デジタル時代のVAT (ViDA):ヨーロッパで起きている VAT 制度改革について企業が知っておくべきこと

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  1. はじめに
  2. ViDA とは?
  3. ViDA に盛り込まれている措置
    1. デジタル報告義務
    2. プラットフォームエコノミー
    3. ワンストップショップシステムの拡充
  4. VIDA の発効時期
  5. 欧州委員会が抱く ViDA の意図
  6. ViDA の影響を受ける対象
  7. ViDA が及ぼす影響
    1. 請求書発行
    2. 報告処理
    3. 監査
  8. ViDA がもたらすメリット
    1. 事務負担の軽減
    2. コストの削減
    3. ミスの削減
    4. 効率性の改善
    5. 公正な競争

税務プロセスのデジタル化と透明性を促進するために、欧州委員会は 2024 年に付加価値税 (VAT) 制度の包括的な改革「デジタル時代の VAT (ViDA)」を決定しました。この一連の改革は多くの組織に影響を与え、管理タスクの調整を迫っています。一方で、メリットが生まれる可能性もあります。本記事では、ViDA の概要をはじめ、イニシアチブに盛り込まれる措置や欧州委員会の意図について解説します。また、影響を受ける対象や企業に及ぶ影響の内容、ViDA のメリットについても解説していきます。

本記事の内容

  • ViDA とは?
  • ViDA に盛り込まれている措置
  • VIDA の発効時期
  • 欧州委員会が抱く ViDA の意図
  • ViDA の影響を受ける対象
  • ViDA が及ぼす影響
  • ViDA がもたらすメリット

ViDA とは?

ViDA は「デジタル時代の付加価値税」という意味の略語です。ViDA は、現行の欧州 VAT 制度を現代化するために計画された、欧州委員会のイニシアチブです。また、既存の VAT 指令 (理事会指令 2006/112/EC) を改正するための措置でもあります。

欧州委員会は、2022 年 12 月 8 日に ViDA を提案しました。そして、約 2 年間の交渉と具体的な調整を経て、2024 年 11 月 5 日に欧州理事会による採択となりました。ViDA には、2025 年から 2035 年にかけて施行される指令や規制、また施行ポリシーが盛り込まれています。

ViDA に盛り込まれている措置

欧州委員会が概説しているように、ViDA には、特に次の 3 つの分野を規制する目的があります。

  • デジタル報告義務
  • プラットフォームエコノミー
  • ワンストップショップシステムの拡充

デジタル報告義務

今後、海外展開を行う企業には、標準化された方法でリアルタイムに税務当局へ取引を報告する義務が課せられます。これにより、当局の監査が容易になり、該当する企業の透明性が向上します。このリアルタイムのデジタル報告は、電子請求制度を土台としており、企業は一括して当局に報告するのではなく、個々の事業を文書化して提出できるようになります。売上はすべて、標準化された電子形式で報告する必要があります。また、リアルタイム送信により、域内供給およびその他のサービスのに係る請求書の発行スパンが、受領または配送後数日以内に短縮されます。

プラットフォームエコノミー

プラットフォームエコノミーとは、プラットフォーム運営者が企業と潜在顧客を結びつけるためのインフラを提供するデジタルマーケットプレイスです。ViDA により、旅客輸送および短期宿泊サービスにおける VAT 規則が改訂されます。

ViDA が施行される以前、VAT の登録企業は、プラットフォーム上で VAT 非課税の商品を提供する企業と競い合っていました。今後は、ViDA の施行により、二重課税と非課税の問題の抑制が期待できます。公正かつ競争的な環境を醸成するために、プラットフォームは VAT の対象とならない個人から VAT を徴収し、またそれを納付する義務を負うことになります。加えて、プラットフォーム運営者は、B2B および B2C ソリューションに関する情報に簡単にアクセスできる仕組みを整えることを求められます。

ワンストップショップシステムの拡充

EU では、域内の個人に一元的な売上報告が開示されるよう、3 つのワンストップショップ (OSS) システムを運用しています。ViDA の措置のひとつに OSS の拡張が含まれており、より多くの企業が単一のオンラインポータルと言語で売上税を処理できるようになります。たとえば EU は、ガスや電気など、OSS での手続き対象となる特定サービスの売上の文書化を認めています。また、ViDA では、在庫状況を OSS 経由で他の EU 加盟国に報告することが求められます。影響を受ける企業は、VAT 登録を行うだけで対応が完了します。

さらに、欧州理事会は、サプライヤーが別の加盟国に所在する場合において、B2B 取引の責任をサプライヤーからバイヤーに移転する旨を決定しました。ViDA の施行前からすでに行われていたケースもありますが、今ではこの取決めが急速に普及しつつあります。

VIDA の発効時期

各措置は 2025 年から 2035 年にわたって発効され、ViDA は欧州連合官報に掲載された 20 日後に発効します。EU は、この掲載を 2025 年中に予定しています。

