販売時点情報管理 (POS) システムとは、事業者が取引の処理に使用するハードウェアとソフトウェアの総称をいいます。ハードウェアには、キャッシュレジスター、カードリーダー、バーコードスキャナー、レシートプリンター、タッチパネルディスプレイなどの機器が含まれます。対してソフトウェアは、売上、在庫、顧客データ、レポートを管理する役割を担います。世界での POS の市場規模は、2023 年に 290 億ドルと評価され、さらに 2032 年までに 3 倍以上膨れ上がることが予想されています。
POS システムは取引を円滑にするだけでなく、在庫管理を改善し、販売動向と顧客行動の分析をサポートします。本記事では、POS システムの種類、仕組み、ビジネスにもたらされるメリット、一般的な問題のトラブルシューティング方法について説明します。
本記事の内容
- POS システムの種類
- POS システムの仕組み
- POS システムの利用に必要なもの
- 適切な POS システムがビジネスにもたらすメリット
- POS システムの課題
- POS ソフトウェア / ハードウェアのコスト
POS システムの種類
業界やビジネスモデルごとにさまざまなタイプの POS システムが今日利用されており、それぞれに独自のメリットがあります。
従来の POS システム:普段、実店舗で見るような、コンピューター、レジ、バーコードスキャナー、レシートプリンター、カードリーダーで揃えた定型の組み合わせを指します。オンサイトサーバーが必要であり、また多くの場合、統合ネットワークの一部として機能します。
モバイル POS システム:このタイプは、タブレットやスマートフォンを POS デバイスとして使用します。柔軟性があり、携帯性に優れ、さらに多くの場合クラウドベースであるため、今いる場所を問わず取引を処理することができます。このタイプの POS システムは、スモールビジネス、フードトラック、ポップアップショップ、屋外イベントなどでよく利用されています。
クラウドベース POS システム: SaaS (サービスとしてのソフトウェア) POS とも呼ばれるこのシステムは、インターネットを介して機能し、データはクラウドに保存されます。アクセスが簡単で拡張性も高く、セットアップコストが安価で済むことが多いため、中小企業が利用するのに最適なタイプです。
セルフサービス POS システム:スーパーマーケットやファストフード店で一般的に普及しているこのシステムは、顧客が自分で商品をスキャンして支払いを行うことを可能にします。セルフサービス POS システムは、人件費を削減できるほか、会計処理の短縮化といったメリットがあります。
キオスク POS システム:キオスクとは、セルフサービス POS システムと同様、顧客が注文や購入のために使用する自立式の端末です。このタイプは、飲食店や映画館、空港などでよく利用されています。
マルチチャネル POS システム:このタイプは、店舗販売とオンライン販売を統合し、事業者がチャネル全体で在庫、顧客データ、売上を管理できるようにします。物理 / オンライン両方のプレゼンスを持つ事業者に最適です。
POS システムの仕組み
POS システムは、支払いの処理や顧客データの収集など、さまざまなタスクを管理しています。その仕組みは以下のようになっています。
顧客による商品選択:顧客は商品またはサービスを選択し、POS システムのバーチャルショッピング カートに追加します。このステップは、商品のバーコードをスキャンするか、商品情報を手動で入力するか、タッチパネルを使用して行われます。
コスト計算:POS システムは、消費税や割引・プロモーションの適用を含めた合計コストを計算します。また、特典ポイントや特別価格を適用することも可能です。
決済処理:顧客の支払い準備が整うと、POS システムは支払い処理を開始します。顧客がクレジットカードやデビットカードなどの電子決済を使用する場合、システムは決済ゲートウェイに接続して取引を承認します。
領収書の作成:支払い後、システムにより領収書が作成されます。領収書は印刷したり、顧客に電子送付することができます。領収書には、購入した商品、価格、税金、使用された支払い方法がまとめて記載されます。
在庫管理:POS システムは、在庫から販売された品目を差し引くことで在庫をリアルタイムで更新します。これにより、事業者は在庫数の追跡が可能になり、再注文をタイムリーに処理できます。
データ収集と分析:POS システムは、売上、顧客の趣味嗜好、在庫状況に関するデータを収集します。事業者はこのデータを活用して、レポート作成やパフォーマンス分析に役立てたり、在庫、プロモーション、人員配置に関する決定を行います。
システム連携:最新の POS システムは、会計、顧客関係管理 (CRM) のビジネスソフト、または e コマースプラットフォームと連携して機能するケースがほとんどです。この連携により、部門間でのデータ共有やオペレーション管理がより簡単なものになります。
POS システムの利用に必要なもの
POS システムを利用するには、そのビジネスに適した一連のコアコンポーネントとオプションのアドオンが必要です。
コアコンポーネント
POS システムを組み立てる際は、ハードウェアコンポーネントと使用予定の POS ソフトウェアに互換性があることを確認してください。
