法人設立地の決定は、事業の運営と将来的な成長に永続的な影響を及ぼす重要事項です。アメリカを拠点とする事業者の多くは、デラウェア州とカリフォルニア州の 2 つの州から選んでいます。
2022 年現在、190 万以上の事業者がデラウェア州を法律上の本拠地としています。Fortune 500 にランクインしている大手企業も多く含まれます。デラウェア州の事業者に配慮した法律と司法が大きく支持されているためです。これとは逆に、カリフォルニア州は、規制と厳しさと高額の税金にもかかわらず、活気のある起業環境が整っていて、世界の「ユニコーン」スタートアップ (評価額 10 億ドル超の非公開スタートアップ企業) の半数以上が本拠を置いています。
デラウェア州かカリフォルニア州かを選ぶ際に企業は、両州の法的枠組み、税務事情、プライバシー保護の違いに注目しながら、これらの事情がビジネスの成長と投資家へのアピールに及ぼす影響を見定める必要があります。ここでは、各州で法人設立を行う明確な長所と短所を紹介して、このプロセスの進め方をご説明します。
この記事の内容
- デラウェア州で法人設立するメリット
- カリフォルニア州で法人設立するメリット
- デラウェア州での法人設立に潜在するデメリット
- カリフォルニア州での法人設立に潜在するデメリット
- デラウェア州とカリフォルニア州における法人設立: 主な違い
- 法人設立する州の決め方
デラウェア州で法人設立するメリット
デラウェア州は、事業者に配慮した法律、法制度、サービスのために、法人設立州として多くの事業者に選ばれています。2022 年におけるアメリカでの新規株式公開の約 80% がデラウェア州で登録され、Fortune 500 企業の 68% がデラウェア州で法人設立を行っています。ここでは、どのようなメリットが、これだけの高い数字に寄与しているかをご紹介します。
柔軟な会社法
デラウェア州の一般会社法は、アメリカにおいて最も先進的かつ柔軟性の高い会社法の 1 つです。同州の法律は一般に、法人に好意的であり、法人の構造、株主の権利、会社経営にかかわる柔軟性を備えています。デラウェア州の会社法では、法人が合併や買収を行いやすく、ベンチャーキャピタルや未公開株式の投資に有利な条件が整っており、資産保護や資産計画を行うための仕組みも提供しています。衡平法裁判所
デラウェア州の衡平法裁判所は、企業の問題を専門に扱っており、判決は陪審員ではなく裁判官によって下されます。この裁判所は権威があり、特にビジネスの問題を扱う判例法を豊富に築き上げてきました。長年にわたって多くの法的問題に対処しており、法人に予測可能性と法的安定性をもたらしています。衡平法裁判所の裁判官は実績に基づいて任命され、このことが会社法における同裁判所の高い専門性に貢献しています。プライバシーの保護
デラウェア州では、法人設立書類で役員や取締役の名前を開示することが義務付けられていません。このため法人は他の州では得ることのできない高度のプライバシーを得ることができます。税制上のメリット
デラウェア州は、他の州や国を拠点とする法人には所得税を課していません。デラウェア州で法人設立を行ったとしても、同州で事業を営むのでなければ、州の法人所得税の対象外となります (ただし、フランチャイズ税の納付義務はあります)。しかも、法人の株主は、居住地がデラウェア州でなければ、所有する株式に対する税金をデラウェア州に納める必要はありません。投資家にとっての魅力
多くの投資家は、デラウェア州に拠点を置く法人への投資を好みます。その理由の 1 つは、確立された法体系と衡平法裁判所がデラウェア州にはあるからです。加えて、同州の法律は経営陣を支持する傾向があり、他の州に比べて投資家が予測しやすいものになっています。負担の少ない法人設立プロセス
デラウェア州の法人設立プロセスは合理的かつ効率的です。同州の法人部門が効率的な手続きサービスを提供し、デラウェア州法人の設立と管理をスムーズに行うことができます。株主に配慮した法律
デラウェア州の法律は経営陣に好意的であると同時に、株主にとっても他の州にはない利点があります。たとえば、デラウェア州では、1 人が法人の唯一の取締役となって、すべての役員のポストを兼任することができます。さらに、株主総会の開催地も自由で、オンラインであってもかまいません。予測可能な判例と確定済みの判例
