モバイル決済によって、顧客の買い物方法は様変わりしています。購入者がスマートフォンで 1 回タップするかスキャンを使用するだけで取引が完了し、かかる時間はかつての数分の一です。この利便性がモバイル決済の幅広い採用につながっています。モバイル POS 決済の市場は、2028 年までに 6 兆 1,100 億ドルに達すると予想されています。
安全なデジタルウォレットと非接触型決済システムで提供されているセキュリティのレイヤーは、クレジットカードに匹敵するか、上回るものとなっています。このセキュリティは暗号化とトークン化によってさらに強化され、あらゆる取引でユーザーの情報を保護します。
モバイル決済は金融包摂を促進し、事業者がより広範な市場に進出することを可能にします。バンキングのインフラが発展途上の地域では、モバイル決済が経済への進出の手段になり、ユーザーはそれまで蚊帳の外であった金融活動に参加できるようになります。
ユーザーフレンドリーな決済アプリとデジタル金融サービスがモバイル決済の人気を押し上げています。Starbucks などの巨大小売企業はこの傾向を活かすことに成功しており、2023 年の時点で、Starbucks モバイルアプリのアメリカ国内のアクティブユーザーは前年比 15% 増の 3,100 万人にのぼっています。
モバイル決済は購入者にスピード、セキュリティ、利便性をもたらしており、市場の動向に目を向けると、事業者は自社のモバイル決済機能の拡張と改良を継続的に進めることが示唆されます。ここでは、モバイル決済について事業者が知っておくべきことをご紹介します。
この記事の内容
- モバイル決済とは
- モバイル決済を採用している業種
- モバイル決済を支えるテクノロジー
- モバイル決済システムの種類
- モバイル決済のメリット
- モバイル決済の課題と考慮事項
- Stripe が対応するモバイル決済
モバイル決済とは
モバイル決済では、一般にアプリか、モバイル版ウェブブラウザーが利用されます。近距離無線通信 (NFC)、QR コード、または Apple Pay や Google Pay、Samsung Pay などのモバイルウォレットをはじめ、各種の技術的手段を通じて決済できます。取引は POS システムを使用して対面で行われる近接決済か、オンラインで行われる遠隔決済です。
これらの決済は、生体認証やワンタイムパスワードをはじめとするさまざまな手法で認証され、保護されます。モバイル決済は、現金とカードから、スピード、利便性、セキュリティの強化というメリットを得られるデジタルソリューションへの転換を含む、幅広い変化の一環です。モバイル決済はスマートフォンで広く採用されており、特に若年層の間では決済に関する購入者の好みも変化していることから、ますます人気が高まっています。
モバイル決済を採用している業種
モバイル決済を採用している業種や事業者は多岐にわたります。ここでは、その例をいくつか紹介します。
小売業者: 実店舗を展開している小売業者の多くは、店頭でモバイル決済を受け付けています。これにより決済フローのプロセスをスピードアップし、購入者が利用できる決済の選択肢も拡充できます。
E コマースプラットフォーム: オンラインストアやマーケットプレイスの多くは、モバイルデバイスを利用している購入者にモバイル決済のオプションを提供しています。
飲食業: レストラン、カフェ、バーの多くは、モバイル決済システムを客席での決済やモバイル注文のシステムに利用しています。
サービスプロバイダー: 配送サービスや個人向け美容サービス事業者は、モバイル決済システムで日常的に取引を処理しています。
ライドシェア: Uber や Lyft などのライドシェア事業者は、乗車料金のモバイル決済を受け付けています。
自動販売機とキオスク: モバイル決済技術の採用が増えており、購入者はスマートフォンで決済できます。
公共交通機関: 多くの公共輸送システムが運賃の支払い方法としてモバイル決済を導入しており、通勤通学者はタップ またはアプリ内で簡単に支払うことができます。
娯楽とレジャー: 映画館、イベント主催者、テーマパークは、チケット販売や現地での物品購入でモバイル決済を受け付けています。
フリーランサーと中小企業オーナー: 簡単な設定でモバイル決済による決済を受け付けられ、ピアツーピア (P2P) 決済アプリが多く利用されています。
