電子マネー、およびそれを管理する機関は、金融の世界でますます重要な役割を担うようになってきています。そもそも電子マネー機関とは何なのでしょうか。また従来の銀行とどう違うのでしょう。
本記事では、電子マネーの法的根拠や電子マネー機関の役割、電子マネー機関の特徴について解説します。また、電子マネーがデジタル決済や国際取引を行う企業にとって魅力的な代替手段である理由や、電子マネー機関を設立するために必要な手順についても併せてご紹介します。
本記事の内容
- 電子マネー機関の概要と従来の銀行との違い
- 電子マネー機関が企業にとって重要な理由
- ドイツの電子マネー機関に適用される規制
- ドイツで電子マネー機関を設立する方法
電子マネー機関の概要と従来の銀行との違い
「電子マネー機関 (e-money institution)」という用語は、決済サービス監督法 (ZAG) の第 1 条第 2 項第 1 文第 1 号で定義されています。電子マネー機関 (EMI) は、電子決済手段を発行および管理する組織です。顧客が現金や従来の銀行口座に頼ることなく電子的に支払いを行えるようにするサービスを提供しています。「電子マネー」は、硬貨や紙幣などの物理的な決済手段に代わるデジタルの決済手段を指します。人々はスマートフォン、コンピューター、または特別なカードを介して電子マネーを利用できます。電子マネーの例としては、プリペイド型クレジットカード、デジタルウォレット、オンライン決済サービスなどがあります。
従来のバンキングサービスとの違い
ドイツでは銀行法で規制されている従来の銀行とは対照的に、電子マネー機関は従来の銀行業務を行うことは許可されていません。これには、貸付や預金の受け取りも含まれます。電子マネー機関は、その活動範囲が狭いため、銀行に適用されるものほど包括的ではない特別な法的規制の対象となります。
電子マネー機関の主な役割は、電子マネーを発行するほかに、ユーザーがオンラインストアへの支払い、他のユーザーへの送金、デジタルおよび物理的な POS での支払いなどの取引を完了できるようにすることです。電子マネー機関が提示する為替レートや手数料は低く設定されているため、特に国際決済の場合、銀行よりも魅力的なレートが提示されていることが多々あります。
テクノロジーとライセンスが果たす役割
電子マネー機関は、デジタルプラットフォームと高度なセキュリティメカニズムを使用して、スピーディーで安全な支払いを実現しています。それゆえに、テクノロジーの性能は重要です。先の理由からも、電子マネー機関は、新しい決済手段の導入に関しては、柔軟で革新的な姿勢であるところが多いです。さらに、規制要件が緩和されたことで、電子マネー機関は従来の銀行よりも安価かつ迅速にサービスを提供できるようになりました。
しかし、規制の緩和には限界があります。たとえば、EMI は顧客の資金を投資に使用することは許可されていませんが、従来の銀行はその方法で利益を上げています。電子マネー機関は、サービスに対して請求する手数料を収益源としています。
また、EMI と決済機関の運営にはライセンスが必要です。このライセンスは、EU 加盟国の適正な金融監督当局によって発行されます。連邦金融監督庁 (BaFin) は、ドイツ国内のすべての決済機関と電子マネー機関を台帳に登録しています。
電子マネー機関が企業にとって重要な理由
電子マネー機関は、企業が銀行の手続きに頼ることなく、デジタルで支払いを受け取ることを可能にします。電子マネー機関は通常、1 つまたは少数の商取引に重点を置いているため、取引の処理も最適化されています。そのため、コスト構造や処理速度は、フルサービスの銀行よりも大幅に優れていることが多いです。企業は、特にオンラインビジネスにおいて、電子マネー機関のサービスの恩恵を受けています。顧客はオンライン決済を簡単かつ安全に利用できるため、購入プロセスがスピーディーになり、このことが顧客満足度の向上へとつながっています。
迅速で安全な決済取引
電子マネー機関が提供するグローバルな決済サービスにより、企業の海外事業展開も一段とスムーズになっています。電子マネー機関を介せば、低コストの通貨換算や迅速なクロスボーダー取引が利用できます。これらのは、さまざまな国で事業を展開している企業や、海外のパートナーと提携している企業にとって特に魅力的な点です。電子マネー機関は、フリーランス労働者、サプライヤー、その他のビジネスパートナーなどに支払いを行うためのソリューションも提供しています。これらの支払いは、迅速かつ安価にデジタルウォレットへと送金できます。