デラウェア州の裁判所は長年にわたって膨大な判例法を蓄積し、法人は法律面に関する予測を行うことができます。判例が豊富にあるおかげで、複雑な法律上の問題でも、会社判例法が未発達な州に比べてスピーディーに、かつ予測可能な方法で解決することができるのです。
カリフォルニア州で法人設立するメリット
カリフォルニア州での法人設立には、いくつかのメリットがあり、特に事業の大半またはすべてを州内で展開する予定の企業にとって恩恵は大きくなります。以下は、考慮すべきいくつかの重要なメリットです。
州内での事業運営
事業の実在拠点をカリフォルニア州に置き、主にその州内で事業を運営する場合、カリフォルニア州での法人設立が有利である可能性があります。そうすることでカリフォルニア州で州外法人として事業を営む資格を取得しなくて済むため、コンプライアンス維持の負担が減り、手数料や書類手続きを減らすことができます。信用と評価
デラウェア州での法人設立と同様、カリフォルニア州で法人を設立することで、信用が高く、「正統である」という印象が得られる可能性があります。州内で事業を運営する法人には特にその傾向があります。「カリフォルニア州の会社」というと、確固たる地位があって地元との関係構築にも積極的に取り組む企業であると、顧客、サプライヤー、投資家から見られることでしょう。地域の法規制との親和性
事業の大半をカリフォルニア州内で営むことを予定している場合は特に、カリフォルニア州での法人設立によって法的環境への対応が容易になります。カリフォルニア州の法律が適用されるので、法的な指針がより分かりやすく地元に密着したものになります。州固有の保護
カリフォルニア州法では、法人の株主が、他の州にはない一定の保護を受けることができます。たとえば、カリフォルニア州には、少数株主を不公平な扱いから守る強力な法律が整備されています。資本と市場へのアクセス
カリフォルニア州、特にシリコンバレーとサンフランシスコのベイエリアは、ベンチャーキャピタル、イノベーション、起業家の中心地として有名です。テクノロジーなど、急成長する業界の企業は、こうしたリソースやネットワークの近くに位置することで恩恵を受けることができるでしょう。
デラウェア州での法人設立に潜在するデメリット
デラウェア州での法人設立には多くのメリットがある一方、デメリットも潜んでいます。ここでは、留意すべき重要なポイントをいくつか取り上げます。
フランチャイズ税と手数料
デラウェア州で法人設立する企業はすべて、州内で事業を営んでいるかどうかにかかわらず、年次のフランチャイズ税を納めなければなりません。フランチャイズ税の最低税額は、ほとんどの法人で 175 ドルですが、大企業になると 20 万ドルまでになることもあります。加えて、デラウェア州の法人は、年次納税申告書の手数料として 50 ドルを別途支払う必要があります。別の州で事業を行うコスト
一般に、デラウェア州の法人が別の州で事業を行う場合、州外法人と見なされます。結果、別の州で事業を営むための認可を受ける必要が生じ、別途手数料と書類手続きが発生するほか、デラウェア州と別の州の両方に税金を納めなければならない可能性もあります。複雑な法律
デラウェア州の衡平法裁判所と同裁判所によって確立された会社法の体系は、予測可能性と一貫性を企業にもたらす一方で複雑さも伴います。デラウェア州の法典は広範かつ複雑であるために、企業は専門の弁護士を雇う必要があり、費用が増大する可能性があります。中小企業にとってはメリットが小さい
デラウェア州の法的枠組みは、大企業、特にベンチャーキャピタルを活用しようとしている企業や株式公開を予定している企業には恩恵をもたらしますが、中小企業にとってのメリットは低くなりがちです。中小企業、特に州外で大きな事業を展開する予定のない企業は、デラウェア州の会社法から得られるメリットがそれほど大きくない場合があります。「隠している」という印象
デラウェア州が提供するプライバシーの保護は有利ではありますが、会社が何か隠そうとしているのではないかという印象も与えます。利害関係者の中には、デラウェア州の法人設立を、オーナーや役員の身元を隠す手段、または他の州と比べて寛大な法律を利用する手段と見なす人もいるでしょう。株主訴訟
