収益漏損とは、企業が、見込まれる利益を逸失することを指します。収益漏損は配管の水漏れに似ており、獲得したはずの金銭が失われていきます。未回収の請求、安すぎる価格設定、未回収のコストが原因となって発生します。EY の推定によると、企業は収益漏損によって最大 5% の利益を失い、見過ごせないレベルに達しています。
たとえば、企業が、販売した商品の一部の機能を見落として請求しそこなった場合や、提供したサービスの一部の作業時間を請求書に記載していなかった場合を考えてみてください。企業が本来獲得するはずの売上を獲得できていません。
配管工が水漏れを塞いで漏れを止めるように、企業は漏れを塞いで利益を守らなければなりません。収益漏損を防ぐには、請求プロセス、料金戦略、コスト回収の方法を注意深く見直す必要があります。収益漏損の発生場所を特定したら、断固たる措置を講じて逸失を止めなければなりません。確認しないまま放置していると、漏損が拡大して利益が流れ去ってしまうこともあります。
収益漏損を削減することで、最終的な収入を守り、財務の全体的な健全性と持続可能性を向上させることができます。ここでは、収益漏損を最小限に抑え、ひいては発生を阻止するために企業が知っておくべきことについて説明します。
この記事の内容
- 収益漏損の種類
- 収益漏損の算出方法
- 企業内に潜む収益漏損の原因を特定する方法
- 収益漏損を防止するための戦略
- 収益漏損を削減するための戦略
収益漏損の種類
管理上のミスからプロセス実行中の不備まで、獲得するはずだった利益が失われる原因はさまざまです。収益漏損には次のような種類があります。
請求での誤り
請求での誤りは、請求業務上のミスが原因で発生します。たとえば、提供したサービスや商品の請求忘れなどの見落としが挙げられます。技術的な問題によりシステムがデータを正しく取得できず、顧客への過小請求が発生することもあります。企業が提供したサービスや商品の正当な代金を得られないため、このタイプの収益漏損は最終損益に直接影響を与えます。料金体系の不備
料金体系の不備は、改訂前の料金体系モデルや料金表の誤りによって商品本来の料金より安い料金で金額を請求した場合に発生します。料金体系の不備は、システムに料金の改訂を反映していなかった場合や、季節的な料金の値上げを適用していなかった場合などに発生します。契約の不履行
契約による合意条件の適用が不完全な場合や合意条件の解釈に誤りがある場合に、収益漏損が発生することがあります。これは、一部の成果物への請求の抜けや、合意した違約金や手数料の不適用が原因となる可能性があります。時間と生産性の損失
このタイプの収益漏損は、従業員がプロジェクトに費やした時間の参入に漏れがある場合や、従業員がプロジェクトに費やした時間と比較してクライアントへの請求が過少であった場合に発生します。サービス・商品の盗難
企業のサービスや商品の不正利用や配信などを指します。たとえば、ソフトウェアのライセンスが支払われた回数分より多く利用された場合や、在庫が盗まれた場合 (商品の盗難) などがこのタイプの収益漏損に該当します。最適化が不十分な資産使用
機械、機器、さらには人的資源など、企業の資産を十分に活用できていないために利益が減少している場合を指します。
上記のいずれも、企業が認識しないまま利益を失っている可能性があります。
収益漏損の算出方法
収益漏損の算出は事件の捜査に似ています。請求すべき金額と実際に受け取った金額を比較して、それぞれを継ぎ合わせていくような作業が必要になります。まずは、ビジネス上の取引とプロセスを詳しく分析します。必要な情報を収集する方法は次のとおりです。
販売記録と請求記録の監査
すべての販売記録と請求書を調べます。販売したものと請求内容を比較して不一致を探します。販売数が 100 ユニットで請求数が 90 の場合、10 ユニットの漏れがあります。契約条件と請求の比較調査
顧客との契約を、送付した請求書と比較します。契約に従って請求すべきすべてのサービスや商品が請求書に記載されていることを確認します。時間の追跡記録と作業成果の分析
コンサルティング会社など、作業時間に応じて報酬を請求する企業の場合、請求対象となる従業員の作業時間を算入する必要があります。タイムシートを、送付した請求書と比較して、すべての請求対象時間が含まれていることを確認します。在庫管理の確認
