越境 EC とは、海外に住む消費者に向けて商品を販売する電子商取引を意味します。今日では日本のインバウンド需要の増加にともない、外国人による日本製品の認知度はさらに向上しています。これは、越境 EC を行う日本の事業者にとっても、日本ならではの品質やブランドとしての強みを活かして、自社ビジネスを拡大するチャンスを秘めています。これらの事業者が、越境 EC で日本から海外に商品を販売するにあたり、進出先として見過ごせないのが EC 市場規模が大きいアメリカです。
本記事では、アメリカの越境 EC 事情について、市場規模や市場の特徴、導入を検討すべき決済手段など、日本の事業者がアメリカを対象に越境 EC ビジネスを行う際におさえておきたいポイントについて詳しく解説します。
目次
- アメリカの EC 市場規模
- アメリカに向けて越境 EC を始める方法
- アメリカ向けの越境 EC で導入すべき決済手段
- アメリカ向けの越境 EC における配送方法
- アメリカ向けの越境 EC で注意すべきポイント
- アメリカの消費者ニーズに合う越境 EC を行うために
アメリカの EC 市場規模
アメリカ合衆国国勢調査局によると、2024 年のアメリカにおける EC 市場規模は前年と比べて約 8.1% 増となっています。さらに、EC による売上は、国内総売上の約 16.4% を占めています。
2020 年は、コロナ禍によって多くの小売店が閉鎖したため EC 市場が急速に拡大し、その後 2021 年以降の EC 化率は 14%、2023 年には 15% 台となっています。
なお、この推計によると、アメリカにおける EC 化率は今後も緩やかに上昇し続け、2027 年には 20% を超えると予想されています。
アメリカで EC 化率が高まる理由
2020 年以降、コロナ禍によって人々が外出を控えるようになり、実店舗の代わりに EC モールなどを利用して買い物をすることが一般化しました。また、インフレが続く中で、実店舗よりも安い価格で購入できる EC サイトへの需要が高まっていることも、EC 化率が高まっていることの要因となっています。
アメリカの消費者が越境 EC を利用する理由
アメリカの消費者が越境 EC を利用する理由については、比較的安い価格で商品を買える、国内にはないユニークな商品が欲しい、などが挙げられます。
たとえば、日本のサブカルチャーに関心のある、アメリカに居住する消費者の場合、ゲームやアニメの公式グッズを購入したくても、国内では正規の商品が手に入らない、または価格が高額となってしまうことがあります。一方、越境 EC を利用すれば、アメリカ国内と比べて価格が安くなる可能性があるほか、日本ならではの限定公式グッズが購入できるようになります。
またコロナ禍が終息し、アメリカから日本へのインバウンドによる消費が活性化している今日では、自国への帰国後に越境 EC によるリピート購入も期待できるといえるでしょう。
EC サイトの販促におけるアメリカ特有の文化的特徴
アメリカの EC 市場の文化的特徴としては、アメリカ特有のセールやキャンペーンが積極的に開催されていることが挙げられます。日本でも、元旦セールやゴールデンウィークセールがあるように、アメリカでも、独立記念日やメモリアルデーのほか、ブラックフライデーやサイバーマンデーなど、それぞれの季節や祝日に合わせて開催される販促イベントが多く存在します。
また、アメリカも日本と同様にギフト文化が盛んで、誕生日、クリスマス、結婚祝いや卒業祝い、ベビーシャワーなど、ギフトを用いて盛大にお祝いする傾向にあります。そのため、アメリカを進出先として越境 EC ビジネスを検討している日本の事業者は、アメリカの文化背景や人々の習慣についても、知識を深めておくことが大切です。
アメリカの主要な EC 事業者
経済産業省の報告書 (111頁) によると、アメリカの EC 市場における主要な事業者としては、市場シェアのトップに Amazon、Walmart、Apple、eBay がランクインしています。同報告書のグラフでは、Amazon が 39.6% と最も高い数値となっていますが、Amazon のシェアのうち、サードパーティー事業者が約 3 分の 2 を占めているため、実際には Amazon 独自のシェアは 3 分の 1 程度と考えられています。
なお、これらの企業の中には、日本からも越境 EC を目的としての出店が可能な企業もあります。 以下に、Amazon と Walmart、eBay を例にして解説します。なお、各 EC サイトによって出店方法や必要書類、要件が異なるため、これらの EC サイトを越境 EC で利用する場合は、各サイトで出店に関する情報について事前に確認しておくようにしましょう。
