割賦販売法という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。「割賦 (かっぷ)」とは、購入金額を分割で支払うことを意味します。割賦販売法は、分割払いで代金を支払う際に消費者を保護することを目的とし、クレジット取引やローン提携販売に関するルールを定めている日本の法律を指します。
近年のフィンテック分野における画期的な技術革新にともない、私たちの決済を取り巻く環境はより快適で便利となる一方、安全面が懸念されています。そんな中、消費者が安心してさまざまな決済手段を利用できる環境を整備し、新たなテクノロジーやサービスに対応すべく、2016 年に割賦販売法の改正が行われ (2018 年 6 月施行)、その後も 2020 年 (2021 年 4 月施行) に改正が行われるなどしています。
本記事では主に 2016 年・2020 年改正の割賦販売法の基礎知識として、改正法に基づく個々の販売者への影響やプラットフォーム事業者の課題、アクワイアラーに義務付けられる加盟店管理の詳細について解説します。
目次
- 割賦販売法とは
- 割賦販売法がプラットフォーム事業における個々の販売者 (店子) に与える影響
- 割賦販売法によって強化された加盟店管理
- 加盟店 (店子) 管理におけるプラットフォーム事業者の課題
- プラットフォーム事業者が考慮すべきコンプライアンス関連のベストプラクティス
- 課題解消のために Stripe でできるサポート
割賦販売法とは
冒頭で解説したように、割賦販売法とは、商品やサービスの購入に際し分割払いを行う消費者を保護するための法律です。たとえば、クレジットカードを用いたオンラインショッピングでリボ払いやボーナス払いで商品やサービスを購入する、「クレジット契約」に関するルールを定めることで、消費者が安全にクレジットカード決済ができるような環境づくりを目指しています。
2020 年の割賦販売法の改正前、加盟店側でのカード番号漏えいによる不正利用が増加し、同時に決済代行業者が間に入る契約形態が一般化していく中で、クレジットカードを取り扱う加盟店に対する管理が不十分だと指摘されるケースが出ていました。
他方で、多くのフィンテック企業による革新的かつ機能性に優れた決済代行サービスが次々と誕生し、今後のさらなる決済インフラ事業の活性化が予想されました。
そこで、2020 年における割賦販売法の改正では、主に以下の 3 点が目的とされています。
クレジットカード加盟店管理の強化: 加盟店に対しカード番号などを取り扱うことを認める契約を締結する事業者 (アクワイアラーなど) について、登録制度が創設され、加盟店への調査などが義務付けられています。
安全なクレジットカード情報管理: カード番号などの適切な情報管理や不正利用対策が加盟店側に義務付けられています。これにより、不正リスクを軽減し、より安全なクレジットカード利用環境の構築を目指しています。
フィンテック企業の参入促進: 今後のより活発なフィンテック企業の参入を見据え、決済代行サービスを提供するフィンテック企業もアクワイアラーと同一の登録を受けられる制度を導入し、参入を促進する環境整備を実施しています。
割賦販売法がプラットフォーム事業における個々の販売者 (店子) に与える影響
割賦販売法によってアクワイアラー等による加盟店の管理が強化された背景としては、多様な決済手段があらゆるショッピングシーンで使用されるようになったことに加え、前述したように、EC サイトが広く普及する一方で不正利用が増加していることが挙げられます。割賦販売法は、消費者保護を目的として、この加盟店管理の役割をアクワイアラー側に責任を持って実施させる方針をとっています。
割賦販売法に基づくアクワイアラーの役割
割賦販売法の改正によって、アクワイアラーや、アクワイアラーと同等の機能を有する決済代⾏業者 (PSP) には、「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」としての登録制が導入されるとともに、加盟店の事業内容やリスクを個別に審査・管理することが義務付けられるようになりました。
EC プラットフォームまたは C2C プラットフォームの場合
プラットフォーム型事業の場合、各取引において、プラットフォーム事業者またはその店子のどちらかが販売者としてマーチャント・オブ・レコードになります。「場」を提供するプラットフォーム事業者ではなく、プラットフォームを利用する個々の出店者が実際に商品やサービスを販売・提供し、消費者と直接やり取りを行う「販売者」の立場となる場合、プラットフォーム事業者の審査のみでは加盟店管理が不十分になります。したがって、EC プラットフォーム事業では、個々の販売者 (店子) が加盟店審査の対象になる可能性が高いことを理解しておく必要があるでしょう。