物品を販売している場合、在庫記録と販売データを比較します。たとえば、販売量から想定される在庫数よりも実際の在庫が少ない場合など、不一致がある場合は収益漏損が発生している可能性があります。料金体系の正確性の確認
顧客に請求した料金が、最新の料金と同一であることを確認します。改訂前の安い料金で請求していた場合、その差額が収益漏損となります。
これらすべての情報を収集したら、契約、料金表、在庫に基づいて見込み収入を計算し、そこから実際に受け取った収入を差し引きます。この差額が収益漏損となります。
企業内に潜む収益漏損の原因を特定する方法
企業内に潜む収益漏損の原因を特定するには、社内で業務の調査を行って、数字の帳尻が合わない場所を確認します。ここでは、収益漏損の発生場所を見つける方法をご紹介します。
詳細なプロセスレビュー
当初の注文時から最終決済時まで、販売および業務のプロセスの各段階をすべて確認します。提供されたサービスの請求が行われていなかったり、適切な書類なしに商品の引き渡しが行われていたりなど、矛盾が発生している場所がないかを探します。データ分析
財務データを徹底的に分析して、たとえば定期的に不足が発生している商品ラインやサービスなど、問題が潜んでいる可能性があるパターンを見つけます。これにより、どこで継続的に収入の逸失が発生しているかが明らかになります。従業員のフィードバックとワークフロー
従業員から極めて重要なインサイトが得られる場合があります。チームに話を聞いて、損失の原因となり得る、繰り返し発生している問題に気付いていないかを確認します。チームメンバーのワークフローを把握して、請求手順に非効率な点や誤解がないかを確認します。顧客のフィードバック
顧客からも貴重な情報を得られる場合があります。請求で分かりにくい点や請求上の不一致について話を聞ける可能性があります。想定していた請求額と実際の金額が異なるという話を複数の顧客から聞いた場合、問題が潜んでいる可能性があります。法令遵守の確認
関連するすべての規制と税法の遵守状況を定期的に確認します。準拠できなかった場合の罰金や罰則は収益漏損を引き起こす可能性があり、多くの場合は、十分な確認を行うことでこのような状況を防ぐことができます。テクノロジー監査
テクノロジーシステムを評価して、問題の発生源となっていないことを確認します。ソフトウェアの不具合、旧式のシステム、不完全な連携によって請求ミスやデータ消失が発生し、収益漏損を引き起こす場合があります。
収集した情報を業界基準と比較して、逸脱を見つけます。これにより、収益漏損の原因となり得るシステム上の問題を明らかにできます。
収益漏損の防止戦略
収益漏損を防止するには、細部にまで細心の注意を払うとともに、戦略的に取り組むことが必要です。そのために採用すべき戦略をいくつかご紹介します。
高度なアナリティクス
高度アナリティクスや機械学習モデルを展開することで、料金体系、請求、利用パターンの異常をリアルタイムで検出できます。これらのシステムは過去のデータから学習を行うことで、人間の目では発見できない収益漏損が潜在している場所を特定し、異常の発生時にアラートで通知することができます。動的な料金体系モデル
市場の状況、顧客の要望、在庫レベルの変化にリアルタイムで対応する料金体系モデルを構築します。料金設定を最適化するアルゴリズムを使用することで、最新の市場状況に対応していない、旧式の料金戦略に起因する損失を防止できます。フォレンジック監査プログラム
従来の財務審査よりも厳格なフォレンジック監査を導入します。フォレンジック監査では、収益漏損を引き起こす可能性がある隠れた矛盾、不正、欠陥を検出できます。フォレンジック監査担当者は、捜査官のように財務状況を調査するトレーニングを受けており、予測と異なる数値だけではなく、そのような相違を引き起こした行動や動機も調査します。契約管理と収益管理の連携
契約管理と収益認識を直接結合させる連携しシステムを使用します。これにより、成果物、マイルストーン、ペナルティのすべてが請求サイクルと収益レポート に自動的に考慮され、人為的ミスを減らすことができます。業務の予測分析
業務の予測分析を使用して、プロジェクト管理、リソースの配分、キャパシティプランニングに関連するリスクを予測して緩和します。ボトルネックや能率に問題がある部分を予測することで、戦略を調整して、付随する収益漏損を防止できます。ゼロベース予算 (ZBB)
