請求と支払いの構成をわざわざ複雑にしようとして構築する財務部門はほとんどありません。そうなってしまっただけです。サブスクリプションツールが請求プラットフォームに関連付けられた場合、支払いの処理には異種の 2 つのゲートウェイが使用されます。一方のシステムでは全体像の把握ができなくなり、スプレッドシートでレポートをまとめることになります。この種の構成は、しばらくの間は機能しますが、永続的に機能できるわけではありません。
請求と支払いを統合することで、収益の管理方法を構造から変革できます。これにより、担当部門は高精度で効率的かつシンプルなプロセスを実現できます。この記事では、統合の概要、統合によって解決されるビジネス上の課題について解説します。
この記事の内容
- 請求と支払の統合を行う意義
- 請求と支払いのインフラの分断もたらす問題
- 統合システムによる財務部門のワークフローの改善
請求と支払いを行う意義
請求と支払いを統合することで、1 つの連続した連結ワークフローとして扱うことができます。
実務的には、請求ロジック (サブスクリプション、請求書、従量課金、支払い条件など) と決済インフラ (カード処理、口座振替、デジタルウォレットなど) が統合され、以下のようになります。
請求と支払いのデータが同じデータソースから取得されます。
支払いステータスは、請求システム内でリアルタイムの更新が行われます。
支払いが失敗した場合は、再試行、督促フロー、または顧客通知が自動的に開始されます。
財務、製品、サポートの部門のすべてが、信頼性の高い同一の情報源を参照できます。
このような統一的な構成によって、高精度で効率的かつ回復力のあるシステムが構築されます。顧客が購入を行うと、システムが価格を計算し、税金や割引を適用して、決済手段を処理します。支払いはその後、成功した支払いとして、かつ請求義務を履行したものとして、消し込みと記録が自動的に行われます。顧客には領収書が届けられ、事業者に表示される収益レポートは更新されています。
請求と支払いが分断している場合、顧客が支払ったことを確認するなどの単純なことでさえ、異種システム間での照合確認が必要になる場合があります。統合システムは、取引のライフサイクル全体 (支払いが作成された瞬間から口座に入金される瞬間まで) を処理するため、このような途切れを解消できます。
これは、顧客にも影響します。統合システムでは、請求書メール、決済用リンク、取引確認の一貫性を保持できます。顧客は支払いをワンクリックで済ませ、サポートに問い合わせることなく請求先情報を更新し、支払いが受領されたことを確信できます。
請求と支払いのインフラの分断がもたらす問題
請求システムと決済システムが分断していると、不要な作業が発生し、収益シグナルが不明瞭になり、担当部門が敏速かつ確実に対応することが難しくなります。請求と支払いが別々のシステムで処理されると、隠れたコストやデータのギャップが発生し、担当者と顧客に不要な負担がかかります。実務面ではこれらの問題がどのように現れるかを次に紹介します。
ミスの余地が増える
分断していると、連携を想定して構築されていないツール間のギャップを埋めなくてはならなくなります。顧客データは、サブスクリプションシステム、請求プラットフォーム、決済代行業者など、複数の場所のそれぞれに入力されることになります。このため、不整合が生じます。請求システムでは支払いの入金時期を認識できないため、手動での記録照合が必要になります。財務部門では、支払い済みと未払いの顧客を確認する際に、複数のシステムとスプレッドシートで取引を相互参照しなければならなくなります。
アカウントへのクレジットの適用やサブスクリプションの調整などの日常的な作業でも、複数のシステム間での複製を手作業で行わなければならないとなると、複雑な作業になりかねません。また、システムの細分化が進めば進むほど、プロセスは不安定になります。小さなミス (いずれかのシステムで顧客の請求ステータスを更新しそこなうなど) が、連鎖的に通知の遅れ、二重請求、または作成されるレポートの誤りなどを引き起こす可能性があります。
コストの増加
システムが分断していると、運用コストが高くつきます。請求ツール、ペイメントゲートウェイ、さらに、たいていはシステムをまとめて管理するためのミドルウェアに対しても、それぞれにかかるコストを個別に支払うことになります。社内では、壊れたシステムへのパッチ適用、バージョン間の競合の管理、システムの動作が変わった際の設定の更新など、これらの接続の保守に時間をとられます。