POS ソフトウェア:売上、在庫、顧客データを管理するソフトウェア。
POS ハードウェア:システムと連動し、取引を処理する物理コンポーネント。モバイル POS システムの場合、ハードウェアコンポーネントは少なく済ませられるケースがほとんどです。
- コンピューター / タブレット / スマートフォン:POS ソフトウェアの実行
- キャッシュドロワー:安全な現金保管
- レシートプリンター:物理的な購入記録の提供
- カードリーダー:クレジットカードとデビットカードによる支払いの受け付け
- コンピューター / タブレット / スマートフォン:POS ソフトウェアの実行
安定したインターネット接続:クラウドベース POS システムの運用およびカード取引の処理に必要な安定したインターネット接続。
電源とバックアップ:POS システムの安定した電力供給源。システムの停止要因である停電やサージに備え、無停電電源装置 (UPS) の購入もご検討ください。
決済処理口座:クレジットカードやデビットカードの取引を処理するための加盟店口座または決済ゲートウェイ。口座を用意するには通常、決済代行業者との契約が必要であり、取引手数料を徴収される場合があります。
セキュリティ対策:顧客データを保護し、不正アクセスを防止するためのセキュリティ対策 (安全なパスワード、ユーザーアクセスの制限、PCI データセキュリティ基準 [PCI DSS] などのデータ保護基準への準拠など)。
オプションのアドオン
一部のビジネスタイプでは、POS システムに特定のアドオンが必要な場合があります。
キッチンディスプレイシステム (KDS):厨房スタッフに注文を伝えるためのシステムである KDS は、飲食店でよく利用されています。
スケール:商品を量り売りするようなビジネスの場合、デジタルスケールを POS に統合することで正確な価格設定が可能になります。
ラベルプリンター:プリンターを使用して、ラベル、バーコード、値札などを自由に作成できます。
タイムレコーダー:タイムレコーダーをシステムに組み込み、労働時間を管理します。
ベストプラクティス
従業員研修:POS システムを使用した取引の処理、在庫管理、顧客データ処理の手順を従業員に指導します。
ダウンタイム時のバックアッププラン:POS システムがオフラインになった場合に備えて計画を立てます。この計画では、手動処理の手順や、事業継続に必要なバックアップ機器が検討される場合があります。
適切な POS システムがビジネスにもたらすメリット
適切な POS システムを選択することで、経営、顧客関係、セキュリティ対策の改善が期待できます。ここでは、適切な POS システムを利用することのメリットと考慮事項について説明します。
簡単な操作:優れた POS システムは、エラーを抑制しつつ取引スピードを早めることで、顧客体験の向上と従業員のストレス緩和を両立して実現します。
在庫管理:POS システムは、リアルタイムの在庫追跡機能を備えているため、どの商品がよく売れているか、いつ補充すべきかといった判断が容易になります。この情報は、人気商品の品切れや売れ筋でない商品の過剰在庫を避けるのに役立つだけでなく、盗難や記録ミスによる損失を対策する上で効果的です。
柔軟な支払い:適切な POS システムを利用すると、クレジットカード、モバイル決済、非接触型決済など、幅広い支払い方法を受け入れることができます。この柔軟性により、顧客は好みの方法で簡単に支払うことができます。
顧客関係:POS システムの中には、顧客の購入履歴を追跡し、顧客に合ったプロモーションやロイヤルティプログラムを手配することで、顧客関係を強化し、リピーターの獲得を促すようなものもあります。
ビジネスインサイト:POS システムは、販売傾向、ピークタイム、売れ筋商品に関するレポートを生成することができます。このデータは、人員配置、在庫管理、マーケティング戦略などに関する業務意思決定を行う上で非常に有益です。
他システムとの連携:最新の POS システムの多くは、会計ソフトやオンライン販売プラットフォームなどとも接続できるため、データ手入力の機会が減り、エラーが最小限に抑えられ、より一元化されたビジネス管理を可能にしています。
セキュリティとコンプライアンス:適切な POS システムは、安全な決済処理の促進、顧客データの保護、業界規制の遵守、リスク (罰金、データ侵害、風評) の軽減に貢献します。
POS システムを選ぶ際には、次の要因を考慮する必要があります。
カスタマーサポートとメンテナンス:技術的な問題やソフトウェアのアップデートをサポートする、信頼できるカスタマーサポートの付いた POS システムを選びましょう。ソフトウェア更新やハードウェアチェックなどの定期メンテナンスを受けることで、システムはスムーズに稼働させることができます。
ロイヤルティ / リワードプログラム:ロイヤルティプログラムやリワードプログラムをビジネスに採用している場合は、POS システムがそれらをサポートできることを確認してください。サードパーティーのロイヤルティソフトウェアとの連携やビルトイン機能の使用もこのケースに含みます。
規制の遵守業界によっては、その遵守を徹底している規制が存在する場合があります。POS システムが、データ保護、税務コンプライアンス、または業界固有の基準のいずれに適用されるかにかかわらず、従うべき規則に準拠していることを確認してください。
