口座間 (A2A) 決済とは、クレジットカードネットワークや決済代行業者などの仲介業者を介さずに、2 つの銀行口座間で直接資金を受け渡しする決済手段です。この直接送金は、同じ個人が所有する口座間、または異なる個人や企業が所有する口座間でも利用できます。
A2A 決済は、従来の決済手段よりもスピーディーかつ便利で、さらに費用対効果にも優れています。利用目的は、ピアツーピア (P2P) 取引、オンライン購入、請求書の支払い、給与の支払いなどさまざまです。オープンバンキングの台頭と A2A 決済インフラの普及により、この決済手段は今後も利用が拡大し続けることが予想されています。
以下では、A2A 決済の種類、仕組み、用途、長所と短所について解説します。
本記事の内容
- A2A 決済の種類
- A2A 決済の仕組み
- A2A 決済の用途
- A2A 決済の長所と短所
- オープンバンキングが A2A 決済に与える影響
- 世界での A2A 決済の反響と採用状況
A2A 決済の種類
口座間 (A2A) 決済にはさまざまな種類があり、それによってさまざまな取引関係やシナリオのニーズが満たされています。A2A 決済の主な種類には以下のようなものがあります。
企業間 (B2B):この決済は通常、商品、サービス、または運用コストに対して多額の支払いが伴う企業間で発生します。A2A 決済はキャッシュフロー管理を簡素化し、エンタープライズリソースプランニング (ERP) システムと統合させることで、支払いの照合と自動化を可能にします。
企業対消費者 (B2C):この決済は通常、返金、リベート、または給与として、企業が迅速かつ簡便に消費者に直接資金を送金するために利用されます。
ピアツーピア (P2P):モバイルアプリやオンラインプラットフォームで一般的に推奨されている P2P 決済は、個人が従来の金融機関を介さずに直接資金を送金できる手段です。この決済は、友人や家族との間で請求書、プレゼント代、その他の費用を分割するのによく利用されています。
消費者対企業 (C2B):消費者はこの決済を利用して、オンラインショッピングや請求書の支払いなどを銀行口座から直接企業に支払います。C2B 決済の手数料は、カード決済の手数料よりも低く設定されています。
同一人間:銀行内送金または銀行間送金とも呼ばれ、一人の個人が異なる銀行間または同じ銀行内の口座間で資金を移動する場合に利用されます。この決済は、個人の家計、貯蓄、投資の管理に適しています。
A2A 決済の仕組み
この項目では、A2A 決済による口座間の資金移動が円滑に行われる仕組みをご紹介します。
取引の開始
プッシュ型決済:支払者は、受取人の銀行口座の詳細を提供し、オンラインバンキングプラットフォームまたはサードパーティーのペイメントプロバイダーを通じて支払いを承認することで、通常の銀行振込と同様の方法で取引を開始できます。プッシュ型決済は通常、1 回限りの取引や不定期の取引に利用されます。
プル型決済:多くの場合、受取人は支払者の事前の同意を得て、支払いを開始します。これは、サブスクリプションや請求書の支払いなどの定期的な支払いでは通例です。プル型決済は、口座引き落としの委任を得て、またはオープンバンキングフレームワークの下でサードパーティーのプロバイダーが提供する支払い開始サービス (PIS) を利用して承認できます。
取引の認証および承認
強力な顧客認証 (SCA):ヨーロッパの改訂 PSD2 などの規制に従い、A2A 決済では多くの場合、SCA が支払者の身元を確認し、取引を承認する義務があります。このプロセスには通常、パスワード、指紋、ワンタイムパスコードなどを組み合わせた 2 段階認証が含まれます。
同意管理:プル型決済の場合、口座引き落としの委任、または PIS プロバイダーが推奨する即時同意メカニズムを通じて、支払者の明示的な同意を得る必要があります。
取引の清算および決済
銀行間直接送金:A2A 決済は、支払者と受取人の銀行の間で直接処理されるケースもありますが、多くの場合は、ACH や Faster Payments などの既存の支払い経路が適用されます。これにより、ほぼ瞬時に決済を完了させることが可能です。
クリアリングハウス:異なる側面では、アメリカの自動資金決済センター (ACH) やヨーロッパの単一ユーロ決済圏 (SEPA) などの決済機関が A2A 決済の処理を円滑なものにしています。場合により、数時間または数日以内に決済が完了するバッチ処理モデルも利用されています。
オープンバンキング API:オープンバンキングにより、サードパーティプロバイダー (TPP) は銀行口座データにアクセスし、API を介して支払いを開始できるため、より迅速な清算および決済プロセスを備えた革新的な A2A 決済ソリューションの開発が可能になります。
