売掛金 (AR)回転率とは、企業が特定の期間に売掛 (クレジット) による未収売上を平均で何回回収したかを測定することで、企業が顧客から売掛金をどれだけ効率的に回収したかを求めます。
求められる数字は、企業が売掛および回収プロセスをどの程度適切に管理しているかについての洞察を提供します。回転率が高いということは、会社が迅速に支払いを回収できることを意味し、キャッシュフローにもプラスの影響を与える可能性があります。比率が低い場合は、顧客が期日どおりに支払っていないか、クレジットポリシーが寛大すぎることを示唆している可能性があります。本記事では、売掛金回転率の計算方法、避けるべき一般的な計算ミス、比率を改善する方法について解説していきます。
本記事の内容
- 売掛金回転率の計算式
- 売掛金回転率の見方
- 売掛金回転率の計算時に起こるよくある間違い
- 売掛金回転率の改善方法
売掛金回転率の計算式
売掛金回転率は、純掛売上高を平均売掛金で割ることで求めることができます。
売掛金回転率 = 純掛売上高 ÷ 平均売掛金
純掛売上高:売掛で行われた売上の合計から返品、割戻、値引を差し引いた金額
平均売掛金:期首売掛金と期末売掛金を 2 で割った金額
上記の式を構成する各項目の詳しい計算方法は以下のとおりです。
純掛売上高
純掛売上高は、掛売上高から控除を差し引いた後の売上高を表しています。純掛売上高を求めるには、総掛売上高から、売上の返品、割戻、値引を差し引きます。
純掛売上高 = 総掛売上高 − 売上返品・割戻 − 売上値引
総掛売上高:売掛による売上 (現金売上ではない) の合計
売上返品・割戻:返品または価格調整のために顧客に返金される金額
売上値引:早期支払いやその他のインセンティブによって顧客に提供される割引
平均売掛金
平均売掛金を計算するには、まず特定の期間における期首売掛金と期末売掛金を足し合わせます。次に、この金額を 2 で割って平均を求めます。これら 2 項目の金額を平均すると、期間中に生じている変動額が調整され、売掛金回転率の計算結果がより正確なものになります。
平均売掛金 = (期首売掛金 + 期末売掛金) ÷ 2
期首売掛金:期首の売掛金残高
期末売掛金:期末の売掛金残高
売掛金回転率の見方
売掛金回転率は、特定の期間において顧客が売掛購入額を返済した頻度を示します。事業主、融資者、または投資家にとって売掛金回転率は、企業が債権をどれだけうまく管理しているかを明らかにし、また次の 2 つの重要な問いへの答えにもなります。
売上を現金に変えているという点で、対象企業はどの程度信頼できるか?
対象企業が売掛金の回収に寛容すぎる、もしくは積極的すぎるというリスクはないか?
比率が高いということは、キャッシュフローが流動的であり、その企業に売掛と回収を管理するための効果的なシステムがあることを意味します。また、事業を継続し、成長計画を軌道に乗せるという意思の表れでもあります。しかし、比率が高すぎる場合は、企業が売掛金の回収に対して厳しすぎる姿勢を取っていることを示します。顧客はそのような売掛条件に柔軟性を見出せず、企業は知らずと売上を逃している可能性があります。
比率が低い場合は、効率性が低いまたはリスクが高いことを示唆します。つまり、現金が実務に回されることなく、未払い請求書に滞留している状態です。また、回収プロセスが脆弱であったり、企業が支払い意思のまったくない顧客に売掛を融通していたりするなど、より大きな問題を抱えているという可能性もあります。
売掛金回転率が健全な数字な場合、現金を動かし続けることと顧客満足度を維持することのバランスがうまく両立できていることを意味します。会社にとって「良い」売掛金回転率を判断する際には、以下の要素を考慮してください。
業界慣習:食料品店では、顧客が食料品の代金を即日または数日以内に支払うのに対し、家具などの高額商品を扱う企業では多くの場合、長期の売掛期間で購入されます。そのため、食料品店は家具会社よりも一般的に回転率が高くなります。
長期的な傾向:比率が下がり始めたら、それは警告のサインかもしれません。顧客が経済的に苦難しているか、回収プロセスに遅れが生じている可能性があります。一方、比率が改善している場合は、支払いを早めに受けるための取り組みが功を奏しているといった可能性が挙げられます。
季節パターン:年末年始の衣料品小売など、販売サイクルが偏るビジネスでは、繁忙期に売掛金が急増する可能性があります。このようなピーク時の比率を分析しても、全体までは把握できない可能性があります。
売掛金回転率の計算時に起こるよくある間違い
返品の引き忘れや、算入期間の不一致など、売掛金回転率の計算時に起こる小さな間違いは、企業がどれだけうまく資金を回収しているかの認識を歪めかねません。キャッシュフローの見積もり、クレジットポリシーの調整、投資家の信頼の構築など、これらのいずれを行うにせよ、意思決定を行う際には、売掛金回転率の正確さが求められます。
この項目では、売掛金回転率の計算を行う際に避けるべき一般的な間違いをいくつかご紹介します。
現金売上を含めている:売掛金回転率は、総売上高ではなく、掛売上によって求められます。現金売上を含めてしまうと、純掛売上高が膨らみ、回転率が実際よりも高くなります。
返品または割引を考慮していない:掛売上から返品、割戻、割引を引き忘れると、顧客が支払うべき金額を過大評価してしまい、結果、売上高をかさ増すことになります。
誤った売掛金の使用:よくある間違いの一つは、平均売掛金を計算せずに、期末売掛金残高を用いることです。この場合、特に売掛金の残高が期末近くで異常に上下すると、比率を歪める結果につながります。平均化することで金額の変動は抑えられ、パフォーマンスをより現実的な数字で把握できます。
