総収入維持率: その概要、計算方法、ビジネスにとっての意味

  1. はじめに
  2. 総収入維持率とは
  3. 総収入維持率の計算方法
  4. 売上維持率と総収入維持率
    1. 売上維持率
    2. 総収入維持率
  5. ビジネスにとって総収入維持率が重要な理由
    1. GRR がビジネスにとって重要な理由
    2. GRR が意味するもの
    3. GRR がビジネスに及ぼす影響
  6. 良好な総収入維持率の基準の目安
  7. 総収入維持率の改善方法

総収入維持率 (GRR) は、経常収益の安定性を測るための重要指標の 1 つです。GRR は既存の顧客基盤のみに焦点を当てて、どれほどの収益を維持できるかを把握するためのものであり、新規販売やアップセル、事業拡大のための取り組みは考慮されません。SaaS Capital の 2023 年のレポートでは、さまざまな規模の B2B の SaaS ビジネスにおける GRR の中央値は 90% ~ 93% となっています。これは、既存の契約から得ることができる標準的な収益を示しています。

以下では、GRR の詳細、計算方法、GRR がなぜ重要なのかについて説明します。さまざまなビジネス、特にサブスクリプションモデルを採用しているビジネスは、GRR を把握することで、収入パターンと、改善できる領域を明らかにすることができます。GRR は単純な指標ですが、ビジネスの健全性と戦略に深く影響するものです。

この記事の内容

  • 総収入維持率とは
  • 総収入維持率の計算方法
  • 売上維持率と総収入維持率
  • ビジネスにとって総収入維持率が重要な理由
  • 良好な総収入維持率の基準の目安
  • 総収入維持率の改善方法

総収入維持率とは

総収入維持率とは、ある特定の期間に既存の利用者から獲得した経常収益を基にビジネスの安定性を評価する指標です。アップセルやクロスセルからの追加収入は考慮されません。この指標は、組織が、確立された顧客基盤からどれほどの収益を維持できているかに注目した数値です。

総収入維持率の計算方法

総収入維持率は、新規販売や顧客拡大の影響を考慮せずに、経常収益の安定性を評価するためのものであり、組織の経済的な安定性の状況をより明確に示しています。

GRR の計算方法:

GRR = (開始 MMR - ダウングレードまたは解約された MRR) / 開始 MRR x 100%

各値の定義は以下のとおりです。

  • 開始 MRR は、対象期間の開始時点の月間経常収益です。
  • ダウングレードまたは解約された MRR は、対象期間中に利用者がサブスクリプションをダウングレードまたは解約したために失われた経常収益です。

たとえば、月初の MRR が $100,000 で、月内にダウングレードとキャンセルによって $5,000 を失ったとします。この場合の GRR は以下のようになります。

開始 MRR: $100,000

損失 (ダウングレードとキャンセル): $5,000

GRR の計算:

開始 MRR - 損失 ($100,000 - $5,000)
= $95,000 / 開始 MRR ($100,000)
= 0.95 x 100
= 95%

このビジネスの月末時点の GRR は 95% になります。この結果は、このビジネスが既存の顧客からの当初の収益のほとんどを維持していることを示します (計算では拡大は考慮していません)。

実際的な観点から見ると、一貫して高い GRR は、安定した経常収益基盤を示しています。GRR が下降し始めた場合は、製品、料金体系、または顧客満足度に関連する潜在的な問題を示す早期警告と捉えることができます。この知識があれば、潜在的な問題に速やかに対応して、収益源の安定性を維持することができます。

売上維持率と総収入維持率

売上維持率 (NRR) と総収入維持率は、ビジネス、特にサブスクリプションベースのサービスなどの経常収益モデルを採用しているビジネスにとって重要な指標です。NRR と GRR の違いは、以下のとおりです。

売上維持率

  • 定義: NRR は、一定期間に現在の顧客からの既存の売上をどの程度維持できているかを測定するものです。アップグレード、ダウングレード、解約も考慮されます。

  • インサイト: NRR は、顧客売上の健全性の全体像を示しています。NRR が 100% を超える場合は既存の顧客基盤からの成長を示し、100% 未満の場合は顧客満足度または製品の適合性に潜在的な問題がある可能性を示しています。