A2A 決済の用途
A2A 決済は、さまざまな業界やセクターで幅広く利用されています。この項目では、その一般的な用途をご紹介します。
e コマースおよび小売
オンライン決済:顧客は A2A 決済を利用して銀行口座から直接購入できるようになるため、クレジットカードやデビットカードは必要ありません。
即時返金:企業は顧客の銀行口座に直接かつ迅速に返金できるようになるため、顧客満足度が向上し、返品処理の手間も軽減されます。
雇用
給与支給企業は従業員の銀行口座に直接給与を支払えるようになるため、ペーパーレス化が進み、給与計算プロセスも簡素化されます。
ギグエコノミー報酬:フリーランサーやギグワーカーは、クライアントやプラットフォームから直接支払いを受け取れるようになります。
保険
保険金の支払い:保険会社は保険金の支払いを保険契約者の銀行口座に直接支払えるようになるため、顧客体験が向上し、さらに事務経費も削減されます。
保険料の支払い:保険契約者は、銀行口座から直接保険料を支払うことができるようになります。多くの場合、継続支払いのオプションが利用できます。
官公庁・公共機関
納税:個人や企業は、銀行口座から直接税金を支払うえるようになります。多くの場合、分割払いのオプションを利用できます。
給付金の支払い:官公庁は、社会保障や失業手当などの給付金を国民の銀行口座に直接給付できるようになります。
パーソナルファイナンス
クラウドファンディング:プラットフォームは、A2A 決済を利用して支援者から資金を集めたり、プロジェクト作成者に資金を分配できるようになります。
P2P 決済:友人や家族との間で、現金や小切手に頼ることなく簡単に資金を受け渡しできるようになるほか、請求書の分割や借金の返済にも利用できます。
請求書の支払い:消費者は、公共料金やサブスクリプション、ローンの分割払いを銀行口座から支払うことができるようになります。多くの場合、より便利に利用できるよう継続支払いのオプションを設定できます。
旅行およびホスピタリティ:旅行者は、航空券、ホテル、その他旅行関連の費用を銀行口座から直接支払えるようになります。
投資プラットフォーム:投資家は A2A 決済を利用して証券口座に資金を追加したり、ポートフォリオの資金を引き出せるようになります。
慈善寄付:寄付者は、銀行口座から直接慈善団体に寄付できるようになります。多くの場合、カード支払いに比べて処理手数料は安く済みます。
不動産取引:購入者は、頭金または残代金を銀行口座から直接支払えるようになります。
A2A 決済の長所と短所
A2A 決済には、以下で説明するような利点や課題があります。
長所
コストの削減:A2A 決済は、従来の決済手段における仲介業者を省略することで取引手数料を節減しています。
取引の高速化:A2A 決済は、最新テクノロジーを活用する銀行によって円滑に処理されるため、資金移動がはるかに早くなり、多くの場合、支払いを即座に完了させられます。緊急または時間的制約のある送金に最適です。
強力なセキュリティ:この種の決済は、暗号化された送金経路を使用する銀行の高いセキュリティ基準の恩恵を受けており、不正利用のリスクを軽減しながら安全に送金することができます。
顧客体験:A2A 決済はデジタルバンキングアプリにスムーズに統合できるため、オンラインショッピングや請求書の支払いなど、日常的な支払いの場面で手軽に利用できます。
法令遵守:A2A 決済は、銀行の規制に自動的に準拠し、安全で透明性の高いプロセスを通じて法令遵守を徹底します。
短所
統合の難しさ:一部の企業、特に古いシステムを使用している企業では、A2A 決済ソリューションの統合が困難であり、大規模なテクノロジーの更新が必要になる場合があります。
標準化の問題:A2A 決済にはグローバルスタンダードがないため、国際送金の処理がかえって複雑になり、効率が悪化する可能性があります。
銀行依存:A2A 決済の有効性は、取引チェーンのすべての銀行が必要なテクノロジーとプロトコルをサポートしているかどうかによって左右されます。
ユーザー導入:顧客をカードなどの使い慣れた決済手段から A2A 決済に移行させる場合、学習曲線や習慣の変化を伴うため、導入が遅れる可能性があります。
不正利用リスク:A2A 決済は一般的に安全とされていますが、依然として不正利用、特に取引の傍受を狙った巧妙な詐欺の被害に遭うおそれもあります。
オープンバンキングが A2A 決済に与える影響
オープンバンキングは、銀行とサードパーティー開発者の間でデータを共有する取り組みであり、A2A 決済の開発と採用に次のような影響を与えています。