また、プロセスの複雑化もコストを増やします。新入社員のトレーニングに時間がかかり、社内のナレッジの文書化が困難になるほか、小さな変更 (新しい決済手段の導入や請求ロジックの更新など) であっても、言語が異なるシステム間の調整を慎重に進めなければなりません。その結果、継続的な保守の負担が生じ、スケーリングが不十分になり、優先度の高い作業に目が向かなくなります。
システム間のギャップ
アプリケーションプログラミングインターフェイス (API) やミドルウェアがあっても、システムが分断していると構造的なギャップが生じます。これにより、次のような問題が発生する可能性があります。
顧客がプランを更新しても、その更新データが請求システムに伝わらないため、請求金額に誤りが生じる。
カードが拒否されても、決済代行業者が請求プラットフォームに通知できないため、顧客にも知らされない。
サブスクリプションが請求システムでキャンセルされているにもかかわらず、ペイメントゲートウェイが顧客への請求を続ける。
これらは、システムが緊密に統合されていない場合に生じる日常的な食い違いです。さらには、売上や顧客維持などが犠牲になって跳ね返る傾向もあります。
顧客体験における一貫性が失われる
顧客に内部システムまでは見えませんが、システム間に境界線があることに気付かれます。請求書が送信されるメールドメインと決済用リンクの送信元のドメインが一致していない場合があります。支払いが完了しても、請求システムに更新情報が届いていないために、後から顧客にリマインドメールが届く場合があります。サポート部門がプロセスの両端を完全には見渡せないことがあるため、請求の問題を解決するには、システム間を行き来したり、財務部門にエスカレートしたりしなければならない場合があります。
コアとなる商品が優れていても、請求と決済のインフラが分断していると、顧客体験はぎこちないものになり、遅延が発生し、連携が取れていないと感じさせる可能性があります。
可視性の不足
請求と支払いがサイロ化されている場合、面倒な作業を行わないと、売上の全体像を把握できなくなります。売上や顧客の支払いに関する問い合わせには、複数のシステムからデータを取得しなければならなくなります。財務部門は、帳簿を締めるためだけに、請求書と支払いの記録の不一致の照合に何時間も費やすことになります。必要なデータポイントが、複数のシステムや複数のスキーマに存在するため、業務指標 (チャーンレート、平均支払い遅延率、督促成功率など) の抽出が難しくなります。
これに基づいてダッシュボードを構築できたとしても、多くの場合はインサイトの取得が遅れたり、概要的なものであったりします。
現金回収に時間がかかり、漏れが生じやすい
またシステムが分断していると、売上回収の速度が下がります。請求システムが支払いの自動再試行を開始できない場合は、支払いの失敗が放置されます。リマインドメールや領収書が支払い結果に関連付けられていない場合、顧客は支払いの失敗に気付かないことになります。請求システムで保存済みの決済手段への自動請求が行われない場合は、担当部門が手作業で支払いを追跡することになります。
これらすべてによって遅延が発生し、請求と支払いのステータスの存在場所が分離している場合は、追跡と解決が難しくなります。時間が経つにつれて、わずかな遅延でも、キャッシュフローが予測不能になる可能性があります。
法令遵守にかかわるリスクの拡大
請求と決済のシステムにツールを追加するたびに、機密データの処理に誤りが生じやすくなります。カードの詳細情報が複数のシステムを通過し、照合のために請求書と支払いのデータがエクスポートされてから再アップロードされることがあるため、データ漏洩のリスクが拡大します。特定のプラットフォームのみで顧客の支払い情報を保護するセキュリティ基準が設定されている場合、全体的なセキュリティのレベルは最も脆弱な部分のレベルまで下がります。また、システムの分断によって、法令遵守の証明、管理の徹底も困難になり、監査時に確信を持って対応することができなくなります。
統合システムによる財務部門のワークフローの改善