2025 年

  • 加盟国は、欧州委員会の事前承認なしに、国内取引における電子請求制度の採用を企業に義務付けることができます。
  • EU が加盟国に電子請求制度の導入を義務付ける場合、企業は電子明細書を採用する必要があります。

2027 年 1 月

  • OSS を採用することで、企業は天然ガスや冷暖房エネルギーのクロスボーダー取引を文書化できるようになります。
  • 一律取引の制限 (€10,000) は、売り手の所在国から配送される商品にのみ適用されます。この取引制限額を限度に、サプライヤーは商品の配送先 (別の EU 加盟国) で VAT の徴収義務を負うことなく個人顧客に商品を提供できます。

2028 年 7 月

  • 旅客輸送や短期宿泊サービスを仲介するプラットフォームは、VAT の課税対象とならない事業者から VAT を徴収し、それを納付する義務を負います。この規制は 2028 年 7 月 1 日から努力義務となり、2030 年 7 月 1 日からは完全に義務化されます。
  • EU は OSS を拡張し、EU 域内での企業の在庫移動状況を開示する措置を盛り込んでいます。

2030 年

  • 電子請求制度は、クロスボーダー取引において標準で導入されるようになります。ただし、顧客が認める場合は、国内での取引に紙の明細書を使用できます。
  • 企業は、商品の発送または受領後 10 日以内に電子請求書を発行する義務を負います。
  • 同じ暦月の売上に対する一括請求書は、会社が月末から 10 日以内に発行する場合に許可されます。また、各加盟国は、不正が発生しやすい特定のセクターを独自の裁量により除外することができます。

2035 年 1 月

  • 2024 年 1 月 1 日以前より EU によってすでに施行または承認されている各加盟国のデジタル報告システムは、ViDA 規制に適合させなければなりません。

欧州委員会が抱く ViDA の意図

ViDA の主な目的は、既存の VAT システムのデジタル化と現代化です。電子請求書とリアルタイムの文書化の義務により、たとえば企業は、税務データをデジタルかつ標準化された方法で提出できるようになります。このことは企業にメリットをもたらすだけでなく、税務当局の監査を容易にする作用もあります。

ViDA によってデジタル報告義務が導入されることで、財務業務の透明性とトレーサビリティーの向上が期待できます。具体的には、不正行為の当事者が架空のクロスボーダー取引を通じて VAT の脱税を謀るカルーセル詐欺の防止に役立ちます。VAT Gap Report 2023 での報告によると、EU 加盟国は 2021 年に 610 億ユーロの VAT 収入を逸しました。欧州委員会の推計では、逸失利益のおよそ 4 分の 1 は、域内貿易に関連する VAT 詐欺によるものです。ViDA で計画されている措置は、EU 加盟国が毎年最大 180 億ユーロの VAT 還付を追加で生み出す可能性に寄与します。

とはいえ、見込まれる追加税収は、脱税に対する効果的な措置によってのみもたらされるものではありません。ViDA のもう一つの目的は、企業の成長と売上・税収の促進です。計画されている新しい規制は、特に中小企業 (SME) の事務的負担を軽減します。たとえば、登録手続きが一元化されることで、事務作業が省かれ、コストの節約へとつながります。

ViDA の影響を受ける対象

ViDA は、国外の企業から中小企業、プラットフォーム、税務当局まで、欧州域内市場のすべての関係者に影響を与えます。

  • 海外事業を展開する企業:EU 域内で商品やサービスを提供する企業の多くは、デジタル報告義務に備える必要があります。税務当局への提出書類をリアルタイムで文書化し、標準化された形式で電子請求書を発行することを求められます。個人を対象に EU 域内で販売事業を行う企業は、この要件を免除されます。
  • 中小企業 (SME):ViDA の新しいポリシーは、以前は国内市場でしか活動していなかった小規模な事業者にも影響を及ぼします。影響を受ける中小企業は、最新の電子明細書と報告義務の規制に社内プロセスを適応させなければなりません。
  • プラットフォーム運営者:将来的に、短期宿泊や旅客輸送のためのオンラインマーケットプレイス、仲介プラットフォームが売上税の徴収・納付義務が強化されます。そのため、売上に正しく課税していることを確認する必要があります。
  • EU 加盟国の税務当局:ViDA の影響は税務当局にも及びます。新しいデジタル報告要件の下、取引の概要がリアルタイムデータで把握可能になり、より効果的な税金詐欺対策を敷けるメリットがもたらされます。
  • 顧客:顧客もまた、ViDA の影響を実感することになります。新しい報告要件に準拠し、標準化されたデジタル請求書を受け取る機会が増えることでしょう。一方で、Airbnb などの短期宿泊サービスや Uber などの旅客輸送サービスには、今より高いコストを支払う必要が出てきます。