フリマサイトのような 「C2C プラットフォーム」で販売活動を行う個人も、改定割賦販売法の影響を受け得ることがあります。たとえば、販売者が個人事業主である場合、加盟店として審査の対象になり得ます。個人事業主に対する具体的な審査内容には、氏名、住所、生年月日などが挙げられ、健全な決済システムを維持するためにも、こうした一定の身元確認が求められることになっています。
なお、販売者が個人事業主ではない個人の場合、基本、当該個人は加盟店としてのアクワイアラーの審査の対象になりませんが、C2C プラットフォームの提供者であるプラットフォーム事業者には追加の審査基準が課せられる可能性があります。つまり、消費者側に起こり得るリスクは、販売者が法人、個人事業主、個人に関係なく存在するため、消費者保護のためには、個々の販売者を把握するすべが欠かせない要素となるのです。
割賦販売法によって強化された加盟店管理
割賦販売法で義務付けられているアクワイアラーによる加盟店管理については、具体的に以下 2 つの側面からの管理体制強化を定めています。
販売者側のセキュリティ対策の義務化
割賦販売法では、顧客のカード情報の保護と不正利用の防止を目的として、以下のセキュリティ対策を講じることが、すべての加盟店に対し義務付けられています。
カード情報の非保持化: 加盟店には原則、自社システムでクレジットカード情報を保存・処理・通過しない「非保持化」が求められます。また、情報を保持する場合、国際的なセキュリティ基準であるPCI DSS への準拠が必要です。
不正利用対策の導入:
- 対面販売 (実店舗): IC カード対応の決済端末を導入し、不正に作成された偽造カード利用の防止に努めることが求められます。
- 非対面販売 (アプリ・EC サイトなど): 今日の日本では、サイト上のなりすましなどのクレジットカード不正利用の防止を目的として、加盟店に対し 3D セキュアの導入が義務付けられています。これに加え、セキュリティコードの活用、不正検知システムの利用といった多面的かつ重層的な対策も求められます。
- 対面販売 (実店舗): IC カード対応の決済端末を導入し、不正に作成された偽造カード利用の防止に努めることが求められます。
加盟店の調査・管理義務の強化
割賦販売法の改正ポイントの 1 つに、アクワイアラーや特定の決済代行業者を「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」と位置づけている点が挙げられます。これにより、加盟店に対する調査と管理を強化しています。加盟店調査義務におけるより詳しい調査の流れは以下の通りです。
- 初期審査 (加盟店契約時): 販売者の基本情報 (所在地、代表者、取り扱う商材・サービス、販売方法など) や、前述のセキュリティ対策が適切に実施されているかを確認します。
- 途上審査 (加盟店契約締結後): 契約後も販売者がセキュリティ対策を遵守し、情報漏えいや不正利用がないか、悪質な取引が行われていないかといったトラブル発生状況の継続的調査と監視を行います。
- 加盟店調査結果に基づく適切な措置: 調査結果で加盟店に問題が見つかった場合、法令に準拠するよう指導します。また、加盟店が指導に従わない、あるいは準拠が見込まれない場合、加盟店契約を解約するなどの措置を講じます。
加盟店 (店子) 管理におけるプラットフォーム事業者の課題
割賦販売法は、消費者保護の観点において重要な法律ではありますが、各販売者に対する個別審査は、場合によってプラットフォーム事業者側における割賦販売サービス導入のボトルネックとなり得ることも事実です。
先ほど紹介した加盟店の個別審査において、その実効性を確実にするにはアクワイアラーによる「JDM 照会」が必須となります。JDM とは、一般社団法人日本クレジット協会が運営する加盟店情報交換制度のことで、ここでは消費者トラブルを起こした加盟店や、不正利用を引き起した原因のある加盟店などの情報が登録されています。アクワイアラーは、個々の販売者を加盟店と認識し、当該販売者との契約を審査する際、悪質な事業者を事前に排除するために、JDM に登録された情報を用いることが事実上求められています。
しかし、アクワイアラーではないプラットフォーム事業者には JDM に直接アクセスする権限がないため、事前に自社の店子が JDM に登録されているか確認できません。店子の加盟店審査は法的責任を持つアクワイアラーに委ねざるを得ず、結果として非効率的なサイクルが生み出され、以下のようにユーザー体験が損なわれるケースが懸念されています。