一般に、デラウェア州の法律は経営陣に好意的ではありますが、株主訴訟でも知られています。法体系が発達していて、また裁判制度の専門性が高いために、株主が企業に対して訴訟を起こしやすくもあります。
カリフォルニア州での法人設立に潜在するデメリット
特に州内で事業を営もうとする企業にとっては、カリフォルニア州での法人設立に数多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットも潜んでいます。その例を次に紹介します。
税金の最低額が高い
カリフォルニア州の法人すべてに、収入や活動のレベルに関係なく、最低でも 1 年に 800 ドルのフランチャイズ税が課されます。厳しい規制
カリフォルニア州は、ビジネスに関する規制が他の多くの州よりも厳しく複雑であることで知られています。法人の組織構造に関する規則のほか、環境基準、労働法、プライバシーなどの領域を対象とした規制が多く存在し、これらがすべて法令遵守のさらなる負担となって法人に重くのしかかります。役所関連の手続きが煩雑
カリフォルニア州の役所関連の手続きは時間がかかって面倒と感じる企業もあります。こうした手続きに対応するために必要な時間と労力は、法人にとって大きな障害となる可能性があります。プライバシーの低さ
デラウェア州と異なり、カリフォルニア州は、年次情報報告書で取締役と役員の氏名を開示することを法人に義務付けています。匿名を希望するビジネスオーナーにとっては、このことがネックになる可能性があります。取締役会の要件
カリフォルニア州法では、3 名以上の株主を有する法人は、取締役会に 3 名以上の取締役を置くことが義務付けられています。規模の小さい企業にとっては負担となる可能性があります。高い生活費と運営コスト
カリフォルニア州、特にロサンゼルスやサンフランシスコといった主要都市は、生活費が高いことで知られています。これはそのまま企業の運営コスト (賃金や賃貸料を含む) の高さに直結します。法人設立の費用が倍になる可能性
カリフォルニア州で法人を設立し、後からデラウェア州など別の州で再度法人設立しようとした場合、手続きを 2 回行わなければなりません。その結果、費用と事務的な作業が余分に発生することになります。
デラウェア州とカリフォルニア州における法人設立: 主な違い
法人設立を行うにあたって客観的に「他より優れている」州というものはありませんが、事業にとって最も賢明な州を見極めるということは、それぞれの州の特色を理解することになります。ここでは、デラウェア州とカリフォルニア州における法人設立の主な違いを簡単にご紹介します。
会社法と法制度
デラウェア州: デラウェア州には、多くの人々がアメリカの会社法の「金科玉条」であると定評のある柔軟な会社法体系があります。権威ある衡平法裁判所はビジネス紛争に特化しており、法人向けに合理化された予測可能な法的手続きを提供しています。
カリフォルニア州: カリフォルニア州にも堅牢な会社法体系はありますが、一般にデラウェア州の法律と比べると、従業員や株主の方が保護されていると受け取られています。カリフォルニア州には、デラウェア州の衡平法裁判所のような、ビジネスに特化した裁判所がないため、訴訟手続きは時間がかかり、予測が難しくなりがちです。
プライバシー
デラウェア州: デラウェア州では、役員または取締役の氏名を設立書類に記載する必要がないため、企業にとってプライバシーの水準は高くなります。
カリフォルニア州: カリフォルニア州では、年次情報報告書で取締役と役員の氏名を開示する必要があるため、取締役と役員の個人的なプライバシーはデラウェア州よりも低くなります。
税金と手数料
デラウェア州: デラウェア州法人はすべて、フランチャイズ税を毎年納める必要があります。税額は、法人の種類と規模に応じて 175 ドルから 20 万ドルになります。ただし、デラウェア州で法人設立しても、州内で事業を行わないという場合、州の法人所得税は課されません。
カリフォルニア州: カリフォルニア州は、収入や活動のレベルに関係なく、すべての法人に最低でも 800 ドルのフランチャイズ税を課しています。さらに、カリフォルニア州に拠点を置いている法人は、州の法人所得税の対象となります。
規制と要件
デラウェア州: デラウェア州の規制は、事業者に配慮した内容になっていることが多く、法人の構造と経営に多くの選択肢をもたらします。たとえば、デラウェア州では、1 人が法人の唯一の取締役となって、すべての役員のポストを兼任することが認められています。
