ドイツにおけるマネーロンダリング法

  1. はじめに
  2. マネーロンダリングとは
    1. マネーロンダリングの仕組み
  3. マネーロンダリング法とは
  4. マネーロンダリング法の関係者
  5. マネーロンダリング法の下で企業が果たす必要のある義務
  6. 2022 年マネーロンダリング法におけるこれまでとの相違点

マネーロンダリング法は、ドイツ国内外で増加するマネーロンダリングへの対策として作られたものです。この法律は企業の保護を目的としていますが、企業の側も、この法令を遵守した仕方で事業を行うために特定の義務を果たす必要があります。この記事では、マネーロンダリングの概要とマネーロンダリング法の内容について説明しています。影響を受ける関係者についてのほか、最近の変化やそれが企業にとって意味することについても説明します。

この記事の内容

  • マネーロンダリングとは
  • マネーロンダリング法とは
  • マネーロンダリング法の関係者
  • マネーロンダリング法の下で企業が果たす必要のある義務
  • マネーロンダリング法における最新情報

マネーロンダリングとは

マネーロンダリング (略称「ML」) とは、違法な資金を合法な金融およびビジネスサイクルに流すことを表します。これにより、「汚れた資金」が汚職、窃盗、恐喝、違法賭博、薬物や武器の取引などを通して生成されます。出所や所有者が特定不能になるまで、資金はさまざまな口座や企業の間を流されます。

国連薬物犯罪事務所 (UNODC) では、毎年世界的に洗浄される資金の額を、8,000 億米ドルから 2 兆米ドルの間と推定しています。毎年およそ 1,000 億ユーロがドイツで洗浄されていると推定されています。2022 年だけでも、22,614 件のマネーロンダリングがドイツ警察により記録されました。ドイツでは、犯罪行為の全般的な減少とは対照的に、マネーロンダリングの件数が近年継続的に増加しています。

マネーロンダリングは深刻にとらえるべき経済的課題であるだけでなく、重大なセキュリティリスクでもあります。違法な活動のための資金調達の手立てを犯罪組織やテロリストに与えることになるからです。マネーロンダリングと組織犯罪に立ち向かうために、多くの国々では厳しい法的要件と監視メカニズムを導入し、当局が不審な取引を特定、調査、防止する権限を持つことができるようにしています。マネーロンダリングはドイツでも違法であり、StGB 第 261 条によると、罰金または最長 5 年の懲役刑が科せられる場合があります。

マネーロンダリングの仕組み

ドイツ連邦刑事庁では、マネーロンダリングのプロセスを 3 つの段階に分割しています。第 1 段階の「プレイスメント段階」では、信用機関への多額の資金の入金、資金送金サービスの使用、または現金での高額商品の売買により、違法な資金が合法な経済サイクルに組み込まれます。第 2 段階の「カバーアップ段階」では、複雑な取引が取り入れられ、資金の出所が隠ぺいされます。これには、さまざまな銀行口座、国、もしくは通貨の間での資金移動、不正取引の実行、またはペーパーカンパニーの使用が含まれます。隠ぺいにより、違法な資金とその出所との接点が隠されされます。第 3 段階の「インテグレーション段階」では、明らかに合法な所から資金が移動して経済サイクルに戻り、最終的に犯罪者にたどり着きます。犯罪者は、これを合法的に得た資金のように使用し、不動産やその他資産を購入できるようになるわけです。

マネーロンダリング法とは

マネーロンダリング法 (GwG - Geldwäschegesetz) とは、マネーロンダリングを当局により追跡可能な犯罪行為とするドイツ法のことです。マネーロンダリングの防止に重点を置き、マネーロンダリングをなるべく早期に検知できるよう、経済主体に加えて特定の人々の集団にも特別な注意と監視を義務付けています。EU マネーロンダリング防止指令 (AMLD) は、GwG の基盤を成しており、国内法の文言内に導入される必要があります。第 1 次 AMLD は 1991 年に発令されました。AMLD はそれ以来何度も更新され、変化する国際的なマネーロンダリング行為とそのテクニックに適応しています。AMLD と GwG の主な目的は、匿名の経済取引を阻止し、マネーロンダリングを抑制することです。また、脱税やテロリストへの資金供与の防止も目的としています。

マネーロンダリング法の関係者

GwG は、個人と特定の経済主体の両方に関係があります。個人については、GwG は主に現金での決済や取引に関係します。ドイツでは、1 万ユーロの個人控除額があり、それより高額な資金を自分の口座に送金する場合は、資金の出所を証明できる必要があります。新規顧客に対して、既に銀行は 2,500 ユーロから証明を要求できることになっています。個人の場合は、商品の購入にも 1 万ユーロの個人控除額が適用されます。例えば、1 万 2 千ユーロの車を現金で購入する場合、個人情報を提出する用意ができている必要があります。販売業者も、フォームを使用して取引の記録を書面で保管する必要があります。

マネーロンダリングを防止するために、GwG は一部の企業および個人に対して特定の要件を適用しており、それは金融分野を超える域にまで及びます。要件の一覧は第 2 条に記載されています。

金融セクターで GwG 義務のある当事者:

  • 信用機関
  • 金融サービス機関
  • 決済機関
  • 電子マネー機関
  • 決済サービスおよび電子マネー業者
  • 決済サービスまたは電子マネー分野の独立商業事業者
  • デジタルウォレットおよび仮想通貨提供業者
  • 金融企業
  • 金融および名誉投資仲介機関
  • 保険企業

金融セクター以外で GwG 義務のある当事者:

  • 商品取扱業者 (卸売業および小売業)
  • 美術商
  • 美術品販売業者
  • 不動産業者
  • 保険仲立人
  • 監査業者
  • 経理業者
  • 受託者
  • 金融投資管理企業
  • 企業のサービスプロバイダー
  • 監査業者および納税管理人
  • 弁護士
  • 法律顧問
  • 事務室法務アドバイザー
  • 弁理士
  • 公証人
  • 賭博業者および仲介者

影響を受ける企業はマネーロンダリング規制に徹底的に取り組み、購入者とのビジネス取引において準拠しなければならない義務を確認する必要があります。また、これは自身の保護をも目的としています。犯罪者はマネーロンダリングのために国際的な大企業を悪用するだけでなく、中小企業も悪用します。宝石商、時計職人、および高級品や車、娯楽家電、美術品とアンティークの販売業者など、多額の現金を使用して購入されることがよくある商品を扱う業界は、特に狙われています。

マネーロンダリング法の下で企業が果たす必要のある義務

AMLA によると、企業はマネーロンダリングを防止するための諸対策を講じる義務があります。一方で、これらの対策には効果的なリスクマネジメントが含まれており、これは事業活動の種類と規模に適している必要があります。他方、これには本人確認 (KYC) の原則に従う数々のデューデリジェンス義務が含まれます。

必要なリスクマネジメント対策:

  • 販売パートナーの綿密で徹底した適切なリスク分析の実施、文書化、および定期的な更新
  • リスク分析から導出された個人、企業、または社内セキュリティ対策の実施
  • 適切な統制メカニズムの確立
  • マネーロンダリングについての従業員への定期的な情報提供
  • マネーロンダリング責任者およびマネーロンダリング委員を任命することも可能
  • 記録と保存要件の準拠 (身分証明書はコピーを作成するか電子的に記録する必要あり)

企業のデューデリジェンス義務:

  • 契約関係のあるパートナーまたはその代理人の明確な身分証明
  • 代理関係の確認
  • ビジネス関係の目的ならびに意図されたタイプに関する情報の取得および評価
  • 資金の出所が重要な公的地位を有する者 (PEP) であるかどうかに関する明確な説明
  • ビジネス関係および取引の継続的監視
  • 違法な活動の証拠を「goAML」ソフトウェアを使用して Central Office for Financial Transaction Investigations (FIU) に報告
    • 1 万ユーロを超える現金の入金
    • 多額の現金の輸送または保管
    • 条件の悪い投資への即座の同意
    • 同じ銀行または異なる銀行での複数口座の証拠

不審な行為を報告しない企業、またはマネーロンダリング規制を無視する企業には、高額の罰金が科せられます。GwG 第 56 条によると、法的枠組みでは、多くのケースで最高 15 万ユーロの罰金が定められています。重大かつ常習的で、計画性のある違反行為は、最高 500 万ユーロ (または前年取引高の 10%) の罰金の可能性があります。さらに、責任ある監督当局および行政当局には、罰金についての最終決定をウェブサイトで公表する (犯罪者の氏名を公表するなど) 権利があります。

2022 年マネーロンダリング法におけるこれまでとの相違点

革新的な技術によってマネーロンダリングの新たな機会が開かれ、犯罪者がそれを悪用しています。法的位置付けを新たな要件に継続的に適応させていくことは重要です。これは、2020 年の第 6 次マネーロンダリング防止指令 (AMLD6) の発効により最近 EU レベルで行われたように、GwG の定期的な更新および拡大により国レベルでも行われます。最新の追加事項には、マネーロンダリングに対する刑法の闘いを改善する法が含まれており、これは当局の訴追の簡素化を意図しています。加えて、仮想通貨および対応する金融サービス企業がマネーロンダリング法の対象となります。

GwG へのもう 1 つの重要な追加事項は、2021 年 8 月 1 日に発効した、透明性登録簿・財務情報法 (TraFinG) です。これには、すべての企業、クラブ、協会、財団、その他関係者は、実質的所有者の詳細を透明性登録簿へ報告する義務があると規定されています。透明性登録簿では、企業構造、所有権、キャッシュフロー、監督について明らかにすることを目的として、実質的所有者の開示などの特定のデータを報告することが、ほとんどのドイツ企業に対して義務付けられています。これにより、EU 加盟国の登録簿を連結し、届け出義務のある全企業のデータに基づくヨーロッパ全域での訴追を簡素化することができるようになります。透明性登録簿への報告義務の無視は、連邦管理局による高額の罰金の対象となります。個人事業主、法人事業主、および個人的パートナーシップの場合は、これらの詳細を入力する義務はありません。なお、当座は特定の当局のみが透明性登録簿の全内容を確認することができ、2022 年 11 月以降、一般人が無制限にアクセスすることは許可されていません。欧州司法裁判所 (ECJ) は、正当な利益がある場合にのみ調査が許可されるとの決定を下しており、これは要請に応じて確認が可能になっています。

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