販売者側のユーザー体験
Visa と Mastercard に対応するアクワイアラーと、JCB に対応するアクワイアラーは異なります。まず、Visa と Mastercard については他のカードブランドを取り扱わない単一のアクワイアラーが対応し、JCB の場合、JCB が唯一のアクワイアラーとなります。つまり、それぞれのアクワイアラーが 1 つの販売者に対して並行して審査を行わなければならず、審査がすべて完了するまでには相応の時間と手間がかかります。
しかし、審査が完了しなければ、販売者は加盟店としてビジネスを開始できません。もしくは、Visa と Mastercard は利用可能でも、JCB は審査途中といったように部分的でしか決済サービスを提供できなくなることが、販売者側のボトルネックになってしまうことも考えられます。
消費者側のユーザー体験
EC モールなどのような EC プラットフォームには、さまざまな事業者が出店しており、消費者にとっては、気軽に欲しいものを購入できる利便性がメリットでもあります。しかし、店子の加盟店に対する審査と管理は他社に委託するしか選択肢がないため、これらの業務を主導できないことが、プラットフォーム事業者側にとってはデメリットになり得ます。
たとえば、同じプラットフォーム上であるにも関わらず、ショップ A は JCB カードでの支払いが可能、一方でショップ B は JCB の使用は不可というケースが考えられます。この場合、プラットフォームとしての一貫性や利便性が損なわれるだけでなく、消費者からの信頼性も下がる恐れがあり、顧客離脱を招いてしまうかもしれません。
Stripe では、以下の 2 点によって、上記の課題を回避するサポートを行っています。
- アクワイアラーとのプログラム化された加盟店登録: 登録に関わるデータの電子送信によって、プロセス上における迅速な対応が可能です。
- Stripe 独自のペイメントファシリテーター体制: プラットフォーム事業者側は通常、新規加盟店情報を Excel ファイルで各アクワイアラーに送信し、アクワイアラーはこれらを数日かけて審査するため時間と手間を要します。一方、Stripe なら同社が構築した独自 API や埋め込み・ホスティングコンポーネントにより、事業者側はオンボーディング機能を自社システムに組み込むことで、作業の自動化が可能となり、よりスムーズな業務の遂行が実現できます。
プラットフォーム事業者が考慮すべきコンプライアンス関連のベストプラクティス
法的責務となる加盟店管理は原則としてアクワイアラーが担いますが、プラットフォーム事業者も、以下のようなコンプライアンス関連のベストプラクティスを把握しておく必要があります。
KYC (Know Your Customer): KYC とは日本語で「顧客確認」、「本人確認」を意味し、ここでは販売者が実在することを確認し、反社会的勢力との関与がないかを確認することを指します。KYC は、犯罪による収益の移転防止に関する法律 (犯罪収益移転防止法) にも関連する要素となるため、しっかりと理解を深めておくことが大切です。
不正取引の監視: 日々プラットフォーム上で行われる取引を監視し、不正取引のパターンを検知し、必要に応じて適切に対処できる体制の構築が求められます。
チャージバック管理: クレジットカードの不正利用などが原因で生じるチャージバック (支払い拒否) に対応し、そのリスクを管理するためのプロセスを確立しておく必要があります。
課題解消のために Stripe でできるサポート
ここまでの解説でもお分かりのように、割賦販売法で定められている加盟店管理の要件は多岐にわたり、アクワイアラーによる厳格な管理が求められることから、プラットフォーム事業者が独自ですべてに対応することは極めて困難といえます。特に、迅速でシームレスなユーザー体験を目指しながら EC プラットフォーム事業を進めるに際しては、同法は運営上のハードルにもなりかねません。
Stripe Connect は、同法およびさまざまなコンプライアンス要件に沿って構築された製品であり、EC 事業の運営を後押しするために設計された決済プラットフォームです。Stripe Connect を導入すると、加盟店登録などオンボーディングに関わる処理の自動化が可能になり、事業者は自社ビジネスの成長と最適なユーザー体験の創造に注力できるようになるでしょう。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。