さらに、多くの電子マネー機関は、モバイルアプリケーションやアプリケーション・プログラミング・インターフェイス (API) などのテクノロジーを活用しています。企業はこれらのテクノロジーを自社のシステムと統合して、カスタマイズされた決済ソリューションを開発することが可能です。これにより、効率だけでなく、顧客体験も向上します。電子マネー機関は、従来の銀行口座に代わる柔軟な決済手段を提供しているため、スタートアップや中小企業にとって特に魅力的な存在です。企業は、大規模な事務処理を行うことなく、手早く口座を開設し、決済を開始できます。
電子マネー機関でもある Stripe は、Stripe Payments を介してオンラインおよび対面での決済を可能にすることで、世界中の企業を支援しています。100 種類以上の決済手段と、各地域に適応した高速な決済プロセスにより、スムーズな顧客体験を実現し、新しい市場への事業拡大を加速させます。
ドイツの電子マネー機関に適用される規制
ドイツの電子マネー機関は、顧客の資金の安全性と金融システムの安定性を確保するために設計された厳格な法的規制の対象となります。これらの規制は、電子マネーおよび決済サービスに関する EU 指令を国内法へと移管した ZAG の規定に基づきます。
ライセンス
ドイツで電子マネー機関が事業を運営するには、BaFin のライセンスが必要です。このライセンスを取得するには、堅実なビジネスモデル、透明性のある組織構造、マネーロンダリングと闘うための適切な対策など、金融機関に求められる厳しい要件をクリアしている必要があります。また、電子マネー機関の経営陣は、信頼が厚く、専門的な資格を有している役員で構成されることが求められます。
顧客資金の保護
電子マネー機関は、顧客から受け取る資金を資産とは別に保管する義務があります。これは、銀行の専用口座に預けるか、保険に加入することによって行われます。これにより、電子マネー機関が破産を申請しなければならない状況に陥ったとしても、顧客の資金は保護されるようになります。
継続的な監督
電子マネー機関は、BaFin による継続的な監督の対象となります。併せて、財務状況や法的要件の遵守状況を記した報告書を定期的に提出しなければなりません。必要であれば、BaFin は機関を監査し、すべての要件が満たされているか確認することもできます。
貸付と預託業務の禁止
電子マネー機関は、従来の銀行業務を行うことを禁じられています。電子マネー機関が行う事業は、電子マネーの発行と決済サービスの提供に限定されています。また、電子マネーの使用は、受け取った資金の金額までしか許可されていません。そのため、機関が過度のリスクを負うこともありません。
データ保護
電子マネー機関は、顧客の個人データを保護し、一般データ保護規則 (GDPR) の要件に準拠することを義務づけられています。許可なくデータが使用または開示されないよう、管理を徹底する必要があります。
マネーロンダリング防止
電子マネー機関は、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための厳格な対策を講じることが求められています。この対策には、顧客の本人確認、取引の監視、関係当局への疑わしい活動の報告などが含まれます。
この規制は、ドイツに所在する企業のみに適用されるわけではありません。ドイツでサービスを提供しようとする国外の電子マネー機関も規制の対象となります。この要件を満たすには、BaFin にライセンス登録するか、Stripe などのライセンスパートナーと提携する必要があります。たとえば、Stripe Connect では、ドイツ企業に対して電子マネーライセンスが配布されており、すべてのコンプライアンス要件をカバーできる仕組みになっています。つまり、企業自ら電子マネーライセンスの基準を満たす必要はもうありません。
ドイツ連邦銀行が引き受ける電子マネー機関の規制業務
BaFin に加えて、ドイツ連邦銀行は、電子マネー機関に関連する法的要件に沿って、いくつかの重要な業務と責任を担っています。
監視と規制
