インバウンド (inbound) とは、「外から中へ」、「内向き」を意味します。旅行業界でよく耳にすることが多く、海外からの訪日旅行客、訪日旅行そのものを表す言葉として用いられます。
コロナ禍の終息以来、今日の日本では海外からの旅行客が急増しています。そのため、主要都市だけでなく、各地方でも観光づくりが活発化しており、事業者によるインバウンドビジネスの参入が顕著になっています。また、円安の影響もある中で、インバウンドの需要がこれまで以上に高まっており、今後も市場がさらに拡大することが見込まれています。
本記事では、日本のインバウンドビジネスの需要について、今後の見通しや事例などを踏まえて解説します。
目次
- インバウンド需要とは
- インバウンド需要の推移・動向
- インバウンド需要の今後の見通し
- インバウンド需要がある業界
- インバウンド需要を取り込むポイント
- インバウンド需要に対応したビジネス事例
- インバウンド需要に関するよくある質問
- 事業者がインバウンド需要に備えるために
- Stripe Terminal でできること
インバウンド需要とは
冒頭でも解説したように、インバウンドとは海外から日本を訪れる旅行客および旅行そのものを指します。つまり、インバウンド需要とは「日本国内の商品やサービスに対する訪日旅行者のニーズ」ということになります。
インバウンド需要のわかりやすい一例としては、「爆買い」が挙げられます。電化製品をはじめ、化粧品のような消耗品、衣類の販売において免税に対応している店舗で訪日旅行客が商品を大量に購入する行動は、その典型例といえるでしょう。
経済産業省 によると、インバウンド需要は GDP 統計では「輸出」の 1 種として位置付けられています。また、インバウンド需要については、宿泊や観光、外食などの輸出できないサービスや商品を、国内で提供できることが特徴的で、これらの国内消費額が訪日旅行客によって増えるほど、日本経済に潤いをもたらすことができると考えられています。
インバウンド需要の推移・動向
世界規模で深刻となった新型コロナウイルス感染症による影響をはじめとし、近年の円安や、各国の政権交代や自然災害による経済の動きなど、わたしたちを取り巻く環境は日々変化しています。これらはインバウンド市場にも直接的な影響を与えており、インバウンド需要の動向にも大きく関わりがあります。
インバウンド需要の推移については『日本の観光統計データ (日本政府観光局) 』によると、訪日外国人旅行客数が年々増加傾向にあることがわかります。同データの「年別訪日外客数の推移」を見てみると、特に 2000 年以降の上昇が顕著で 2024 年の年間総数に関しては、コロナ禍以前を含む過去最高となっています。
2000 年以降のインバウンドの動向についてもう少し掘り下げてみましょう。
# ビジット・ジャパン・キャンペーン
まず、こうしたインバウンドの動向の背景としては、2003 年に政府が宣言した「観光立国」に基づく「ビジット・ジャパン・キャンペーン 」が挙げられます。国土交通省が軸となるこのキャンペーンでは、「2010 年に訪日外国人 1,000 万人突破」を目指して「YOKOSO! JAPAN」のスローガンとともにスタートしました。なお、先ほどのデータを見てみると、2003 年当時の訪日外国人旅行客はおよそ 520 万人となっており、2010 年頃には 860 万人を超える客数を記録しています。こうした訪日外国人旅行客の増加には、同キャンペーンが寄与していると考えられます。
また、ビジット・ジャパン・キャンペーンは、日本国内で深刻化する高齢化社会や、各地の人口減少による低迷した経済を回復させるため、新たな消費基盤を生む戦略の一環としてさまざまなプロジェクトが実施されています。このように、訪日旅行客によるインバウンド消費 (日本国内での商品やサービスの購入) を喚起し、後押ししていくことで、インバウンドの需要を一層高めることを目的としています。
東日本大震災の影響と観光復興への取り組み
訪日旅行者数は、これまで年々増加傾向にありましたが、2011 年は東日本大震災による影響で約 620 万人まで激減しました。しかし、翌年の 2012 年以降、徐々に回復して行くようになります。
震災の被害を大きく受けた東北地方についても、2015 年には東北 6 県の外国人宿泊者数が震災前 (2010 年) の水準を超え、2019 年には宿泊者数が 150 万人を突破したことが復興庁 の資料に記録されています。これは、震災後の観光復興や、東北のインバウンドの需要を高めるための観光づくりなどの取り組みが、少しずつ着実に歩みはじめ、実を結んだといえるでしょう。