コスト管理に ZBB アプローチを採用します。ゼロベース予算では、新しい期間ごとにすべての経費の正当性を説できなければなりません。これにより、現状への満足をなくし、すべての支出に対する定期的な見直しを実施することで、非効率的な業務や肥大化した業務など、収益漏損の間接的な原因を明らかにできます。階層型アクセス制御システム
収益漏損を引き起こす可能性がある不正な改ざんやデータ漏洩を防ぐ手段の 1 つとして、機密性の高い請求および料金管理システムに対する階層型アクセス制御があります。必要な取り扱い許可を得た従業員だけが変更を行うことができ、すべての変更は記録され監査対象となります。従業員インセンティブプログラムのカスタマイズ
収益保護の目標に沿った従業員インセンティブを設けます。収益漏損カ所を見つけた従業員やプロセスを改善した従業員に対する報奨制度を設けます。これにより、従業員が企業の収入を積極的に保護するように奨励します。クライアントサクセスの追跡
クライアントサクセスプログラムを設けて、クライアントの満足度やサービス提供の成功度を定期的に評価します。このプログラムにより、請求なしの過剰なサービスを提供している状況や、クライアントのニーズに対応するために付加価値サービスを導入できる状況を明らかにできます。
これらの戦略はどれも、大まかな監視と細部の制御を組み合わせており、テクノロジーと人間の専門知識を活用して、気付かないうちに収益が失われることを防ぎます。企業はこれらの戦略を使用して、収益の損失を引き起こす原因となりうる異常の検出、分析、対応を行う体制を整備する必要があります。
収益漏損を削減するための戦略
収益漏損を検出した場合、その削減には多角的な取り組みが必要です。ここでは、プロセスの改善と失った収入の回復を目標にした戦略をご紹介します。
根本原因分析
措置を講じる前に、収益漏損の発生原因を把握する必要があります。企業内のデータを使用して根本原因分析を実施し、問題のあるプロセスや領域を特定します。根本原因分析では、取引ログの調査、従業員への聞き取り、システムアーキテクチャの確認などを行います。プロセスの改善
ワークフローの設計変更、重要段階での監視の強化、製品やサービスの提供の見直しなどを行って、プロセス内の弱点を構築しなおします。収益漏損の発生部分を解決することが目標です。契約の改訂と再交渉
契約が原因で収益漏損が発生している場合、契約の改訂が必要になる場合があります。これには、クライアントやサプライヤーと条件の再交渉が必要になる場合も、現行の条件の適切な適用と執行を確保だけで済む場合もあります。法令遵守対策の強化
法令遵守を厳格化して、不遵守によるコストの発生を回避します。このためには、従業員に対するトレーニングの改良への投資、法令遵守に関するポリシーの改訂、内部監査の厳格化などが考えられます。技術インフラの強化
テクノロジーをアップグレードして、請求、サービス提供、在庫の追跡および管理を向上させます。新システムを導入することで、データの精度を高めたり、人為的ミスを減らしたりすることができます。債権回収への取り組み
未回収債権が原因で収益漏損が発生している場合は、回収プロセスの改善が必要になる可能性があります。これには、支払い遅延時のフォローアップの強化や、債権回収サービスの利用などが考えられます。収益漏損の業績評価指標
収益漏損に関する重要業績評価指標 (KPI) を設定します。こうした KPI により、長期にわたる収益漏損の防止と削減に向けた企業の取り組みの成否を継続的に可視化できます。従業員のトレーニングと責任
新しいプロセスとテクノロジーに関して従業員へのトレーニングを行い、従業員に遵守の責任を持たせます。収益漏損がもたらす影響を従業員が認識し、収益漏損を防ぐ役割を担っているという自覚を持たせることで、従業員が防御の第一線として機能できるようになります。顧客教育
顧客の行動が収入の逸失をもたらすことがあります。支払い遅延、商品の不適切な使用などの行動が収益漏損の原因となり得ることについて顧客に周知し、顧客と協力して状況の改善を図ります。売上回収計画
法令や契約の制限の範囲内で、失われた収入を回復するための計画を策定します。この計画には、提供されたものの請求が適切に行われなかったサービスや商品の未払い分の請求などが含まれます。
これらの戦略を実施するには、企業のビジネスモデル全体を調べ、改善すべき部分を特定する必要があります。これは継続的な改善のサイクルであり、常に収入システムの改良に新たな方法がないかを模索し続けます。
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