さまざまな業種の事業者が顧客データを分析して、ビジネスの健全性についてのインサイト、すなわちマーケティングや顧客獲得活動の有効性、商品やサービスへの定着率といったインサイトを明らかにしています。パフォーマンス指標を監視することで、カスタマージャーニーの非効率的な段階や欠点が存在する段階を調べることができます。
ビジネスの全体的な健全性や、顧客維持活動に潜在する問題を監視する際の指標として、企業で一般的に注目されるものは解約率です。解約率はさまざまな方法で、さまざまな期間を対象に測定できますが、多くの事業者、特に月次のサブスクリプションで商品やサービスを展開している事業者で標準的な測定基準となっているものは月間解約率です。ここでは、月間解約率とそこから得られるインサイトについて知っておくべきことをご紹介します。
この記事の内容
- 解約率の概要
- 解約率の前提となる期間
- 月間解約率の計算方法
- 月間解約率の最も効果的な用途
解約率の概要
解約率とは、特定の期間中に事業者の商品またはサービスの利用をやめた顧客の割合のことです。新規顧客の獲得には、既存顧客を維持するよりもコストがかかるため、多くの事業者にとって、この割合を低く抑えることが最も重要な目標となります。2020 年 7 月に大手 E コマース企業を対象に Yieldify が行った調査によると、ウェブサイトのパーソナライゼーションに関して、回答者の 58% が顧客維持に重点を置いて取り組んでいるのに対し、新規顧客の獲得に重点を置いているのは 45% でした。
解約率の高さは、顧客の不満を示し、事業者の商品、サービス、カスタマーサポートの問題を示唆します。反対に、解約率の低さは、顧客満足度が高く、自社へのロイヤルティが保たれていることを示します。解約率を監視し、それを下げるための対策を講じることで、安定した収益と成長を維持することができます。
解約率の前提となる期間
解約率の計算に使用される期間は、業種やビジネスモデルによって異なります。解約率計算の基準となる期間が異なれば、企業とその顧客維持活動の健全性について解約率から分かることもやや変わってきます。ここでは、解約率の計算で一般に使用される期間について、詳細を解説します。
日単位の解約率
- 使用されている業種
顧客と頻繁にやり取りする企業は通常、日次解約率などの指標を含め、顧客の毎日の行動や動向を監視する必要があります。たとえば、E コマースのウェブサイトは、毎日大量の取引を効率的に行えるようにしています。同様に、モバイルアプリケーション、特にゲーミングの分野は、変動する顧客エンゲージメントを毎日分析することでメリットが期待できます。 - メリット
解約率を毎日計算することで、顧客の離脱の原因となりうる懸念材料をすぐに特定し、問題に対処することができます。解決策を速やかに導き出し、適用することで、より大きな損失に拡大する前に未然に防ぐことができます。 - デメリット
毎日解約率を計算することは、速やかにインサイトが得られる反面、振れも大きく、長期的な傾向には結び付かない短期的な変動に対して過度な警戒心を煽る可能性があります。
月単位の解約率
- 使用されている業種
月間解約率の計算は、サブスクリプションベースのモデルでよく採用されています。たとえば、月単位で請求が行われる月刊誌、音楽・動画ストリーミングプラットフォーム、SaaS プラットフォームが該当します。 - メリット
月間解約率は、即時性と長期的インサイトを両立する指標です。これだけの期間があれば、傾向を把握できるだけのデータが得られ、直近のパフォーマンスが分かるため、短期的な計画も立てやすくなります。 - デメリット
顧客とやり取りする頻度が低い企業は、月単位の評価では全体像が得られない可能性があり、とらえにくい長期的傾向を見逃してしまうおそれがあります。
四半期単位の解約率
- 使用されている業種
四半期単位の解約率評価は、パフォーマンスレビューを 3 カ月ごとに実施する組織に支持されています。たとえば、多くの大企業がそれに該当します。 - メリット
四半期ごとに解約率を計算することで、顧客の行動をより大局的に把握でき、戦略的で長期的な計画が可能となります。また、これだけの期間があれば、日単位や月単位の測定に見られる短期的な変動の背景も、より詳しく捉えることができます。 - デメリット
解約率を四半期単位で見ることで比較的広い視野が得られる反面、顧客からのフィードバックに基づくスピーディーな調整が求められる事業者には、評価の頻度が低すぎる可能性があります。
年単位の解約率
- 使用されている業種
年間解約件数は、顧客と長期的な契約を結ぶ企業や、取引や顧客対応がさほど多くない業界で有益な指標です。たとえば、不動産、高級品、一部の B2B サービスプロバイダーなどの業種がこれに該当します。 - メリット
年間解約率は、企業の健全性を長期にわたって総合的に捉えることができるため、長期的な戦略的判断や目標設定が可能となります。 - デメリット
解約率を 1 年に 1 回しか評価しないということは、解約の原因となっている問題を見過ごし、長期にわたって放置してしまうことにもなりかねず、やがて、より大きな損失につながる可能性もあります。