その後のインバウンド需要の上昇
以後、訪日外国人旅行客はさらに増加の一途を辿ります。先ほど解説したデータからもわかるように、2019 年にはおよそ 3,200 万人と、それまでの最高記録を表しています。
コロナ禍の期間中、特に 2020 年から 2022 年は世界規模でインバウンド市場が落ち込みましたが、2023 年には新型コロナウイルス対策に関する規制が緩和され、再び訪日ブームが到来し、インバウンド需要は確実に高まり始めます。そして、2024 年における年間の総数については、3,600 万人超えとなり、2019 年をしのぐ過去最高を記録しました。
近年は為替が円安に大きく傾いていることもあり、海外からの訪日旅行客にとっては、旅行のコストを下げられるため、こうした為替の変化もインバウンド市場が拡大する要因の 1 つでもあります。
インバウンド需要の今後の見通し
ここまでで、これまでのインバウンドの動向について説明しました。では、現在さらなる盛り上がりを見せるインバウンドの需要について、今後どのような見通しを立てることができるでしょうか。
日本政府観光局 によると、大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー (Condé Nast Traveler)』が 2024 年 10 月に発表した米国版および英国版の読者投票で、日本が「世界で最も魅力的な国」として 2 年連続で第 1 位に選ばれました。
前章で解説したように、コロナ禍終息後のインバウンド需要は、以前からのインバウンド市場の成長に加え、近年の大幅な円安が大きく影響しています。さらに、ゲームやアニメなどのサブカルチャーが世界的にも人気を集め、欧米や欧州諸国からの訪日のほか、アジア圏からのインバウンドも増えています。よって、インバウンドの需要は今後も向上し続けることが予想されています。
なお、インバウンドの見通しとしては、コロナ禍によって一時期失われた需要が、水際対策の段階的な緩和に伴い回復し始め、2023 年 4 月の撤廃後に急速な回復を遂げたように、過去のデータに基づいて動向を推測することができます。
インバウンド需要がある業界
訪日外国人旅行客は、日本だからこそ得られるさまざまな商品やサービスを求めています。ここでは、インバウンドで集客を目指すにあたり、実際にはどのような業界に需要があるのか、代表的なものをご紹介します。
- 宿泊業界: ホテル、旅館、民泊、コテージ、長期滞在型宿泊施設など
- 小売業界: デパート、家電量販店、ドラッグストア、コンビニ、駅弁・土産物屋、雑貨・民芸品店など
- メーカー: 家具・家電メーカー、食品メーカー、化粧品メーカーなど
- 飲食業界: レストラン、大衆食堂、居酒屋、喫茶店、バーなど
- 観光業界: テーマパーク、美術館・歴史博物館、温泉など
- 交通業界: 航空、新幹線、地下鉄、バス、タクシーなど
上記の中で最もインバウンド需要が高いのは、宿泊業界ではないでしょうか。どの国へ旅行するにあたっても、滞在先を確保することは必要不可欠です。特に近年では、訪日旅行客の増加に伴うホテルや旅館などの需要がより一層高まっているため、供給数が追いつかないケースも見られ、ホテルや旅館以外に民泊を利用する旅行客も増えています。
また、飲食業界としては、寿司のような代表的なものから B 級グルメ、居酒屋など、日本ならではの価格と質を楽しめる多種多様な飲食店が注目を集めています。このほかにも、各地方の特産物やグルメ食材が人気となっており、外国人旅行客からの認知度も高まっています。
インバウンド需要を取り込むポイント
訪日旅行客からの需要を高めていくためのインバウンド対策としては、多言語に対応したサービス、文化的背景や価値観に寄り添った柔軟なサービスの提供など、さまざまな視点から対策を講じる必要があります。
ここでは、インバウンドビジネスにおいて事業者が注目しておくべき以下の 3 つのポイントについて解説します。
決済インフラを整える
インバウンド需要を高める対策として、海外から日本を訪れる観光客に、柔軟性や利便性に優れたサービスを提供することはとても重要な要素です。これは、インバウンドに対応する決済手段に対しても同じことがいえます。