1 つのシステムで請求と支払いに対応できるようになると、財務部門はデータを追跡作業の必要がなくなり、そのシステムに基づいて作業を開始できます。スプレッドシートをつなぎ合わせたり、プラットフォーム間で照合したりする必要がなくなり、煩雑な作業をなくし、エラーを最小限に抑え、キャッシュフローをリアルタイムで把握できます。
以下で、実際にどのようなものなのかを説明します。
手作業が不要になりリアルタイムで照合
統合システムでは、請求書、サブスクリプション、支払いのすべてが同じ場所に存在します。支払いが入金されると、適正な請求書と自動的に同期します。サブスクリプションが更新されると、顧客への請求、取引の記録、支払い済みとしてのマークがシステムで行われます。手動での照合は必要ありません。
財務部門には以下の効果があります。
支払いと請求書の対応関係を追跡する必要がなくなる
月末の消し込み遅延が減少する
リアルタイムで更新される、信頼できる唯一の情報源が得られる
自動化による反復作業の解消
統合システムは、財務部門の手作業を必要とするタスクを自動化します。請求書の生成と送信は、事前設定されたルールに基づいて自動化されます。サブスクリプションは、スケジュールに従って正しい金額で更新され、請求されます。支払いが失敗した場合は、人手を介することなく再試行や督促のワークフローが開始されます。
Stripe Payments や Stripe Billing などの自動化されたツールを使用してバックグラウンドで処理できるため、レポートを読んで期限超過のアカウントを見つけたり、手作業で支払いを追跡したりする必要がなくなります。一例を挙げると、Figma は決済処理に Stripe を使用することで、100 億ドル規模の業務を 5 人足らずの財務チームでこなしています。
処理のスピードアップと明確な帳簿類
支払いデータと請求データが最初から同期されているため、財務部門が各情報源からのデータをそろえたり、不一致の解決に時間を浪費したりすることなく、直接、帳簿の締め作業を処理できます。作業を開始するときには、請求額、支払い済み額、未収額がすでに把握されているのです。一部のプラットフォームでは、会計基準に従って収益認識が自動化されるため、監査に対応できる帳簿が得られます。
現金と回収に関するリアルタイムのインサイト
統合システムでは、受領する現金額、その送金元、未収金の内容を即座に把握できます。
正確かつ最新の売上債権回転日数 (DSO) 指標が得られます。
何らかの遅れが発生するとすぐに、回収ワークフローを開始できます。
支払いが遅れがちな顧客や、解約が最も多い商品ラインなどのパターンを簡単に特定できます。
こうした情報を活用することで、財務部門は支払いの追跡作業から積極的な現金管理へと移行できます。
エラーと作業の引き継ぎの減少
手動プロセスは自動プロセスよりも時間がかかり、多くの場合は精度も低くなります。手作業で請求から支払いへ、または支払いから勘定元帳へデータをコピーしなければならない場合は、データ入力エラーが発生しやすくなります。
統合システムなら、以下の実現が可能になります。
請求ルールによって、税金、割引、比例配分の適切なロジックが自動的に適用されます
支払いが確定されると、顧客レコードが即座に更新されます
返金、調整、クレジットのフローが明確になります
引き継ぎ作業が減ることで、ミスやサポートチケットも少なくなります。
機能横断型サポートが容易
すべてが 1 カ所にまとめられるため、他のチームが必要に応じて介入しやすくなります。カスタマーサポートチームは、財務部門にエスカレーションすることなく、支払い履歴や請求書のステータスを確認できます。営業チームは、変更を提案する前に顧客の請求状況を把握できます。収益業務では、複数のシステム接続を変更することなく、料金設定を実験できます。
このように安全性と信頼性のレベルが高いため、企業の他の部門からも財務データにアクセスしやすくなります。
拡張性
顧客、決済手段、価格モデルが増えても、統合システムなら、事業の成長に合わせてプロセスを複雑にすることなく拡張できます。システムをユーザーの成長に合わせて拡張できるため、請求プロセスをゼロから再構築することなく、新しい商品をリリースしたり、新しい地域に進出したりできます。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。