ミッションステートメントとは、組織の目標とそれを達成するための方法を簡潔に説明した文章です。事業者が顧客、従業員、世の中に対して何をするのか説明するものです。事業者の顧客のニーズ、製品とサービス、市場、中核となる価値感に関する目的と主な目標を明確に示します。多くの場合、この宣言で、共通の目標に向かって努力するように組織の利害関係者とスタッフの意欲を高めます。覚えやすいだけでなく、明確な方向性を打ち出してモチベーションを高める効果をしっかりともたらすものである必要があります。
ミッションステートメントには顕著な効果をもたらす力があるため、多くのスタートアップは、理想的なミッションステートメントを作れるか不安に思っています。この記事では、ミッションステートメントに含める内容、スタートアップに適したミッションステートメントの作り方をご紹介します。
この記事の内容
- ミッションステートメントの主な構成要素
- スタートアップにとってミッションステートメントが重要な理由
- ミッションステートメントの作り方
- スタートアップに適したミッションステートメントを作るためのベストプラクティス
- 事業戦略の中でミッションステートメントを実践する方法
ミッションステートメントの主な構成要素
ミッションステートメントでは、ビジネスの目的と方向性を伝え、ビジネスで実現することを社内と社外の利害関係者に説明する必要があります。
しっかりと練り上げたミッションステートメントには、一般的に次の要素が含まれています。
目的: この部分には、そのビジネスが存在する根本的な理由を記載します。組織の中核となる役割と、市場にどう貢献するかを宣言します。
目標: ミッションステートメントには、ビジネスで達成したい主な目標を大まかに記載します。詳細な計画ではなく、方向性を示すための大まかな目標です。
価値感: 事業運営の指針となる倫理面、文化面での企業理念を伝えます。価値観はビジネスのアイデンティティを形成する土台であり、意思決定の判断基準になります。
対象者: ビジネスでサービスを提供する対象の顧客や市場を具体的に記載することで、焦点が絞られた関連性の高いミッションステートメントになります。
独自性: 他社との違いを明確にする部分です。その市場内でのビジネスの独自性を簡潔に表現します。
スタートアップにとってミッションステートメントが重要な理由
ミッションステートメントは、セールストークを切り出すときに感じのよい印象を与えるだけではありません。適切に作ると、ビジネス全体の指針にもなります。スタートアップの場合、ミッションステートメントは企業文化や市場での位置付けなど、ビジネスのあらゆる面に影響を与える可能性があります。これは、目的主導型の持続可能なビジネスを構築するための重要な要素です。
ミッションステートメントが影響を与える可能性があるビジネスの側面としては、次のものがあります。
方向性と焦点: 多くの場合、スタートアップは急速な進化と変化の最中にあります。ミッションステートメントで揺るぎない方向性を示すと、チームは中核となる目標に集中できるほか、特に、先行きが不透明な時期や難しい意思決定を迫られている場合に、それを意思決定の指針とすることもできます。
アイデンティティと文化の構築: スタートアップが成長するにつれて、企業文化とアイデンティティも進化します。ミッションステートメントはビジネスのアイデンティティを形成し、明確に表現するものです。組織の価値観と目標に合う文化を構築するのに役立ち、同じ志を持つ人を引きつけて、社内で強力なコミュニティを築くことができます。
ブランドの差別化: 競争の激しい市場では、ミッションステートメントはスタートアップを差別化するのにも役立ちます。ミッションステートメントに、そのスタートアップならではの特徴と、それが重要な理由を明確に記すことで、顧客と利害関係者の共感を呼ぶブランドアイデンティティを確立できます。
戦略の足並みを揃える: 成長中のスタートアップや目標を切り替え中のスタートアップの場合、ミッションステートメントがあると、重要なすべての取り組みをビジネスの中核となる目的に沿ったものに揃えることができます。そのため、ビジネスの成長軌道と業務の一貫性を保てます。
