サブスクリプションを用いたビジネスモデルは、近年、ますます多くの商業分野に広がっています。サブスクリプション市場における収益は 2025 年までに 1 兆 5,000 億ドルに達すると予想され、わずか 9 年間で 435% の増加が見込まれます。しかし、この成長には大きな課題が伴います。その最大の課題がサブスクリプションの解約です。2022年の KBCM Technology Group の報告によると、民間のサービスとしてのソフトウェア (SaaS) 企業は、毎年 14% (中央値) の収益の減少、13% (中央値) の利用者離れを経験しており、さらに非更新率も 10% (中央値) に上るとされています。
サブスクリプションの解約はビジネスにとって大きな問題となる可能性があります。解約はビジネスの経常収益に直接影響するため、この問題に正面から取り組まなければ財務の安定性が脅かされることになります。サブスクリプションモデルを採用する企業が増えるにつれ、解約への対応はより複雑化しており、競争が顧客維持をめぐる利害対立を高めています。この記事では、サブスクリプションの解約について深く掘り下げ、ビジネスがこの課題に立ち向かい、競争力を維持するために必要な知見をご紹介します。
この記事の内容
- 解約率の概要
- 解約率がなぜサブスクリプションビジネスにとって重要なのか
- 解約の種類
- 解約率の計算方法
- サブスクリプションの解約を減らす方法
解約率の概要
サブスクリプションビジネスにおいて、解約率とは、利用者またはサブスクライバーが一定期間内にサブスクリプションを中止する割合を指します。これは、利用者全体に対するサービスの利用を停止するサブスクライバーの割合を数値化したものです。
解約率がなぜサブスクリプションビジネスにとって重要なのか
解約率がサブスクリプションビジネスにとって重要な理由として、以下のような点が挙げられます。
収益の予測可能性
サブスクリプションビジネスは、経常収益を前提に運営されています。収益が予測可能で安定していれば、より優れた計画、投資計画、成長戦略が立てられます。解約率が高くなるとこの予測可能性が損なわれ、企業が収益を予測し、リソースを効果的に配分することが困難になります。顧客獲得単価 (CAC)
多くの場合、新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりも費用がかかります。解約率が高くなるということは、それは失った顧客を補うための費用を企業が負担しなければならないことを意味します。特に、解約率が新規顧客獲得率を上回ると、ビジネスの収益を圧迫する恐れがあります。顧客生涯価値 (LTV)
LTV とは、企業が 1 つの顧客口座から期待できる妥当な収入の総額を指します。高い解約率が LTV の低下に至るのは、顧客が新しく何かを購入したりサブスクリプションを更新したりする前に離れて行ってしまい、それによって顧客 1 人当たりから得られるであろう総収入額が減少するためです。成長への複合的な影響
維持された顧客は、サブスクリプションを継続し、他の人への紹介という 2 つの方法で企業の成長に貢献します。顧客を 1 人失うということは、サブスクリプションを失うということだけでなく、その顧客が紹介してくれたかもしれない潜在的な新規顧客を失うということでもあります。商品とサービスについてのフィードバック
解約が続くということは、製品やサービスにより根深い問題があることのサインである可能性があります。顧客が定期的に離脱している場合、それは未対応の懸念事項、アンメットニーズ、または改善が必要な領域があることの表れかもしれません。解約の継続的なモニタリングには、重要なフィードバックメカニズムとしての役割があります。ブランドの評判
高い解約率は、ブランドの評判を落とすことになります。ネット上のレビューや口コミが顧客の購買決定に重要な役割を果たしている E コマース環境では、口コミが一貫して否定的であったり、多くの利用者がサービスを離れているという印象があったりすれば、新規加入を検討している人に二の足を踏ませる恐れがあります。業務効率の向上
解約が多いからといって絶えず新規顧客を取り込もうとすれば、従業員、訓練、テクノロジーなどのリソースを必要とします。これはビジネスにとってコスト増となり、また他の成長戦略や革新的な取り組みに割けるリソースを削ぐことにもなります。投資家からの信頼
外部からの投資を求める企業にとって、解約率の低さはビジネスの健全性と持続可能性を示す指標となる可能性があり、逆に解約率が高ければ、投資家を警戒させ、資金調達が困難になる可能性があります。
解約の種類
