新しい市場に進出するということは、難しい決断を下すことを意味します。今、狙うべきはどの国でしょう?先行投資にいくらかけましょう?現地でチームを編成しますか、それともパートナーを探しますか?また参入後、現地顧客の心をどれだけ惹きつければビジネスを成功へと導けるでしょうか?
最強のグローバル戦略とは、各市場が構造面、文化面、運用面で何を求めているかを理解することが肝要であり、それを中心に参入計画を策定することが企業に求められています。以下では、さまざまな市場参入モデルの違い、その選択方法、各地域への適応にあたり重視すべき点について説明します。
この記事の内容
- 主なグローバル市場参入モデル
- 自社に適した参入戦略の選び方
- 市場参入の成功において重要な各地域で適応させるべき要素
主なグローバル市場参入モデル
新しい市場に進出するにあたり、どれだけ速く動けるか、どれだけ投資し、どれだけブランドを目立たせ、どれだけ統制権を維持できるかは、参入モデルによって決まります。ここでは、企業が使用する主なモデルの概要と、それぞれの実践的な長所 (または制限) について説明します。
輸出
本拠地からターゲット市場に直接販売するか、現地のディストリビューターや再販業者を通じて販売します。商品に対する大幅なカスタマイズ、カスタマーサポート、規制のクリアランスを必要としない市場に最適です。またさらなる投資の前に、あらかじめテストして需要を測定する場合にも役立ちます。
メリット: スピーディーで低コストです。新しい国で法的な拠点を持つ必要はなく、生産の統制権を保持できます。
デメリット: 商品の配送をほとんど統制できず、貴社ブランドを優先しないかもしれない仲介業者に依存することになります。関税、送料、または輸入制限により、利益率が低下する可能性があります。
ライセンス供与
印税と引き換えに、ブランド名、特許プロセス、独自の技術といった知的財産 (IP) を生産、販売、使用する権利を、地元企業に付与します。これは、知的財産を保護できる強力な法制度がある市場で最も効果的です。また、知的財産に地域の商業的価値はあるが、事業を直接実行したくない場合にも役立ちます。
メリット: 資本をそれほど必要としません。ライセンシーが運営、法令遵守、現地での流通を担当し、貴社はライセンシーのビジネスから経常収益を得ます。
デメリット: 多くの統制権が貴社の手を離れます。ライセンシーが手を抜いたり、成果が不十分であったりすると、ブランドの評判が損なわれる可能性があります。また、貴社の知的財産が彼らのビジネスの鍵になるケースでは、後に彼らと競合するという帰結になるかもしれません。
フランチャイズ
貴社のモデルとシステムを使用して、地域の事業者が貴社のブランドでビジネスを運営できるようにします。これは接客業、小売業、外食産業で一般的であり、顧客体験が標準化され、業務の再現性があるビジネスに向いています。マクドナルドは典型的な例であり、多くのフィットネスチェーン、コワーキングブランド、サービスプロバイダーも同様です。フランチャイズが成功するのは、強力なシステムを構築し、パートナーが貴社と同様に貴社ブランドを大切にする場合であるといえます。
メリット: 自分ですべてを所有することなく、グローバルに拡大するための最速の方法の 1 つです。フランチャイジーは自己資本を投資するため、財務リスクが軽減されます。
デメリット: 一貫性が大きな課題になる場合があります。マニュアルを作成し、トレーニングを実行することはできますが、国境を越えて施行することは困難です。顧客体験が人的サービスにより左右される度合が高いほど、ばらつきが大きくなる可能性があります。
合弁事業
現地パートナーと共同所有企業を設立します。それぞれが資本、市場知識、人間関係などのリソースを拠出します。複雑で規制の厳しい、または不透明な市場に最適です。現地パートナーが、政府、規制当局、サプライチェーン、顧客と折衝することが可能です。パートナーシップを適切に行えば、学習と市場参入が加速します。
メリット: リスクを共有し、現地のインサイトを即座に得られる足がかりを得られます。