総収入維持率

  • 定義: GRR は、ある特定の期間に既存の利用者から獲得した経常収益の安定性を評価するものであり、アップセルやクロスセルの影響は考慮されません。GRR は収益の維持率を純粋に評価した指標です。

  • インサイト: GRR は、ビジネスの収益の自然な維持に焦点を合わせた指標です。高い GRR は、製品の市場適合性と顧客満足度が高いことを示唆します。この指標が低下し始めた場合、中核的な製品またはサービスに、より大きな問題があることを示唆する可能性があります。

どちらの指標も収益の維持を評価するものですが、NRR は収益のプラス (拡大) とマイナス (解約と縮小) の動きを、より総合的に扱います。一方、GRR は、収益のマイナスの動きに厳密に焦点をあてたものであり、収益の安定性について、より保守的な見方を示したものです。顧客売上の健全性の体像を把握するには、この両方の指標を注意深く観察する必要があります。

ビジネスにとって総収入維持率が重要な理由

総収入維持率は極めて重要な指標の 1 つであり、追加販売や拡大の影響を考慮せずに、既存の顧客基盤だけに基づいて経常収益の安定性を評価します。GRR を詳しく調べることで、ビジネスの財務健全性をより的確に把握できます。

GRR がビジネスにとって重要な理由

  • 収益の安定性の指標: 堅実な GRR は、ビジネスにその基盤となる収益を維持する能力があることを示すものであり、既存の顧客との安定した関係を表しています。中心となる収益を持続し拡大できるということは、現在のサブスクリプション登録者に提供している価値が認められていることを意味します。

  • 予測可能性: 安定した GRR によって、収益源の予想可能性が高まります。これは、ビジネスの計画立案と予算管理にとって極めて貴重です。より正確な財務目標を設定、自信をもってリソース配分を行えるようになります。

  • 顧客ロイヤルティの評価: アップセルは考慮されませんが、GRR は顧客ロイヤルティの指標としての役割を果たします。利用者がダウングレードせずに定期的に更新している場合、製品やサービスに対する満足が持続していることを示します。

GRR が意味するもの

  • 基幹製品やサービスの健全性: GRR は基幹製品やサービスに重点を置き、拡張については考慮しません。高い GRR は、そのビジネスの基本的な製品やサービスが利用者の気持ちを捉え続けていることを示唆します。

  • 解約の詳細: GRR から、ダウングレードまたは完全な終了によって、どれほどの収益を損失したかについてのインサイトが得られます。NRR と違って利用者の感情全体を捉えたものではありませんが、製品やサービスが一部の利用者の期待に達していない領域を知るための糸口となります。

  • 業務効率: 一貫した GRR は、ビジネスの事業運営が優れていることの証しであり、カスタマーサポート、製品提供、その他の運営面が効率的に実施されていることを示唆します。

GRR がビジネスに及ぼす影響

  • 戦略的調整: GRR の傾向を認識することで、ビジネス戦略の重要な変更を生じさせる場合があります。GRR が下降し始めた場合は、製品機能の改善、価格戦略の変更、あるいはカスタマーサポートの向上を検討した方がよいでしょう。

  • 利害関係者へのアピール: 利害関係者と投資家は、ビジネスの健全性の指標として収益源の安定や拡大を求める傾向にあります。安定した GRR は、既存の収益基盤を維持する能力があることを示すことで、利害関係者に安心を提供します。

  • リソースの最適化: GRR を監視することで、リソースをどこに割り当てるべきかを明らかにすることができます。GRR が下降している場合は、新規顧客獲得よりも、顧客体験の向上や基幹製品の改良の取り組みに力を入れた方がよいでしょう。

GRR は基礎的な指標であり、経常収益の回復力、基幹製品やサービスの健全性、そして顧客基盤のロイヤルティを評価するのに役立ちます。持続的成長と財政的予測可能性を優先したい場合は、GRR を注意深く観察することが重要です。

良好な総収入維持率の基準の目安

総収入維持率はあらゆる企業に欠かせない指標です。特に、SaaS 分野やその他のサブスクリプションベースのモデルを採用している企業には不可欠です。では、GRR の基準が良好と見なされるのは、どのような場合でしょうか。