サブスクリプションベースの事業者: サブスクリプションベースの事業者は継続請求にモバイル決済を利用して、利用者がサブスクリプションをアプリで管理できるようにしています。
非営利団体: モバイル決済のプラットフォームで寄付を受け付けることが可能になり、支援者が寄付しやすくなっています。
モバイル決済を支えるテクノロジー
モバイル決済テクノロジーによって、世界中の顧客の決済方法が根本から変わりました。この状況は、以下の中核的なテクノロジーが推進しています。
NFC: 互いに数 cm の距離にある 2 台のデバイス間でデータを交換できるテクノロジーです。モバイル決済の場合、スマートフォンを利用して決済端末と通信できるため、スピーディーで安全な取引を可能にします。
QR コード: 購入者は、Quick Response (QR: 高速応答) コードをスマートフォンのカメラで読み取ることによって取引を開始できます。読み取りが完了すると、利用者は決済用のアプリケーションまたはウェブサイトに送られます。
SMS ベースの取引: 決済の手順を事業者がテキストメッセージで送信できるため、スマートフォンの普及が進んでいない地域では特に有用です。購入者は、一連のテキストメッセージを利用して取引を完了できます。取引の最後で確認コードが発行されます。
デジタルウォレット: デジタルウォレットでは、支払いカードの情報がモバイルデバイスに安全に保存されるため、利用者はカードではなくスマートフォンで決済できます。また、ロイヤルティカードやクーポンを保存したり、チケットを転送したりすることも可能です。
暗号化とトークン化: モバイル決済取引では、機密データが暗号化されます。トークン化では、カード詳細を一意のデジタル識別子である「トークン」に置き換えることd、セキュリティを強化します。トークンは、アカウントの詳細を開示することなく決済を処理するために使用されます。
生体認証: 多くの場合、モバイルデバイスには指紋スキャナーや顔認証などの生体情報センサーが内蔵されているため、取引におけるセキュリティが一層強化されます。
クラウドベースの決済: モバイル決済システムの一部は、決済情報をクラウドに保存しています。購入者は任意のデバイスで決済を実行し、セキュリティは一元的に管理されます。
ホストカードエミュレーション (HCE): HCE を利用すると、スマートフォンで NFC 対応デバイスに対してカードをエミュレートできます。したがって、決済情報などの機密データが保存されているチップである、セキュアエレメントへのアクセスに依存せずに済みます。
アプリケーションプログラミングインターフェイス (API): アプリケーションの相互通信やバンキングシステムとの通信が可能になることで、取引の進行がスムーズになります。
これらの技術によって、購入者が個人間での金銭のやりとり、実店舗での物品やサービスへの支払い、オンラインショッピングなど、決済関連のさまざまな機能にモバイルデバイスを利用できる環境が構築されています。
モバイル決済システムの種類
モバイル決済システムは、機能と使用される状況に従って分類されます。どのモバイル決済システムにも、それぞれ固有のメリットとユースケースがあります。たとえば、近接決済は混雑している小売環境でそのスピードや利便性が生きるのに対して、P2P システムの場合は、友人との割り勘や費用の分担の際に特に便利です。クローズドループのシステムは、事業者が顧客ロイヤルティの確立や購買行動データの収集に利用することによって、ターゲットを絞り込んだマーケティングやカスタマーサービス改善に活かせるツールです。
モバイル決済システムは、サービスの提供先である利害関係者の観点でも違いがあります。事業者にとっては、取引手数料の削減、より詳細な顧客行動データの捕捉、ロイヤルティシステムと在庫システムの一体化を果たすための手段です。購入者にとっては、より便利で場合によっては安全性も高い決済手段が提供され、多くの場合は特典や効果的な支出追跡機能などのメリットも得られます。
以下は、主要なモバイル決済システムの種類です。
近接決済
非接触型決済アプリ: NFC または無線周波数識別 (RFID) の技術を利用し、ユーザーがスマートフォンで POS 端末をタップすると取引が完了します。
モバイル POS システム:携帯可能な POS システムであり、事業者は場所を問わずに決済を受け付けることができます。多くの場合、モバイルデバイスをカードリーダーに接続して利用します。