デメリット: 合弁事業には高レベルの信頼が必要です。目標、ガバナンス、再投資の優先順位について合意しなければなりません。誰が何を管理するかをめぐって対立が発生し、関係が悪化することがあります。
買収
現地市場でビジネスを買収すると、すぐに完全な支配権を得られます。このモデルは、支配権、ブランドの完全性、データセキュリティが重要となる優先度の高い市場の場合や、現地の知識が十分にあり自信を持って事業を運営できる場合に最適です。これを成功させるには、リソース、コミットメント、現地での成長に対する、長期的な視点が必要です。
メリット: 利益を守り、戦略を設定し、顧客体験を直接管理します。長期的なプレゼンスを構築し、グローバルに事業を展開するための簡単な方法です。
デメリット: 高額になります。リスクと間接費は 100% 貴社が負担します。法令遵守、人員配置、物流、サポートなどの責任は貴社が負います。市場を読み間違えた場合に、負担を分担するパートナーがいません。
グリーンフィールド投資
施設、チーム、インフラ、サプライチェーンなど、すべてをゼロから構築します。このモデルは、現地の買収オプションが限られている場合や、物理的な拠点 (製造や研究開発など) が必要な場合に向いています。自動車メーカーは、輸入関税を回避し、現地の優遇措置を受けるために、新興市場でこの手法を用いることがよくあります。
メリット: 必要なものを正確に設計し、現地の市場とグローバルスタンダードに合わせて調整できます。統合の問題やレガシーの負担を回避できます。
デメリット: グリーンフィールドは、市場参入のために最も時間と資本を要する方法です。忍耐力、現地の専門知識、買収や提携ではなくこの方式を選ぶ強い根拠が必要です。これは完全にカスタムな参入であり、すぐに営業を始められる方式ではありません。
戦略的提携
現地パートナーとコラボレーションしますが、新しい共同事業体は設立しません。販売契約、共同マーケティングキャンペーン、技術統合などが考えられます。これは、統制権よりもスピードを重視する場合や、大がかりな試みの前に市場をテストしたいという場合に最適です。戦略的提携は、双方が何か異なるものを持ち寄り、期待事項を早期に定義し、頻繁に見直す場合に最も効果的です。
メリット: 所有権を放棄することなく、パートナーの対象顧客層、インフラ、機能にアクセスできます (その逆も同様です)。柔軟性があり、比較的簡単に解散できます。
デメリット: 連携が緩いと、役割が不明確になったり、目標がずれたり、実行にばらつきが出たりする可能性があります。誰が何に責任を持ち、どのように成功を測定するかを定義するには、詳細な合意が必要です。
自社に適した参入戦略の選び方
適切な参入戦略は、提供する商品・サービス、事業の運営方式、その地域で達成したい目標、などによって異なります。各モデルで、スピード、統制権、コスト、リスクの組み合わせが異なるため、最もよく合うものを選ぶには、これらの長所短所を慎重に比較検討することが必要です。つまり、市場で求められているものと、コスト、時間、焦点の観点から提供できるものとのバランスを取ることです。たとえば、
スピードと低コストを求めるなら、輸出や戦略的提携が理にかなっているかもしれません。
長期的な統制権と顧客所有権が必要な場合は、買収または新規投資を検討してください。
オーバーヘッドなしで地域にリーチしたい場合は、フランチャイズ、ライセンス供与、または合弁事業を検討してください。
多くの企業は、輸出や簡易的なパートナーシップから小規模に始め、牽引力と自信を高めてから規模を拡大していきます。また、市場機会があまりにも重大でゆっくりアプローチできない場合には、最初から全力で取り組む企業もあります。最適な参入戦略を見つけるには、以下の質問に自問自答してみましょう。
リスク許容度はどの程度か?
モデルによっては、マイナス面を最小限に抑えながら需要をテストできます。また、より多くの資本を投入しながらも、長期的なアップサイドを生み出す企業もあります。以下を検討します。
先行投資に準備できる金額はどのくらいか?
