近年、人々の決済手段は急速な変化を遂げています。顧客の多くはスワイプ式のカード支払いをやめ、タップ決済やスキャン決済に切り替えており、企業も近距離無線通信 (NFC) や QR コードの受け入れを迫られています。NFC は即時型の決済手段で、非接触型カードやデジタルウォレットに組み込まれている一方、QR コードは柔軟かつ安価な決済手段で、コードを表示できる場所ならどこでも機能する特長を持ちます。どちらにも強みがあり、賢明な企業はこれらの決済手段を適材適所に活用する方法を日々見出しています。
以下では、NFC 決済と QR コード決済の概要、両者の違い、企業にとってどちらが最良の選択となるかを判断する方法について解説します。
本記事の内容
- NFC 決済の概要と仕組み
- QR コード決済の概要と仕組み
- NFC 決済の長所と短所
- QR コード決済の長所と短所
- 企業ごとに適した決済手段
- NFC 決済と QR コード決済の連携に関する Stripe のサポート
NFC 決済の概要と仕組み
NFC は、タッチ決済取引の基盤ともなる技術です。NFC により、スマートフォン、スマートウォッチ、または非接触型カードが決済端末と通信できるようになります。顧客がスマートフォンまたはカードをタップすると、無線周波が支払い情報を端末に送信し、端末はオーソリのために決済代行業者と通信します。全体の取引は数秒以内に完了します。Apple Pay、Google Pay、または非接触型クレジットカードを使用したことがある場合、すでに NFC を使用していることになります。
NFC 決済は、現在多くの地域で標準の決済手段となっています。たとえば、2024 年 3 月時点でイギリスで流通しているカードの 93%は非接触型カードでした。これまで NFC 決済を受け付けるには非接触型決済端末が必要でしたが、Apple のタッチ決済 (iPhone で NFC 決済を直接受け付け可能) をはじめとする新しいソリューションが台頭してきたことにより、ハードウェアの購入も不要になってきています。
QR コード決済の概要と仕組み
QR コード決済では、顧客はスマートフォンで白黒正方形のバーコードをスキャンして支払いを行います。このバーコードは、印刷したり、画面に表示したり、商品に貼り付けたりすることもできます。通常、コードによって顧客が支払いページに誘導され、そこでデジタルウォレットまたはバンキングアプリを介して取引が承認されます。
QR コードには 2 つのタイプがあります。
静的 QR コード:これらはパターンが変更されないため、一般的な支払いに最適です。たとえば、フードトラックでは、1 つのコードを表示してすべての取引に対応していたりします。
動的 QR コード:こちらは正確な金額と注文情報をエンコードし、取引ごとにパターンを変更しています。動的 QR コードはリアルタイムで機能するため、静的 QR コードとは異なり、アクティブなインターネット環境が必要です。
QR コード決済の受け付けには、特別なハードウェアは必要ありません。必要なのは QR コードだけです。企業は、決済プロバイダーを通じて QR コードを生成・表示し、顧客はそれをスキャンして支払いを完了します。QR コードは、容易にキャッシュレス決済を導入できる方法であるため、ポップアップストア、小売店、またはハードウェアをアップグレードせずに決済オプションを追加したい企業にとって都合の良い決済手段です。
新型コロナウィルスのパンデミックにより、タッチレスソリューションの需要が高まったため、QR コード決済の世界的な受け入れが加速しました。2024 年には、QR コード決済の市場規模が世界全体で約 147 億 4,000 万ドルに達しており、内訳ではアジア太平洋地域での受け入れが特に進んでいる一方、今後数年間で北米が最も急速に成長する市場になると予想されています。
NFC 決済の長所と短所
NFC 決済は高速かつ安全であり、人々に広く受け入れられていますが、欠点もいくつかあります。この項目では、NFC 決済の長所と短所をいくつかご紹介します。
NFC 決済の利点には次のようなものがあります。
高速:NFC は最速の決済手段のひとつであり、タップするだけで支払いが完了します。そのため、長い購入列も発生せず、顧客の決済体験の向上につながります。
強力なセキュリティ:NFC 取引では暗号化とトークン化が使用され、機密性の高いカード情報は送信されません。Apple Pay や Google Pay などのデジタルウォレットの場合、生体認証でセキュリティ層を追加し、従来の磁気ストライプカードよりも不正利用を防止することが可能です。
顧客の利便性:顧客は、スマートフォン、キーフォブ、NFC リング、NFC 対応カード、スマートウォッチで支払いを行えます。
非接触オプション: NFC 取引では、顧客がカードを渡したり、決済端末に触れたりする必要がないため、他の多くの決済手段よりも衛生的です。NFC はパンデミック中に人気が高まり、多くの買い物客に好まれ続けています。
また企業は、NFC 決済に以下のような制限があることを気に留めておく必要があります。