投資家と顧客へのアピール: 多くの場合、投資家と顧客は明確な目的と方向性を掲げている事業者を探しています。ミッションステートメントで説得力のあるビジョンを明示していると、投資を呼び込み、顧客ロイヤルティを高めることができます。事業者の行動の背景にある論理的根拠が伝わり、似た価値観を持つ投資家の心に響くからです。200 社のミッションステートメントを対象にした調査では、37% は利害関係者に向けてビジネスが専門的に取り組む事柄を伝えるものであり、85% は顧客に向けてビジネスが専門的に取り組む事柄を伝えるものでした。
従業員のエンゲージメントとモチベーション: スタートアップは意欲の旺盛な従業員を求めており、従業員は重圧の中、限られたリソースで仕事をしなくてはなりません。意欲をかき立てる明確な目標をミッションステートメントに盛り込むと、従業員のモチベーションを高め、帰属意識やビジネスの目標に真剣に取り組む気持ちを引き出すことができます。ビジネスでの価値の生み出し方を明確に定めて従業員に伝えている企業では、従業員の 63% がモチベーションが上がったと報告していますが、定めていない企業でそう答えたのは 31% に留まりました。
長期的なビジョン: 一般的にスタートアップは当面の目標と生き残りに焦点を当てるものですが、ミッションステートメントは長期的なビジョンを示してくれます。目下の課題の先まで見ることができ、より大きな目標に向けて邁進する助けになります。
ミッションステートメントの作り方
スタートアップにとってミッションステートメントを作るのが難しい理由は、最初に重要な下準備をせずに作り始めるためです。このプロセスを効率的に進めるための具体的な手順を以下にまとめました。スタートアップのミッションステートメントの作り方を、最初から最後まで紹介します。
スタートアップの中核となる価値感と目的を把握する
ミッションステートメントを作るための最初のステップは、スタートアップの中核となる価値感と目的を定義することです。まず、基本的な質問から考えてみましょう。ビジネス上の意思決定の指針となる理念はどのようなものですか?業界やコミュニティにどのような影響を与えたいと思っていますか?このような価値感と目的がミッションステートメントの土台になります。
スタートアップの原点を振り返ってみましょう。創業ストーリーを紐解くと、中核となる価値感につながる情報が含まれていることがよくあります。解決しようとしている問題や対処しようとしているニーズを考えてみてください。これらの要素からは、スタートアップの経営に対するより深い動機と目的が見つかります。
価値感は単なる言葉ではなく、コミットメントであると認識することが重要です。誠実さ、イノベーション、顧客中心といった価値感は、事業運営のあらゆる面に現れます。顧客との関わり方や製品の設計、チームの構成の仕方に影響を与えます。
このようなことを考察すると、ビジネスに対する影響をより幅広く認識できます。業界の変革や人々の生活の向上、社会や環境をよい方向に変化させることを目指していますか?目的は大胆かつ達成可能なものである必要があります。チームを鼓舞し、前進する原動力となるようなものです。
このステップで、チーム、顧客、幅広い市場に本当の意味で結びついたミッションステートメントの土台を作ります。スタートアップが目指すことを宣言したものであり、ビジネスの方向性を示す指針です。
対象となる顧客を考える
使命は組織内だけでなく、サービスの提供相手となる人々の心に響くものでなければなりません。顧客はどのような人たちかを把握すると、その人たちのニーズ、望み、課題を理解できます。その知識を活用すれば、対象となる顧客に直接訴えかけるミッションステートメントができあがります。
徹底的な市場調査から始めましょう。対象となる顧客はどのような人たちですか?その人たちが重視していることは何ですか?その人たちの課題は何ですか?この調査では対象となる顧客の属性だけでなく、潜在顧客についての考え方も掘り下げます。ミッションステートメントを作成するために市場調査を実施することは、製品開発やマーケティング戦略にも役立ちます。
対象となる顧客のニーズや願望にどのように応えるか検討してみてください。成功につながるミッションステートメントは、提供する価値を説明するだけでなく、対象となる顧客の感情にも結びついています。スタートアップの価値観と目標が、顧客の価値観と目標にどのように重なるかを明確に示したミッションステートメントにするとよいでしょう。