この市場がうまくいかない場合、どのような状態になるか?
失敗した場合の、財政的なコストと戦略的なコストとは?
不安定な市場やなじみのない市場に参入する場合、低コミットメントのモデルで学びながら身を守ることが可能です。絶好の機会かつ調査済みである場合は、より大胆な賭けをする価値があるかもしれません。
どれくらい早く営業を開始する必要があるか?
季節的な需要に対応したり、競合他社を打ち負かしたり、インバウンドの関心に対応したりするために、迅速に行動する必要がある場合は、多くの場合、輸出や提携などのオプションの方がすばやく実行できます。ビジネスを買収すると、すぐに現地のインフラが手に入ります。一方、新規分野への投資は時間はかかりますが、一度立ち上げて実行した後は、より多くの統制が可能になります。
スピードが市場シェア、顧客の認識、社内の優先事項にどのように影響するかを検討します。「正しく行う」のを待つことは、早期に行動して経時的に改善するよりも、コストがかかる場合があります。
どの程度の統制権が必要か?
企業によっては、特に規制の厳しい業界では、価格、顧客体験、ブランドを厳密に統制する必要があります。また、現地パートナーに市場参入戦略を任せることに抵抗がない企業も珍しくありません。ライセンス供与、フランチャイズ、提携の場合は、スピードやコスト効率が上がる代わりに、統制権を失います。一方、買収や新規事業は所有権は完全なままですが、より多くの労力と監視が必要です。
商品が IP に敏感であったり、サービス主導型であったりする場合は、統制権を多く残しておくことが不可欠かもしれません。標準化されていて、現地に適応させることが容易であれば、パートナーに主導権を握らせてもよいでしょう。
商品の複雑さと必要なサポートの量
高度な技術やサービスを必要とする商品、または産業機器やエンタープライズソフトウェアなど現地インフラへの統合が必要な商品は、通常、成功するためには、より入念な下準備が必要です。つまり、専門の現地スタッフを雇用したり、現地サポートを提供したり、現地の規制に合わせてサービスを調整したりすることが考えられます。
一方、シンプルで軽量な商品、特にデジタル商品や既製の消費財は、多くの場合、ある程度適応させれば、流通業者や直接販売を通じて拡張できます。
市場をどの程度理解しているか?
以前その地域で販売した経験がある場合や、現地のアドバイザーを雇った経験がある場合など、文化、ビジネス環境、顧客の期待に精通している場合は、パートナーのサポートは必要ないかもしれません。
しかし、顧客の行動、規制規範、またはビジネスに関するエチケットが異なる市場の場合は、現地のインサイトが必要になることがあります。そのような場合は、パートナーシップや合弁事業で知識のギャップを埋めることが可能です。合同事業体では、現地ならでは影響力やインサイトが得られ、ライセンス供与モデルでは、その地域にまだ精通していなかったとしてもリーチが得られます。
この市場は事業上どの程度重要であるか?