遠隔決済
デジタルウォレット: デジタルウォレットはクレジットカードとデビットカードの情報を保存し、ユーザーによるオンライン購入またはアプリ内購入を実現するアプリで、Apple Pay、Google Pay、Samsung Pay などがあります。
銀行ベースのアプリ: モバイルウォレットと似ていますが、提供元は銀行であり、購入者は銀行口座から支払いを実行できます。
P2P 決済システム: Venmo、PayPal、Cash App などのサービスを利用すると、モバイルデバイスで利用者個人どうしが互いに送金できます。
キャリアビリング: 購入額が購入者の携帯電話料金の請求として扱われる方式です。
クローズドループのモバイル決済システム
小売業者のアプリ: 小売業者 (または小売業者グループ) 固有のアプリであり、購入者はアプリを使って、またはアプリ内で決済を実行し、特典を獲得し、割引を受けることができます。
ブランド固有のウォレット: ブランドが作成し、決済と特典を 1 カ所で追跡できるシステムを提供することによってロイヤルティを強化します。
モバイル決済のメリット
モバイル決済は事業者に多くのメリットをもたらします。たとえば、次のようなものです。
顧客体験の拡充:モバイル決済によって購入プロセスの無駄が省かれるため、スピードが上がり、順番待ちも少なくなります。このような利便性は、顧客満足度の向上やロイヤルティの強化につながる可能性を秘めています。
顧客へのリーチの拡大: モバイル決済を採用している事業者は、技術的知識があって現金やカードよりもデジタル取引を好む購入者を含めて、より幅広い層に応えることができます。
取引コストの低減: モバイル決済は、一般に取り扱い手数料が高い従来のクレジットカード取引と比較して、事業者側のコストが低減される可能性があります。
セキュリティの向上: モバイル決済のプラットフォームでは、多くの場合、トークン化や生体認証などの高度なセキュリティ対策が導入されているため、不正利用やデータ侵害のリスクが低減されます。このようなリスクが発生した場合は、対処にコストがかかり、事業者の評判も損ないかねません。
顧客データへのアクセス: モバイル決済アプリは、購買傾向や顧客の好みに関する貴重なデータを事業者に提供できます。このデータは、マーケティング戦略、在庫管理、顧客エンゲージメント向上の取り組みの情報源として利用できます。
売上の拡大: モバイル決済のシンプルさやスピードは、衝動買いや、取引あたりの平均支出額の増加をもたらす可能性があります。
ロイヤルティプログラムとの一体化: 事業者がモバイル決済をロイヤルティプログラムと一体化すると、利用者にブランド体験を提供し、リピーターを増やすことができます。
非接触型決済: 非接触型のモバイル決済は、現金やカードによる取引と比較して安全性と衛生の面で優れている代替手段です。
グローバル取引: 顧客基盤が複数の国に拡がる事業者にとって、モバイル決済は通貨換算がスムーズになり、地域で好まれている決済手段に対応できるため、クロスボーダー取引を促進できる存在です。
財務管理とレポート作成: モバイル決済システムは、売上と購入者行動の追跡を支援するための分析ツールを備えていることが多いため、財務上の意思決定の質の向上を可能にするインサイトが得られます。
モバイル決済テクノロジーを採用すると、顧客の嗜好について常に最新の情報が得られると同時に、デジタル経済のトレンドに適応できる立ち位置を確保できます。
モバイル決済の課題と考慮事項
モバイル決済には、事業者が考慮しなければならない課題も存在します。たとえば、次のようなものです。
セキュリティ上の懸念: 高度なセキュリティ機能を備えていても、モバイル決済はセキュリティリスクに影響されないわけではありません。事業者は PCI データセキュリティ基準 (PCI DSS) に従い、顧客データが侵害されないように保護する必要があります。
技術とインフラへの投資: モバイル決済システムの導入にあたっては、POS システムの更新や職員の研修など、技術やインフラへの多額の投資が必要になる場合があります。
相互運用性: 特に複数のプラットフォームの管理を伴う場合は、決済手段を追加すると、自社の決済システムが複雑になるおそれがあります。