共同で取り組む
ミッションステートメントは、1 人のリーダーや少人数の創業者の単なるビジョンではありません。新入社員も含めたチーム全体の大志と信念を反映し、会社のリーダーの高い視座でのビジョンを通して洗練された内容である必要があります。
スタートアップ内のこのようなさまざまな観点を取り入れるのには時間がかかりますが、そうすることで、より包括的で共感を呼ぶミッションステートメントになります。組織内のさまざまな部門やレベルの人に参加してもらいましょう。多様な情報がもたらされるため、スタートアップが目指すことと、それが社内でどのように捉えられているかを幅広い視点で把握できます。チームメンバー 1 人ひとりが自分の役割と経験に基づいてその人ならではの知見をもたらしてくれるため、作成プロセスが充実したものになります。
共同で取り組む際には、率直なコミュニケーションを重視し、全員にアイデアを共有してもらうようにしましょう。ブレインストーミングセッション、ワークショップ、気軽な意見交換を活用するとアイデアを出しやすくなります。目標は、全員の意見が歓迎され、聞き入れられる環境を作り出すことです。
協力してミッションステートメントを作ると、よりインクルーシブな内容になり、チームメンバーが責任感を持てるようになります。使命の作成に貢献したと感じた従業員は、使命を達成する意欲が強くなります。
必要に応じて定期的に見直す (ただしあまり頻繁でない程度)
ミッションステートメントは土台ですが、変更できないものではありません。スタートアップが進化するにつれて、新たな課題、市場、機会に合わせて使命を調整する必要が生じることがあります。使命を頻繁に変更するべきという意味ではありませんが、不変性と適応力のバランスを適切に見極める必要があります。ミッションステートメントは、スタートアップの進化に合わせて随時更新可能なドキュメントとして扱い、主なマイルストーンを達成したときや戦略の変更を行うときに見直しましょう。
ミッションステートメントを見直す際には、最初に作成したときと同じようにチームに参加してもらいます。そうすると幅広い視点が得られ、組織全体の認識を合わせて、責任感を持ち続けてもらうことができます。
現在の使命にスタートアップの現状と目標とする将来像が反映されているかを確認しましょう。現在の将来の方向性が反映されていますか?今もチームや顧客との関連性が高く、意欲を引き立てる内容になっていますか?
ただし、重要なのは、あまり頻繁に見直しすぎないことです。ミッションステートメントは揺るぎないアイデンティティと方向性を示すものでなければなりません。頻繁に変更すると混乱につながり、ステートメントで伝えたい目的がぼやけてあいまいになります。また、チームや顧客がスタートアップの中核となるアイデンティティとの結びつきを感じられなくなります。
スタートアップに適したミッションステートメントを作るためのベストプラクティス
スタートアップのミッションステートメントを作るには、戦略的思考、深い内省、クリエイティブな表現を融合させる必要があります。ここでは、参考になるベストプラクティスをいくつかご紹介します。
スタートアップのアイデンティティを深く探る: 表面的な知識からさらに掘り下げます。スタートアップの中核となる特徴、創業理念、解決する問題を探ります。そうすることで、検討すべきアイデアがたくさん集まります。
簡潔で効果的な内容にする: 簡潔でも効果的なのが優れたミッションステートメントです。記憶に残りやすく、短い文でスタートアップのビジョンが伝わるものにする必要があります。業界用語や複雑な言葉づかいは避け、明確でシンプルにすることが大切です。
自社固有の価値提案にフォーカスする: 自社が他社と違う点を明確に示します。たとえば、自社ならではの革新的な方法や、特定の価値を実現するために献身的に取り組んでいること、またはなかなか解決しない問題への新たな解決策などです。ミッションステートメントはこの価値を反映したものであるべきです。
長期的な目標と方向性を合わせる: 使命は、スタートアップの将来像と一致していなければなりません。使命は現状を反映しているだけでなく、長期的なビジョンの指針になるものである必要があります。