解約について理解することは、それを減らす鍵でもあります。様々な種類の解約は、利用者の行動とビジネスの健全性についてそれぞれ異なる見通しを与え、その予防と対策にも異なる戦略が必要となります。
サブスクリプションビジネスにみられる主な解約の種類を以下にご紹介します。
自発的な解約
自発的な解約とは、利用者がサービスや製品との関係を終わらせることを決めることを意味します。代わりになる他の良い製品を見つけたり、製品やサービスに不満を感じていたりしたのかもしれません。または、単にそのサービスを必要としなくなっただけかもしれません。意図しない解約
この種の解約は、利用者が意図的にサブスクリプションを終了させたのではなく、利用者がコントロールできない理由で終了した場合に発生します。よくある原因としては、クレジットカードの有効期限切れ、銀行による支払い拒否、その他の支払いに関する問題などがあります。能動的な解約
能動的な解約とは、利用者が意図的かつ能動的にサブスクリプションを解約することを指します。カスタマーサービスに電話やメールで連絡するか、「登録解除」ボタンをクリックするなどして解約します。受動的な解約
これは、利用者が能動的に解約を選択したのではなく、サブスクリプションの更新や支払い情報の更新を怠ったためにサブスクリプションが終了した場合に発生するものです。意図しない解約と結び付けられることが多いですが、利用者が単に更新するのを忘れたり見落としたりすることで起こる場合があります。粗解約率
これは、新たに獲得した利用者を除外して、特定の期間内に失った利用者の総数または収益の総額を評価するものです。粗解約率がわかれば、既存顧客がどれだけいるか、あるいはビジネスがどれだけ収益を失っているかを全体的に把握することができます。純解約率
純解約率では、特定期間中に失った利用者または収益と新たに獲得した利用者の両方を考慮します。損失と利益の両方を考慮することで、企業の成長または衰退をバランスよく見ることができます。製品の解約
このタイプの解約は、複数の製品やサービスを提供するビジネスに特有のものです。製品の解約は、利用者がある製品の使用を中止するものの、同じ会社の別の製品を使い続ける、あるいは使い始めるときに発生します。契約型解約
これは、SaaS の年間サブスクリプションや携帯電話の契約など、契約が運営に含まれているビジネスに特有のものです。この種の解約は、契約終了後、利用者が更新しないことを決めた場合を言います。非契約型解約
月額ストリーミングサービスや E コマースのサブスクリプションなど、有期契約を使用しないビジネスにおいて、非契約型解約とは、利用者が契約に違反することなくいつでも離脱できる場合を言います。
様々な種類の解約を理解することで、企業は具体的な問題を診断し、戦略を練り直し、それぞれのビジネスに合った顧客維持対策を開発できるようになります。製品、サービス、カスタマーサポート、請求プロセス、その他のどの分野に問題があるかを見極め、問題に効果的に対処する上でも役立ちます。
解約率の計算方法
解約率を正確に計算することは、顧客維持を理解し、懸念事項を見極める上で重要です。サブスクリプションビジネスの解約率を計算する方法を以下に順序立ててご説明します。
時間枠を選ぶ: まず解約率を評価する期間を決めます。例えば 1 カ月、四半期、あるいは 1 年ごとに評価する場合が考えられます。その選択は、しばしばビジネスサイクルや、貴社における業績評価の頻度に左右されます。
開始時カウントの確認: 選択した時間枠の開始時点での能動的なサブスクライバー数または利用者数を数えます。これが出発点であり、ベースラインとなります。
終了時カウントの確認: 選択した時間枠の終了時点で、アクティブな登録者または利用者が何人残っているかを確認します。この数字は、その期間内に獲得した新規利用者数を除いたものでなければなりません。
差を計算する: 開始時カウントから終了時カウントを引きます。ここから、その期間中に解約した利用者数がわかります。
解約率の決定: 解約した利用者数を開始時カウントで割ります。結果に 100 を乗じて百分率を求めます。これが解約率です。例えば、月初に 1,000 人の利用者を獲得し、月末に950人 (新規利用者を除く) となった場合、50人の利用者を失ったことになります。すなわち、月間解約率は以下のとおりです。
50 ÷ 1,000 = 0.05
0.05 x 100 = 5%変則を考慮する: 以上が基本の式です。しかし、ビジネスモデルや設定によっては、この式を変化させる必要があります。例えば、失われた収益をより重視するのであれば、利用者数を収益に置き換えて収益ベースの解約率を計算します。
計算頻度の設定: 計算式は同じですが、多くの場合、企業はより細かな分析を得るために解約率を毎月計算し、それを四半期ごとまたは年ごとにまとめて広範な見通しやトレンドを取得します。