一部の地域は、その規模、成長、影響力により重要性が増します。市場が長期戦略の中核をなしている場合は、インフラを構築し、現地チームを雇用し、事業を直接運営するために、より多くのリソースを早期に投入する価値があるかもしれません。
小規模または中央集権的でない市場では、パートナーと一緒に需要をテストし、効果的なものを調べ、結果に基づいて投資を拡大するなど、より軽い方式で済ませたいかもしれません。
この決定は、後で変えても構いません。小規模から始めて、時間をかけて関与を深めたり、現地で理にかなっていることを基に、市場ごとに異なるモデルを使用したりできます。
市場参入の成功において重要な各地域で適応させるべき要素
新しい市場で効果的に販売するということは、そこに住む人々に、親しみを感じてもらえるようにすることが肝要です。これこそがローカライリゼーション (現地への適応) の役割であり、他の場所で構築された商品を、現地で意味のある商品に変えていきます。この点への対処が、成長が鈍化するか、真の牽引力がうまれるかの、分かれ目になることが多いです。
ローカライゼーションにより大きな効果が期待される側面をご紹介します。
言語
表面レベルの翻訳では不十分です。ウェブサイト、アプリ、サポートのコンテンツが不格好だったり、ブランドイメージに合わなかったりすると、顧客はそれに気付きます。現地の状況に合わせて原稿を適応させ、トーン、業界用語、文化的なニュアンスを理解している翻訳者を採用します。マーケティングメッセージ、製品名、さらには行動喚起でさえも、共感を呼ぶように変える必要があるかもしれません。日付形式、通貨、測定単位、さらにはビジュアルデザインの選択 (色やアイコンなど) も調整が必要になる場合があります。
カスタマーサポート
顧客が利用しやすいサポートを、顧客のタイムゾーンと言語で提供します。具体例を挙げてみましょう。
WhatsApp、LINE、WeChat、メールなど、現地の人々が実際に利用するチャネルをサポートする
言語を流暢に話し、トーン、応答性、解決に関する現地の期待を理解しているスタッフを揃える
セルフサービスコンテンツを現地向けに適応させ、検索できるようにする
地域に密着したサポートを受けられると、ブランドへのロイヤリティが即座に高まります。
価格設定と通貨
価格は購買力、競合ベンチマーク、心理的要因を反映していますが、これらはすべて国によって異なります。以下を考慮に入れます。
現地に合った価格帯: 直接的な通貨換算に頼る場合よりも、パフォーマンスが向上します。たとえば、アメリカで月額 49 ドルのプランを、東南アジアでは 19 ドル相当の料金にしたり、利用パターンに合わせてモバイル専用プランで提供したりするべきケースが考えられます。
現地通貨: 顧客側で料金を換算させたり外貨での支払いを強制したりすると、摩擦が増え、購入完了率が下がる可能性があります。
地域に合わせた税務メッセージ: 各市場で、税金の適用とその表示について調べましょう。一部の国では、内税価格が慣例になっていいます。他の国では、決済時に税金の内訳を明確にする必要があります。
ある市場ではプレミアムと感じても、別の市場では割高に感じるかもしれません。ある地域では適正価格と見なされているものが、別の地域ではブランドを弱体化させる可能性があります。ここを間違えると、製品を試す以前に潜在的な顧客が興味を失ってしまう恐れがあります。
決済手段
決済を可能にしなければ顧客の獲得はできません。また多くの市場で、クレジットカードはデフォルトの手段ではありません。
オランダでは、iDEAL が一番よく使われています。
中国では、WeChat Pay や Alipay が一般的です。
インドでは、顧客はカードよりもデジタルウォレットを好む傾向があります。
現地の顧客に合わせる必要があります。つまり、顧客が知っていて使用している決済手段を、用意する必要があります。これは、決済フローの購入完了率を高め、カゴ落ちを減らす手っ取り早い方法でもあります。
メッセージング
現地市場で反響を呼ぶ要素に基づいて、商品の位置を変えたり、マーケティングの仕方を調整したりする必要があるかもしれません。以下を考慮に入れてください。
どの問題を顧客は優先するか
どのメリットが最も重要か
何が顧客を動機付けるか
キャンペーンのテーマを再考したり、画像を更新したり、現地版のお客様の声に差し替える、など前向きに取り組みましょう。アイデンティティを失うことなく、ストーリーをネイティブに感じさせる必要があります。
ユーザー体験
直感的に操作できるように、製品のインターフェイスも変更する必要があるかもしれません。
郵便番号がないのにフォームで郵便番号を必須にしていませんか?制度がない国で州/省を入力する必要があるでしょうか?
地域の基準を反映した住所形式、電話番号形式、カレンダー設定をサポートしていますか?
アラビア語またはヘブライ語の右から左へのレイアウトに対応していますか?
帯域幅に制約のある地域や低スペックのデバイスでモバイル体験を維持できますか?
これらの要因は使いやすさに影響します。現地市場向けに作られていると感じてもらえる商品であれば、人々の生活へと自然にフィットしていくでしょう。
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