サービスとしてのソフトウェア (SaaS) ビジネスの料金体系は、数学、心理学、推測の組み合わせのように思えるかもしれません。十分な料金を請求しないと、提供している商品の価値が低いと思われてしまうかもしれません。ただし請求額が高すぎると、顧客は購入をためらったり、競合他社に目を移したりするかもしれません。料金体系により、商品の認知のされ方、アップグレードのタイミング、経時的な収益拡大の度合などが決まります。
2024 年には、全世界で推定 30,800 社の SaaS 企業が存在し、数百万人の顧客にサービスを提供しています。以下では、ソフトウェア企業にとって最も効果的な料金モデルと戦略、および成長のためにそれらを微調整し、一般的な課題に対応する方法を見ていきます。
この記事の内容
- ソフトウェア企業が料金を決める方法
- 最も一般的なソフトウェア料金モデル
- ソフトウェア企業にとって最大の料金関連の課題
- SaaS 企業がソフトウェア料金を改善する方法
ソフトウェア企業が料金を決める方法
ソフトウェアの料金体系は、顧客が喜んで支払う金額と一致する必要があります。また、競合他社に対してもほどよい位置につけて、長期的なビジネスモデルに適合する必要があります。ソフトウェア会社が料金を設定するときのよくある方法は、次のとおりです。
コストベースの料金体系と価値ベースの料金体系の比較
料金体系には、大きく分けて 2 つのモデルがあります。
商品の構築・運用にかかるコストに基づいて課金
顧客にとっての商品の価値に基づいて課金
コストベースの料金体系は簡単です。企業は、開発、ホスティング、サポート、およびその他のビジネスニーズのコストを集計し、マージンを追加して利益を上げます。このタイプの料金体系では、ビジネス側のコストはカバーできますが、顧客が支払う意思のある金額は反映されません。商品が価値を提供する場合、コストベースの戦略を採用すると、収益を低下させる可能性があります。
価値ベースの料金体系では、商品が顧客にもたらす影響に基づいて請求します。たとえば、100万ドルの取引をより迅速に成立させるのに役立つソフトウェアの場合、コストが比較的低かったとしても、月額500米ドルは請求して構わないかと思われます。この料金体系には調査が必要ですが、収益を最大化し、料金を認知されるメリットに結び付けることが可能です。
競合他社と顧客の期待に目を向ける
顧客がオプションを比較するのと同じように、企業は料金を決定する際に多くの要因を考慮する必要があります。いくつかの方法で、自社を位置付けることができます。
競合他社よりも低料金にして、予算が限られている購入者を誘い寄せる
相応の料金にして、機能、エクスペリエンス、サポートで勝負する
料金は高めにし、パフォーマンス、プレミアム機能、ブランドの格式を提供する
直接的な競争だけでなく、企業は顧客が予期する料金レベルも考慮する必要があります。たとえば、ほとんどの企業がユーザーごとに課金しているのに、ある会社が定額プランを提供している場合、確かにお得ではあっても、顧客を混乱させる可能性があります。さらに、同様の商品が月額 30 ドルから 100 ドルの範囲で、ある会社が 300 ドルを請求する場合は、その料金を説得力のある理由で正当化する必要があります。
料金心理学を使って意思決定を行う
企業が料金をどのように提示するかは、顧客が料金をどのように認知するかに影響を与えます。ここでは、検討すべき料金戦略をいくつか紹介します。
アンカリング: 顧客が目にする最初の数字は、いつまでも印象に残るものです。たとえば、料金ページに月額 $100 のプランの前に月額 $300 のプランが表示されている場合、$100 の方が妥当に感じられます。しかし最安オプションが 30 ドルの場合は、同じ 100 ドルのプランは高すぎると感じるかもしれません。
おとり効果: 中間層のオプションを追加すると、最も高価なオプションがよりお得に見えるようになります。たとえば、ベーシックを 20 ドル、プロを 50 ドル、プレミアムを 55 ドルとすると、プレミアムレベルのアップセルが簡単になります。
9 の魔法: 商品の料金を 99 ドルに設定すると、100 ドルより安く感じられますが、それはたった 1 ドルの差です。