チームと協力して作成する: チームの多様な観点と知見を活用しましょう。そうすることで、ミッションステートメントは全員の心に響き、共通のビジョンを反映したものになります。
利害関係者を考慮する: ミッションステートメントは、従業員、顧客、投資家などさまざまな利害関係者が読むものであることを忘れないようにしましょう。そのすべての人に効果的に訴える内容にします。
意欲を高める内容にする: 使命は、行動とコミットメントを呼び起こすものである必要があります。チームのモチベーションを高め、対象者と感情面の結びつきを強めて、スタートアップが信頼に値する理由を説明します。
テストして改善する: 下書きができたら、社内の少人数や、一部の顧客またはメンターに対してテストしてみます。フィードバックを集めて、ステートメントを洗練させていきます。
企業文化に取り入れる: ミッションステートメントの確定後、単にウェブサイトで公開して忘れてしまったということのないようにしましょう。マーケティングや製品開発など業務のあらゆる面に、使命を取り入れます。
柔軟に変更できるようにする: スタートアップが成長して進化するのに合わせて、ミッションステートメントも積極的に変更しましょう。ただし、柔軟性と不変性のバランスは適切に保つ必要があります。
事業戦略の中でミッションステートメントを実践する方法
考え抜いて作成したミッションステートメントを実践に移すと、目標主導型の一貫性のある組織ができあがります。そのような組織は商業上の目標を達成でき、中核となる価値観と目的に忠実であり続けることができます。それを実現する方法をご紹介します。
戦略の足並みを揃える: 新市場への参入、製品開発、マーケティングなど重要なすべての計画と、ミッションの方向性が揃うようにします。すなわち、ビジネスの中核となる目的を果たしながら、収益拡大につながる意思決定を下すということです。
業務に取り入れる: ミッションステートメントを日々の業務に取り入れます。使命に記載した価値観と目標を、人材採用、カスタマーサービスの手順、ベンダーの選定などに取り入れるということです。たとえば、イノベーションを重視した使命の場合は、創造性と実験を促進する環境を作ります。
従業員が積極的に関わる: 従業員はミッションステートメントを認識し、自分の行動がそのミッションステートメントにどう貢献するのか把握する必要があります。定期的な研修とワークショップで、使命を企業文化に浸透させます。使命を考慮して日常業務や意思決定を行うように従業員に奨励します。
マーケティングとコミュニケーション: ミッションステートメントを社外向けのコミュニケーションの土台として使います。たとえば、マーケティング資料、広報活動、ソーシャルメディアなどです。製品やサービスの紹介の仕方や、顧客との関わり方を判断する基準にするとよいでしょう。
顧客体験: 使命を反映するように顧客体験を設計します。顧客満足度を重視した使命の場合は、営業やサポートを含めた、顧客とのすべてのタッチポイントでこの約束を果たせているか確認します。
業績指標: 財務面や使命の達成状況を測定する指標と重要業績評価指標 (KPI) を策定します。たとえば、顧客満足度スコア、従業員のエンゲージメントレベルなどの指標です。
経営陣とガバナンス: 経営陣は使命に取り組む姿勢を常に伝え、実践して見せる必要があります。たとえば、短期的な利益よりも使命を優先する難しい意思決定を下すなどです。ガバナンスの構造も使命を後押しするものでなくてはなりません。取締役と顧問はビジネスの中核となる価値観を体現するようにします。
フィードバックループ: スタートアップが使命をどの程度果たせているか、従業員、顧客、その他の利害関係者から定期的にフィードバックを集める仕組みを構築します。このフィードバックを参考にして、戦略と業務を調整します。
ストーリーを伝える: 自社が使命をどのように実践しているのか紹介するストーリーを社内外に伝えます。たとえば、顧客導入事例、従業員の業績、コミュニティへの参加などです。
見直して調整する: 事業戦略がミッションステートメントを適切に反映しているかどうか定期的に見直します。ビジネスが成長し、市場が進化するのに合わせて、調整できるように準備しておきましょう。
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