サブスクリプションの売上とは、製品、サービス、コンテンツなどを継続利用している顧客から、定期的な継続支払い (毎月、毎四半期、毎年など) を通じて企業が得ている収益のことをいいます。こうした収益モデルは、ソフトウェア、エンターテインメント、出版などの業界で人気があり、世界のサブスクリプション経済の合計取引額は、2028 年に 9,960 億ドルに達すると見込まれています。
サブスクリプションモデルは売上を予測しやすいため、企業は、長期的な成長を見据えながら計画を立てたり、投資したりすることができます。また、利用者は一般に、使い慣れたサービスや製品の利用を継続する傾向があり、他にはないメリットやそこでしか味わえない体験がある場合には、その傾向が強まるため、顧客ロイヤルティを高めやすいというメリットもあります。
サブスクリプションの売上を伸ばすことを目指している企業の多くは、売上を徐々に伸ばしていくという共通の目標を持っています。こちらのガイドでは、サブスクリプションの売上を伸ばす際に直面しやすい課題や、売上を伸ばすためのベストプラクティスについてご紹介します。
この記事の内容
- サブスクリプションの売上に関する課題
- サブスクリプションの売上を伸ばす方法
サブスクリプションの売上に関する課題
サブスクリプションベースのビジネスが直面する課題には、特定のコスト、運用上の諸課題、会社が成長するにつれて対応が必要になる規制のハードルなどが挙げられます。
顧客の獲得および維持のためのコスト: 新規の登録者を獲得し、既存の登録者を維持していくには、多額のコストがかかります。企業は、顧客を引きつけて維持するために、マーケティングキャンペーンやプロモーションの特典、顧客サービスなどに投資しなくてはなりませんが、そのためにかかるコストは収益性に影響を与えます。また、こうしたコストは、企業同士が同じサブスクリプション市場で潜在顧客を奪い合うことによって増加することもあります。
解約の管理: 解約率とは、サブスクリプションサービスの利用をキャンセルした登録者の割合を指します。これは、サブスクリプションベースのビジネスにおいては非常に重要な指標の 1 つです。解約率が高いと新規登録者を獲得する効果が弱まり、会社が成長しにくくなります。解約率を管理するには、顧客が利用を停止した理由を知り、顧客の懸念に対処することが必要になります。
インフラと業務の拡大: サブスクリプションの売上が伸びてきたら、企業は、増加した需要に対応できるように自社のインフラと業務を拡大しなくてはなりません。これには、技術的なインフラ、顧客サポート、請求システム、在庫管理 (物理的な製品を取り扱う場合) の拡大などが含まれます。拡大が効率的に進まないとサービスの中断につながり、顧客満足度や顧客の維持に影響を及ぼしかねません。
サブスクリプションの料金設定とパッケージ化: サブスクリプションに適した料金およびパッケージを決める作業は、複雑になりがちです。企業は、顧客に提供する価値と収益性との間でバランスをとる必要があります。価格が高すぎれば登録者数が下がり、安すぎれば収益を損ないます。ベストなバランスを見つけるには、継続的な市場調査、顧客からのフィードバック、競合他社の分析などが欠かせません。
法令遵守: サブスクリプションベースのビジネスでは、顧客のデータを集めてこれを処理することが頻繁に行われます。そのため、EU の一般データ保護規制 (GDPR) やカリフォルニア州消費者プライバシー法など、データ保護関連の法令を遵守することが必要になります。この要件を満たすことは、特に複数の管轄区域で活動している企業にとっては容易なことではありません。また、違反すれば会社の評判が損なわれて、法的な影響を招く可能性もあります。
コンテンツおよび機能の開発: 多くのサブスクリプションベースのビジネス、とりわけメディアやテクノロジー関連のビジネスにとっては、登録者を引きつけ、維持するためにはコンテンツや機能の開発が不可欠です。新鮮で高品質なコンテンツや革新的な機能を継続的に提供していくには膨大なリソースが必要であり、企業は、顧客の期待に応え、競争力を維持していくために、人材、技術、クリエイティブリソースに投資することが必要になります。