期間を一致をさせていない:売掛金回転率の計算に使用する掛売上は、分析対象の売掛金と同じ期間のものである必要があります。たとえば、年間の純掛売上高に対しては、同じ 12 カ月間の平均売掛金を計算に用いなければなりません。期間の違う計算要素を使用してしまうと、比率が大幅に歪む可能性があります。
償却を見落としている:残高が貸し倒れと見なされ償却された場合、その残高は売掛金から除外されます。これらの不良債権を除外しない限り、平均売掛金の金額は膨らみ、回転率も低下します。また、これらの償却が生じることは即ち、問題のある顧客に多額の売掛を行っているということであり、会社がより大きな問題を抱えていることを示します。
季節性を考慮していない:季節性の売上がある場合、数字を額面通りに受け取ると誤った計算結果を招くことになります。年末の売掛金残高が膨大だからといって、必ずしも回収能力に致命的な欠陥があるとは限りません。膨大な残高は単に季節的な急増を反映している可能性があります。この落とし穴を回避するには、売掛金の計算に移動平均を用いるか、より短い期間 (四半期ごとなど) の売上高を分析して、季節的な傾向を考慮します。
業界のベンチマークを無視している:紙面上は低いように見える回転率も、特定の業界では正常な比率であったりすることがあります。たとえば、建設会社の場合、プロジェクトにはマイルストーンや工期延長といった要素が考慮されるため、売掛金の回収に時間を要する可能性があります。一方、卸売業者は、タイトな売掛期間を設けることが多いため、回収サイクルも短縮されます。自社の比率を業界標準や同業他社と比較し、正しく状況を把握するようにしましょう。
新旧ポリシー間の不整合を放置している:年度の途中で会社のクレジットポリシーが変更された場合 (支払い期間の延長など)、結果が複雑になる可能性があります。求めた回転率が低い比率であったとしても、それは回収状況の悪化による低下ではなく、新しいポリシーを反映したことによる低下である可能性があります。
売掛金回転率の改善方法
比率を改善させるためには、顧客を遠ざけることなく、早めに支払うよう促す必要があります。つまり、キャッシュフローを流動的にするという目的だけでなく、信頼を維持しつつも新しい売上を呼び込むという目的をうまく両立させることが求められます。この項目では、企業が売掛金回転率を改善するために利用できる実用的な方法をいくつかご紹介します。
明確な支払い条件を設定する:支払期日が不明瞭な場合や、条件が緩すぎる場合、顧客の支払いは遅れてしまいます。支払い条件は前もって詳しく説明し、顧客が支払期日を正確に把握できるようにしましょう。
支払いを簡単にする:クレジットカード、銀行振込、モバイル決済など、複数の決済オプションを提供することで弊害を取り除きます。請求書やリマインダーを送る際は、自動送信ツールを使用することをお勧めします。ボタンをクリックするのと同じくらい、支払いを簡単だと顧客に感じてもらえるようにしましょう。
速やかに請求する:請求書の送付が早ければ早いほど、支払いを受けるのも早くなります。顧客への請求を 1〜2 週間遅らせただけで、プロセス全体に遅れが生じます。請求処理を自動化して、商品やサービスの納品直後に請求書を送信でする仕組みを整えましょう。さらに、請求書には「正味 30 日」などの曖昧な期間だけでなく、正確な期日を記載することをお勧めします。
早期支払いを奨励する:早期に支払った顧客には、インセンティブを与えるようにしましょう。10 日以内に支払われた場合に 2% オフになるなど、少額の割引を提供するだけで、請求書を迅速に処理できるようになります。
支払い遅延に対して毅然と対応する:支払いの追跡は面倒を伴う作業ですが、会社が回収に真剣に取り組んでいることについては顧客にも知ってもらう必要があります。そのためには、期日の数日前または後に丁寧なリマインダーを送ったり、延滞請求書に延滞料を適用するなど、支払い遅延に対するプロセスを確立します。そのプロセスを顧客にも把握してもらうことで、後で不測の事態が起こることを防げます。期日の経過が長引いている顧客については、支払いが完了するまで作業を停止するか、今後の注文を保留することを検討してください。
顧客を選別して売掛を行う:売掛を行う前に、顧客の支払い履歴、信用スコア、信用情報などを確認してください。新規の顧客やクレジットヒストリーに問題がある顧客に売掛を行う場合は、少額から始めるようにしましょう。リスクの高い顧客を相手にする場合、支払いを受けずに損するよりは、取引そのものを断る方が賢明だったりします。
面倒な作業を自動化しつつフォローアップする:回収は時間がかかる作業のため、忙しいときはフォローアップをおろそかにしてしまいがちです。会計ソフトを使用して期日の前、当日、後に自動リマインダーを送信することで、多額な請求書や未払いの請求書を個別にフォローアップすることが可能です。支払いを忘れたり見落としたりしている顧客には、簡単なメールや電話で注意を促すことができます。
定期的に売掛金を監視・分析する:売掛金年齢表を継続的にチェックして、期限切れの請求書を監視し、パターンを特定します。支払い遅延が常態化している顧客はいないか?業界の性質や季節が原因で支払い遅延が頻繁に生じていないか?これらの情報を基に、売掛条件を調整したり、リスクの高い顧客をフラグ付けしたり、回収頻度を増やすことを検討しましょう。
売掛金のファクタリングを検討する:手許資金がひっ迫している場合は、未払い請求書をファクタリング会社に割引価格で販売することを検討しましょう。ファクタリング会社は会社に請求額を前払いした上で、回収業務を引き継いでくれます。ファクタリングは請求額の一定割合を失うだけでなく、ファクタリング会社への引き渡しによって顧客を排斥するリスクを伴いますが、事業を継続するために資金を必要としている場合は命綱になることもあります。
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