競争の促進とコストの削減
オープンバンキングの登場により、サードパーティーのプロバイダーは、銀行口座に直接アクセスできる A2A 送金向けの革新的な決済ソリューションを作成できるようになりました。オープンバンキングのフレームワークは、従来の銀行と新しい金融サービスプロバイダーが最高のサービスを提供するための競争環境を生み出すよう設計されています。この競争は、より優れた金融商品の開発に寄与するだけでなく、A2A 決済に関連するコストを削減し、消費者と企業の両方に利益をもたらします。
ユーザー体験の向上
オープンバンキングにより、A2A 決済はよりスムーズで直感的なユーザー体験を提供できます。顧客は金融プラットフォームを切り替えることなく、財務を管理し、銀行口座から直接支払いを行うことができるため、日常の金融活動における A2A 決済の魅力をより感じることでしょう。
財務の透明性の向上
オープンバンキングは、金融サービスの透明性を高めます。この効果により、財務データの可視性と管理性が向上し、顧客はサードパーティーのプロバイダーと安全にデータを共有できます。また、この透明性の問題は、ユーザーが A2A 決済を利用する上での判断材料にもなります。
リアルタイム決済の円滑化
オープンバンキングのフレームワークは、多くの場合、リアルタイムのデータ処理に対応しているため、A2A 決済は即座に処理され、資金もすぐに利用できます。この機能は、緊急の請求書支払いや急な買い物など、緊急時の取引に役立ちます。
世界での A2A 決済の反響と採用状況
A2A 決済の人気は年々高まっており、2021 年の世界の e コマース取引額が 4,630 億ドルであったのに対し、2022 年は 5,250 億ドルにまで増加しました。A2A 決済の普及は、従来の決済手段への依存を減らし、金融包摂を改善し、決済エコシステムのイノベーションを促進することで、金融環境に変革をもたらすことが期待されています。
この項目では、A2A 決済の人気が高まっている理由をいくつかご紹介します。
コスト効率:A2A 決済は通常、カード決済に比べて処理手数料が安く設定されているため、企業や消費者にとって魅力的な選択肢となっています。
スピードと利便性: A2A 決済は、従来の決済方法に比べて決済時間が短縮され、シンプルなユーザー体験を味わえます。
セキュリティ:A2A 決済には、強力な顧客認証と銀行レベルのセキュリティ対策が採用されているため、不正利用やチャージバックのリスク軽減が期待できます。
オープンバンキング:オープンバンキングの登場により、TPP による A2A 決済ソリューションの開発が促進されています。
政府の取り組み一部の国の政府は、デジタル決済と金融包摂を積極的に推進しており、A2A 決済の成長に有利な環境を作り出しています。
このような進展があるのにもかかわらず、A2A 決済は、消費者の認知度の低さ、加盟店の受け入れ、異なる地域や決済システム間での相互運用性の問題といったさまざまな課題に直面しています。次に、A2A 決済の世界的な利用状況を詳しく見てみましょう。
地域別の採用状況
ヨーロッパ:オープンバンキングを義務付け、TPP が顧客の銀行口座から直接支払いを開始できるようにすることを定めた PSD2 の実施により、ヨーロッパでの A2A 決済の利用は勢いを増しています。イギリス、オランダ、ドイツなどの国では、e コマース、請求書支払い、P2P 送金に A2A 決済が利用されています。
アジア太平洋:アジア太平洋地域では、特にインド、シンガポール、マレーシアで A2A 決済の採用が進んでいます。この成長は、デジタル決済とモバイルの普及を促進する政府の取り組みによって後押しされています。主な A2A 決済の利用用途は、e コマース、請求書支払い、仕送りなどです。
ラテンアメリカ:ラテンアメリカでは、金融包摂の必要性が高まったこととスマートフォンの普及が進んだことが相まり、A2A 決済の利用が活発化しています。ブラジルやメキシコなどの国では、A2A テクノロジーに基づく即時決済スキームが立ち上げられ、リアルタイム決済の利用促進と、金融包摂の推進に力が入れられています。
北アメリカ:北アメリカでは、A2A 決済は他の地域に比べて目新しい決済手段ですが、着実に普及が進んでいます。米連邦準備制度理事会 (FRB) が開発したリアルタイム決済経路システム、FedNow Service が 2023 年 7 月にサービス開始したことで、アメリカでは A2A 決済の加速度的な普及が期待されています。
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