ハードウェアの購入:NFC は非接触型決済端末を必要とします。一部の旧型 POS システムではアップグレードが必要な場合があり、中小企業にとってハードルとなる可能性があります。
限定的な利用:多くの顧客が NFC 対応のカードやスマートフォンを持っていますが、それでもすべての人が所有しているわけではありません。従来のチップや PIN を使用した取引を好む顧客もいれば、スマートフォンにデジタルウォレットを設定していない顧客もいます。NFC は、他の支払いオプションと一緒に提供することが最も効果的です。
取引限度額:一部の地域ではタップ決済の制限が課されており、限度額を超える支払いには PIN の入力が必要です。デジタルウォレットはこれらの制限が設けられていないことが多々ありますが、そもそもすべての顧客が使用しているわけではありません。
技術的な不具合:NFC は端末の近くで使用する必要があります。リーダーが正常に動作していない場合、顧客はスマートフォンやカードの位置を調整する必要があり、それが原因で処理が遅れたりします。また、他の電子機器や金属面の信号干渉によって問題が生じるケースもあります。
QR コード決済の長所と短所
QR コードは費用対効果が高く、柔軟性があり、セットアップも簡単なため、多くの企業にとって魅力的な決済手段となっています。しかし、他のテクノロジーと同様に、企業が考慮すべきトレードオフもいくつかあります。
QR コード決済の利点として、まずは以下の要素が挙げられます。
低コスト:QR コードは、ハードウェアへの投資をほぼ必要としません。企業は特別な端末を購入する必要はありません。必要なのは、顧客がスキャンできる印刷されたコードまたはデジタルコードだけです。そのため、QR コード決済は、中小企業、ポップアップストア、個人販売業者にとって最適な決済手段となります。
利用のしやすさ:QR コード決済は、モバイル決済アプリ以外に追加のチップやカード、あるいは銀行の要件を必要としません。そのため、クレジットカードの普及率が低くても、モバイル決済が一般に広まっているような地域ではうってつけの決済手段です。
柔軟性:QR コードは、対面支払い (店舗や露店での QR コードスキャン)、オンラインからオフラインへの取引 (画面上のコードをスキャンして電話で決済)、セルフレジ (顧客がレストランの請求書のコードをスキャンして直接決済) など、複数の環境で機能します。
容易な導入:QR コードを動的に生成し、POS システム、注文追跡、在庫管理とリンクさせることが可能です。たとえば、カフェでは、各テーブルの請求書に一意の QR コードを割り当てることができます。コードがスキャンされて支払われると、システムは自動的にその請求書を決済済みとしてマークします。
非接触利用:QR コードを使用すれば、顧客は端末に触れたり、カードを渡したりすることなく支払いを完了できます。顧客は自分のデバイスのみを操作するため、衛生的に、自分のペースで支払いを行えます。
QR コードはすべてのシナリオで機能するわけではありません。QR コード取引を完了するには、顧客のスマートフォン、決済アプリまたはバンキングアプリ、そしてインターネット環境が必要です。スマートフォンがない場合、バッテリーが切れている場合、または受信状態が悪い場合は、支払いを行えません。
QR コード決済で注意すべき考慮事項には以下のようなものがあります。
決済の遅延:QR コード決済は、単純なタップ決済よりも多くの手順を要します。この手間により、食料品店などの大量の顧客を抱えるビジネスでは、NFC 決済と比較して長蛇の購入列を形成する可能性があります。
セキュリティリスク:QR コードそのものにセキュリティ対策は施されていません。取引を処理するアプリまたはプラットフォームがセキュリティ処理を担当します。詐欺師は、本物の QR コードを不正な QR コードとすり替えることで、仕組みを悪用しています。たとえば、レストランの実際のコードの上に偽の QR コードステッカーを貼ると、支払いが不正行為者のアカウントにリダイレクトされる可能性があります。そのため、静的 QR コードを使用する事業者は、コードが改ざんされていないことを定期的に確認する必要があります。各取引に固有の動的 QR コードであれば安全に決済できますが、デジタル POS システムの導入が必要です。
顧客の利用状況:誰もが QR コード決済に慣れているわけではありません。たとえば、飲食店では、テーブルでの QR コード決済の代わりに、紙小切手での支払いを望む人もいます。明示的な案内や従業員による説明は役立ちますが、QR コードが快適なオプションになるまでに、企業が顧客を教育しなければならない場合もあります。
企業ごとに適した決済手段
ビジネスの種類が異なれば、決済体験に対するニーズも異なります。たとえば、大企業 (チェーン店、大型店など) であれば、高度な POS システム、ロイヤルティプログラム、グローバルなクレジットカードネットワークを採用しているため、NFC を好む傾向があります。一方、中小企業や新興企業の多くは、導入にほとんど費用がかからない QR コードを最初に取り入れています。
この項目では、業種別に NFC 決済、QR コード決済、またはその両方のどれが適しているかを詳しく見ていきます。
