現金の必要額を計算する
1 日あたりの経費とキャッシュギャップ (日数) がわかったら、これらの要素を用いて必要な小口現金額を求めます。計算式は次のとおりです。
推奨される小口現金額 = 1 日あたり経費 × キャッシュギャップ (日数)
計算例
1 日の経費が $3,000、キャッシュギャップが 60 日と仮定します。
小口現金 = $3,000 × 60 = $180,000
上記の額が経費を賄うために必要な金額とされます。
ビジネスの特性に応じて調整する
ビジネスの特性はそれぞれ異なりますが、計算には次の要素を考慮してください。
季節性:閑散期がある場合は、小口現金を増やすようにしてください。
業界慣習:生産サイクルが長いメーカーは、収益スケジュールが予測可能なサブスクリプションビジネスよりも多額の小口現金を必要とします。
小口現金の利用機会が多い業種
一部では、資金の出入りが激しいために、小口現金に大きく依存している業種もあります。このような業種は、遅めの支払い、高いランニングコスト、またはタイトなキャッシュフローサイクルのいずれかに見舞われているため、かなりの額の小口現金を用意しなければなりません。この項目では、小口現金の依存度が特に高い業種をいくつかご紹介します。
建設・請負
建設・請負業は、支払いサイクルが長いうえに前払費用も多く、キャッシュフローを正確に予測するのは不可能です。請負業者は多くの場合、プロジェクトの報酬を受け取る数カ月前に、材料、人件費、許可手数料を支払わなければなりません。小口現金が不足していると、借金をしたり、仕事を遅らせたりするなどの問題が生じ、収益性の悪化につながります。
ヘルスケア
病院や個人診療所は保険会社に請求を行いますが、その支払いを受けるまでに数週間から数カ月待つケースがよくあります。病院は支払いを待っている間にも、給料、医療用品、家賃、医療機器のメンテナンスにかかる費用をカバーしなければなりません。
製造・卸売
製造業や卸売業は、在庫コストが高く、大量注文があり、売掛金の流動性が低い傾向にあります。メーカーは、原材料の購入やサプライヤーへの支払いを経て生産を継続しなければならない一方で、完成品を出荷してから支払いを受けるまで長いスパンで待つ必要があります。
物流・運輸
物流会社や運送会社は、燃料費やドライバーの給与、メンテナンス費用を前払いする必要がありますが、多くの場合、顧客には正味 30~90 日の支払い条件を提示しています。つまり、商品は即日配達する一方で、支払いを受けるのは数週間または数カ月後ということになります。大口顧客が支払いを遅らせた場合に備え、事業を継続するのに十分な小口現金がこの業種でも必要です。
飲食・ホスピタリティ
飲食業や接客業は、日々のランニングコストが高く、売上が予測不可能で、さらにはサプライヤーへの前払いもあります。これらの業種では、食材費、従業員給料、光熱費を前払いしなければならない一方で、売上は顧客の入りに応じて変動します。ケータリング業者は前払金を受け取ることができますが、多くの場合、イベントが終わるまで全部の支払いは行われません。
小売
小売業は、実際に販売に取り掛かる前に、製品をストックし、家賃や従業員の給料を支払わなければなりません。売上に季節性があると、小口現金の重要性はさらに高まります。
プロフェッショナルサービス
多くのプロフェッショナルサービス企業は、プロジェクトベースの支払いで経営を保っているため、請求処理に行き着くまで数カ月単位で作業し、支払いを受けるまでさらに 30〜90 日待つことがあります。その間、従業員給料、オフィス賃料、ソフトウェアのサブスクリプション料を都合しなければなりません。
映画・メディア制作
映画やメディアの制作会社は、多額の前払い制作費用、収益の遅い受け取り、不規則な支払いサイクルといった問題を抱えています。映画やテレビ番組の制作に関しては、収益が入ってくるまでに数カ月 (または数年) 単位で作業する必要があります。デジタルメディア企業でさえ、広告収入の支払いに長い遅延が生じることがあります。
小口現金の最適化
小口現金の最適化とは、余剰資金が遊休状態にならないようにすると同時に、経費を賄うのに十分な流動性を維持することを意味します。この項目では、企業が最大の効率を得るために利用できる小口現金の最適化方法をご紹介します。
支払いサイクルの短縮
キャッシュギャップ (収益を受け取ってから経費を支払うまでの期間) が長引くほど、企業は流動性の問題に直面します。支払いの回収が早ければ早いほど、必要な小口現金も少なくなります。
支払い条件の期日を短縮する:顧客との条件が正味 60 日などに設定されている場合は、正味 30 日または正味 15 日まで短縮できないか交渉します。
早期支払いに対してインセンティブを提供する:少額の割引 (「10 日以内の支払いで 2% 割引」など) を提供するだけでも、顧客に早期の支払いを動機付けられます。
