サブスクとは、サブスクリプション (subscription) の略語で、日本では定期購読、継続購入とも呼ばれているビジネスモデルです。サブスクでは、一定の利用料金を毎月支払うと継続的にサービスを利用することができます。
サブスクビジネスにおいて、KPI を設定することはとても重要です。事業者は、KPI によってビジネスが向かうべき方向に進んでいるか定点観測し、ビジネスの現状を把握する必要があります。
本記事では、サブスクの KPI について種類ごとにご紹介しながら、 KPI 設定のポイントなども解説します。
目次
- KPI とは
- サブスクビジネスでよく使われる KPI
- サブスクビジネスにおける KPI 設定のポイント
- サブスクビジネスの KPI についてよくある質問
- ほかにない価値の提供と適切な KPI を設定することが大切
KPI とは
KPI とは、英語の「Key Performance Indicator」の頭文字をとった略語です。日本語では「重要業績評価指標」と訳され、目標を達成するために業務パフォーマンスを計測、評価する指標を意味します。KPI は多数の企業で用いられていますが、サブスクの場合も同じく、サブスクビジネスの指標となる KPI を設定して、現状把握と課題把握に努めることが大切です。
KGIとの違い
KPI と 似ている言葉に KGI があります。いずれもビジネスを成功に導くための指標として重要なものですが、意味や役割はそれぞれ異なります。
KPI (重要業績評価指標) :
KPI は、KGI で設定された最終目標を達成するために行うべき中間プロセスの達成状況を、定量的に計測および評価するための指標です。目標を達成するまでの各プロセスについてモニタリングすることで、各部署のパフォーマンス状況を把握することを目的とします。KGI (重要目標達成指標) :
KGI は、もともと英語で「Key Goal Indicator」といい、ビジネス上の最終目標を数値で指標化したものです。中間指標の KPI とともに用いられ、主に売上や利益、集客数などを設定します。
サブスクビジネスでよく使われる KPI
どんなビジネスにも同じことがいえますが、サブスクにも KPI は欠かせません。KPI には種類がたくさんあります。以下に、サブスクビジネスの指標となる代表的な KPI についてご紹介します。

顧客生涯価値 (LTV)
LTV とは、顧客と企業との関係の開始から終了までの間に得られる利益です。
サブスクリプションの場合、継続的な購入期間は契約開始から契約のキャンセルまでです。LTV の計算式は次のとおりです。
LTV = 平均購入額 x 購入頻度 x 購入期間
顧客との継続的な取引に基づくサブスクリプションの場合、各顧客がサービスを利用し続ける期間と購入頻度を考慮することが重要です。この点が、サブスクリプションにおいて LTV が重要な KPI である理由です。
解約率
解約率は、「キャンセル率」とも呼ばれ、カスタマーサクセスの分野で使用される KPI です。ただし、業界やビジネス規模によって異なります。解約率を下げることが、サブスクリプションビジネスを成功させるための鍵です。なぜなら、解約により顧客数が大幅に減少すれば、収益に直接的な影響が出るからです。解約率の計算方法は簡単です。
解約率 = 一定期間中のキャンセル件数 ÷ 同期間当初の顧客数
たとえば、ある月のキャンセル数を月初めの顧客数で割って解約率を求めることができます。
月間経常収益 (MRR)
MRR とは、ある会社が毎月受け取る予定の収益です。サブスクリプションの場合、これは、企業が毎月受け取ると予想される継続支払いであり、各月の結果を比較し、ビジネスの成長の可能性を予測するために使用される主要な KPI です。
MRR の基本的な計算方法は次のとおりです。
MRR = 顧客数 × 顧客 1 人あたりの平均月次売上 (月間料金)
MRR には 4 つのタイプがあります。
- 新規 MRR: 新規顧客からの収益
- 拡大 MRR: アップグレードで得られた収益
- ダウングレード MRR:ダウングレードにより失われた収益
- 解約 MRR:該当月のキャンセルにより失われた収益
どの MRR が成長を鈍化させているかを理解し、対策を講じることが重要です。当月の MRR は次のように計算します。
当月の MRR = 前月の MRR + (新規 MRR + 拡大 MRR + ダウングレード MRR + 解約 MRR)
後で説明するように、売上維持率 (NRR) は、新規 MRR を除く各 MRR 値に基づきます。
年間経常収益 (ARR)
上記の MRR を毎月計算する方法と同様に、毎年発生する固定売上高を計算したものが ARR です。月間 B2B サブスクリプションの数が少ない企業や、年間契約を標準としている企業は、通常、月間サブスクリプションではなく ARR を使用します。
ARR は、MRR に 12 をかけて計算できます。ただし、この計算方法には限界があります。たとえば、キャンセル、アップグレード、ダウングレードの件数といった詳細は含まれません。したがって、他の指標も考慮するべきです。
純収入維持率 (NRR)
NRR は、既存顧客からの売上の増減を表しており、ビジネスが成長しているか停滞しているかを確認できます。NRR は、MRR 値を含む次の方法で計算できます。
NRR (%) = (月初めの合計 MRR + 拡大 MRR − 解約 MRR − ダウングレード MRR) ÷月初めの合計MRR × 100
上記の計算方法で NRR が 100% を超えると、その月のビジネスが順調に成長していることを表します。
顧客獲得コスト (CAC)
CAC とは、新規顧客を獲得するための 1 人あたりのコストを指します。サブスクリプションビジネスを成功させるには、新規顧客を獲得する必要があります。CAC とは、獲得コスト (広告費など) の費用対効果のことです。
CAC を使用すると、顧客獲得にかかるコストと、顧客獲得に費やした投資を回収するために必要な売上額を確認できます。