Amazon (アマゾン)
EC 業界として、市場シェアでトップにランクインしている Amazon (アマゾン) は JETRO (日本貿易振興機構) と提携し、日本企業の越境 EC を支援しています。そのため、日本からの出店者としても進出しやすい EC サイトといえるでしょう。
Walmart (ウォルマート)
アメリカ国内で実店舗として高い人気を誇る Walmart (ウォルマート) ですが、EC サイトにおいてもコロナ禍以降大きく売上を伸ばすようになりました。日本の事業者も出店が可能となっていますが、同サイトでは日本語に対応していないため、出店者側で日英のバイリンガルのスタッフを越境 EC に向けて起用する必要があります。
eBay (イーベイ)
日本の Yahoo!オークションのように、アメリカでは eBay (イーベイ) が、アメリカのオークションサイトの代表格です。日本からも海外製品を求める多くの消費者によって利用されていますが、アメリカに向けて越境 EC を行うことも可能です。越境 EC に始めて参入する個人事業主の場合、販売サポートが設けられているほか、日本語による越境 EC に関するマニュアルや Eラーニングなども用意されています。
アメリカに向けて越境 EC を始める方法
越境 EC の始め方は、細かく分けるとさまざまな方法がありますが、ここでは、日本からアメリカに向けて越境 EC を行う際に、知っておくべき主な方法を紹介します。
自社 EC サイトを構築して販売
自社EC サイトを立ち上げることで、越境 EC を行う方法です。EC サイトの構築と運営に際しては、アメリカでよく使われている決済手段の提供が可能かどうかや、アメリカでも幅広く認知されているプラットフォームを用いるとよいでしょう。
アメリカの EC サイトに出店して販売
前章で解説した、Amazon や Walmart のように、既存の EC サイトを利用して越境 EC を行う方法です。越境 EC の始め方としては、最も簡単な方法といえるでしょう。
アメリカの小売店に卸売りして小売店側の EC サイトから販売
この方法では、まずアメリカの小売店に対して自社商品をアピールし、気に入ってもらえた場合に小売店が商品を仕入れ、小売店側が EC サイトから商品を販売します。越境 EC としては、比較的ハードルの高い方法となるため、ある程度アメリカで認知度のある商品が望ましいといえるでしょう。
アメリカ向けの越境 EC で導入すべき決済手段
アメリカで利用されている EC での決済手段には、主に以下の 3 つが挙げられます。
- クレジットカード
- デビットカード
- ペイパル (Paypal)
アメリカで最も主流なクレジットカード決済は、EC サイト上でも多くの人によって利用されている決済手段です。また、ペイパル (Paypal) によるキャッシュレス決済も、利便性に優れていることから多くの EC サイトで利用が可能となっています。キャッシュレス決済にはさまざまなものがありますが、少なくともこれらの決済手段については、対応可能にしておくことが望ましいといえるでしょう。
Stripe では、クレジットカード決済などのキャッシュレス決済をはじめとする決済手段の導入や、情報処理および収益管理など、決済業務の効率化を後押しする機能を幅広く提供しています。たとえば、 Stripe Checkout なら、30 カ国以上の言語と 135 種類以上の通貨に対応し、越境 EC サイトの決済ページの最適化と簡易化を図ることができます。また、これによって、顧客へのスムーズで快適な決済体験の提供が実現できるため、購入完了率の向上にもつながります。
アメリカ向けの越境 EC における物流方法
日本から越境 EC で商品をアメリカの消費者に届けるにあたっては、「日本の倉庫から発送」する方法と「アメリカの倉庫から発送」する物流方法があります。
日本の倉庫から発送
日本国内で管理している在庫をアメリカの消費者に直接発送するため、利用する EC サイトが越境 EC に対応済みで、アメリカからの注文が可能な状態となっていれば、海外への出荷に対応できます。なお、日本から海外に商品を送る場合は、国際郵便 EMS のように、グローバルなトラッキングサービスや、補償サービスの充実した配送サービスを活用するとよいでしょう。
ただし、国際配送は国内配送とは異なり、費用が膨らむほか、輸送にかかる時間も長くなります。そのため、自社の収支のバランスを考慮しながら、顧客にとっても無理のない配送料金を設定することが大切です。また、これらのデメリットをカバーできるような、良質な商品とレベルの高い EC サービスの提供が鍵となります。
アメリカの倉庫から発送