日本では、地域によっては現金のみに対応している店舗も多く、キャッシュレス決済ができないケースがよくあります。そのため、今後さらに多くの観光客に向けたビジネスを展開するには、各事業者がキャッシュレス決済を導入するなど、幅広い地域においてキャッシュレス決済の普及に努めることが大切といえるでしょう。
SNS やウェブサイトによる情報発信
自社のサービスを知ってもらうためには、旅行中のアドバイスやヒントなどの情報発信も欠かせません。したがって、自社のサービスを世界に発信することを目的とする SNS アカウントの運営やウェブサイトの構築についても検討するとよいでしょう。
インバウンドの補助金を活用
東京や大阪などの主要都市をはじめ、よりローカルな地域の観光づくりを進めるには、インバウンドの補助金について知っておくことが大切です。
補助金は国や地方公共団体がインバウンドビジネスを展開する事業者を支援するためのものです。補助金には対象業種や対象者が設けられており、費用については自社で一旦負担し、その後必要書類を提出することで補助金を受け取ることができます。
インバウンドの補助金は特徴として、地域活性化につながる分野や施策に関連して制定されることが多く、こうした補助金を活用すれば、今後のマーケティング活動や事業の拡大計画に役立てることができるでしょう。
持続可能な観光づくり
事業者がインバウンド市場に参入する際に、忘れてはならないのが、持続可能 (サステイナブル) な観光への意識です。持続可能な観光とは、言い換えると自然環境や地域に配慮した観光づくりを目的とすることです。特に最近では、世界規模でサステイナブルなライフスタイルが重視されています。そのため、日本国内でのインバウンドビジネスにおいても、環境にやさしい製品開発や施設運営が求められます。
このほかにも、地域社会と触れ合えるボランティア活動やイベントを開催したり、地域とのつながりを重視した体験型サービスの提供も、持続可能なインバウンドビジネスとして、観光づくりを後押しできるでしょう。
このような持続可能な観光への取り組みは、訪日旅行客からも支持されやすく、好印象を与えるため、今後のインバウンド需要において、とても重要な要素といえます。
インバウンド需要に対応したビジネス事例
ここでは、インバウンド需要に応じて事業者側が講じた対策内容とビジネスの成功事例をいくつかご紹介します。
ハウステンボス
ハウステンボスは長崎にあるテーマパークで、再現されたオランダの美しい街並みや、パーク内の四季折々の花が人気を集めています。ハウステンボスでは、自治体と協力して訪日外国人へのアピールを積極的に行っており、日本人だけでなく、海外からも多くの観光客が来園しています。
ハウステンボスのインバウンドへの具体的な対策としては、複数の言語に対応したサービスの提供が挙げられます。パーク全体の楽しみ方を伝えるための音声ガイドサービスについては、日本語のほか、英語、中国語、韓国語の 4 つの言語で提供しています。また、公式アプリでは、日本語以外にも英語、繁体字、簡体字、韓国語、タイ語に対応しており、施設の待ち時間状況の確認やレストランの整理券発行などが行えるようになっています。
マツモトキヨシ
日用品、食品、化粧品や医薬品などのさまざまな品目を取り揃えるドラッグストアは、誰でも気軽に利用できるため、訪日外国人からも好評を得ています。中でもドラッグストアチェーンの大手、マツモトキヨシの場合、外国人旅行客に柔軟に対応するため、多言語による商品説明や接客を行っています。多言語でのアプローチを可能にさせたマツモトキヨシのインバウンド対策は、小売業界の成功事例として代表的といえるでしょう。
これに加えて、マツモトキヨシでは多様な決済手段の提供や、インバウンド需要が高い地域への積極的な出店など、インバウンドを意識した取り組みを講じていることも特徴的です。
ドン・キホーテ
総合ディスカウントショップのドン・キホーテもインバウンドの需要に対応した成功事例の 1 つです。他店ではあまり見られない内装が特徴のドン・キホーテですが、外国人旅行客が求める項目をしっかりとおさえており、多言語による店内放送や表示だけでなく、全店舗において免税手続きが可能で、利用規約の同意だけで接続可能な無料 Wi-Fi も設置されているなど、幅広く柔軟にインバウンドのニーズに応えています。
このように、ドン・キホーテの場合、外国人がストレスフリーに買い物を楽しめるサービスに徹している点が、一線を画しているといえるでしょう。
インバウンド需要に関するよくある質問
インバウンドと観光客の違いは何ですか?