バンドルと割引: 企業は、月払いではなく年払いの場合に割引を提供可能です。これにより、お得な取引をしたと顧客に感じさせます。
経時的にテストし調整する
企業は、次のような料金体系を試して適応させる必要があります。
ウェブサイト上にさまざまな料金を用意して A / B テストを行う
割引を提供して料金に対する顧客の感度を測る
解約率を監視して、料金が高すぎる兆候がないか確認する
まず新規顧客に値上げを導入し、その後、他の顧客に対して調整を行う
最も一般的なソフトウェア料金モデル
企業がどのようなソフトウェア料金体系を選ぶかにより、顧客の期待値、購入の意思決定、収益などに影響が出ます。ここでは、最も一般的なモデルとその仕組みの概要を説明します。
ユーザー数料金
これは、標準的な SaaS の料金体系です。プロバイダーは、ユーザーごとに月額 (または年額) の固定料金を請求し、顧客は成長に合わせて拡張できます。このモデルは人気があり、例として Slack や Salesforce が挙げられます。利用する企業にとってはコストが予測可能になりますし、ソフトウェア会社にとっては収益が予測可能になります。シンプルであり、拡張しやすく、チームは手間をかけずに予算を立てられます。
ただし、大規模なチームの場合、あっという間にコストがかさむ可能性があります。一部の企業は、ログイン情報を共有することでコストの上昇を回避しようとしますが、これは機能の面で問題となる可能性があります。
階層型で機能ベースの料金体系
このモデルは、機能へのアクセス度に基づいて課金されます。多くの企業で、次のような階層型システムが使用されています。
基本プランは機能が制限されており、「スターター」プランと見なされることがよくあります
プロプランはすべての機能が用意されており、通常、ほとんどの顧客に適しています
エンタープライズプランには、カスタム料金、プレミアムサポート、またはサービスレベル契約 (SLA) があります
このアプローチを採用すると、顧客は小規模から始めて、必要に応じてアップグレードできます。また、重要な機能をペイウォールの内側に保持することで、ビジネスをより高い階層に誘導します。
このモデルは、さまざまな使用レベルで明確な価値の違いがある商品 (メールマーケティングプラットフォーム、デザインツール、コラボレーション機能を備えた商品など) に最適です。料金体系のレベルが顧客による商品の使用方法と一致していない場合、アップグレードは次への自然なステップではなく、強制的なアップセルのように感じられる可能性があります。
従量課金制の料金体系
顧客は、商品の使用量に基づいて請求されます。これは、クラウドコンピューティング (Amazon Web Services、Google Cloudなど) や分析ツール (Mixpanel、Amplitudeなど) に適しています。顧客は使用した分だけ支払うため、公正で直感的に感じられ、料金体系はビジネスの成長に合わせて拡大します。
ただし、このモデルは、特にコストの安定性を必要とする企業にとって、予測不能な面があります。一部の顧客は、請求額を抑えるために商品を十分に使用しない可能性があります。
フリーミアムモデル
「フリーミアム」では、コア商品は無料ですが、プレミアム機能には追加料金がかかります。例としては、Dropbox、Notion、Zoom などがあります。無料利用枠は機能しますが制限があり、それによりアップグレードが促されます。無料の商品は、新しい顧客を追加するには十分価値がありますが、アップグレードが必要であると感じるように制限されています。
フリーミアム商品の価値が高すぎアップグレードが不要と感じさせるようでは、SaaS 企業は購入完了率の低さに悩まされるかもしれません。
ソフトウェア企業にとって最大の料金関連の課題
ソフトウェアの料金を設定するにあたっては、顧客が支払う意思のある額、競合他社が請求する額、ビジネスの収益性を高める額のバランスを取ることが大切です。課題はいつでも発生する可能性があります。コストが上昇し、市場が変化し、現在のモデル適切性が大幅に失われる、などです。詳しく見てみましょう。
顧客が実際に支払う金額を決定する
