オーストラリアでは、ビジネスチャンスも義務も刻々と変化します。この国で小規模事業を営むということは、これらのチャンスをものにしながら、義務も果たさなければならないことを意味します。納税もその一つです。どのような税金が課されるのか、どのようにして登録すればよいのか、合法的に控除できる項目は何か、モメンタムを失うことなく法令遵守を維持するにはどうすればよいかなど、 あらゆる事柄への対応が事業者の財務健全性に大きな影響を与える可能性があります
以下では、オーストラリアで小規模事業者に課される税に精通し、納税義務を果たすための必須知識を取り上げます。
この記事の内容
- オーストラリアで小規模事業者が納付しなければならない主な税金
- オーストラリアの小規模事業者が納税登録を行うには
- オーストラリアの小規模事業者が受けられる課税控除
オーストラリアで小規模事業者が納付しなければならない主な税金
オーストラリアの小規模事業者の大半は、所得税、物品サービス税 (GST)、pay as you go (PAYG) (源泉徴収もしくは予定納税、またはその両方で)、さらに該当する場合はフリンジベネフィット税 (FBT) という四大納税義務を果たさなければなりません。事業者の規模とセクターによっては、給与税やその他の専門的な税金も併せて課される場合があります。正確な課税額は、事業者の構造 (個人事業主、会社、信託など) のほか、業種、収入、所在地によっても変わります。
所得税
すべての事業者は利益に応じて納税しますが、税率は事業者の組織構造によって異なります。
会社を経営している場合、標準法人税率は 30% ですが、売上高が 5,000 万豪ドル未満で、かつ利益の 20% 以上がアクティブ取引 (パッシブ投資ではない) に由来するときは 25% の軽減税率が適用されます。
個人事業主またはパートナーシップの場合は、すべての利益が個人の納税申告に記載されるため、個人所得の税率で課税されます。税率は、課税対象所得に応じた累進課税です。
GST
GST は、オーストラリアで販売されるほぼすべての物品とサービスに課される 10% の税金 です。年間売上高が 7 万 5,000 豪ドル 以上の場合は GST 事業者登録が必要です。登録後の流れは次の通りです。
10% の GST を価格に加算する
顧客から GST を徴収する
ビジネスアクティビティステートメント (BAS) をオーストラリア国税庁 (ATO) に提出する
必要経費に課された GST の還付請求を行う (仕入税額控除)
売上高が 7 万 5,000 豪ドル未満の場合、GST 事業者登録を行う必要はありませんが、GST 事業者登録をしないと、仕入税額控除を申請できません。起業コストにかかった GST を回収するために、あるいは大口クライアントの信頼を得るために自発的に GST 事業者登録を選択する小規模事業者もいます。
PAYG
PAYG 源泉徴収
従業員がいる場合は、次の手続きが必須です。
賃金から所得税を控除する
源泉徴収税額を ATO に納付し、BAS で申告する
従業員への給与支給を開始する前に PAYG 源泉徴収税の登録を行う
厳密に言えば、PAYG 源泉徴収税は事業者に課される税金ではありません。年間を通じて従業員の所得税を納付する仕組みです。
PAYG 予定納税
事業で多額の利益が生じた場合、ATO は、年度末の一括納付ではなく、翌年度を通じて所得税を分割で納めるよう求めてくることがあります。この四半期ごとの納税額は、前年度の利益または今年度の予想利益に基づいて算出されます。
給与税
所得税や GST と違って、給与税は州または準州が運用する税です。事業者の賃金総額が所定の基準を超えた場合に限り適用されます。たとえば、2025 年 7 月から、ビクトリア州では、支給する賃金の総額が年間 100 万豪ドルを超える事業者は、給与税を納付しなければなりません。
事業者が小規模な場合、この基準は無関係かもしれませんが、急成長を遂げて、複数の管轄区域で雇用を開始した場合は、自社の給与を調査の上、該当する場合は各州の歳入局に登録しなければなりません。
フリンジベネフィット税 (FBT)
FBT は、従業員に対して給与以外に次のような付加給付を提供する場合に適用されます。
社用車
有料駐車場
低金利のローン
イベントチケット
FBT は、雇用主が納付する連邦税です。上記のような付加給付の課税価格総額に対して課税されます。
この種の付加給付を提供する場合は、FBT の登録を行い、年次申告書を提出しなければなりません。多くの小規模事業者は、フリンジベネフィットを提供しない限り、FBT を課されることはありません。
その他の税金
このほか、特定の種類の事業と資産には、次に挙げる税金が課されます。
資産の売却益にかかるキャピタルゲイン税 (CGT)
アルコール、タバコ、燃料の関税
卸売ワインにかかるワイン均一化税 (WET)
所定の価格を超える車両にかかる奢侈自動車税 (LCT)
ほとんどの小規模事業者にとって、これらの税が日々の困りごとになることはありませんが、一部の業界や特定の成長段階では重い負担になる可能性があります。
オーストラリアの小規模事業者が納税登録を行うには
オーストラリアで納税登録を行うためには、タックスファイルナンバー (TFN) を取得しなければなりません。また、多くの場合、オーストラリアビジネスナンバー (ABN) の取得も必要です。登録の方法と必要なものについてご説明します。
TFN
どの事業者も、納税申告書の提出や、オーストラリア国税庁 (ATO) とやり取りのために TFN が必要です。個人事業者は個人の TFN を使用できますが、会社、信託、パートナーシップは、事業者用の TFN を別途取得しなければなりません。