不正利用対策: すべてのデジタル決済手段と同様に、モバイル決済は不正利用の影響を受けやすく、固有のリスクも存在します。不正検知と不正防止のための堅固なメカニズムを導入する必要があります。
顧客のプライバシー: 事業者が顧客データを収集する際は、データを安全に管理しなければなりません。事業者は、一般データ保護規則 (GDPR) などの諸規制に対応し、データの用途を顧客に通知する責任を負います。
取引に関する不審請求の申請: モバイル決済は、取引に関する不審請求の申請やチャージバックの発生率を上昇させる場合があります。事業者はそれらに効率的に対処して、顧客の信頼を維持し、追加的なコストの発生を避ける必要があります。
ユーザー側の採用意欲: 従来の決済手段に慣れ親しんでいる顧客は、変化に抵抗を覚えることがあります。モバイル決済のメリットとセキュリティについて、顧客に説明を尽くすことが重要です。
規制の順守: モバイル決済では金融規制を順守する必要がありますが、規制は地域ごとに異なる場合があります。このような規制の順守は複雑な取り組みになる場合があり、事業者は常に注意を払う必要があります。
技術的な問題: モバイル決済テクノロジーを利用する場合はダウンタイムが必然的に発生するほか、技術的なトラブルで販売が中断することもあります。問題の発生に備えて、緊急時対応計画を策定しておく必要があります。
市場の細分化: モバイル決済の市場には、多種多様なプロバイダーが関与しています。汎用的なソリューションの採用を望む事業者の場合は、プロセスが複雑になるおそれがあります。
アクセシビリティー: すべての顧客がスマートフォンやモバイル決済を利用できるわけではないため、モバイル決済を採用した場合、一部の顧客が蚊帳の外に置かれるというデジタル格差につながるおそれがあります。
これらの課題に対処するには、決済のテクノロジーと、リスク管理や顧客に好まれる決済手段とのバランスをとる柔軟な戦略が不可欠です。
Stripe が対応するモバイル決済
Stripe は、事業者を対象としたモバイル決済に以下用に対応しています。
モバイル向けの最適化: Stripe の Android 向けおよび iOS 向けのソフトウェア開発キット (SDK) を利用すると、Stripe をモバイルアプリケーションと連携させることができます。これにより、モバイルデバイスで安全で利便性に優れた決済体験を購入者に提供し、Apple Pay や Google Pay といった普及率の高いデジタルウォレットにも対応できます。
現地アクワイアリング: 決済と資金に関する Stripe のグローバルなネットワークを活かして、現地アクワイアリング銀行を利用した決済を扱うことができます。これにより、取引コストの削減、承認率の向上、地域固有の決済手段や通貨への対応が可能になり、世界各地の利用者に訴求できます。
不正検知と不正防止: Stripe は Stripe Radar と呼ばれるツールを提供しています。このツールは、機械学習を活用して不正な取引の検知と防止を支援するものです。自社固有のコントロール設定を適用することによって、総合的な自動不正防止機能を導入できます。
オートメーション: Stripe の API と Webhook で広範な決済タスクを自動化し、効率と収入を引き上げることができます。モバイル UI の自動アップグレードが含まれる Stripe の決済フロー機能をご利用中のお客様は、10% を超える収入増加を果たしています。他にも、継続請求とサブスクリプションプランの作成、返金の処理、チャージバックの管理を可能にするツールをご利用いただけます。Stripe Sigma では、財務レポートの自動生成も可能です。
非接触型決済: Stripe では、非接触型の決済を大規模に導入できます。この決済方式は、利用者の利便性と安全性という面で重要性がますます高まっています。
Stripe がどのようにモバイル決済の機能を向上できるかについて、詳細はこちらをご覧ください。
この記事の内容は、一般的な情報および教育のみを目的としており、法律上または税務上のアドバイスとして解釈されるべきではありません。Stripe は、記事内の情報の正確性、完全性、妥当性、または最新性を保証または請け合うものではありません。特定の状況については、管轄区域で活動する資格のある有能な弁護士または会計士に助言を求める必要があります。