料金設定の真の課題は、これまでの思い込みを乗り越え、人々が何を支払うかを理解する、ということです。調査や業界のベンチマークに頼っている企業もありますが、必ずしもそれがすべてに当てはまるわけではありません。代わりに、次のことを試してみましょう。さまざまな料金の A/B テストを行ったり、まず新規顧客に変更を導入したり、機能をバンドルしてアップグレードを促す要因を確認したりします。料金を決めるには、商品が何を実現するか、顧客がその商品の価値をどう思うかを、忘れずに検討することが重要です。
さまざまなタイプの顧客向けの料金
スタートアップ、中規模企業、大企業はすべて、異なる予算、優先順位があり、月または年度の固定コストにコミットしようとしています。10 人のチームでは妥当な料金でも、フォーチュン 500 企業にとっては安すぎる金額かもしれませんし、フリーランサーにとっては全く手の届かない金額かもしれません。そのため、多くの企業が何らかの段階制料金体系を用いています。ただし、階層型モデルを採用したとしても、適切なアプローチを見つける必要があります。最も安いプランが寛大すぎると、顧客はアップグレードしませんし、プレミアムレベルに価値があると感じられなければ、企業は競争に苦労するでしょう。
顧客を失わずに値上げする
ある時点で、大半の企業は元の料金体系が機能しなくなったことに気付きます。コストが増加したり、商品が進化したりして、古いプランは不適切になっていきます。しかし、値上げには注意が必要です。不用意に値上げすると、反発、キャンセル、悪評を引き起こす可能性があります。ここでは、戦略的に価格を上げる方法をご紹介します。
既存顧客には適用せず、新規顧客向け料金を上げる
価格が上昇している理由を顧客に明確に伝え、実際の改善につなげる
段階的に値上げを導入し、顧客の反応を確認する
過度な値下げをせずに競争する
多くの場合、市場にはより安価なオプションがあります。最も低い料金に合わせたくなるかもしれませんが、それは利益を減らし、商品の価値を下げる可能性があります。価格競争に巻き込まれるのではなく、以下の点で競争することが可能です。
より良い機能: 商品の質が競合他社を明らかに上回っている場合、料金はそれほど重要ではなくなります。
行き届いたサービス: 強力なカスタマーサポート、信頼性、使いやすさがあれば、料金が高くても正当化されます。
料金体系がより柔軟: 使用量ベースのモデルや適応可能なプランは、定額のサブスクリプション料金よりも公平に感じられる場合があります。
料金体系をシンプルにして収益を最大化する
多くの場合、顧客はシンプルな料金体系を好みますが、企業はさまざまなニーズに適応する料金体系モデルを好む傾向があります。この 2 つのバランスを取ることが重要です。料金体系が単純すぎると、商品を多用する顧客にとってはお得感がありますが、他の顧客は必要以上に支払っていると思われることがよくあります。料金体系が複雑すぎると、顧客は混乱したり、騙されていると思い込んだりする可能性があります。料金体系の最適化は、プランの詳細を正確にし、アップグレードパスを論理的にし、透明性を徹底させれば、簡単に実現できます。
ビジネスの成長に合わせて料金を調整する
スタートアップ企業にとって有効な料金体系が、成熟した企業で必ずしもうまくいくとは限りません。ある時点で、モデルは進化する必要があります。例は以下のとおりです。
定額料金からユーザーごとまたは従量課金の料金に切り替えて、顧客による商品の使われ方をより適切に反映する
より複雑なニーズに合わせた、大規模顧客向けのエンタープライズプランを導入する
有料プランに移行しない無料顧客が多すぎる場合に、フリーミアムモデルを調整する
国別に料金を管理する
ある国で妥当と思われる料金は、他の市場では効果的ではないかもしれません。一部の企業は、特定の国でより低い価格を請求して、現地の購買力を調整しています。また、特定の地域で高額になったとしても、どこでも同一料金を請求する企業もあります。どちらのモデルにも一得一失があります。
料金を地域に合わせて設定すると、ソフトウェアを入手してもらいやすくなりますが、より多額の運用オーバーヘッドが必要になります。
全世界の料金を一律にすると、財務は簡素化されますが、潜在的な顧客が除外されるリスクがあります。
現地通貨で請求すると、為替レートの問題は回避されますが、請求が複雑になる可能性があります。