顧客操作型端末:顧客による操作が必要なタッチパネルやセルフサービス型キオスクをビジネスで使用する場合は、その機能をサポートしている POS システムを選ぶようにしましょう。
POS システムの課題
事業者は、POS システムを選択・導入する際に、綿密な計画とベンダー調査を行い、継続的なサポートを得ることで、一般的な POS システムの課題を軽減することができます。その一般的な課題として、以下のようなものが挙げられます。
学習曲線:システムの使用に慣れるための従業員研修は時間がかかるだけでなく、追加のリソースを必要とする場合があります。システムが複雑すぎると、業務の遅延やミスにもつながります。
システム連携:POS システムは多くの場合、会計、在庫管理、CRM など用途別の専門ソフトやツールと接続する必要があります。これらのシステムの連携は、異なるベンダー同士のソフトであったり、互換性がなかったりすると、特に困難な事態に陥る場合があります。また、連携が原因でデータの不整合や追加の手作業が生じるケースもあります。
技術的な問題:POS システムの利用中、ソフトウェアのバグやハードウェアの障害といった技術的な問題が発生することがあります。これらの問題は、ダウンタイムを引き起こし、販売に混乱を生じさせ、さらに顧客にストレスを与える可能性すらあります。技術的な問題が頻繁に生じる場合、メンテナンスコストが増加し、ビジネスの評判に影響を与える可能性もあります。
データセキュリティ:POS システムは機密性の高い顧客情報を扱うため、サイバー攻撃やデータ侵害の標的になりやすいです。顧客データの保護を怠ると、制裁金が科せられたり、顧客の信頼喪失につながるおそれもます。
コスト:POS システムの導入と維持には、高額な費用を要します。初期購入時以外にも、ハードウェア、ソフトウェアライセンス、研修、継続サポートの費用がかかります。予算が限られている中小企業にとって、これらのコストは経営に負担を強いる要因になりかねません。
カスタマイズと拡張性:事業者は、ビジネスニーズに適応し、成長に合わせて拡張できる POS システムを必要としています。柔軟性が限られていたり、拡張にコストがかかるシステムは、逆にビジネスの成長を妨げるおそれがあります。
ベンダーサポート:すべての POS ベンダーが同じレベルのサポートを提供しているわけではありません。カスタマーサービスが不十分であったり、応答時間が長かったり、技術的な専門知識が不足していたりすると、問題が悪化し、ダウンタイムの長期化につながったりもします。
ユーザー体験: POS システムが直感的なデザインでなかったり、不便なインターフェイスを採用していたりすると、従業員や顧客の不満を引き起こし、経営を滞らせる可能性があります。
互換性:POS システムは、新しい支払い方法、デバイス、ソフトウェアアップデートに対応し続けていく必要があります。このとき、システムの交換やアップグレードに費用がかかることがあります。
POS ソフトウェア / ハードウェアのコスト
POS ソフトウェアとハードウェアにはそれぞれ、事業計画や予算編成でも考慮すべきコストが伴います。
ソフトウェアコスト
サブスクリプションベース:POS システムの多くは、端末ごとにサブスクリプションベースの料金モデルを提供しています。月額料金には通常、ソフトウェアアップデート、カスタマーサポート、クラウドストレージにかかる手数料が含まれます。
買い切り:POS システムの中には、1 回限りの購入で利用を開始できるものもあり、機能や拡張性によって価格も異なります。このモデルでは、更新とサポートに追加料金がかかるケースがほとんどです。
アドオンと連携:ロイヤルティプログラム、高度な分析、ソフトウェア連携などの拡張機能を追加する場合、追加の費用を考慮する必要があります。
ハードウェアコスト
レジ / 端末:ビジネスニーズに応じて事業者は、基本的なキャッシュレジスター、フル機能の POS 端末、またはそれらをつなぐハードウェアを購入する必要があります。
周辺機器:ビジネスの内容によっては、バーコードスキャナー、レシートプリンター、カードリーダー、キャッシュドロワー、モバイル POS システム用のタブレット / スマートフォンなどのコンポーネントも必要になる場合があります。
キオスク / セルフサービスシステム:キオスクやセルフサービスシステムは、特にカスタム構築や特殊機能を実装するような場合、それぞれ最大数千ドルのコストを追加で織り込む必要があります。
追加コスト
設置と研修:設置費用は前払いであることを事業者は想定しておかなけばなりません。また場合により、従業員研修のコストも考慮する必要があります。
メンテナンスとサポート:事業者は、継続的な技術サポートとメンテナンスの費用を支払う必要があります。
取引手数料: POS システムで決済処理が行われる場合、取引額の一定割合と固定料金を合わせた取引手数料が請求される場合があります。
カスタマイズ:特定のビジネスニーズに合わせてシステムをカスタマイズすると、固有のビジネス要件に対して追加コストが発生することがあります。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。