小売店 / スーパーマーケット
レジカウンターに案仕手した顧客の流れがある場合は、NFC が最適です。ただし、QR コードも特定のユースケースで補助的に機能します。最新の POS システムの大半はすでに NFC をサポートしているため、クレジットカードを受け付けている企業は簡単にアップグレードすることができます。大規模なビジネスはスピードを重要視しており、タッチ決済が QR コードスキャンよりも早く決済できる点は重宝されます。
レストラン / カフェ
NFC 決済であれば、ファストフード店やコーヒーショップで作られる列もスムーズに進みます。一方で QR コードは、顧客がテーブルで簡単に決済を完了できるため、着席式のレストランやバーにはうってつけです。従業員によるカード処理の必要もなく、顧客は請求書を分割したり、チップを渡したり、決済したりすることができます。ただし、カードでの支払いを好む顧客もいるため、両方のオプションを提供することをお勧めします。
E コマース / オンラインビジネス
NFC 決済は端末に直に接触させる必要があるため、オンラインストアでは利用できません。一方、QR コードはオンラインとオフラインの両方で接続できる性質を持つため、顧客はウェブサイトで QR コードをスキャンして、決済画面に直接移動できます。一部の小売業者は、購入後の支払いを容易にするために、請求書や領収書に QR コードを埋め込んでいます。また、オンラインで販売を行っている場合は、QR コードを使用してオフラインの買い物客をオンライン決済に結び付けることができます。
サービス業 / フリーランス
NFC 決済は、モバイル POS リーダーまたは NFC 互換のスマートフォン (タッチ決済機能を搭載した iPhone など) がある場合に最適ですが、シンプルで軽技術なソリューションが必要な場合は QR コードが有効です。QR コードを使用すれば、店舗外での請求書の送信、決済ページへのリンク招待、決済の受け付けも可能になります。
イベント / フェスティバル / ポップアップストア
QR コードは低コストかつ容易に導入でき、コードを看板などに印刷するだけで済みます。ファーマーズマーケット、フードトラック、グッズブースでは、Stripe などの決済プロバイダーに関連付けられた QR コードがよく利用されています。しかし、顧客が多いイベントでは、決済ページをスキャンして読み込むよりもタップ決済の方がはるかに早く完了するため、NFC の方が利用メリットが大きいといえます。これらのタイプのビジネスは、可能であればアプリ決済を希望する顧客向けの QR コードと、購入列の解消に役立つカードタップ式の NFC を同時に提供することをお勧めします 。
NFC 決済と QR コード決済の連携に関する Stripe のサポート
新しい支払いオプションを追加するのは複雑に思えるかもしれませんが、Stripe を利用すれば、ひとつのシステムで NFC 決済と QR コード決済に簡単にサポートできます。企業は Stripe アプリを利用して、スマートフォンから両方の決済手段を受け付けられるようになります。Stripe は支払いの照合を容易にするために、同じ Stripe アカウント内のすべての取引を収集し、PCI 準拠、暗号化、不正利用検出 (Stripe Radar を使用した場合) を自動で処理しています。
以下で、それぞれの決済手段が Stripe でどのように機能するかを詳しくご紹介します。
Stripe 端末を用いた NFC 決済
Stripe では、カードやデジタルウォレットでのタップ決済をサポートする Stripe Reader M2 などの非接触型カードリーダーをご用意しています。リーダーが必要ない場合は、Stripe Terminal SDK を使用して iPhone のタッチ決済を有効にすると、モバイルデバイスを介して直接 NFC 決済を受け付けられるようになります。NFC 取引はすべて、暗号化、トークン化、コンプライアンス処理が施された Stripe の処理システムを経由します。
タッチ決済による迅速な取引を望む小売業者、対面ビジネス、モバイルビジネスにとって、これらのサービスは貴重な決済オプションとなります。
Stripe Payment Links を使用した QR コード決済
企業は Stripe を利用して、ワンクリックで決済用リンクを QR コードに変換することが可能になります。固定価格の商品、請求書、または寄付用の QR コードを生成し、画面上、看板、領収書など、どこにでも表示できます。コードをスキャンした顧客は、カード、デジタルウォレット、または Stripe がサポートするその他の方法で支払うことが可能です。決済用リンクに接続された QR コードは、企業が無効にしない限り、期限切れになることはありません。
これらは、飲食店 (テーブルで支払いを希望する顧客向け)、イベントベンダー、サービスプロバイダー、あるいは追加のハードウェアなしで支払いを簡単に受け付ける方法を模索している企業にうってつけの支払いオプションです。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。