顧客体験: 顧客体験は、サブスクリプションベースのビジネスにとってとりわけ重要です。これを成功に導くには、長年登録しているロイヤルティの高い顧客を引き付けることがカギとなります。おすすめ情報のカスタマイズや顧客に合わせたコンテンツといったパーソナライゼーションの技術を使うと、顧客満足度を高めることができますが、そのためには高度な技術、データ分析、顧客のプライバシーや同意に関する細心の注意が必要になります。
財務計画: サブスクリプションの売上は、従来のビジネスモデルに比べると予測はしやすいものの、財務の正確な計画および予測は課題として残ります。企業は、解約率、季節変動、顧客の好みの変化などさまざまな要因を考慮する必要があります。不正確な予測は、キャッシュフローの問題につながり、企業の持続可能性に影響を及ぼす可能性があります。
サブスクリプションの売上を伸ばす方法
アップセルとクロスセル
既存顧客は、製品やサービスにすでに十分関心を持っているため、売上をさらに伸ばすには、機能が追加された上位レベルのプランを提案したり (アップセル)、補完的な製品/サービスを提案したり (クロスセル) します。
- 例: あるストリーミングサービスは、4K ストリーミングやユーザープロフィールが追加されたプレミアムプランを提案したり、商品やアフィリエイトサービスなどをクロスセルしたりしています。
選択肢が多く透明性の高い料金プラン
顧客は、幅広い選択肢とわかりやすさを歓迎します。さまざまな要素から成る段階的なサブスクリプションプランであれば、選択の自由度が高いため、多くの顧客に登録を促すことができます。
- 例: ソフトウェア企業の多くは、ベーシック、プロフェッショナル、エンタープライズといった複数のプランを用意し、それぞれの特徴を詳しく紹介しています。
紹介プログラム
紹介プログラムとは、口コミを利用して新規登録を促す方法です。支持者である既存顧客が推薦すると、話を聞いた人が、その製品やサービスに登録する可能性が高くなります。また、割引や特典などのインセンティブを活用して、既存顧客による紹介を促すこともできます。
- 例: ミールキットを取り扱うあるサブスクリプションサービスでは、紹介者と新規登録者の双方に1 カ月間無料の特典を用意しています。
役に立つアドオン
アドオンを使うと、登録者は自分の体験をカスタマイズすることができ、ユーザー 1 人あたりの平均収益 (ARPU) が向上します。カスタマイズは顧客満足度の向上や売り上げの増加に貢献します。アドオンは、コアな登録者向けの小さなオプションの拡張機能です。
- 例: ある音楽配信サービスでは、ハイファイサウンドをアドオンとして、あるいはファミリープランのバンドルとして提供しています。
優れた顧客サービス
優れた顧客サービスを提供することにより、解約率を下げ、顧客ロイヤルティを上げることができます。顧客はサービスに満足すると、登録を更新したり周りの人にサービスを勧めたりする傾向があります。顧客が選んだチャネルからサポートを提供することにより、顧客体験を向上させることができます。
- 例: あるサブスクリプションサービスの企業では、ユーザー登録のアドバイスをメールで先回りして伝えたり、24 時間体制でサポートを提供して問題にすぐに対処したりしています。
顧客維持の戦略
既存顧客の維持にかかるコストは、新規顧客の獲得にかかるコストに比べて、通常は低めです。登録者の関心をつなぎとめるには、サービスを長期間利用していない顧客向けのウィンバックのような戦略や、パーソナライズされたコンテンツを使うと効果的です。
- 例: あるサブスクリプションサービスの企業は、長期間ログインしていない顧客向けに優待割引を用意したり、ユーザー行動に基づくパーソナライズされたコンテンツを提案したりしています。
ロイヤルティプログラム
ロイヤルティプログラムは、サービスを長期間利用している登録者にインセンティブを与え、感謝の気持ちを示して、登録のさらなる継続を促すプログラムです。重要視されていると感じた顧客は、その企業へのロイヤルティを維持する傾向があり、その結果サブスクリプション期間が長くなります。
