ARR 融資の解説: 経常収益融資のメリットとデメリット

  1. はじめに
  2. 経常収益とは
  3. ARR は何の略語か
  4. ARR の計算方法
  5. ARR 融資とは
  6. ARR 融資の仕組み
  7. 経常収益融資のメリットとデメリット

近年、サブスクリプションベースのビジネスモデルを採用する企業が増えています。金融サービス会社の UBS によると、サブスクリプション経済の価値は 2025 年までに 1 兆 5 千億ドルに達すると予想されています。事業者は、株式の希薄化や従来型の融資の課題を回避しながら経常収益から利益を得ることが可能な経常収益融資のような選択肢にますます関心を寄せています。

ビジネスリーダーや意思決定者は、このタイプの融資について理解しておく必要があります。この記事では、経常収益融資の仕組み、一部の事業者にとって経常収益融資が良い選択肢になる理由、このタイプの融資のメリットとデメリットについてご説明します。

この記事の内容

  • 経常収益とは
  • ARR は何の略語か
  • ARR の計算方法
  • ARR 融資とは
  • ARR 融資の仕組み
  • 経常収益融資のメリットとデメリット

経常収益とは

経常収益とは、事業者が長期的に受け取ることを期待できる、予測可能で安定した収入源を指します。通常は、長期の顧客契約やサブスクリプションベースのモデルによって得られる収入です。このような形態の収益は、事業者にとって非常に魅力的です。財務計画を立てるための安定した基盤となり、1 回限りの売上や季節変動に伴う予測不可能性が軽減されるからです。

事業収入の大部分が経常的な収入源から得られることには、多くの利点があります。収益構造がこのように予測可能であると、企業は財務計画を改良して、より効率的にリソースを配分し、より確実に長期戦略を立案できるようになります。場合によっては、財務リスクの減少によって、有利な条件で融資や与信を受けることも可能になります。

また、多額の経常収益がある事業者は、強固な顧客基盤と持続的なビジネスモデルを有していることを示せるので、評価指標が高くなることがよくあります。企業の健全性と将来性を評価する投資家は、確信を持って収入を予測できる企業を好みます。

ARR は何の略語か

ARR は「年間経常収益」(Annual Recurring Revenue) の略語です。 ARR は、事業者が 1 年間に受け取ることを予想できる経常収益の額を表しており、サブスクリプションベースのビジネスや長期契約を結ぶ企業でよく用いられます。ARR は、1 回限りの売上や経常的でない売上が含まれないので、企業の財務的安定性や成長の可能性を示す手がかりとなります。

ARR の計算方法

ARR の計算は事業者にとって簡単です。ARR は、顧客との契約による経常収益の年間合計額です。月間サブスクリプションを提供している場合は、月間経常収益 (MRR) に 12 を掛けます。

たとえば、ある企業に顧客が 100 人いて、それぞれが 1,000 ドルの年間サブスクリプション料金を支払っている場合、ARR は 10 万ドルになります。同様に、ある企業に顧客が 100 人いて、それぞれが毎月 100 ドルを支払っている場合、MRR は 1 万ドル、ARR は 12 万ドル (MRR x 12) になります。

考慮すべき要素:

  • 契約期間: ARR は年間契約から計算するのが理想的です。複数年契約の場合は、契約総額を年数で割って ARR を求めます。

  • アップグレードとダウングレード: ARR では、顧客のアップグレードやダウングレードによるサブスクリプション料金の変化を考慮に入れておく必要があります。

  • 解約率: キャンセルした顧客からの売上の損失は、ARR から差し引く必要があります。

  • 1 回限りの手数料: ARR では経常収益のみを考慮するので、1 回限りの課金やセットアップ料金は計算に含めるべきではありません。

  • 割引: 顧客に対する割引は、年間契約額の計算に入れる必要があります。

事業者が ARR ベースの融資を貸し手に求めたら、おそらく貸し手は ARR の計算内容を精査して、顧客の解約率、契約期間、割引手法、その他、経常収益の安定性と予測可能性に影響を与えうる要因を把握しようとするはずです。このデューデリジェンスは、貸し手が融資に伴うリスクを評価するのに役立ちます。

ARR 融資とは

ARR 融資は、SaaS (Software-as-a-Service: サービスとしてのソフトウェア) やその他のサブスクリプションベースの事業者のために特別に調整されたデットファイナンスの一種です。こうした事業者には予測可能な収益源があるため、貸し手はその企業の ARR を重要な指標として使用し、貸し出し金額と条件を決定します。

ARR 融資では、融資額は通常、その企業の月次経常収益または年次経常収益を乗算して決定されます。細かい点はさまざまに異なりますが、企業の MRR の 3 倍から 12 倍の融資を貸し手が提供することが多いようです。

ARR 融資の主な利点は、企業の収益モデルに見合う融資を受けることにより、株式を希薄化させることなく事業者が資金を確保できる点にあります。また、企業の経常収益が成長すれば、増額された融資を受給できる場合があります。このタイプの融資は、成長に投資するための資金を必要としているものの所有権を手放したくない企業や、より従来型の銀行融資を受けるための準備が整っていない企業、あるいは受けるための条件を満たしていない企業にとって特に魅力的です。