請求書を即座に発行する:請求書の発行を数日遅らせるだけでも、キャッシュギャップは広がっていきます。請求処理を自動化して、作業が完了したらすぐに請求書を送信できる仕組みを整えましょう。
前払いまたは出来高払いを要求する:大規模なプロジェクトであっても、最後に一括して支払いを受けるのではなく、前払いで部分的に支払いを受けるようにします。
支払いの延期
支払いをより早く回収したい気持ちがあるように、会社からの支払いもなるべく余裕を持ちたいと思うのも当然のことです。サプライヤーとの関係を損ない程度に、それを実現できる方法を模索してみましょう。
長期の支払い条件を交渉する:サプライヤーが 30 日以内の支払いを予定している場合、45 日または 60 日後の支払いにできるか尋ねてみます。
クレジットを賢く活用する:サプライヤーがゼロ金利融資または貿易信用状を提供・発行している場合は、それらを活用して手元現金に余裕を持たせるようにします。
支払いスケジュールを設定する:すべての請求書を一括して支払うのではなく、期日が近い複数の支払いを別日にずらすなどして目先の資金を確保します。
リアルタイムのキャッシュフロー予測
出金の用途や行き先がわからなければ、小口現金を最適化することはできません。90 日平均のローリング予測は、資金不足に陥る前に問題を発見する手立てとして活用できます。
日々の入出金の追跡:資金がいつ出入りするかを正確に把握します。
季節的な落ち込みに備えた計画:閑散期がある場合は、事前に小口現金を増やすよう調整します。
想定外費用の考慮:顧客の債務不履行や売上の急激な落ち込みをあらかじめ織り込み、キャッシュフローの混乱を防ぎます。
現金管理の自動化
手作業による現金追跡は時間がかかる作業であり、ミスも多発します。スマートオートメーションを導入することで、常時の監視をはさむことなく流動性が維持されるようになります。
顧客への自動請求:これにより、安定した入金を確保できます。
現金残高不足のアラート設定:一定以上の残高を保っておくことで、急な出費に備えられます。
経費承認の自動化:得意先への支払いが不必要に遅れる事態を回避できます。
予備資金しての与信の活用
与信はバッファーとして機能させることはあっても、小口現金の供給源にすべきではありません。利用できるステータスを保ちつつ、必要なときだけ利用してください。遅延している売掛金サイクルで給与の支払いに充てるなど、与信は本来、短期的なニーズに対して計画的に利用するものです。
在庫管理の改善
物理的な在庫を抱える企業にとっては、在庫が多すぎると資金繰りが苦しくなり、逆に少なくすぎると販売に支障が出ます。
売れ行きの悪い商品を販促で売り込む:売れ残りは資金の枯渇に直結します。早い段階から収益に結び付けるようにしましょう。
過剰注文を減らす:データ駆動型の在庫予測により、資金が過剰在庫に拘束されるのを防ぎます。
有利な仕入条件を要求する:ジャストインタイムの在庫管理オプションを提供しているサプライヤーを利用する場合、在庫を無理に掃けたり、余分な商品を保管しないで済みます。
小口現金を維持したままでの現金準備金への一元化
長期準備金は高金利の口座に留保しつつ、小口現金は流動性を保ったままいつでも利用できる状態にしておく必要があります。
小口現金と準備金の分離:運用資金を長期投資に回さないようにしましょう。
有利子の事業用口座の利用:小口現金を一定水準で維持できる場合は、ある程度のリターンを得られる口座に預けます。
小口現金額の定期的な見直し:半年前に設定した必要額が、今は最適ではないかもしれません。ビジネスサイクルと会社の成長具合に合わせて小口現金額を調整してください。
無駄な経費の見直しと削減
節約された資金は、そのまま小口現金に回すことができます。少額の経常経費は見過ごされがちですが、時間の経過とともに肥大化するので注意が必要です。
サブスクリプションとソフトウェアツールの見直し:使っていないものは除外しましょう。
ベンダーとの交渉:ロイヤリティ割引やバルク買いが利用可能かどうか確認してみましょう。
費用対効果の高い決済手段への切り替え: クレジットカード処理手数料は、相対的に高額であることがほとんどです。多くの場合、自動決済機関 (ACH) または銀行振込の方が安く済みます。
緊急時に備えた小口現金の補充
財務クッションのない企業は、信用に頼りすぎており、知らずのうちにリスクを負っている可能性があります。ランニングコストをいつでも賄えるように少し多めの小口現金を保ちつつ、現金準備金も定期的に補充するようにしましょう。資金が底を突きそうな場合は、なるべく早いうちに補充してください。
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