- 例: オンラインコースを提供しているあるプラットフォームは、長期間利用している顧客に「バッジ」や周年割引を提供し、引き続きそのプラットフォームを利用するよう促しています。
クレジットカードの事前登録を条件とした無料トライアル
クレジットカードの事前登録を条件に無料トライアルを提供すると、企業は、トライアルの乱用を抑えながら見込み客を獲得することができます。潜在顧客に製品を試してもらうことができるため、コンバージョン率の向上につながります。
- 例: あるソフトウェアサービス会社は、クレジットカードの登録を条件とする 14 日間の無料トライアル期間を設定し、登録するかどうかを顧客が判断できるようにしています。
年間割引
年間登録は、長期契約を奨励するもので、キャッシュフローの増加や解約率の低下につながります。年間登録で料金を割引し、顧客にさらに長い期間サービスを利用するよう促すことで、企業は収益の流れを予測しやすくなります。
- 例: あるフィットネスアプリは、年単位で契約した顧客には料金を大幅に割引しています。
A/B テスト
A/B テストとは、マーケティング戦略や料金ページ、サインアップのフローなどを開発するときに使用される方法です。さまざまなパターンをテストすることで、どのパターンが登録の促進に最も効果的かを見きわめることができます。
- 例: あるサブスクリプションサービスの企業は、料金ページのレイアウトやプロモーションメールを色々なパターンでテストし、最も効果的な方法を見きわめています。
パートナーシップ
相互補完的なビジネスと連携し、顧客基盤を拡大してクロスプロモーションの機会を生みだす方法です。関連する製品やサービスを提供している企業と協力することで、新たなユーザーとつながり、登録者数を増やします。
- 例: あるフィットネスアプリは、スポーツ機器メーカーと提携し、クロスプロモーションの機会を生み出しています。
コンテンツおよび機能のイノベーション
新しいコンテンツや機能を追加して製品やサービスを定期的に更新し、そのサービスを使い続ける理由を作ることで、登録者の関心を維持します。この方法は、顧客が常に新鮮さを求めるコンテンツベースのビジネスで特に重視されます。
- 例: あるストリーミングサービスは、独占コンテンツをリリースしたり、早期アクセスや革新的な機能を提供したりすることで、登録者の関心を引きつけています。
割引とプロモーション
割引やプロモーションで登録のハードルを下げて、新規登録者を呼び込む方法です。この戦略を使うときは、長い時間をかけて築いた知覚価値を損なうことがないよう、十分に気を付ける必要があります。
- 例: ある企業は、長期的な収益に影響が出ないようにしながら、トライアル期間または数カ月の割引期間を利用できるようにして、登録を促しています。
マーケティングと見込み顧客の獲得
効果的なマーケティングキャンペーンを行って、新たな登録者を呼び込む方法です。ソーシャルメディア、E メール、コンテンツマーケティングなどの複数のチャネルを活用することで、潜在的な顧客にリーチし、登録者基盤を拡大することができます。
- 例: あるサブスクリプションサービスの企業は、特定の顧客セグメントに特化した、的を絞ったマーケティングメッセージを用いることで、幅広いユーザーを引きつけています。
データに基づくインサイト
データ分析からは、顧客の行動や好みに関するインサイトを得ることができます。こうした情報は、解約率を下げ、解約リスクのある登録者を特定し、料金体系や製品開発を改良するのに役立ちます。
- 例: あるサブスクリプションサービスの企業は、顧客の使用パターンを分析してサービスを調整したり、長期間サービスを利用していない登録者に、好みに応じたウィンバックのオファーを送付したりしています。
登録プロセスの簡素化
登録、アップグレード、更新のプロセスをシンプルにすることで、ユーザー体験を改善し、解約率を下げることができます。複雑なプロセスは、機会の損失につながります。
- 例: ある企業は、登録やアップグレードのプロセスを簡素化したり、自由度の高い決済オプションを用意したりすることで、サブスクリプションの更新を促しています。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。