データを洗練する: 集めるデータが増えてきたら、様々な顧客層、製品ライン、または獲得チャネルごとに解約率を計算することを検討しましょう。これにより、ビジネスのどの領域で定着率が高いまたは低いかを、より具体的に知ることができます。
サブスクリプションビジネスにとって、解約率を理解し、これを定期的に計算することは欠かせません。解約率を計算することで、維持顧客層を明確に把握し、また潜在的な問題の徴候を早期に知ることができるため、企業は顧客満足度を高め、損失を減らすために積極的な対策を講じることができます。
サブスクリプションの解約を減らす方法
サブスクリプションの解約を減らすことは、サブスクリプションを用いたビジネスを長続きさせ、収益性を高める鍵となります。定期サブスクリプションの解約に対処する重要な戦略を以下にご紹介します。
オンボーディング体験の拡充
利用者がサブスクリプションを申し込んでから最初の数日間は重要です。オンボーディングが充実していれば、利用者はサービスの価値を理解するため、早期解約を減らすことができます。簡単なチュートリアル、ウォークスルー、チェックリストを活用できます。優れたカスタマーサービスを提供する
迅速、有用かつフレンドリーなサポートは、利用者が留まるか否かの分かれ目となります。スタッフの訓練に投資し、24 時間体制のサポートを提供することで、大きな差をつけられます。定期的な更新と改善
停滞は解約につながります。定期的に機能、コンテンツ、その他のアップデートを追加することで、利用者がサービスに継続的な価値を見出せるようにします。積極的に働きかける
メールキャンペーン、プッシュ通知、あるいは電話を利用して、アクティブではない利用者に働きかけます。気づいていないであろう機能について知らせたり、問題に直面している場合はサポートを提供したりしましょう。フィードバックを実施する
解約した利用者からフィードバックを求め、その理由を理解しましょう。これは、改善すべき点を見出すための貴重なデータです。柔軟な料金プランを設定する
サービス料金を支払う余裕がないために去っていく利用者もいます。割引の提供や、段階的な価格設定モデル、「ライト版」サービスの導入を検討しましょう。意図しない解約を最小限に抑える
更新のリマインダーを送ったり、複数の決済手段を提供したり、Stripe の自動カード更新機能などを使って期限切れのクレジットカード情報を自動的に更新したりすることで、意図しない解約を最小限に抑えることができます。ロイヤルティプログラムまたは特典の導入
長期サブスクリプション登録者に報いることで、ロイヤルティを育むことができます。報酬は、割引、限定コンテンツ、その他の特典という形で与えることができます。解約指標のモニタリング
解約指標をモニタリングすることで、問題が大きくなる前に発見し、対処することができます。Stripe のようなプロバイダーは、解約状況を詳細に分析し、企業が積極的に解約に対処できるよう支援しています。こうしたプロバイダーと提携することで解約指標をモニタリングし、対処できるようになります。個別化に投資する
個人の嗜好や利用パターンに合わせて体験をカスタマイズすることで、エンゲージメントを高めることができます。利用者が自分に合ったサービスだと感じれば、留まる可能性は高くなります。サービスから期待できることを明確に伝える
マーケティング資料、オンボーディングプロセスおよび利用者とのコミュニケーションにおいて、サブスクリプションによりどのようなサービスが期待できるかを明確に伝えましょう。コミュニティの構築に関わる
利用者同士のコミュニティ意識を醸成することで、感情的なつながりを生み出し、顧客ロイヤルティを向上させることができます。企業は、フォーラム、ウェビナー、ソーシャルメディアグループを通じてこれを実現できます。解約時調査を行う
利用者が解約を決めたら、その理由を理解できるよう、解約時アンケートに答えてもらいましょう。このフィードバックをもとに、戦略を調整します。カムバックキャンペーンを実施する
解約した利用者をターゲットに、特別オファーや新機能を提供し、再登録を促します。このような人たちはすでにサービスに慣れ親しんでいるため、多くの場合、新規利用者を獲得するよりも獲得費用が低くなります。
どのような戦略を採用するにしても、定期サブスクリプションの解約を減らすには、先手と後手の戦略を組み合わせる必要があります。フィードバックとデータに基づいてこれらの戦略を洗練させることで、企業は解約を抑え、サブスクリプション分野で持続的な成長と収益性を生み出すことができるようになります。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。