TFN を別途申請することも、ABN 申請と同時に取得することも可能です。
ABN
ABNは、オーストラリア税務局 (ATO) の管轄下にあるオーストラリア商務登記官 (ABR) が発行する事業者用の 11 桁の ID です。請求書、事業活動報告書 (BAS)、政府のシステムなどでその事業者を識別するために使われます。
事業者は、ABR を通じて ABN をオンラインで申請できます。
ABN は次に挙げるような場面で必要です。
GST の登録を行う
GST の還付を申請する
法令に準じたタックスインボイスを発行する
GST
年間売上高が 7 万5,000 豪ドルに達した事業者は、GST 事業者登録を行わなければなりません。売上高がこの基準値に届かない事業者も任意で登録することができます。多額の資産投資が必要な設立当初の購入に関して GST 還付を申請するために登録する事業者もいます。
ABN を取得している事業者は、オンラインで登録できます。
PAYG (Pay As You Go) 源泉徴収
従業員の雇用を予定している場合は、初給与から所得税を源泉徴収する前に PAYG 源泉徴収税の登録を行う必要があります。
ABN を取得済みであればオンラインで登録できます。ABN をお持ちでない場合は、電話、郵送またはファックスで登録してください。
フリンジベネフィット税 (FBT)
さらに、自動車、レジャー、ローンなどの特典を従業員に提供する場合は、フリンジベネフィット税 (FBT) の登録を行う必要があります。ABN を取得済み場合は、オンラインで FBT 登録を行うことができます。ABN をお持ちでない場合は、電話、郵便またはファックスで登録してください。
州の税務登録
給与税は、州レベルまたは準州レベルで課税されます。事業者の売上高が所定の基準値を超えたときは、州の歳入局に別途登録しなければなりません。登録は通常、州のオンラインポータルで行います。
起業直後の事業者は、連邦政府の事業登録サービス (Business Registration Service) のウェブサイトを利用する方法が一番便利です。すべての税務登録をワンストップで処理できます。ABN、GST、PAYG 源泉徴収、FBT などの登録方法が詳しく書かれています。
オーストラリアの小規模事業者が受けられる課税控除
事業を営むということは重い責任を負うことを意味しますが、逆に控除を受けて課税対象所得を減額できるということでもあります。控除の対象 (およびそれを文書に残す方法) がわかれば納税額を大きく減らすことができます。日々の営業費用と長期投資の両方を含め、オーストラリアで適用されている主な控除と小規模事業者優遇措置をご紹介します。
一般経費
事業者は、収入の獲得に直接関係するほぼすべての費用を控除できます。たとえば、次のような費用です。
事務所賃貸料および光熱費
事業保険料
従業員の賃金およびスーパーアニュエーションへの拠出金
マーケティング、サブスクリプション、およびソフトウェアの費用
業務を目的とする出張 (空路、ホテル、移動中の食事など)
一部が個人負担となる経費 (共用の携帯電話など) については、業務に関わる部分のみを計上できます。領収書、請求書、ログは保管しておいてください。ATO は帳票を要求します。
減価償却および資産の評価減
一般に高額の購入品は時間の経過とともに減価償却されますが、中小企業は簡便なルールを利用して短期間で償却することができます。
資産の即時償却
総売上高が 1,000 万豪ドル未満の事業者は、2 万豪ドル未満の資産を即時償却することができます。資産 1 件につき 2 万ドルという基準値は、2023 年 7 月 1 日から 2025 年 6 月 30 日までの間に初めて使用または設置された資産に適用されます。対象となる資産の数に制限はありません。これは資産ごとに適用されるルールであり、総額の上限ではありません。
小規模事業者所得税控除
法人化されていない事業者 (個人事業主やパートナーシップなど) は、年間最大 1,000 ドルの税額控除を受けることができます。適用されるのは、売上高が 500 万豪ドル未満の事業者です。個人の所得税を申告すると自動的に適用されます。これは大きな金額ではありませんが、個人税と法人税の取り扱いの格差を埋める措置です。
キャピタルゲイン税 (CGT) 優遇措置
事業用資産 (または事業自体) を売却する場合は、小規模事業者 CGT 優遇措置の対象となり、キャピタルゲインにかかる税金が免除または減額されます。次のような措置が適用されます。
15 年間の免税 (経営者が退き、かつその経営者が当該資産を 15 年以上にわたって所有している場合)
有効資産の 50% 減額 (CGT 納付額が半額に)
退職免税措置 (最大 50 万豪ドルの利益を除外できる)
ロールオーバー救済 (新規資産への再投資によりキャピタルゲインを繰り延べできる)
これらの措置の多くは併用できますが、適用対象となる事業者は総売上高が 200 万ドル未満でなければなりません。
その他の控除および優遇措置
前払費用
対象期間が 12 カ月以下で、翌会計年度までに終了する場合に限り、翌会計年度以降に発生する費用を控除することができます。
立ち上げ費用
法務サービス、会計サービスなど、事業構造の準備中に発生した特定の立ち上げ費用は、時間をかけて資産として計上するのではなく、事前に全額控除することができます。
不良債権
今年度または過去の納税申告で、回収不可能な未払い所得を申告した場合は、その損失を控除することができます。ただし、その貸し倒れがきちんと記録されていなければなりません。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。