「外から中へ」を意味するインバウンドは、海外から日本を訪れる旅行客、あるいは、旅行そのものを指す言葉です。一方で、観光客は、海外、日本国内に関係なく、観光を目的に国や場所を訪れる人、観光地を訪問する人を意味します。
インバウンドの反対は何ですか?
インバウンドの対義語として、居住する国から別の国へ出向く旅行客、または国外へ出向く旅行のことをアウトバウンド (outbound) といいます。
インバウンド需要の問題点・課題は?
インバウンド需要が高まることで生じる問題点や課題には、オーバーツーリズムによる影響が挙げられます。具体的には、路上のごみ問題、騒音問題、公共交通機関への過度な負担などが懸念されています。これらの問題については、各自治体と協力しながら、観光づくりへの一環として対策を立てる必要があるでしょう。
また、利用したい決済手段が使えないため、買い物を断念するケースもあるため、特にローカルな地域の決済インフラについては、今後強化していく必要があります。
事業者がインバウンド需要に備えるために
今回は日本のインバウンド需要について、推移と動向、今後の見通しなど、さまざまな項目について解説しました。
コロナ禍以降、しばらく停滞していたインバウンド市場ですが、長期にわたる外出自粛がなくなった今、より一層訪日ブームが活発化していくと予想されています。
今日のインバウンド需要において、ビジネスを成功に導くには、訪日外国人が安全かつ快適に日本旅行を楽しむにはどのようなサービスが最適か、あらゆる角度から調査する必要があります。また、訪日旅行客の文化的背景や宗教、価値観を理解し、決済環境を含むさまざまなニーズに柔軟に応えられるよう、インバウンド需要に備えるようにしましょう。
Stripe Terminal でできること
Stripe Terminal はユニファイドコマースのためのソリューションです。対面チャネルとオンラインチャネルを統合し、収益拡大を実現させます。新しい支払い方法、シンプルなハードウェア、グローバルな対応、数百の POS とのコマース連携により、理想的な決済環境を構築できます。
Stripe は、Hertz、URBN、Lands’ End、Shopify、Lightspeed、Mindbody などのユニファイドコマースを強化しています。
Stripe Terminal の特徴
- ユニファイドコマース: グローバルプラットフォームでオンラインと対面決済を一元管理し、統合された決済データを利用できます。
- グローバル展開: 1 つのシステムと主要な決済手段で、24 か国への拡大が可能です。
- 自社に合った導入: 独自のカスタム POS アプリを開発する、サードパーティーの POS や EC システムを使って既存のテックスタックと連携するといったことができます。
- シンプルなハードウェア: Stripe 対応のリーダーを注文、管理、監視できます。
Stripe Terminal について詳しくは こちら をご覧ください。今すぐ開始する場合はこちら。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。