ARR 融資の仕組み

ARR 融資は、SaaS や同様のサブスクリプションモデルの事業を行っている企業向けに作られたものであり、融資の受給資格や条件を決定する主な基準として ARR が使用されます。

この融資の一般的な仕組みについて、順を追って大まかにご説明します。

  • 融資額の決定
    貸し手が、企業の ARR を評価して、融資可能な額を決定します。多くの場合、企業の月次経常収益または年次経常収益を乗算した額に基づく融資額が提供されます。たとえば、企業の MRR の 3 倍から 12 倍に相当する融資が貸し手から提供されることがあります。

  • 申請と書類作成
    ARR 融資を求める企業は、標準的な融資申請プロセスを踏みます。これには、財務諸表、ARR の詳細、解約率、顧客獲得コスト、その他の関連ビジネス指標の提出が含まれます。

  • 評価
    貸し手は、ARR に加えて、企業の成長率、収益性、顧客生涯価値 (LTV)、市場全体の状況も評価する場合があります。ARR が安定していたり急増していたりすると、顧客基盤が安定していて拡大していることを指すので、より魅力的です。

  • 返済方法
    ARR 融資では、多くの場合、企業の収益パターンに合わせた柔軟な返済方法が採用されます。MRR やその他のマイルストーンに合わせた月次返済になることがよくあります。金利は、契約に基づいて固定金利または変動金利になります。

  • 規約と条件
    一部の ARR 融資では、企業が一定の成長率を維持すること、または解約率を最小限に抑えることを保証するために、具体的な規約や条件が規定される場合があります。こうした規約に違反すると、違約金や金利の引き上げにつながる可能性があります。

  • 増額の可能性
    企業の ARR が増加すれば、追加融資の受給条件を満たし、増加した経常収益に基づいて増額された資本を獲得できる可能性があります。

  • 期間と満期
    他の融資と同様、ARR 融資にも決められた期間があり、その満了時に融資を全額返済する必要があります。貸し手とビジネスの成長軌道に応じて、この期間は 2 年から 3 年の範囲になることがあります。

  • 終了または再融資
    融資期間の終了時またはそれより前に、企業は ARR 融資を全額返済するか、再融資を受けるか、あるいは、ビジネス規模の拡大やニーズの進化に応じて、別のタイプの融資構造に乗り換えるかを選択することができます。

経常収益融資のメリットとデメリット

経常収益を担保に融資を受けることには、独自の利点と課題があります。要約したものを次に示します。

ARR 融資のメリット:

  • ビジネスモデルに対応している
    ARR 融資は、サブスクリプションベースの収益モデルに対応しているので、企業は予測可能な収益源に合わせて借入を行うことができます。

  • 株式が希薄化しない
    企業は所有権を手放すことなく資本を獲得できます。これは、経営権を維持したい創業者や初期投資家にとって特に有益です。

  • 柔軟に返済できる
    多くの場合、企業の月間経常収益に合わせた返済方法が取られるので、企業の実際のキャッシュフロー状況に合わせて調整することができます。

  • 資本を迅速に獲得できる
    この融資の特化した性質により、承認プロセスが従来の融資よりもスピーディに行われるので、事業者は必要な資金を迅速に獲得できます。

  • スケーラブルな資金調達
    ARR が増加した企業は、増額融資の受給対象になる場合があります。このため、企業が拡大するにつれて、より多くの資本を獲得できるようになります。

ARR 融資のデメリット:

  • コストが高くなる可能性がある
    貸し手や、付随するリスクによっては、ARR 融資の金利や手数料が従来の融資よりも高くなる可能性があります。

  • 規約と制限
    融資には、特定の成長率や解約率など、具体的な業績指標を維持することを企業に義務付ける規定が伴う場合があります。こうした規定に違反すると、違約金や条件の変更につながる可能性があります。

  • 期間が短い
    従来の長期融資と比べると、ARR 融資は期間が短く、迅速な返済や再融資が必要になる場合があります。

  • 業績指標に依存する
    より広範な財務的健全性に注目する従来の融資に対して、ARR 融資では、企業の ARR 業績が非常に重視されます。ARR が急低下したり、予測不可能になったりすると、融資条件や受給資格に影響する可能性があります。

  • 特定のビジネスに制限される
    明確な経常収益モデルを持たない企業は、ARR 融資を利用したり、そのメリットを受けたりすることが難しい場合があります。

ARR 融資は、サブスクリプションベースのビジネス、特に SaaS 分野のビジネスにとって魅力的な融資方法になっています。このタイプの融資は、予測可能なサブスクリプションの収益源に見合うものであり、資本を迅速に獲得して、企業の株式の希薄化を回避することができます。ARR 融資は、堅固な経常収益を持つ事業者向けのソリューションではありますが、固有の考慮事項もあります。他の融資について決定するときと同様に、利点と課題を比較検討し、自社のビジネスに適しているかどうかを判断する必要があります。

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