事前に日本からアメリカの倉庫まで商品を備えておいて、アメリカ国内の消費者からの注文があった時点で商品を出荷する物流方法です。アメリカの倉庫に届くまでにかかる時間については、個々の注文に対して日本から直接発送する場合とは異なり急ぐ必要がなく、大量の商品を一度にまとめて海上輸送できるため効率的といえます。また、注文から配達完了までの日数は、日本からの直接配送に比べるとスピーディーで、顧客が負担する配送料金も安価となるため、顧客満足度の向上にもつながります。
ただし、アメリカ側で在庫を大量に抱えているにもかかわらず、想定外に在庫が売れ残ってしまった場合、日本に返送したり、廃棄処分しなければならないため、注意が必要です。また、倉庫の在庫管理については、空調設備の整っている、清潔で衛生面に配慮した倉庫を利用するなど、品質管理を徹底していることがとても大切です。
アメリカ向けの越境 EC で注意すべきポイント
アメリカへの輸入と関税
国を越えて商品を輸出入する越境 EC ビジネスには関税がかかります。そのため、輸入の際に発生する関税の対応がスムーズに行われるよう、日本から商品を輸出する際には適切な手続きが必要です。関税は品目ごとに定められており、世界共通の HS コードによって分類、明確化されています。また、アメリカの関税率は、一般税率、特別税率、法定税率の 3 つに分類されており、取引相手の国によってどの税率が該当するかが異なります。
関税は、越境 EC を行う日本の事業者が、海外の消費者に商品を販売するうえで事前に知っておくべき重要な要素です。そのため、他国を対象に越境 EC を行う場合と同様、日本からアメリカを対象に商品を販売する際の関税について、十分に理解を深めておきましょう。
なお、日本の消費税については、日本国内で消費されるものに適用されるため、越境 EC では消費税はかかりません。したがって、日本から海外へと越境 EC で商品を販売する事業者は、適切な手続きを踏むことで消費税の納税金額を抑えることができるため、越境 EC における消費税の知識を身につけておくことも大切です。
アメリカでの商品販売に関する制度
EC サイトでアメリカの消費者に商品を販売する際に、気をつけるべき項目について、以下にまとめました。
消費者保護: Federal Trade Commission (FTC) Act、Consumer Product Safety Act (CPSA)
知的財産保護: 著作権 (Copyright Law)、商標 (Trademark Law)、特許 (Patent Law)
製品ラベルなどの表示: Fair Packaging and Labeling Act (FPLA)、Nutrition Labeling and Education Act (NLEA)
電子商取引関連: CAN-SPAM Act、Children’s Online Privacy Protection Act (COPPA)
プライバシーおよびデータ保護: California Consumer Privacy Act (CCPA。カリフォルニア州の消費者が対象)
化学物質の使用や大気汚染などの環境関連: Toxic Substances Control Act (TSCA)、Clean Air Act
障がい者への配慮: Americans with Disabilities Act (ADA)
食品・医薬品: FDA (Food and Drug Administration)
おもちゃ・子供向け製品: CPSC (Consumer Product Safety Commission)
電気製品: Underwriters Laboratories (UL)
なお、気になる項目および制度についてより詳しくは、専門家に相談することをおすすめします。
アメリカの消費者ニーズに合う越境 EC を行うために
今回は、越境 EC の進出国としてのアメリカに焦点をあてて解説しました。日本の事業者にとってアメリカは、その EC 市場規模の大きさや、アメリカからの訪日旅行客による日本製品の認知度の向上などの観点から、進出先として見逃せない国といえます。
そのため、アメリカの消費者を対象とする越境 EC においては、多様な文化的価値観を持つ現地顧客に寄り添った柔軟な対応や、英語でのサービス提供が事業者に求められます。また、アメリカの消費者ニーズに合った越境 EC を行うには、現地の市場調査は欠かせません。したがって、市場や動向についても十分に調査を行い、自社商品がアメリカの消費者に適しているかどうかを見定めたうえで、ビジネス拡大と成長の可能性を探るとよいでしょう。
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