ドイツ連邦銀行は、電子マネー機関へのライセンス付与に関与しており、BaFin の申請評価業務をサポートしています。加えて、金融機関が自己資本比率要件や流動性などの規制要件を遵守しているかの監視も行っています。
安定性確保
ドイツ連邦銀行は、電子マネー機関がもたらす可能性のあるリスクを監視することで、電子マネーセクターにおける金融安定性の確保を支援しています。この業務には、機関から提出されたデータとレポートの分析も含まれます。
監査とレポート作成
電子マネー機関は、その事業活動、財務状況、リスクポジションについて、定期的にドイツ連邦銀行に報告する義務があります。ドイツ連邦銀行は、このデータを収集・分析し、関連する統計をまとめています。
また、同行はその監視・監督機能を通じて、電子マネーサービスが健全かつ法令を遵守した方法で運営されるようにすることで、電子マネーサービスの利用者の保護に間接的に寄与しています。さらに、BaFin やその他の国内外の監督当局と緊密に連携し、電子マネーの発展と経済におけるその重要性を継続的に分析しています。
ドイツで電子マネー機関を設立する方法
電子マネー機関の設立には、入念な計画、十分な財源、厳格な法的要件の遵守が求められます。ドイツで電子マネー機関を設立する場合、そのプロセスは複雑で、法的、組織的、財務的な要件を満たすためのいくつかの手順を踏む必要があります。電子マネー機関の設立は ZAG によって規制されており、BaFin のライセンスが必要です。
これらの手順は、Stripe Connect を使用することで簡素化できます。Stripe Connect は、企業がサードパーティーに送金を振り分けできる決済プラットフォームを提供します。さまざまなビジネスモデルをサポートしているため、ユーザーは決済フローを自動化して世界中で支払いを行えるほか、税務申告などの法的要件を満たすことも可能になります。このプラットフォームは、既存のシステムと連携し、さまざまな通貨や決済手段をサポートする柔軟な API を提供します。
ビジネスモデルの構築
最初のステップは、ビジネスモデルの構築です。このステップで、計画しているサービス、ターゲット層、電子マネーシステムの仕組みを具体化します。また、電子マネーの発行方法と決済処理方法も明確にする必要があります。安定したビジネスの収益は、堅実な事業計画によってもたらされることを頭に入れておきましょう。
適格な経営者の発掘
組織の経営陣は、信頼に足り、専門的な資格を有していることが求められます。金融セクターでの業務経験があり、法的要件に関する知識とそれらを遵守するための技術的能力を持ち合わせていれば尚良いでしょう。ライセンスの取得プロセスには、株主の確認も含まれます。
法人の設立
次のステップは、有限責任会社 (GmbH) や公開有限責任会社 (AG) などの法人を設立することです。会社の登記はドイツ国内で行う必要があります。電子マネー機関の最低資本金は €350,000 であり、設立時に全額を払い込み、それを証明しなければなりません。
資産保全策の確立
電子マネー機関は、顧客の資金と資産を自社の資産とどのように分離しているかを開示する義務があります。これらの資産は、銀行や保険会社の信託口座を通じて分離することが可能です。これ以外に、マネーロンダリング防止やテロ資金供与対策に関する具体的な手続きも策定する必要があります。
電子バンキングライセンスの申請
この申請には、ビジネスモデル、内部組織、セキュリティ対策、リスク管理策などに関する詳細情報を含める必要があります。定款や資本金払込証明書などの書類も併せて提出するようにしてください。
BaFin による審査
提出した申請書は、BaFin によって審査されます。このプロセスは、完了までに数カ月かかることがあります。また審査中、申請者宛てに追加の質問が行われることもあります。審査が完了すると、電子マネー機関として運営するためのライセンスが BaFin から付与されます。
継続的なレポート作成および監督要件
ライセンスを取得すると、電子マネー機関は法令遵守状況を文書化し、BaFin にそのレポートを定期的に提出しなければなりません。また、電子マネー機関のセキュリティと安定性を確保するために、内部統制を徹底し、監査の要請があればそれに応じる義務があります。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。