カリフォルニア州: カリフォルニア州は、比較的厳しい規制と多くの要件を法人に課しています。たとえば、3 名以上の株主を有する法人は、取締役会に 3 名以上の取締役を置くことが義務付けられています。また、カリフォルニア州に本社を置く上場企業には、取締役会の多様性要件が定められています。
法的環境と投資家の認識
デラウェア州: 多くの投資家は、デラウェア州法人への投資を好みます。同州の柔軟な会社法と権威ある法制度がその理由です。ベンチャーキャピタル投資を活用しようとしている企業や株式公開を予定している企業にとって、これは特に大きな利点でしょう。
カリフォルニア州: カリフォルニア州は、デラウェア州ほど投資家の間で評判は高くありませんが、カリフォルニア州で法人設立した場合も信用が高まります。主に州内で事業を営む企業にとっては特にそのことが言えます。
事業運営のコスト
デラウェア州: デラウェア州法人が別の州で事業を行う場合、州外法人としての認可を受ける必要があり、そのための手数料と書類手続きが別途発生する可能性があります。
カリフォルニア州: カリフォルニア州は、他の多くの州と比べて生活費や事業費が高くなります。これは、賃金や賃貸料などの事業経費がデラウェア州よりも高いためです。
デラウェア州もカリフォルニア州も、法人にメリットをもたらしますが、会社法、税、手数料、プライバシーの保護、ビジネス環境に明確な違いもあります。各州の特徴が、それぞれの法人にさまざまな形で影響を及ぼす可能性があります。
法人設立する州の決め方
法人を設立する州をどこに決定するかは、法人設立時の重要なステップです。この決定は、事業のニーズの総合的評価、将来の成長計画、投資家の要件といった重要な要素を検討したうえで行う必要があります。ここでは、この決定を行うにあたって企業が進めるべき一般的なプロセスをご紹介します。
事業の構造と将来の計画を把握する: 法人設立地の選択は、法人の構造 (個人事業、共同経営、LLC、株式会社など) と将来の計画 (投資家の勧誘、株式公開、株式非公開の継続など) の影響を大きく受けます。たとえば、ベンチャーキャピタリストや非公開投資会社は多くの場合、デラウェア州に拠点を置く法人への投資を好みます。デラウェア州は、会社法制度がしっかり確立されているためです。
法的な要件と保護を評価する: 事業者は、法人設立地として検討している各州の会社法を理解する必要があります。取締役や役員が保護される州もあれば、株主が保護される州もあります。前述のように、デラウェア州は、事業者への配慮が行き届いた法律があり、衡平法裁判所の専門性が高いために、多くの法人にとって魅力的な選択肢となっています。
プライバシーの必要性を考慮する: プライバシーを重視するビジネスオーナーは、役員や取締役の氏名を公表する必要がないデラウェア州での法人設立の方が好ましいでしょう。
税負担を評価する: 各州の法人税の要件を考慮する必要があります。デラウェア州など一部の州では、州内で事業を営んでいない企業には、州の法人所得税が課されません。一方、カリフォルニア州などの州では、利益や活動のレベルに関係なくフランチャイズ税の最低税額を設けています。
事業運営の費用と負担の少なさを考慮する: 州内の生活費、賃金レベル、不動産コスト、一般的な事業環境といった要素が含まれます。規制環境や役所関係の側面も含め、その州でスムーズに起業し、事業運営できるかという点も考慮する必要があります。
法務・財務の専門家に助言を求める: 特定の州で法人設立することの意味、事業と将来の計画に及ぼす影響を、法務および財務のアドバイザーに相談して詳細に把握します。
投資家と市場の期待を考慮する: 業種や事業者 (株式公開を予定する企業など) によっては、市場の期待が法人設立地の判断に影響を及ぼす場合があります。たとえば、テクノロジーのスタートアップ業界では、多くの投資家が、事業者にデラウェア州での法人設立を期待します。
確認して決定する: ビジネスオーナーは、すべての情報を収集して分析した後、調査結果を確認して選択肢を検討し、データに基づいて法人設立地を決定する必要があります。
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