ViDA が及ぼす影響

ViDA は、請求書発行、報告処理、VAT 登録、監査の面で企業に大きな影響を与えます。

請求書発行

欧州委員会は、2030 年までに大半のヨーロッパ企業が電子請求書を発行する体制を整えることを目標に掲げています。したがって、ドイツ企業も管理ワークフローを変更し、IT インフラストラクチャーを最新のものにする必要があります。ドイツにおいて、B2B 企業は成長機会法に則らなければならず、早ければ 2025 年に明細書をデジタルで処理・受領することになります。2028 年からは、電子請求書のみを発行している可能性もあります。もし該当する場合は、できるだけ早期に電子請求による管理業務へ切り替えることをお奨めします。クロスボーダー取引の電子請求書は、課税対象取引が行われてから 10 日以内に発行することが義務付けられます。Stripe Invoicing では、Billit などのアプリパートナーを通じてこの履行をサポートします。

報告処理

ViDA の一環として計画されている報告義務の下、2030 年 7 月以降、海外事業を行うヨーロッパ企業は請求書データを報告しなければなりません。サプライヤーは、リアルタイム、つまり請求書発行時または請求時に請求書データを報告することを求められます。ただし、買い手が自己請求または報告を行う場合は、請求書の発行後 5 日以内に買い手自ら取引情報を報告しなければなりません。この新しい取引報告義務は、従来の要約報告書に代わるものとして作用します。

監査

税務当局は、電子明細書を使用したリアルタイムのレポートを受け入れることで、取引記録に直接かつタイムリーにアクセスできるようになるため、請求書のフォーマットの正確性を即座に確認できます。また、率直な統計に基づいて迅速に対応し、より的を絞った監査を実施することも可能になります。したがって、企業は社内のコンプライアンスとレビュー手順をデジタル化し、従業員が電子監査に対処できるように準備する必要があります。一方、手ずから請求書を確認したり、紙ベースのワークフローに従う必要はなくなります。

企業は、電子請求書の正確性と完全性を保たなければなりません。そのためには、請求情報を取得、検証、保存するための IT システムの統合を強化する必要があります。また、システムには、規制評価をクリアできるよう、データの整合性とセキュリティ基準の新しい要件を満たすことが求められます。

ViDA がもたらすメリット

ViDA は、主に税務プロセスの簡素化とビジネス慣行の現代化の面で企業にメリットをもたらします。

事務負担の軽減

計画的かつ一元的な VAT 登録により、事務的なワークフローを大幅に改善できます。企業は、複数の国で売上を報告したり、さまざまな規制当局とやり取りする代わりに、ポータルを介して取引を文書化するだけで済みます。もう一つの利点として、所定のテンプレートを使用して報告できることが挙げられます。

コストの削減

ViDA の想定どおりにいけば、企業が VAT 登録を行うのは EU 全体で 1 回のみで済むため、登録コストを二重で支払うことを回避できます。また、統一フォーマットにより標準化された電子請求書を採用することで、取引処理コストも削減されます。電子明細書処理も自動化され、手作業の必要性もなくなります。さらに、リアルタイムの情報転送により、エラーの迅速な修正が可能になるため、罰則や罰金のリスクも最小限に抑えられます。これにより、納税申告の遅れやミスから生じるコストをさらに節減できます。標準化された手順によって作業時間も短縮されるため、これもコストの削減へと寄与します。

ミスの削減

単一のポータルで取引報告を行うことで、データ入力ミスの低減が期待できます。さらに、請求情報を即座に送信することで、企業や税務当局は、財務に大きな影響を与える前に不整合を早期に発見できます。企業はフィードバックを即時に受けることで、問題を迅速に修正できるようになります。さらに、請求書の電子化と送信手順の自動化により、手動チェックへの依存も軽減されます。

効率性の改善

加盟国ごとに異なる要件に直面することがなくなるため、企業は VAT 申告書をより効率的に処理できるようになります。また、請求書の電子化により、迅速な発行が可能になります。ワークフローを標準化および自動化することで、企業は社内業務を根本的に最適化できます。手作業の軽減と事務作業の効率化も十分に見込めます。

また、リアルタイムのデータ伝送は、総合的な情報分析を可能にします。これにより企業は、主要なビジネス指標を迅速に取得・評価できるようになるため、より多くの情報に基づいた意思決定と優れた戦略的計画を実現できます。デジタル化によって一新されたシステムでは、税務要件の変更にも効果的に対応できます。これらのデジタルインフラストラクチャーは、新しい規制への柔軟な適応を容易にするだけでなく、組織の機動力を高め、変動的な市場環境に適応できるようにします。

Stripe Revenue Recognition を利用すれば、ViDA に則って会計プロセスを自動化できるようになります。このシステムでは、取引と請求条件が定期的に自動転記されます。また、売上レポートを容易に設定できるため、企業の財務状況を包括的に把握できる正確で監査可能な財務書類を作成できます。

公正な競争

ViDA は、二重課税や非課税の解消を通じて、プラットフォームエコノミーの標準化に貢献することを目的としています。

さらに、厳格なデジタル報告要件と即時のデータ送信は、税金詐欺の抑制に寄与します。これにより、脱税者が税金を適切に納付している事業体に対して持つ、不当な競争優位性を解消できます。ViDA の施行により、すべての市場参加者は平等に検証されるため、透明性も大幅に向上します。

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この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。

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