CAC は次のように計算されます。
*CAC = 顧客獲得コスト ÷ 新規顧客の獲得数 *
ユーザー 1 人あたりの平均収益 (ARPU)
サブスクリプションなど、継続的な利用を通じて収益が生じるビジネスにおいて、ARPU は収益性と成長の可能性を測定するための重要な指標です。
収益をユーザー数で割ることで ARPU を計算できます。
APRU を改善するには、顧客満足度とロイヤルティを高める必要があります。これを達成するには、サービス品質やカスタマーサポートなど、カスタマーサクセスに焦点を当てたアクションと戦略を優先するべきです。
サブスクビジネスにおける KPI 設定のポイント
サブスクビジネスの KPI については、単体での評価とならないよう、組織全体で目標を一致させながら、効果的な KPI を設定する必要があります。
財務に基づく KPI
サブスクビジネスの成功は、継続的な収益確保をはじめ、ビジネスの成長と拡大にあります。サブスクの場合、提供されるサービスの多くは先行投資型となるため、支障なく資金を回収するためには、財務に基づく KPI の設定が重要となります。キーポイントとなる KPI については先ほどご紹介した、LTV 、MRR、ARR、解約率、CAC、ARPU が挙げられます。
カスタマーサクセスに基づく KPI
カスタマーサクセスとは、顧客が抱える潜在的な悩みごとを、商品やサービスによって解決し、顧客にとってベストとなる成功体験を支援する取り組みを指します。
顧客から受ける問い合わせに適宜対応する、受動的なカスタマーサポートに対し、カスタマーサクセスは、能動的にアクションをとることで顧客と関わる点が大きな違いです。なお、カスタマーサクセスに基づく KPI の設定は通常、顧客の契約開始、更新前のタイミングで行われます。
カスタマーサクセスにおいても LTV は、顧客との長期的な関係を確立し、ビジネスの収益性を向上させるために重要な KPI の 1 つです。LTV 以外では、アップセル・クロスセル率 (アップセル率: 追加機能が備わった上位レベルのプランに乗り換えた割合、クロスセル率: もともとのプランに加え補完的な商品やサービスにも契約した割合)、そして解約率が挙げられます。さらに NPS® (Net Promoter Score。商品やサービスに対する信頼・愛着・支持、すなわち顧客ロイヤルティを数値で把握する指標) や、オンボーディング完了率 (新規の顧客がサービスを理解して利用を開始し、自分自身で問題なく利用できる状態に達した割合) が実用的です。
サブスクビジネスの KPI についてよくある質問
サブスクの解約を検討する人はどれくらいいますか?
ナイル株式会社は、2024 年 2 月に実施したサブスクサービスの利用実態に関するアンケート調査において、「7 割近くの人がサブスクサービスの解約を検討した経験がある」との結果を発表しました (10 代から 60 代の男女 605 人を対象)。
サブスクサービスの利用料金は 1 人 1 カ月あたりいくらですか?
上述した同社のアンケート調査によると、サブスクの 1 カ月あたりの利用金額は「全体の 75% が 3,000 円未満」という結果となりました。中でも「1,000 円から 3,000 円未満」が 31.4% と最も多く、続いて「500 円から1,000 円未満」が 27.1%、その次が「500 円未満」で 16.5% となっています。
サブスクビジネスの利益の計算はどうしますか?
利益を算出する際の一般的な計算方法は「売上高 − 売上原価」となります。
なお、サブスクビジネスにおける「売上原価」は、サービス提供などの運営に関する初期費用やランニングコストなどが該当します。「売上高」については、サブスクの場合、以下の計算方法で算出できます。
売上高 = 全体顧客数 × 顧客 1 人あたりの利用料金
上記の「全体顧客数」については、厳密には新規と既存の顧客が存在します。したがって、新規顧客の開拓と、既存顧客の継続率アップ (解約率の低減) こそが利益の向上に結びつくといえるでしょう。このほか、オプションサービスによって、1 人あたりの利用料金を上げることも視野に入れるとよいでしょう。
ほかにない価値の提供と適切な KPI を設定することが大切
今回はサブスクの KPI について、代表的な種類をご紹介しました。カスタマーサクセスの成果には、解約率の低下、顧客の維持、顧客単価の向上および新規顧客の増加などが挙げられます。こうした成果へと導くためには、自社の現状を把握するための指標、すなわち KPI の設定は欠かせません。
したがって、サブスクビジネスにおいてカスタマーサクセスを実現させるには、サブスクだからこそ提供できる価値を理解し、自社のサービスに最適な KPI を設定するようにしましょう。また、今回ご紹介した KPI 以外にも RPM (定期利益率)や GEI (成長効率性指標) など、さまざまな KPI がサブスクビジネスに用いられています。時代とともに変化する利用者のニーズを敏感に察知し、市場の動向に注視しながら適宜 KPI を見直すとよいでしょう。
サブスクについては、顧客が安心してスムーズに利用できるオンライン決済環境を整えておくことも大切です。たとえば、サブスクサービス事業の立ち上げを目指す事業者の方は、継続的な支払処理に特化した Stripe Billing を導入すると、顧客への定期的な請求や決済手段の提供、入金管理システムなど、サブスクに必要なさまざまな機能を利用することができます。また、それぞれ事業内容のニーズに合ったサブスクプランをデザインできるほか、サブスクに関わるあらゆる管理業務の効率化と最適化を実現できます。
今後もサブスクの市場規模は、さまざまな分野において拡大を続けると考えられています。顧客により良いサービスを提供できるようにするためにも、決済業務の最適化とともに効率的な運営を目指しましょう。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。