解約率分析の対象期間は、ビジネスの性質やその戦略的目標に合わせて決めることが大切です。対象期間を定期的に見直し、必要に応じて調整することで、顧客維持にかかわる課題と成果をより明確に把握できます。
月間解約率の計算方法
月間解約率は、1 カ月の期間内に事業者との関係を終了した顧客の割合です。多くの事業者、特にサブスクリプションベースの事業を営む事業者は、この指標を定期的に計算することで望ましい効果を期待できます。ここでは、解約率を計算する際に収集する必要がある基本的なデータについて説明します。
- 月初の顧客数: 月初めの時点でサービスを利用している有効な顧客の総数。
- 月末の顧客数: 月末の時点でサービスを利用している有効な顧客の総数。
- 新規顧客数: 対象の月内に新たに加入した顧客の総数。
月間解約率の計算式は次のようになります。
月間解約率 = (1 カ月に失った顧客の数 ÷ 月初の顧客数) x 100
以下の手順で、この計算式の項目に当てはめます。
離脱した顧客の数を特定する:
- 月初の顧客数から月末の顧客数を差し引きます。
- この数字から、当月に獲得した新規顧客の数を差し引きます。これで、その月に離脱した顧客の総数が得られます。
- 月初の顧客数から月末の顧客数を差し引きます。
月間解約率を求める:
- 離脱した顧客数を求め、それを月初の顧客数で割ります。
- 分かりやすくするため、その結果に 100 を乗じてパーセンテージに換算します。
- 離脱した顧客数を求め、それを月初の顧客数で割ります。
月間解約率の最も効果的な用途
月間解約率は、サブスクリプションベースのモデルを採用する組織を中心に最も広く使用されているビジネス指標の 1 つです。ある特定の月にサブスクリプションを解約するか企業との取引関係を終了したサブスクリプション登録者または顧客の割合を表します。月間解約率を詳しく観察することで、その重要性、メリット、用途を把握できます。
各種ビジネスモデルへの適合性
- サブスクリプションベースのサービス
雑誌、ストリーミングサービス、専門家向けの会員制コミュニティーなどのビジネスはいずれも顧客の利用の継続に大きく依存しています。通常、請求は月単位で行われるため、同じく月単位で解約率を評価することは、こうしたビジネスの運営モデルと合致します。 - SaaS (サービスとしてのソフトウェア)
SaaS 企業、特に月間サブスクリプションプランを提供する企業は、月間解約率を綿密に監視しています。これによって、商品やサービス、全般的な顧客エンゲージメントや顧客満足度に潜む問題を特定しやすくなります。 - E コマースと小売業
E コマースでは、日単位の解約率が有意義ですが、より長期的な購買サイクルや顧客の季節的な行動に関するインサイトは月間解約率から得られます。
月間解約率を監視するメリット
- 短期的傾向の特定
月間解約率を使用すると、顧客の行動の変化を敏速に捉え、対応することができます。特定の月に解約率が急増した場合、スピーディーに対策を打つことができます。 - 事業運営の整合性確保
事業運営、請求、報告を月単位で行う事業者は、同じ期間を対象に解約率を分析することで、パフォーマンス指標間の整合性を確保することができます。 - 季節的なインサイト
月単位の分析によって、冬季の水着ブランドの売り上げ減少や、ホリデーシーズンのストリーミングサービスの需要増など、年間の季節関連のパターンを識別しやすくなります。 - 局所と大局のバランス
日単位の解約率では変動が大きすぎ、年単位の解約率では計算頻度が低すぎる場合、月単位の解約率なら、バランスの取れた視点が得られ、日々のノイズに惑わされることなく最新の傾向を捕捉できます。
意思決定への月間解約率の活用法
- 顧客のフィードバックと製品の改善
特定の月の解約率が著しく増加した場合、直近の製品のアップデートに関係するかどうかを調べ、敏速に対応することができます。 - 予算策定と予測
月間解約率のインサイトは財務計画に利用することができます。それをもとにして、売上の予測、マーケティング費用の調整、顧客維持活動のためのリソースの割り当てを行うことができます。 - マーケティングとプロモーションキャンペーンの分析
企業は新しいマーケティングキャンペーンの開始後、月間解約率を使用してその効果を評価できます。解約率の減少はキャンペーンの成功を、増加はその反対を示すと判断できます。 - ターゲットを絞った顧客維持活動
特定の月に解約によって失った顧客のプロフィールを分析することで、その後数カ月間、同様のリスクがある顧客を対象に、ターゲットを絞った顧客維持戦略または再獲得戦略を立てることができます。
月間解約率は、日単位の解約率によって測定される短期的な変動や、年単位の解約率によって測定される長期的な傾向を注視する必要のない事業者が追跡に使用できる最適な指標です。月間解約率を定期的に監視することで、パターンを認識し、意思決定の質を高め、顧客維持率や顧客満足度に関する戦略を立てることができます。
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