SaaS 企業がソフトウェア料金を改善する方法
料金体系とは、商品に関する決定でもあります。つまり、購入者は誰で、どの程度使用されるか、効果的に拡張できるのか、または常に利益率を求めて戦わなければならないのか、が決まります。料金体系の最適化とは、商品、顧客、ビジネスに長期的に機能するシステムを設計することを意味します。ここでは、料金を改善する方法をご紹介します。
「平均的な」顧客向けの料金にしない
料金体系の間違いの多くは、万人向けの数値を編み出そうとするときに発生します。しかし、SaaS の顧客は、小規模企業、中堅企業、大企業など、それぞれ異なるグループに分類され、それぞれに異なる予算と期待事項があります。
中間層の料金にすると、小規模な顧客は高すぎると思うでしょうし、大規模な顧客は支払い額よりもはるかに多くの価値を得るでしょう。そうではなく、階層ごとに料金をセグメント化する必要があります。すべてのタイプの顧客に 1 つの価格帯を当てはめているとしたら、ほとんどの顧客にとって不適切であると思われます。
商品が実際に行うことに対して課金する
SaaS の価格設定の多くは、機能のリストを中心に構成されています (つまり、1 つの層には A と B が与えられ、次の層には C と D が与えられます)。しかし、顧客は機能にはあまり関心がなく、商品が実際に何をするかに注目する傾向があります。そのため、優れた料金体系ではコストと価値が結びつけられています。たとえば、メールマーケティングプラットフォームではリストのサイズに基づいて課金され、クラウドプロバイダーでは使用量に基づいて課金される場合があります。これらのモデルは拡張できるため、顧客はコストに見合った商品からより多くのものを得ていると感じます。
アップグレードのタイミングと理由を明確にする
効果的な料金体系は、顧客にアップグレードを強制するのではなく、適切なタイミングでリマインドします。適切なアップグレードトリガーには、次のようなものがあります。
便利だが機能が制限されているため、顧客が自然に限界を感じるようなる無料プラン
顧客のニーズの増加に応じて拡張できる従量課金制の料金
実際のビジネスニーズに合わせてロック解除できる機能
効果の低いトリガーには、次のようなものがあります。
売上を伸ばすためだけにコア機能を制限する
顧客が実際に必要性を感じる前にプランを切り替える
最高価格帯のプランに最高の機能をすべて埋め込む
年間プランの割引を見直す
標準的な SaaS 戦略では、年間料金に割引を提供しています。うまく機能するため広く採用されていますが、多くの企業はその固定観念を超えて考えをめぐらせていません。割引に対処するには、次のような他の方法を検討してください。
大規模なプランにより高い割引を提供して、価値の高い顧客を確保する
割引を選択的に使用する (特定のエンゲージメントレベルに達したが購入完了にいたらなかった顧客のみ、など)
年間プランに、限定機能、優先サポート、新ツールへの早期アクセスなどの付加価値を提供する
企業顧客が求める価値を提供する
大企業には、さまざまなレベルのサポート、決済セキュリティ、および連携が必要です。SaaS の料金体系において、エンタープライズクライアントを 10 人のスタートアップと同じように扱っていては、そのモデルは効果的ではないと思われます。エンタープライズ料金を設定する際は、以下の提供を検討してください。
柔軟な従量課金制モデル (ユーザー数、アプリケーションプログラミングインターフェイス [API] コール、データストレージを増やす、など)
事前設定されたプランを強制するのではなく、必要な分だけ支払うことができるモジュール式の料金体系
企業が実際に抱える懸念に対応したカスタム契約
疑問に答える料金ページを構築する
顧客が料金ページを見て考え込むようでは、購入プロセスが不必要に難しくなっているといえます。優れた料金ページは、適切なレベルを顧客自身で選択できるようになっています。自身で決められず営業に電話しなければならないとしたら、おそらくそのページは複雑すぎます。プランの違いを明確にリストアップし、顧客に複雑な暗算を強いることがないようにしましょう。
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