一般に、GRR が 85% 以上であれば健全と見なされますが、理想的な基準は業界やビジネスモデルによって異なります。以下を参考にしてください。

  • SaaS ビジネス: SaaS ビジネスの場合は GRR が 90% 以上であることが理想です。業績の良い SaaS ビジネス、特にエンタープライズ (大企業顧客) セグメントでは、95% 以上の GRR を達成する場合もあります。

  • 顧客サブスクリプションサービス: 利用者の好みが不安定な性質であることから、このサービスの GRR の基準はやや低めの傾向があり、80% を超えると健全と見なすことができるでしょう。

  • 従来型のビジネスモデル: サブスクリプション型以外のビジネスや、技術分野以外のビジネスの場合、GRR の基準は業界標準、競合製品、市場状況によって異なります。

  • スタートアップと成熟したビジネス: スタートアップ、特にアーリーステージのスタートアップは、製品の改良を重ねる必要があり、市場適合性を確保するために、GRR が低くなる可能性があります。これに対し、顧客基盤が確立されていて、定評のある製品を有する成熟したビジネスの場合は、より高い GRR が期待され、それに向けての努力も行われます。

これらの基準は一般的なガイドラインとなるものですが、最適な GRR は個々の状況の大きく依存します。特定のビジネスにとって良好な GRR は、そのビジネスの段階、対象顧客、価格戦略、競争環境などの要因によって異なります。

GRR の目標を高く設定することは重要ですが、この指標だけに固執すべではなく、他の主要な指標、たとえば、売上維持率、顧客獲得単価、顧客生涯価値などの指標と併せて分析して、ビジネスの総合的な健全性を判断する必要があります。

総収入維持率の改善方法

総収入維持率を改善することは、多くのビジネス、特にサブスクリプションモデルを採用しているビジネスにとって差し迫った課題です。堅調な GRR は既存の顧客基盤からの安定した収益源を意味し、基幹製品やサービスが利用者に支持されていることを示唆します。一方、GRR が低い場合は、数値を上げるために以下のような対応を行うことができます。

  • 利用者のフィードバック: 利用者からのフィードバックを積極的に求めましょう。定期的に調査やアンケートを実施すると、問題や不満のある領域を明らかにすることができます。これらの問題に正面から取り組むことで、ダウングレードやキャンセルを防ぐことができます。

  • 製品の改善: フィードバックや業界の新たな動向に基づいて、製品やサービスを継続的に改良しましょう。利用者のニーズに合わせて製品を進化させていくことで、ユーザー基盤を維持できる可能性が高まります。

  • 事前対応的なカスタマーサポート: 問題を抱えた利用者が問い合わせてくるのを待つのではなく、事前対応的なサポートシステムを確立しましょう。チュートリアル、ウェビナー、または定期的な製品更新情報を提供して、よくある問題は先手を打って回避します。

  • 柔軟な料金体系: 料金体系が原因で利用者がダウングレードしたり解約したりしていることが分かった場合、より柔軟な料金体系オプションや価格帯を導入することを検討しましょう。多様な料金体系を用意することで、より幅広い利用者のニーズに対応できます。

  • 利用パターンを観察する: 利用者がどのように製品を使用しているのか、分析しましょう。あまり使用されていない機能がある場合、その機能について知られていない、あるいは複雑すぎることが原因である可能性があります。機能を目立たせたり、シンプルにしたりすることで、ユーザー体験を向上させることができます。

  • 更新のリマインダー: 時には、利用者が無意識にサブスクリプションを失効させてしまうことがあります。更新日までに自動リマインダーを送ることで、更新するかどうかの決断を保留している利用者を引き留めることができる可能性があります。

  • コミュニティーを作る: 利用者の間にコミュニティー意識を生み出しましょう。フォーラムやユーザーグループを設置したり、コミュニティーイベントを開催したりすると、利用者に連帯感を生じさせ、解約を防ぐことができる可能性があります。

  • 契約の構造: 長期契約を提供し、早期更新や複数年契約に有利な条件を設けましょう。これにより、収益が確保され、より安定した顧客関係を構築できます。

全体的に見て、GRR を上げるには、利用者について理解し、提供する製品やサービスを改善し、顧客エンゲージメントを通して利用者に積極的に関わる必要があります。利用者とのそれぞれのやり取りが、価値を強化し、信頼を築き、長期的な収益の安定性の下地を作る機会となります。

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